ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

233 / 242
河岸 3

 俺とおばちゃんはかなりの酒好きである。

 受付嬢は別にそんなことないはずだが、二人につられてか結構なハイペースで飲み進める。

 

「はぁ……」

 

 数杯を空けた頃にはすっかり酒もまわったらしく、酔っ払いの完成。

 

 受付嬢が急にため息をついたかと思えば、出るわ出るわ彼女の口からは愚痴がもう雪崩のように。

 やれ上が言ってることころころ変わるだとか、下が自己判断で勝手をやるだとか。

 

 ま、受付嬢は結構出世ルートに乗ってるっぽいからね。

 そういう苦労は多いのだろう。

 前世と変わらず。

 期待されてる人間ってのは激務になりがちだ。

 仕事内容こそ大きく変われど、人間関係ってとこはそう変わらない。

 

 ……知らんけど。

 だって、俺とは無縁だったし。

 

 俺が出世に興味無かったってのもあるが、働いてた企業が企業だったから。

 そういう、健全な競争や労働とは無縁だった。

 周囲にそんな志を持って働いてる人間も居なかったような気がする。

 

 ブラック企業なんてそんなもんだ。

 まぁ、健全な出世と無縁だっただけで愚痴を吐きたくなる気持ちは分かるが。

 

 なんせ、うちの場合誰も出世しようと思ってないから勝手に出世はするからね。

 肩書きだけ。

 だからどうしたって話でもあるが。

 

 出世したところで大した昇給はない。

 月給を労働時間で割ってみれば、不思議なことに最低時給を割ってる。

 サービス残業の賜物である。

 

 出世ルートも何も、離職率がバカみたいに高いのだ。

 辞めなきゃ出世する。

 数年もすれば名ばかり管理職。

 

 そして、さらに給料も下がると……

 

 ゴミかな?

 

「おじさんどうしました?」

「いや。仕事って大変だよなって、わかるぞ」

「……おじさんに言われたくない!」

 

 受付嬢の愚痴に昔の事を思い出して共感していたら怒られてしまった。

 女性って共感して欲しい生き物なのでは?

 

 理不尽……

 と、一瞬思いかけたが、別にそうでもないか。

 

 労働は2日に一回。

 仕事内容は薬草採取。

 労働時間は移動含めて一刻程。

 

 そんでもって昼間っからギルド、受付嬢の職場で飲んだくれてる訳だからな。

 そりゃ怒る。

 

 なんなら、最近は例の貴族がポーション探しに兵士を大量投入してるおかげで薬草の買取も上がりっぱなしだし。

 悠々自適。

 スローライフを満喫中。

 

 ……確かに俺に分かるとは言われたくないわな。

 

 ってか、そうなんよな。

 薬草の価格が上がってるおかげでいつも通り使ってるのに金が結構溜まってるんよな。

 

 そろそろ、またどこかへ行こうか……

 

「当てつけですか?」

 

 しまった、いつの間にか口に出てたらしい。

 別に喧嘩を売るつもりはない。

 だから、その振り上げた拳を下げていただけると。

 

 ぽかぽかされた。

 ちゃんと奢るから、許して。

 

 そんなこんな、数時間ほど飲んだ。

 そろそろいい時間。

 お会計。

 

「ん? 旦那んとこのお会計はもうもらってるよ」

 

 とおもったら、いつの間にかおばちゃんが支払いを済ませていたらしい。

 なんてスマートな。

 

「……おじさんが奢るって話はどこに?」

 

 確かに。

 受付嬢の言葉にそんな反応を返すと、ジト目と共についでとばかりにぽかりと一発貰った。

 まぁ、これは甘んじて受け入れよう。

 

 俺と受付嬢のじゃれあいを眺めるおばちゃん。

 ニヤニヤしてる。

 少々気恥ずかしいが、受付嬢の方はその視線に気づいてもいないらしい。

 制裁のつもりか、後ろから首を絞めようと絡んでくる。

 

 この酔っ払いめ。

 完全に出来上がっている。

 

 時間的にも受付嬢の様子的にも、二件目に行く雰囲気ではないのでここらで解散。

 

 この酔っ払いを1人で返すわけにもいかない。

 おばちゃんに任せるのもな。

 後は若い二人でとばかりに、首絞めしようとして振り払われた受付嬢の背中を俺の方に押してるし。

 

 奢ってもらっちゃったから。

 今日はおばちゃんの意見を尊重するとしよう。

 

 首を絞めようと伸びてくる受付嬢の手を押さえつつ、背負った。

 さっきまで暴れたくせに。

 背負おうとしたら、急に大人しくなったな。

 

 ……結構軽いんだな。

 

 受付嬢を背負い、夜の街を歩く。

 ふと送り狼なんて言葉が頭をよぎった。

 

 警戒心のないヤツ……

 って、違うか。

 俺だから、だよな。

 

 ……

 

 居酒屋のあった路地を抜け、大通りに出る。

 よく考えたら俺、受付嬢の家なんて知らないんだが?

 送り狼失格である。

 

 他の選択肢……

 俺の家は、最低限の物しか置いてないからな。

 狭いし、ベットもシングルだし、寝床がわりになるソファーなんかもない。

 本当に根に帰るだけの場所。

 

 旅好きだし、昼間っからずっと外で飲んでるから。

 家は必然そうなる。

 

 無しだな。

 

 この前受付嬢と飲んだ時、酔っ払って床で盛大に寝ていた気もするが。

 うん。

 流石に故意に床に寝かすのは違うだろう。

 

 俺が床で寝ろって?

 それは嫌だ。

 

 しゃーない、どっか宿でも取るか。

 元々今日の飲み代は奢るつもりだったんだし、それぐらいの出費ならいっか。




発売まであと3日!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。