ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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死闘 13

「それで、何食うんだい?」

「この前の魚って今日も置いてあったりする?」

「ああ」

 

 ラッキー。

 いや、この店に来たの半分ぐらいそれ目的みたいな所もあったからね。

 

 ぱっと見は、渓流の魚にしては大きめなだけの白身魚。

 ただし見た目に騙されることなかれ。

 中身が全くの別物。

 いわゆるサーモンとはその色味こそ違うものの、マス系の魚特有の強い旨みがあって。

 他じゃ換えが効かない、俺がずっと探し求めていた味なのだ。

 

 魚を食べたいだけなら港町にでも行けばいいし。

 川魚でいいなら、ノームで食べられる。

 でも、サーモンだけは転生して以来食べれてなかったからね。

 

 ずっと、食べたい欲は溜まっていて……

 なんと言うか。

 魚を食べるだけでも、多少は満足するんだけどね。

 こう、微妙に違うといいますか。

 

 そんな長年の不満が数ヶ月前この店でやっと解消されたのだ。

 

「んじゃ、まずはそれを一つ」

「ハマったんか」

「まぁね」

 

 ここ以外じゃ、多分食べられないだろうし。

 いや、そりゃ探せば他にもどこかにいるのかもしれないけどさ。

 その探すってのが大変なんだ。

 

 検索すれば大抵の事が出てくる、インターネットなんて便利なものはこの世界に存在しない。

 それどころか、テレビやラジオ新聞だって無いのだ。

 

 金になる品の情報なんかは、商人間で出回っていたりするし。

 戦争関連の話は興味ない俺の耳にも頻繁に入ってくるぐらいには噂が回るのが早い。

 でも、普通に生きてて触れる機会のある他所のニュースなんて精々それくらいだ。

 後は近所の不倫がどうとか犯罪がどうとかそういうのが多い。

 

 つまるところ、そんなどこにいるかも分からない魚のことなんてどう調べれば良いかすら分からないって話。

 

 この世界らしく本で調べるにしても、まともな図鑑なんてないのだ。

 紙も決して安くないし。

 大して貴重でもない地方の魚の記録とか誰が取るんだって話で。

 

 特に、このサーモン擬きは油乗っちゃってるからね。

 食べる分には最高なんだけど、ほら油が多いと干物に向かないって言うし。

 生臭くなりやすいのだとか。

 と言っても干さないと日持ちもしない。

 ほぼ出回らなくて、結果その地域で食べられるだけになる。

 

 商材価値が高ければ、近くの街で話を聞くなんて機会も増えるかもしれないが。

 こいつの場合そんなこともないと。

 

 地元の人しか知らない美味い食材とか。

 なんなら、酵母を代々受け継いできた発酵食品やらお酒とか。

 この世界には結構多いのだと思う。

 

 ここまでくると、魔眼を持ってしても捜索は困難を極めるだろう。

 

 範囲広げると精度落ちるからね。

 魚なんて大した魔力ないし。

 頑張ってこのサーモン擬きの魔力を覚えた上で、かなり近づかないと気付けないはず。

 

 そんな手間をかけて新規を開拓する意味があるだろうか?

 いや、無い!

 

 って訳で、この店に来たら。

 と言うかこの街に来たら頼むのが確定事項なのである。

 

 無かったらどうするつもりだったのかって?

 市場に行くか。

 もしくは川で自力で取るか。

 少なくとも、食べるのを諦めるって選択肢はないな。

 

 ……うん。

 

 さて、サーモン擬きは良いとして。

 後はどうしよっかな。

 

「ちなみに、今日のおすすめは山菜な」

「それ、この前も似たような事言ってなかったっけ?」

「よく覚えてるな」

「あれだろ? 買ってきただけだから朝摘みかどうか分からない朝摘みの山菜」

「んな、余計な所まで思い出さなくてもいい」

 

 確か、例のおっちゃんがそんな事言ってた気がする。

 今と同じく苦笑いされてたっけ。

 

 こんなこと覚えてるなんて、俺の記憶力も案外捨てたもんじゃないか?

 まぁ、おっちゃんの名前は相変わらず出てこないのだが。

 おっちゃんはおっちゃんだしいっか。

 

「せっかくだから貰おっかな。えっと、ランチのセットあったよな?」

「おう」

「それを2つお願い」

 

 山菜が売りの店らしいしね。

 この前来た時も、かなり美味しかった記憶がある。

 

 まぁ、山菜だからね。

 そんなびっくりするほどうまいかと言われると。

 そういうものじゃないんだけど。

 

 でも、シンプルながら丁寧な仕事がされていて。

 上品と言えば良いのか。

 流石おっちゃんが勧めた店なだけあって、レベルの高い料理だったと思う。

 ほんと、良い店見つけるの上手いよなぁ。

 

 昼食と思えば、これで量的には十分なんだけど。

 朝も食ってないし。

 もう一品くらい何か欲しいか……

 

「ご主人様?」

「お、起きたか」

 

 メニューを眺めつつ、思案していると。

 獣っ娘が眠たげな声を発した。

 

 店主と、結構な音量で喋ってたからな。

 起こしちゃったらしい。

 いや、今から昼飯食うんだから別に起こして良いんだけどね。

 それで遠慮してなかったってのもあるし。

 

「何か、食べたいものあるか?」

「……?」

 

 まだ寝ぼけてるらしい。

 目をぱちくりさせて、頭が回ってない様子。

 

 周りを見渡し、そもそもこういうお店来るの自体初めてなのかも。

 寝ぼけてるの以外に。

 初めての経験でダブルで混乱してる可能性も高い。

 

 宿の業務、初めは慣れるまで時間掛かっただろうし。

 慣れてからは物理的に忙しくなって、どちらにしてもそう余裕があるようには思えない。

 

 女将さんの事だし、定期的に休みをくれてそうだが。

 どちらにしろ。

 子供だけで外を歩かせるのも危ない。

 日本じゃないんだから。

 特に、獣っ娘の場合獣人だから余計だろう。

 

 奴隷になる以前は、どうだったのかね。

 ま、どんな立場だったにしても獣人とこの国じゃ文化が違うからな。

 今の混乱に関してはあんまり関係ないかもしれない。

 

 結局、初見要素が多めな事に変わりはないし。

 

「……お肉」

「そうか、嬢ちゃんは肉が食いたいか」

 

 色々考えるのを諦めたのだろうか。

 ぽつりとそうこぼした。

 

 獣っ娘の言葉に、店主がニコニコと嬉しそうな顔をして頷く。

 

 この娘、愛され属性でも持ってるのだろうか?

 女将さんといい年上キラー。

 なんなら俺もか?

 ま、こんだけ可愛いんだから当然。

 

 激しい運動して。

 確かに、ガッツリしたの欲しくなるよな。

 

「じゃ、おすすめの肉料理を頼む」

「あいよ!」

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