ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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河岸 12

「……何故貴方は冒険者になれたんですか?」

「なれた、か」

 

 青年からすればそりゃそう聞きたくもなるわな。

 

 才を認められ、学園に通ってた庶民。

 冒険者になるなんて周囲が勿体無いと止めるのは勿論だが、何より当の本人が躊躇うはずだ。

 普通なら。

 学歴を捨ててまで取る仕事じゃない、冒険者なんてほんとに誰でもなれるし。

 

 まぁ、俺的にはベストだったと思う。

 そもそも、学園通ってたのも前世からの固定観念のせいで大した価値も感じていなかったのだが。

 彼からすれば理解し難い所業だろう。

 

「人と価値観が違ったからじゃないかな」

「価値観?」

「そ、地位とか肩書きとかそういうのより優先したいことがあった。君もそうだろう?」

「それは……」

 

 多分、自分でも迷ってるんだろうな。

 

 才能を捨てる。

 そこまで言うと大袈裟だが、稼ぎを捨ててまで自分の信念を突き通す意味はあるのだろうかと。

 だから、家出はしても弟子をやめる勇気は出なかったと。

 

「って、これはちょっとカッコつけすぎだな」

「え?」

「俺、学園に入学はしても卒業はしてないからね」

「……」

「入学してすぐ停学になってそのままやめちゃったのよ。だから、ちょっと事情違うっていうか。もったいないも何もない」

 

 この感じ、青年はそれなりの期間師匠のもとで学んでいるのだろう。

 俺と一緒にするのは酷か。

 

 俺の場合、学園になんて全く思い入れもなかったのだから。

 むしろ辞めるタイミングを見計らってたまであるし。

 側から聞くと人生の岐路みたいな話だが、実際はもっと軽くて雑な決断だった。

 

「後悔してますか?」

「俺は後悔してないからな。ほら、芸術わからないって言ったろ? 学園を卒業して就職して行く先でそれが許されると思うか?」

「ですね」

「だろ」

 

 神妙な面持ちをした青年の問いに俺は軽く返した。

 

 本人にとってさほど重大じゃないと青年も悟ったのだろう。

 俺の返しに軽口をたたく。

 

「例えば、普段は適当に働いて絵は趣味にするってのもなしじゃないと思う」

「それは……」

「まぁ、今すぐ答えを出す必要もない。ゆっくり悩んでから答えを出せばいいさ」

 

 俺の誰にでも思いつくような雑な提案。

 答えづらそうにする青年。

 

 多分、そういうことなのだろう。

 

 絵描きがどうとか言っていた。

 本意じゃない絵を描いて生きていくのも、絵以外で生活の糧を得て生きていくのも。

 そのどちらも彼的には違うのだろう。

 

 自分の好きな絵を描いて、それが認められて、大金も手に入る。

 それが理想。

 

 贅沢者だと思う。

 自分でもそれはわかっているのだろう。

 でも、いいじゃないか。

 若いのだから。

 若者なんて夢を見てなんぼよ。

 

 それに、才能があるなら全くあり得ない話ではない。

 理想を実現出来るならそれに越したことはないしな。

 

 がらんがらん

 

 酒を飲みつつ青年とそんな話をしていると、店のドアが開いた。

 まぁ、川から近い店だ。

 先程から船乗りらしき男の出入りは何度もあったのだが。

 今回の来客は俺たちに用があるらしい。

 

「お、いたいた! この店で飲んでたのか」

 

 店に入るなりこちらに声をかけてきてどかっと同卓に腰を下ろした。

 どこぞの誰が絡んできたのかと思えば船頭である。

 

「まだ辛気臭い顔しやがって、俺にも飲ませろ」

 

 そんな事を青年に言いながらなれたように店員に酒を頼む船頭。

 舟での様子から気になってたのだろう。

 仕事を終わらせて、そっからわざわざ俺たちのことを探して飲みにきたらしい。

 

 降りたとこの近くだから何店舗も回るような羽目にはなってないと思うが。

 ただの客相手に、人のいい奴め。

 

「あ、そうだ。大将! 獲れたてもらってきたから、これ捌いてくれよ」

 

 そんな事を言いながら、魚を取り出す船頭。

 常連なのだろう。

 まぁ、職場のすぐ近くだしな。

 

 鳥飼いだろうか?

 さっき外で漁の準備をしているのを見た。

 

 船頭の一連の行動に青年も笑みを浮かべる。

 毒気を抜かれたらしい。

 せっかくの気分転換、俺のせいでさらに沈ませたかもと心配してたんだが復活してよかった。

 

「……あ、そうだ」

「ん?」

 

 俺の声に船頭が首を傾げる

 あんたじゃなくて、青年の方だよ。

 

「なぁ、あんたの絵って一作描くのにどれぐらい時間かかるんだ?」

「え?」

「せっかくだから一枚お願いしようかなって」

「いいんですか!?」

 

 俺がそう言うと、青年が前のめりになる。

 

 ちょっと申し訳ないしね。

 それにせっかくの機会だ。

 

 頼まれてもいないのに彼の心に踏み込んで、その上での絵の依頼はちょっと煙たがられるかなと思ったが。

 そんなことはないらしい。

 やはり若者はいい、なんだかんだ言って素直なのだ。

 

 後は、まぁ……

 青年がこれからどうするのかは知らないが、もし成功するなら高値で売れるかも。

 大物作家の青年時代。

 自分の作風に悩んでいた時期の作品とか、マニアからすれば垂涎の品である。

 

 前世の世界じゃ、後々評価される方向性の作品ではあるからね。

 可能性は感じる。

 つまり立派な投資って事で。

 

 薬草の買取も上がってるしね。

 これぐらいの浪費……じゃなくて投資、全然許容範囲である。




あぶないあぶない、危うく二巻発売記念のSSでエタる所だった。

『ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者2』
絶賛発売中!
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