ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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死闘 14

「へい、お待ち!」

 

 店主の威勢のいい声とともに、料理を乗せた大皿が目の前に置かれた。

 香ばしい匂いが鼻をつく。

 

「お肉っ!」

 

 待ってましたとばかりに、獣っ娘がぱぁっと目を輝かせる。

 満天の笑顔。

 まるで幼子のように無邪気な彼女に釣られて、自然とこっちまで楽しげな気分になる。

 

 店主もその反応に満足気な様子。

 

 料理人として喜んでもらうのは一向に構わないのだが。

 反応に困るので、俺の方にドヤ顔を向けてくるのはやめて欲しい。

 

 皿の中心に、ドンっと肉塊が配置された豪快な料理。

 当然薫りも最高。

 香ばしい肉の焼けた匂いが食欲を刺激する。

 

 こりゃ、たまらないな。

 じゅるり。

 油断するとよだれが溢れてしまいそう……

 

 香辛料と焼けたお肉のダブルパンチ。

 そこに視覚情報も相まって、胃がきゅうと締め付けられるようにひとりでに動いてるのが分かる。

 獣っ娘も待ち侘びていたのだろうが、俺も朝から何も食ってない。

 同じく腹が減っているのだ。

 

 今すぐ食べたい所だが。

 流石に、このままかぶりつく訳にもいかない。

 

 ふと視線を戻すと、ナイフ片手にどうした物かと思案する獣っ娘の姿。

 

「俺が切ろっか?」

「いえ、大丈夫です。見ててください」

 

 気を遣ったと言うか、自分の欲望を優先したと言うか。

 そんな俺の言葉に頼もしげな返事を返す彼女。

 

 これまでの様子からして、ナイフとフォークの扱いに慣れてるとは思えない。

 が、意外にも手際がいい。

 初心者にはちょっと難易度が高い気がしたのだけど。

 

 ……そういえば。

 さっきまで、巨大猪相手にナイフ一本で大立ち回りを演じていたんだものな。

 

 まぁ、一口にナイフと言ってもまるで別物。

 状況もそうなのだが。

 それでも、戦闘中に隙を突いてあの厚い皮を切り裂いて見せたのだ。

 火の通った調理済みの肉塊。

 これぐらいさっとこなせて当然なのかもしれない。

 

「はい、ご主人様も」

「ありがとね」

 

 そう言って、手際よく俺の取り皿にも肉を取り分けてくれた。

 

 獣っ娘なんて俺以上にお腹空いてるだろうに。

 わざわざ自分の分をよそう前に、当然の様にこっちの分を準備してくれるとは。

 なんていい子なのだろうか。

 

 どうよ俺の獣っ娘は。

 店主にドヤ顔したい気分になりつつ、別に困らせたい訳でもないので自重。

 

 そんな、変な葛藤をしてる俺を他所に。

 わざと大きめに切り分けたであろう肉を一口で。

 豪快にかぶり付く彼女。

 

 やはり、かなりの空腹だったらしい。

 口いっぱいにお肉を頬張り、なんとも幸せそうな顔だ。

 

 どうやら、見た目だけじゃなく味も気に入ってくれた様子。

 よかった。

 この店に連れてきて正解だったな。

 

「うまいか?」

「はい!」

 

 店主の問いに、元気よく答える獣っ娘。

 

 嬉しそう。

 なんて素晴らしい光景だろうか、そのやり取りを見てるだけで自然と笑顔になる。

 

 いつまでも眺めていたい所だが。

 せっかくの料理が冷めちゃったらもったいない。

 いただきます!

 

 獣っ娘が切り分けてくれたお肉。

 フォークで軽く抑えナイフを入れると、意外なほどすっと刃が通った。

 想像よりかなり柔らかい。

 

 ……赤身肉。

 それもこの山で獲れたジビエのはず。

 

 良く言えば、食べ応えのある。

 悪く言えば、少し固めのお肉を想像していたのだけど。

 そんなことないのか?

 

 多少の疑問を抱えつつ、口の中に放り込んだ。

 

 うん、美味しい。

 サシの入った牛肉なんかに比べれば歯応えはあるものの、ジビエにありがちな固くて筋っぽい感じがない。

 油の多い部位ならともかく、赤身のお肉なのに。

 しっとりしてて柔らか。

 

 上質な牛肉とは違うけれど、これはこれで魅力的だ。

 舌に残る滋味。

 噛むたびに、肉の味が広がる。

 

 肉がいいのか。

 店主の仕事がいいのか。

 

 それに、この香り……

 ほんのりと舌が痺れるような刺激も感じる。

 花山椒か?

 それに近い爽やかな香りが、鼻からふわりと抜けていく。

 

 肉の臭みを上手く消しているのに、香りが強すぎて肉の風味をマスクしてしまうわけでもない。

 素材の味をきちんと引き立てている。

 

 塩と花山椒。

 シンプルだけど、それゆえにごまかしが利かない。

 腕に自信がないと選べない味付けだ。

 

 ……にしても、香辛料ってかなり高いイメージがあったが。

 この店も扱ってるんだな。

 大金使う客が大通りからわざわざ奥入ってくるとは思えないのだけど。

 

 ただの偏見か?

 前世で金と胡椒が等価で交換されたとか聞いた覚えがあるし、その知識のせい説。

 

 いや、王都でも普通に高級品だったはず。

 

 当時の貿易は一度の航海でかなり儲かったって言うし。

 ってことは、仕入れ値にかなり上乗せして売ってたということで。

 そりゃ船が沈むリスクもあるからね。

 値付けは妥当なのだろうが。

 生産地ではそこまでの値でも無かったのかもしれない。

 

 輸送料がほぼ。

 取れるとこでも安いって事はないかもしれないが、それなりだったのだろう。

 

 そして、この世界でもほぼ同じ理屈と。

 ならこの花山椒が山で採れれば使えないってことも無い、のか。

 食べる場所によっちゃえぐい高級品になりそうだけど。

 

 んなことを考えつつ、もう一口。

 うん。

 やっぱりうまい。

 

 食べるたび、身も心も満たされていく気がする。

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