ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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河岸 14

「……よし、描くぞ!」

 

 船頭に絡んでいたと思ったら、急に大きめの独り言をつぶやき、いつの間にやら筆と絵の具にキャンバスを取り出した青年。

 気合いを入れ、真剣な表情で白いキャンパスに向き合う。

 

「どした?」

 

 俺の疑問に返答はない。

 船頭の方に視線を向けるも、彼もポカンとしている。

 突然の行動らしい。

 

 ま、酔っ払いなんてそんなもんか。

 酔った人間の行動に整然とした道筋を期待してはいけない、する方が間違っている。

 

 どうやら、青年は今からここで絵を描くつもりらしい。

 酔って歌い始める奴なんてのはいくらでも見てきたが、そうか絵描きって酔うと絵を描き始めるのか。

 発見である。

 

 いや、こいつが特殊なのかもしれんが。

 

 突然妙な行動を始めた青年に2人して唖然って感じだが、店主の様子を見るに止めるつもりはなさそう。

 なんなら、興味深そうに青年のことを眺めている。

 

 そりゃ珍しいだろうな。

 基本的に庶民は絵とさえ無縁なのだから、その制作過程なんてもっと縁遠いもの。

 俺も、人が絵を描くとこなんてしばらく見てない。

 ってか……

 本格的に描くのをリアルで見るのってもしかして初めてか?

 

 前世でも、美術の授業で他人が絵を描いてるのとか、自由時間にノートに落書きしてるのなんかは見た覚えはあるが。

 そういうのは違うだろう。

 

 とはいえ、流石に画面越しなら何度か見たことはある。

 っても、長尺じゃなくてショート。

 雑な下書きが書き進められていく内に急に絵になって、そうはならんやろと驚きつつ笑う的な方向性で見ていたのだが。

 

 我ながら、芸術の鑑賞方法としてどうかと思う。

 

 しかし、楽しそうに描きやがる。

 キャンパスに向かう青年の顔は真剣でありつつもどこか笑みが浮かんでいた。

 天職、なんだろうな。

 

「こりゃ、すっげぇな」

 

 船頭がおもわずといった様子で呟く。

 初めは乱雑に置かれてるようにしか見えなかった線が、ある瞬間を超えると綺麗な絵に見えてくる。

 素人から見たら不思議な現象だろう、俺も何度見てもどうしてそうなるのかイマイチ理解できないし。

 

 にしても、筆が早いな。

 酔った勢いで描いてるからかもしれないけど。

 

 そんなこんなで夜もふけていく。

 絵を描く様というのは意外にも見てて飽きがこないらしい。

 青年の描きっぷりを肴に酒を空ける。

 

 そんな風に見られて気分が良かったのだろう。

 青年の手も止まらず、一作仕上げたと思ったらその流れで2枚目のキャンパスを取り出していた。

 

 ……

 

 気がつけば朝。

 

 いくら筆が早いと言っても、絵ってのは時間がかかるものだからね。

 それを肴に飲もうなんてことしてりゃそりゃそうなる。

 窓の外が明るくなり、そろそろ店を閉めると眠そうな店主に外へ出されてしまった。

 

 まだ早朝、どこも開いてない。

 二軒目もシメもなし。

 かと言って解散しても寝る宿もない、夜遅くまで開いてる連れ込み宿も流石にこの時間は受付してくれまい。

 

 ってことで、店に入るのも宿を取るのも諦め。

 船頭の案内で街を回ることにした。

 

 せっかく他の街に来たからね。

 観光しないと。

 青年も、気分転換に来たって言ってたしな。

 

 それに、絵の題材としてこの街の景色は結構いい気がする。

 街中に張り巡らされた水路、その上にかかる石橋、水路の周囲に並ぶ蔵。

 まさに絵になる景色ってやつよ。

 

 規模的にはスケールダウンするが、前世で言う水の都といった景色である。

 なんなら水が滞留しない分匂いがキツくない。

 より日本人向けだろう。

 と言っても、世界が違うんで日本からの交通手段が無いのだけど。

 

 3人で街を回り、軽く立ち止まっては景色を眺め、ここぞってとこでは青年が筆をとりしばしの休憩。

 そんな、ゆったりとした時間を過ごす。

 

 いつの間にか日も高くなってきた。

 

「んじゃ、俺はそろそろ仕事行かねぇと」

 

 そう言った船頭と別れる。

 ここから仕事かよ、元気な事で。

 

 俺はどうしよっかな。

 もうこの時間なら店は開いてるだろうし宿も取れるだろうが、金結構使っちゃったし。

 0泊2日、それも悪くないか。

 

 何に金を使ったかって?

