ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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河岸 8

「へぇ、あんた絵描きやってんのか。初めて見た」

 

 船頭の言葉に同意するように軽く頷く。

 確かに、珍しい。

 

 この世界に転生してかれこれ36年ほど経つが、ほぼ関わった記憶がない。

 紙が高いのもあるが、それ以上に絵の具が高いからね。

 

 虫やら魔物やら鉱物やら。

 これらを上手いこと加工して作るらしいんだが、少量しか取れなかったり希少だったり。

 聞き齧った話しだと、グラム単価で金より高いなんてのもいくつか。

 

 庶民がおいそれと手を出せるものじゃない。

 当然、簡単な依頼をさくっとこなして昼間っから飲んだくれて夜には娼館に入り浸ってるような。

 そんな生活をしているおっさんには無縁な品。

 

 昔、数ヶ月だけ通っていた学園。

 あそこを真面目に卒業して、王都のそれなりのとこで働いてれば関わる機会もあったのかもしれないが……

 

 前世の時点で芸術の素養が皆無だったからね。

 この世界と違って、触れるだけなら数百円もあれば美術館で多数の作品を鑑賞できたのに。

 学校の課題で夏休みに何度か行ったっきり。

 

 仮にその機会があっても、自分が困っていただけだろうな。

 

「と言っても、まだまだ師匠のもとで勉強中なんですが」

 

 絵描きの卵、ね。

 それでさっき仕事を聞かれた時に口ごもってたのか?

 

 いや、なんとなく違う気がする。

 何か明確な理屈があるわけじゃないけど、あえて言うなら青年の雰囲気が。

 それにこの舟に乗った理由も。

 

「気分転換って事は、なにか?」

「……」

 

 俺の言葉にまた口を閉ざす青年。

 

 少々突っ込み過ぎただろうか?

 旅の道中であっただけの人間が。

 

 偏見だが、芸術系の人って精神的に参ることとか多そうだし。

 それを軽くしてやりたいとか、初対面の相手にそこまでの気持ちはないけど。

 ……少し興味はある。

 ただの好奇心って、こう言うと聞こえが悪いな。

 

 でも、知らない相手だからこそ話せることもある気がする。

 

 俺はそこまでお人よしではないが。

 かと言って、人を気遣う気持ちが皆無というわけでもないのだ。

 

「……描いた絵って今持ってるのか?」

「あ、はい」

「見せてもらっても?」

 

 俺の問いへの返答に困っていた青年は、逃げ口を得たとばかりに自分の荷物をゴソゴソと漁り始める。

 

 彼の事情について、多少気になりはするが無理に聞き出すのもな。

 犯罪者を拷問してるんじゃないんだ。

 そう変に口を割らせようとしたって仕方ない。

 

 数枚のキャンバスを取り出す。

 完成した品もいくつも持ち歩いてるのか……

 旅先で絵を描くように新品をいくつも持ち歩いてるのは分かるが。

 ま、売り物だし、そんなもんか。

 

 ざっと見させてもらう。

 

 船頭も興味津々らしい。

 この辺りは流れも穏やかなのもあって、船頭の仕事もそこそこに絵の方に夢中。

 俺同様、絵描きなんて普通に生きてりゃ無縁だろうからな。

 

「こりゃ、凄い! そうとうな腕に見えるが、これで見習いなのか……」

「師匠になかなか認めてもらえなくて」

「なるほどなぁ」

 

 船頭も感心したらしい。

 実際上手いと思う、技術としては相当だ。

 

 ……でも。

 

 上手いが、なるほどねぇ。

 人物画か。

 しかも、描かれているのは町で働いてる労働者や家事をしてる女性。

 

 この絵を一体いくらで売るつもりなんだろうな。




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