よさげな舟はないかと川沿いを歩く。
川のせせらぎ……ってのとは違うが、こういう雄大な水音も嫌いではない。
舟荷の積み下ろしに使われている場所だ。
川幅も水量もそれなりにあるが、流れ自体はそこまでキツくないらしい。
岸辺に繋がれた小舟。
その舟腹を水流がたたき、左右に緩く揺れている。
この辺り、街の中心から外れているとはいえ寂れていたり物静かって様子ではない。
そりゃ物流基地だしね。
薄着の男たちが、まだ初夏だというのに汗だくになりながら働いている。
「その箱はこっちへ回せ!」
「急げ! これ下ろしたら即積み込みだ!」
「新入り、遅えぞ!」
威勢のいい掛け声。
そこに、時々笑い声が混じる。
俺がよく行ってる港町に近い雰囲気を感じる。
実際、規模こそ小さいが港ではあるし。
が、海の男とは少し違う気がする。
潮風がないせいだろうか?
やってる仕事は似たようなもののはずなのに、受ける印象がだいぶ異なる。
……ま、気がしただけ。
人間の感覚なんてそんなもんだろう。
しかし、こうはたから見ていると舟が物流に使うには少々小さく見える。
前世で言うなら屋形船ぐらいのサイズ感。
港町じゃもっと巨大な船が何隻も停まっていたものだが。
と言っても、この街まで持ってくるには仕方がないのだろう。
道中があるからね。
ここじゃ大きな船でも余裕ありそうに見えても、難所もあるのだろうし。
海や川幅の広い大河は大きな船で。
そこから先は載せ替え。
そうやって、ここまで運んできているのだ。
なんなら、ここでもさらに小さな舟に載せ替えている所もある。
さらに上流に向かうらしい。
木箱をニ十個も積んだら限界ではなかろうか?
そんな小舟。
それでも舟でいくのか……
まぁ、それだけ舟の物流が効率的ってことなんだろうな。
しかし、一通り川辺を歩いて思ったがやはりこの街は陸路がメインらしい。
このサイズの船しか入れない時点で、ね。
別にそれはいいんだが、そのせいだろうか客船らしき舟が皆無。
全くのゼロって事はないと思うのだが。
今日は出てないのか、もうこの街を立ってしまったのか。
こうなると、多少無理を言うことにはなるが荷舟に乗せてもらうしかないな。
他の方法で行けばいいって?
いや、ここまで来ておいてそれはないじゃん。
今や完全に船旅の気分なのだ、出来ることなら舟で移動したい。
幸というべきか。
客舟こそ見当たらないものの舟自体は結構な数がある。
手当たり次第行けば、無理って事はないはず。
とりあえず、上流に向かうのは無しだろう。
舟のサイズを見るにここから先、更に川幅が狭くなるのは明白。
流れもキツくなるはず。
渓流ってほどではないだろうが、それでも絶対ヤバい。
それに上りはめんどいしね。
水流に逆らって進むわけで、オールを漕いてどうこうってレベルではない。
流れの穏やかな大河なら帆で風を受けて進めるらしいが、この先はそういう川ではない。
どうするのかって?
力技。
人や馬に陸の上から舟を引かせて進むのだ。
時間かかるし、金もかかる。
乗るなら下一択だろう。
そもそも、舟のサイズ的に積載量も余裕ないだろうしね。
「少しいいか?」
「ん? なんだい、あんちゃん」
手の空いてそうな男に声を掛ける。
これがあんまりいない。
そりゃ、仕事中だしね。
接客業でもないのだから、客に話しかけられてもいいようになんて人員が用意されてるはずもなく。
仕事中邪魔するのは迷惑だろう。
俺は乗せてもらいたいわけで、向こうの機嫌を損ねるのは論外である。
「下流の方の町に行きたいんだけど、余裕ありそうな舟ってあるか?」
俺の言葉に少し考えるような顔をした。
足元を見て、そこから舐めるように視線を持ち上げる。
……?
あぁ、そういう。
別に無料で乗せてもらおうなんて気はないから安心してくれ。
「金はちゃんと払う。ちょっと予約してなかったもので、今日乗れる舟を探してるんだが」
「そうか。下の河岸(かし)までだったら銀貨1枚でいいぞ」
「頼む」
懐から取り出し、男に銀貨を支払う。
「おい! これ、急ぎじゃなかったよな?」
何やら言いながら、足元の荷物を指す男。
積み込み予定だったのだろう。
そこを空けてくれるらしい。
悪い気もしたが、向こうも商売。
その方が儲かると思っての判断だろう。
前世と違う。
物流も情報伝達も遅いから、多少の遅れはあまり問題にならない。
「よし、乗った乗った! 行くぞ、あんちゃん」
明日発売!