 いや、隣でずっと絵を描いてるやつがいてね。

 

 初めは一枚だけのつもりだったのだが、場の雰囲気に流されていつの間にやら。

 おかしい。

 俺はチートのおかげで泥酔なんてのとは無縁のはずなのだが。

 周りが酔っ払っていたからだろうか? 場の雰囲気に酔ったらしい。

 

 最終的には結構な枚数買ってしまった。

 一枚ならまだ投資とかなんとか言い訳出来そうなものだが、大量に買ってしまっては言い訳の出来ない浪費である。

 勝算があってとかでっもなく、その場の勢いだし余計。

 

 青年はしばらくこの街に残って絵を描いていくとか。

 

 師匠とのこと。

 別に何も解決しちゃいないが、そう言った彼の顔はどこか晴れやかだった。

 

 上りの舟はごめんなので、帰りは転移。

 街を出て人気の無い茂みの中に入り、次の瞬間には見慣れた森へ。

 森を抜けて慣れた道を歩き帰宅。

 宿に泊まらなかったせいだろうか、半分日帰り旅行みたいな感覚である。

 

 しっかし、久々のオール。

 チートのおかげで別に寝なくても問題はないが、寝たくないのかと言われるとそんなことは当然なく。

 普通に眠い。

 

 ベッドに体を預ける。

 

 あー、極楽。

 このままゴロゴロしてれば十分とかからず寝落ちしそう。

 

 ……

 

 ふと、窓の外に視線を向けると薄暗い。

 いつの間にか寝ていたらしい。

 

 昼前ごろに帰ってきて、夕方。

 昼夜逆転コース。

 まぁ、この世界だと夜に娯楽がないので多少生活リズムがずれようが勝手に戻るのだけど。

 

 ぼーっと、窓の外を眺める。

 

 しかし、河岸の街並みは綺麗だった。

 また行こう。

 今度は金をどかっと使わず、もう少しゆっくりしてもいいかもしれない。

 

 そんなことを考えつつ。

 そういえばと、アイテムボックスの中に手を突っ込む。

 

 青年から絵をいくつか買ったのだ。

 せっかくだから飾らないとね。

 とりあえず、固定具も何もないので床置きで壁に立てかけてみた。

 

 雰囲気のいい飲み屋の中。

 俺と船頭、楽しげに酒を飲んで美味そうな料理をつまんでいる。

 それを少し離れたとこから眺める店主。

 

「おー」

 

 いいな、これ。

 今まで旅の記録とかまともに残してなかったが、少々もったいなかったかも。

 

 他の絵も並べる。

 街に張り巡らされた水路、朝日、立派な蔵、係留された舟。

 綺麗な景色ながら生活感のある絵だ。

 

 ってか、ずっと一緒に行動していたせいだろうか。

 ほとんどの絵に俺と船頭が一緒に写っている。

 

 そんな仲良くなったか?

 いや、いい奴だと思うし全然好ましいと思うが、なんせ昨日出会ったばっかりだからな。

 それが親友ですかってほどに並んで写っているのだ。

 深いとこまで突っ込んだ話をした青年との方がまだ……と思わないでもないが。

 

 ま、いっか。

 

 これから旅に行ったら、その先で描いてもらうって結構いいかもな。

 でも、そういう絵描きが少ないって話だもんな。

 金にならないから。

 絵描きとして生きていけない。

 

 流石に、青年を毎回連れ回すわけにもいかんし。

 旅先でたまたま出会ったおっさんに一緒に旅行こうと誘われるとか、迷惑通り越して恐怖である。

 

 それに、贅沢か。

 金もめっちゃかかるだろうし。

 

 薬草の買取高いのも、いつまで続くか分からないんだ。

 浪費癖はまずい。

 別に稼ごうと思えば稼げるんだが、そのためにプラスで時間を消費するようでは本末転倒である。

 

 青年の夢が上手いこといったら、多分そういう絵描き志望も増えるだろうし。

 そうなれば旅先で適当な絵師捕まえてってのも不可能ではないか。

 

 他力本願極まりないが、陰ながら応援させてもらおう。

 表立って? 俺にそんな金はない。




二巻発売記念SS、完結。

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