ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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河岸 9

「これ、いくらぐらいするんだ?」

 

 興味本位か、もしかしたら気になる絵でも見つけたのかもしれない。

 そう船頭が青年に尋ねた。

 

「えっと。1枚、銀貨10〜30枚ぐらいで……」

「あぁ、やっぱ結構するんだな」

 

 青年が答える。

 その答えにそれぐらいはするよなと、少し残念そうにしつつ予想通りといった反応。

 大金を払ってまで買うつもりはないらしい。

 

 多分、買えなくはないと思う。

 舟乗りは一般的な肉体労働って範囲の中じゃかなり高級取りだ。

 絵に魅力も感じていそう。

 でも、絵にその値段は、流石に庶民には出せない領域である。

 

 しかし、その値で売るのか……

 

 いや、ただの労働者や家事をする主婦の絵を誰がそんな値を出して買うのだろうなんていう。

 芸術的素養のないおっさんらしい疑問もあるのだが。

 

 それ以上に、

 

「少し聞いてもいいか?」

「あ、はい」

「絵って何枚ぐらい売れたら一年不自由なく暮らせるようになるんだ?」

「え?」

「いや、そう数売れるものでもないだろ。ちょっと気になってさ」

「……」

 

 銀貨10〜30枚って値付け、それほぼ原価だろ?

 

 絵画ってのは高級品だ。

 紙も絵の具も高い、そこに何年もかけて鍛え上げた技術料をのせる。

 

 高いのはぼってるからじゃない。

 相応の値段で買ってもらえないと、絵描きという仕事自体が成り立たない。

 その高値が適正価格なのだ。

 

 彼の描いてる絵。

 庶民の生活、飾らない現実を描いた良い絵だとは思う。

 芸術的にどうこうなんてのは分からないが。

 少なくとも上手いとは思う。

 

 多分、これを描きたかったのだろう。

 それで芸術の世界に入った。

 

 才能があって。

 運が良かったのかコネがあったのかちゃんと絵描きに弟子入りできて。

 でも……

 いや、だから自分を曲げなかった。

 

「無謀だと思いますか? 師匠と同様に」

 

 いろいろ省いた青年の言葉。

 しかし、言いたいことは分かる。

 揉めたのかな?

 

 気分転換ってのはきっとそういうことだろう。

 

 だから仕事を聞かれて言い淀んだ。

 破門とかまではされてないと思うが、もしかしたら勢いそのままに飛び出してきてしまったのかもしれない。

 

 絵描きとして弟子までとってやってるぐらいだ。

 その師匠はそこそこ成功してるのだろう。

 成功してるって事は売れる絵を描いてるってことで、つまり権威を描いてるってことだ。

 

 庶民なんて描いても金にならない。

 買う客がいないのだ。

 庶民はその絵に親近感を覚えて欲しいと思うかもしれないが、金額的に無理だし。

 本来の顧客も、権威とは正反対の方向性のこの絵を買おうとは思わないだろう。

 

 絵描きとして生きていくなら師匠の方が正解なのだ。

 

 これが芸術として評価されるようになるのは、もっと後の話。

 前世の世界を基準にすれば近世に入ってから。

 

 まぁ、後に変わったって事は。

 こういう人がいて徐々に変わっていったんだろうけど。

 確かにそれは尊い営みだ。

 現状を変えようと挑戦する人はすごいと思う。

 

 実際、続けていけば今は無理でもこの世界でもいずれ変わっていくのだろう。

 生きてるうちに変わらなくとも。

 例えば、後世には評価されるのかもしれない。

 

 それは素晴らしいことで。

 尊敬出来る先人で。

 

 ……

 

 俺みたいな人間は、死んだ後に評価されてもなんて思ってしまう。




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