舟を降りてすぐ、店を物色するでもなく適当に目についた店に入った。
しばらく2人で歩こうって空気でもなかったしね。
幸い、ここは舟乗りの街だ。
海と川という違いはあれど、どちらも酒呑みなのは同じらしい。
数分と歩くことなく店を見つけられた。
しかし、この飲み屋。
適当に入ったにしては雰囲気のある店構えである。
そもそも街自体にかなりの歴史があるのだろう。
横を流れる川は幅も広いく流れも緩やか、河岸とするにはもってこいの場所。
古くから水運の要所だったはず。
ウーヌのとこより何倍も大きな船がいくつか。
ここより下流にはウーヌからの道中にあった流れの荒い部分もないのだろうな。
「いらっしゃい!」
「2人で」
「はいよ」
石造りの店内。
店員に人数を告げると、テーブル席に案内された。
机と椅子は無垢な木製だ。
装飾はない。
どこか定食屋を思わせるようなシンプルなデザイン。
船着場のすぐ横だしね。
実際、扱いとしても似たようなものなのだろう。
船乗りに酒は必須らしい。
「それで、無謀かだっけ」
「……はい」
青年は俺の言葉に静かに頷く。
舟を降りてから、彼は黙って俺に着いてきた。
店に入り席についてもなお。
何か考え事をしてるかの様だった。
実際、頭の中ではいまも思考がぐるぐると回り続けているのだろう。
俺が先に口を開いた。
飲みに誘ったのだしな、マナーだろう。
「俺はただの冒険者だからな。正直、絵画の世界のこととかはよくわからん」
「……そう、ですよね」
俺の言葉に下を向く青年。
「家出か?」
「え?」
「師匠に反対されたんだろ。それで、その勢いのままってとこか?」
唾を飲み込む。
どうやら図星らしい。
まぁ、誰でも分かる話だ。
青年も当てられたことがどうこうってより、自分の行動を改めて振り返ってって事だろう。
この反応は。
「……僕には絵の才能があるらしいです。師匠が言ってました」
「ほう」
「絵を描いて生きていくなら師匠の言う通りにすべき、それは分かっています。でも、それは絵描きじゃない」
なるほどなぁ。
「師匠にはここまでずっと絵を教わってきて、感謝もしています。恩を返したいとも思ってます。でも……」
言葉に詰まる青年。
なんと言うかまぁ、予想通りっちゃ予想通り。
「俺は冒険者をやってるんだ」
「……はい? 聞きました」
何を改まってといった表情を浮かべる青年。
「これでも、昔は王都の学園に通っていた」
「貴族様なのですか?」
「いや、田舎の農村の生まれだ」
「それって」
「たまたま才能があったらしい」
驚いた顔。
それだけ予想外だったのだろう。
絵描き、それで食っていこうと思ってるぐらいだ。
貴族との繋がりもあるはず。
本人はともかく、師匠は間違いなく持ってる。
だから、学園がどういう場所か普通の庶民よりよく知っている。
「もったいないと思ったか?」
「……」
「師匠も同じ気持ちなのかもな」
「え?」
「弟子に取るくらいには認めているのだろう?」
考え込む青年。
「一度きりの人生、好きに生きるのもそんなに悪くないと思う。でも、一度きりの人生、上手く生きるのも大事だ」
綺麗事。
何もいってないのと一緒だ。
それに、これほど説得力のない言葉も珍しい。
なんせ俺は人生二度目なのだから。
「お待たせしました」
店員が酒とつまみを持ってきた。
沈黙を誤魔化すように俺は酒を煽る。
青年も釣られるように、一気に喉に流し込んだ。
そんなに飲んで大丈夫か?
まだ若い、あまり飲み慣れてる様には見えないが……
まぁ、気分転換にはちょうどいいのかもな。
『ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者2』
絶賛発売中!