ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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徒然 5

 久々に散髪して、物理的にも気分的にもさっぱり。

 

 頭を軽く振ってみると、前までなら頭の動きから少し遅れて揺れていたであろう髪がピッタリ追従したまま。

 その存在をほぼ感じない。

 

 人間の髪って案外硬いらしいからね。

 ある程度の長さになって、自重が重くならないとあまり曲がらないのだろう。

 刈り上げと言うほどではないが、全体的に短めに整えてもらったから。

 

 手ぐしを通す。

 まぁ、これだけ短いと当然のように抵抗は皆無。

 

 ただパラパラと髪が落ちる。

 

 別に何かが進行している訳ではない。

 まだまだふさふさ。

 

 一応、店主も軽く払ってはくれたのだけどそれでもかなり切りくずが残ってるっぽい。

 シャンプーのサービスなんてないし。

 そりゃ、多少払っただけで綺麗になるなら前世であそこまでのセット感出ないだろうからな。

 

 服に付かないよう、お辞儀するような体制になって髪をわしゃわしゃと。

 客観的に見て不審者でしかない。

 

 ここが、大通りから一本入った場所でよかった。

 目撃者はいない。

 ……多分。

 

 いやまぁ、目撃者云々以上にそもそもやらない方がいいのかもしれないが。

 このまま家に帰ると、床やらベットが髪だらけになっちゃうからさ。

 

 それはちょっと……

 

 この街は多少整備されてるとはいえ、地面は土を押し固めただけ。

 少し散髪後の髪を払うぐらいならさ。

 許されるだろうという、俺の勝手な判断である。

 

 酒の空き瓶のポイ捨てとかはまずしないし。

 この世界じゃ、むしろ良識ある部類の人間だと思う。

 

 日本とは違うのだ。

 

 床屋に入る前から夕日で街が色づいていたが、今じゃ地平線の向こうに沈みかけ。

 もう1時間もせず、完全に日が落ちることだろう。

 

 さて、どうしよっかな。

 まっすぐ帰るか、どこかで酒でもひっかけてくか。

 あるいは娼館になんて手も……

 

 そんなことを考えながら。

 なんとなく、自宅に近い方向へと足を進めていると。

 

 途中、大通りに面した一つの店が目に入った。

 軒先には大小さまざまな肉の塊が乱雑に吊るされており、風に揺れては鈍く光を反射している。

 トードーや小型の鳥なんかは丸ごと。

 大型の獣は切り分けられていて、あれは部位的には太ももだろうか?

 サイズ的におそらくオークのものだと思う。

 

 肉ってのはもっとキラキラしてるイメージあったが。

 この世界じゃそうとも限らない。

 夕方だしな。

 干すつもりがなくとも表面が少し乾いてしまっている様子。

 

 スーパに並んでいるような、パック詰めされた精肉とは何もかもが違うのだ。

 あそこまで瑞々しくってのは無理難題。

 

 それでも、どれも血の赤みを残し。

 決して腐ってるわけじゃない。

 

 この店では、命が”食べ物“へと変わる瞬間がまだ生々しく残っている。

 

 虫がたかってるのはご愛嬌、かな。

 一応、虫除けっぽい布がかけられてはいるが。

 完全に防ぐのは難しい。

 

 この世界に来たばかりの頃は、多少抵抗あったけど。

 今じゃもう慣れた。

 

 仕方ないのだ。

 常温だし、虫もたかってる。

 ちょっと怪し臭いもする。

 

 でも、それが自然って物よ。

 

 特に、もうすぐ夏だしね。

 衛生管理の為に、肉屋一軒一軒が魔術師を雇って冷やし続けるわけにもいくまい。

 どれだけの高級品になるんだって話。

 

 生肉ばかりではなく、干した保存肉も並んでいる。

 久々に買って帰ってもいいかもしれない。

 店で食べるのも悪くはないが、自分で塊肉を豪快に料理するのも楽しい。

 

 こうやって塊で買うと、解体やらなんやらで本来かなり大変なのだろうが。

 チートボディーのおかげで、多少関節の位置が曖昧でも骨ごとぶった切れるので問題は無い。

 

 時間的に閉店の準備中なのだろう。

 吊るされてる肉をせっせと取り外して店の奥に運び込んでいる。

 が、商売人だからな。

 買いたいと言えば、たぶん売ってくれはするはず。

 

 ……あ、

 

 ちょっと待て、思い出した。

 アイテムボックスの中の巨大猪。

 牙は売り払ったが、他は丸々残ってるんだよな。

 

 肉を買う前にこっちか。

 あれが残ってるのに新たに塊肉を買うのはよろしくない。

 

 入れっぱなしにしてても問題はない。

 腐ることはないし、アイテムボックスの容量を圧迫するということもない。

 とは言え、だ。

 

 気分的によろしくない。

 忘れそうだし。

 

 そりゃ何年経っても大丈夫だけどさ、実際に何年も経って出てきてみろ?

 冷凍庫の奥から数年物の冷凍品が出てきた感覚。

 感情の問題である。

 

 この世界の肉がいけてそれは無理なのかって?

 変に前世を引きずってるからこそ抵抗を覚えるってのと、普通に保存技術の問題で古いものへの抵抗はこっちの世界の方がデカい気がする。

 つまり、どちらにしろって話だ。

 

 肉は買わないとして、これ早めに処理しないと忘れそうだな。

 実際、今忘れかけてたし。

 

 夏の始まりかけのこの時期……

 

 バーベキューか。

 いいな。

 真夏のバーベキューなんて、動画で見る分にはいいが実際にやるのはなかなか億劫。

 だが、この時期ならちょうどいい。

 

 でも、今からというのもアレだ。

 夕方から夜にかけてってのは日本だと中々王道な時間帯なのかもしれないが。

 少し勿体無い気もする。

 

 せっかく丸々一匹分の肉があるのだ。

 それも、体高が人並みにあるような巨大猪である。

 

 ……ちょいと、本格的に行きますか。

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