……ふぅ、肉の仕込みも終わりちょっと一息。
木の幹に背中を預け。
休憩がてらぼーっとグリルを眺める。
パチパチと炭の燃える音、煙が空へと登っていく。
中では子供サイズはあろうかという巨大なブリスケットがじっくりとローストされているのだ。
そう考えるだけで涎が……
あぁ、今から楽しみでしかたない。
ここからの数時間がちょっとした苦痛でもあり、それこそ醍醐味だって思いもありつつ。
が、この料理長時間ただ放置してればいいって訳じゃない。
休憩もそこそこに、アイテムボックスからエールを取り出す。
別に飲む訳じゃないよ?
心惹かれる部分はあるが。
バーベキューが完成するまでお預け。
飲みながら作るってのも豪快な感じがしていいけどね。
我慢した方がうまい酒が飲めそうなんで。
この料理、長時間ローストするだけあってそのままだと肉が乾燥しちゃうんだよね。
だから、時々天板を開けて酒を塗ってやるのだ。
頻度としては数十分に一回ぐらいだろうか?
これを忘れると、下手したら焦げたダークマターになりかねない。
ってのは言い過ぎだが。
数時間かけてパサパサの肉を食べたくはない。
ついでに、肉を回したりして火の当たり具合を調整。
即席の簡易グリル。
片側に炭を寄せて、もう片側に肉が置いてあるだけだからね。
火加減がバラッバラなのだ。
ただ焼いてるだけだと、どうしても偏ってしまう。
どうせならなるべく満遍なく火を通したい。
そんなこんなしてるうちに、気づけば日も高くなってきた。
ここは森の奥地。
多少開けた場所とはいえ、直射日光が当たる程でもない。
木々の隙間から木漏れ日が差し地面にうっすらとシルエットを映す。
初夏の香りもどことなく漂う。
そんななか炭の燃える音がこの森に普段とは少し違う色を付ける。
いいな。
雰囲気がある。
森そのものも、いつの間にか目を覚ましていたらしい。
早朝。
準備を始めた頃はどこか寝ぼけた様な。
静かで住人達の営みも何処かぼんやりとしか感じられなかったのに。
葉擦れの音に鳥の鳴き声。
それと獣の気配……
今ではすっかり目も覚め元気が有り余ってるご様子で。
彼らの営みも、とても近くに感じられる。
と言っても。
火にはそう近づかないのらしい。
今のところゴブリンを一匹追い払った程度で、危惧していたほど魔物やらが集ってくることはない。
強力な魔物であれば別だが。
生物である以上、火にはやはり本能的な恐怖を覚えるのだろう。
グリルからの熱気。
おそらく、遠赤外線とやらも出ているのだろう。
体が火照る。
そして漂う焼けた肉の匂い。
……腹が減った。
だが、バーベキューが出来上がるのはまだまだ先。
数十分ごとに世話を焼く。
天板を開けて。
乾燥しないようにエールを塗って。
火加減を調節して。
肉を回して。
その挙句、ここから数時間ずっとお預け。
……
拷問かな?
ええい、もう我慢ならん。
アイテムボックスの中、さっき巨大猪から取り分けた内臓を出す。
これ食べちゃうか。
肉もあるけど。
そっちはね。
今、塊肉を焼いてるところなのだ。
数時間かけて調理するのに。
その前に、肉の欲を満たしてしまうのは頂けない。
だが、肉とホルモンは別腹だろ?
魔法でざっと水洗い。
腸やら胃はまた今度、しっかり洗ってからじゃないと気分的にね。
後でソーセージにでもしようか。
別の部位をいただく。
レバーに、ハツに、フワなんかも結構うまそうだ。
しかし、体相応にデッカいな。
これぐらいデカいと癌に強かったりするんかね?
シロナガスクジラとか。
癌に罹らないとかなんとか聞いたことがある。
確か、がん細胞にがん細胞ができて体に影響が出る前に癌が死滅しちゃうとか。
人間とはスケールが違うよね。
ゾウやサイレベルだとどうなのだろう?
そんなくだらない思考に頭を割きつつ。
取り出したホルモン達を適当な大きさに乱切り。
別で火を起こしてもいいのだが。
グリルの金属板。
中で炭を起こしてるので、当然チンチンに熱されている。
この熱々の板に、ぶつ切りの内臓を放り込む。
じゅわっと肉汁が弾け、煙と香りが一気に立ち上がる。
男の料理だ。
大雑把なぐらいでちょうどいい。
にしても、やっぱ日本式のバーベキューもいいな。
まず手軽だ。
それを、アメリカ式バーベキューの待ち時間に楽しもうとか……
我ながら贅沢な二重取りである。
そしてホルモンの頭上から塩をぱらり。
味付けはそれだけ。
シンプルイズザベスト。
熱々を口に放り込み、そばに置いてあったエールに手が伸びる。
「かーっ、うまい!」
飲まないって言ってたエール、結局飲んじゃてるって?
しゃーない。
この香り、この味わい、我慢できるわけがない。