ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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死闘 20

「……さて、帰るか」

 

 脳内でひと通り愚痴った後、自然とこの結論に帰着した。

 別に逃げる訳じゃないよ?

 元々、その予定だったってだけで。

 

 今日残ったら、夜もとんでもない事になりそうとか。

 そんなことは全然思ってない。

 

 うん。

 

「あ、もうお帰りになられるのですか?」

「今日の宿は取ってないしね」

 

 一泊分しかお願いしてないのだ。

 急に延泊とか言われても、女将さんも困るだろう。

 だからな獣っ娘よ。

 そんな悲しそうな顔されても無理な物は無理だ。

 

「ご主人様……」

「また少ししたら来るから」

「はい」

 

 幸い、女将さんとも他のスタッフともそれなりに上手くやれてるっぽいしな。

 少し可哀想に見えるが。

 別に俺が帰ったってそれなりに楽しく過ごせるはず。

 

 トラウマになるような環境から彼女を買って連れ出したのが俺だからか、それで離れたく無いってのもあるのかね。

 

 ま、こういうのは時間が解決するのを待つしかない。

 悪い環境では無いのだ。

 多分、そのうち改善するんじゃないかな。

 

「時間も時間ですし、部屋は空いていますから泊まって明日の朝の出発でも」

 

 女将さんの言葉に窓の外へ目をやる。

 日没まであと数時間といったところだろうか?

 

 確かにこんな中途半端なタイミングで出発したら、街までの道中で2泊ぐらいかかりそうな気もする。

 が、帰りは転移だからね。

 無問題。

 移動時間なんて概念をすっ飛ばして、目的地までほんの一瞬で到着する。

 

 その旅路も含めて旅行みたいな所はあるけど。

 流石に疲れた。

 ちょっと、帰路も馬車で行くほどの気力は残ってない。

 

「せっかくですが、元々その予定だったので」

「そうですか。またいらしてください」

 

 部屋に戻り軽く荷物をまとめる。

 

 荷物なんてほぼアイテムボックスの中で、大した量もないのだが。

 謎に時間がかかった。

 

 天井を見つめ、ぼーっとしてみたり。

 窓の外の風景を眺めてみたり。

 風に当たってみたり、などなど……

 

 このままだと本当にもう一泊することになりかねないと、慌てて鞄の中に全てを突っ込んだ。

 おかげで余裕があった割にぐちゃぐちゃである。

 本当。

 我ながら自分の事をダメ人間だと思う。

 

「んじゃ、また」

「ご主人様。ずっと待ってますからね!」

「はいはい」

 

 女将さんから何か言いたげな目を向けられるも、そういう奴だと理解しているのだろう。

 軽いため息と呆れた様な視線。

 

 確かに、ちょっとそっけなかった気はするが。

 ここで変に熱くなってもね。

 また数ヶ月後には来るのだ、おっさんにそのテンションは少し厳しい物がある。

 

 いつまでも手を振る獣っ娘に返しつつ、大通りを進む。

 

 傾いた日の光に照らされた街並み。

 雪化粧をした姿とも、昼の高い日差しに照らされた姿とも印象が異なる。

 行き慣れた温泉街もまだまだ飽きそうにはないな。

 

 ……あ、そうそう。

 獣っ娘には市場の事はちゃんと伝えておいた。

 一緒に行ったけどほぼ寝てたしね。

 

 後、一応女将さんにも。

 保護者だし、この国で獣人1人での取引は心配だ。

 

 大きめの猪としか伝えてないから、色々驚くかもしれないけど。

 対応は獣っ娘にお任せ。

 細かいこと伝えると、危険なことさせてと怒られが発生する予感がしまして。

 

 それで思い出したのか、獣っ娘がナイフの代金を払うって言ってくれたけど。

 プレゼントだからと押し付けてきた。

 

 奴隷自体が主人の持ち物だからね。

 あげるって言っても所有権が移るわけでもない。

 あのナイフは俺の物のままだ。

 

 まぁ、そんな屁理屈使って後で回収するつもりはないけどね?

 

 そういうルールなのだ。

 って事は、対価を受け取らないのもおかしな事じゃない。

 変な罪悪感を持つ必要ないって事。

 

 門を抜け、そのまま街道を歩く。

 少し経ち街からそれなりに離れただろうか?

 道を外れ。

 森の中へと入った。

 

 周囲に人影が無いことを確認し、念の為魔眼も発動。

 転移魔法を使った。

 

 景色は大して変わらない。

 強いて言えば、先ほどより少し暖かい気がするって所か?

 ウーヌの街近くの森。

 

 本当一瞬だな。

 馬車で向かうと移動に一泊かかるってのに。

 

 門を抜け、見慣れた街並みが目に入る。

 普段から過ごしてるからね。

 温泉街と違って冬以外は物珍しいみたいな事もない。

 

 このまま帰宅して、今日はゆっくりするか。

 あ、でもその前に……

 

 アイテムボックスの中の巨大猪。

 獣っ娘が倒したのとは別の、空気読めないタイミングで来たので俺が処理した個体だ。

 依頼を受けた訳じゃないが、そこそこの魔物だし。

 ギルドで買い取ってくれるのでは?

 

 まぁ、そのまま出すと真っ二つにされた巨体とか面倒事になるの必死なので。

 牙だけ抜いて拾ったとか言って換金かな。

 肉は後で食べるとして。

 皮やら骨は、また後で拾った事にして売りに来れば大丈夫だろう。

 

「すいません。ちょっと買い取りして欲しい物があるんだけど」

「……」

「あのー、」

 

 冒険者ギルドに入り、馴染みの受付嬢に声をかける。

 

 へんじがない。

 ただのしかばねのようだ。

 

 睨まれた。

 まずい怒らせてしまったらしい。

 いや、冗談ですって。

 

「やっと帰って来た……」

 

 しかし、何をそんなに怒ってるのだろうか?

 今のが声に漏れてた?

 まさか。

 俺の口はそこまでゆるゆるでは無い。

 

 そもそも、初めから怒ってたっぽいし今の俺の言動は関係なさそう。

 俺何かやらかしたっけ?

 全く心当たりがないのだが。

 

「娼館に置いてくって、いくらなんでも酷くない?」

 

 ……娼館に置いて?

 あっ、

 

「すんませんでした!」

「ロルフさん、本当に反省してます?」

「それは、もう。真摯に」

「私に言われるまで忘れてたのに?」

 

 ぐっ、

 

 いや、本当にド忘れしてた。

 その場の思いつきで温泉街まで行った訳だが、その前何をしていたのか。

 やらかしである。

 

 受付嬢と娼館行ってたんだった。

 やっべ……

 

「……甥っ子のくせに」

「え?」

「ロルフさんって、お姉様のことママって呼んでましたよね」

「ま、まぁ」

「つまり妹の私からしたら甥っ子って事です」

 

 へ、変な言いがかりを。

 

 そこから散々揶揄われ。

 おっさんが娼館で好きに遊んで何が悪い!

 俺が甥っ子ならと、意趣返しにおばさん呼びしてやろうかと思ったが。

 後が怖いので辞めた。

 

 既に疲労困憊なのだ。

 ここから、お姉様に助けでも求められたら死にかねない。

 

 それにしても、嬢がママで受付嬢が叔母ねぇ。

 獣っ娘が娘で女将さんがその母で……

 しかもその全員の関係ありとか、随分とまぁ複雑な家系図である。




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