ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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徒然 15

「はー、食った食った」

 

 腹いっぱい。

 流石に、人の子供サイズはあろうかと言う肉塊をペロリとはいかなかったが。

 それでもなんだかんだで1000グラム近くは食べた気がする。

 

 結局10%も行ってないって?

 1ポンドステーキが約450グラムなの考えれば、これでもかなりの量。

 

 調理途中でホルモンも摘んでた訳で……

 どちらかと言うと。

 明らかに食い過ぎ。

 そして、飲み過ぎである。

 

 いや、本当チートがあって良かった。

 

 36のおっさんが調子乗ってこんな事して、結果泥酔からの嘔吐とか。

 冗談じゃない。

 そんなんなったら、色々台無しである。

 

 そういうのもバーベキューの醍醐味だって?

 まぁ、分からなくもない。

 

 俺も話を聞いたりする分には楽しそうだと思わなくもない。

 若い連中が。

 盛り上がって、飲みすぎて。

 それで戻しちゃって。

 最悪だったわって、そんな思い出話。

 

 確かに楽しそうな気はする。

 

 でも、自分がそうなるのはもちろん見るのもちょっと嫌だ。

 関わり合いになりたくない。

 ましてや1人だからね。

 共通の思い出として語る相手も居ない。

 

 余韻も大切なのだ。

 服に染みついた煙と油の匂い。

 

 これも嫌だって人もいるかもしれないが。

 部屋に帰って。

 ふと、普段とは違う匂いを感じる。

 そういう瞬間もまた思い出の一つだと思う。

 

 それが吐瀉物の匂いだったら。

 余韻も何もあったもんじゃない。

 ……だろ?

 

 にしても、もうそろそろ日の入りだろうか?

 いつの間にか空も赤く色づいている。

 

 ほんと、丸一日かかったな。

 

 早朝から初めて。

 何だかんだ、満足するまで楽しんだ頃にはこの時間である。

 やはりコストパフォーマンスには優れない。

 

 そろそろ帰るか。

 腹も満たしたし。

 

 日が暮れても問題ないと言えばないが。

 生活リズムが崩れるとね。

 深夜起きてても、この世界じゃ街自体が眠ってるからただただ暇を持て余すだけだ。

 

 火の処理をして。

 グリルも、ただ重ねてあるだけのレンガを崩しアイテムボックスの中に収納。

 

 炭を燃やして出た灰も。

 コイツらってあんま分解されないらしいからな。

 一応処理。

 魔法で、キッチリ消滅させる。

 

 キャンプ場なんかで、捨てるのが面倒だからとその辺に埋めちゃダメだぞ?

 

 なんか栄養がないとか何とか。

 それでいて肥料にもなるってのは何処か不思議な感じもするが。

 細かい理屈は知らん。

 

 まぁ、この世界だとみんなそのまま放置してるんだけどね。

 多分火の処理さえすればゴミをそのまま放置しても誰にも何も言われないとは思う。

 

 だから、一種の自己満足。

 この森には普段から薬草採取でお世話になってるからね。

 バーベキューでも雰囲気楽しませてもらったし……

 

 あ、因みに。

 食べきれなそうなブリスケットは早々にアイテムボックスの中へ放り込んでおいた。

 これでいつでも出来立てが食べれるってんだからお得。

 

 ま、このシチュエーションまで込みでのバーベキューなんでいくら出来立てとは言っても今日の味には敵わないのだけど。

 

 片付けも済ませ、帰路に着く。

 帰り道がてら、適当に薬草も拾って行くか。

 

 すぐそばにあるのだし。

 手間もかからない。

 報告はまた明日にするにしても、せっかく森に来たのだからその方が二度手間にならずに済む。

 

 普段、ここまで奥には来ないしね。

 結構手付かずで残っている。

 

 そんなこと言うなら、たまにガッツリ仕事すれば数週間働かなくてもすんで効率いいのでは?

 とも思うが。

 ちょこちょこ働く方がしょうに合ってるのだから仕方がない。

 数週間に一度、丸一日かけてとか。

 その1日が面倒過ぎて、先延ばし先延ばしにするのが目に見えているしな。

 

 魔眼を発動。

 

 設定はいつもの。

 動かなくて、魔力を持ってる。

 背の低いモノが対象。

 

 この森で引っかかるのは大体薬草だ。

 手間が掛からなくていい。

 

 孤児やら、薬草採取をメインにする新人冒険者。

 森にすらあまり近づかないのだ。

 当然、ここには来ない。

 

 この辺りまで来るのは討伐依頼をメインにする連中。

 それもゴブリンのレベルは通り越して、オークメインなんならそろそろオーガレベルにも挑戦しようかなって奴ら。

 

 薬草は目についたら拾うかも程度だ。

 

 街の方へ向かいながら。

 魔眼に映る薬草を示す点にたまにちょっと寄り道して。

 あっという間に普段の採取量に達した。

 

 そろそろ森を抜ける。

 木々で制限されていた視界が一気に開け、まず目に入ったのは綺麗な夕暮れ。

 

 さっきの時点で、空が赤く色づいていたの自体気づいてはいたが。

 草原で見るとまた違った景色。

 遮るものがない。

 森の木々も、街の中の様に建物が目に入る事もない。

 

 水平線とはいかないけど。

 それに近い。

 遠くに見える木々やちょっとした地形の起伏なんてのは誤差みたいなものだ。

 

 横を流れる小川。

 サワガニでもいそうだ。

 

 なんか、蝉の鳴き声が頭の中で再生される。

 そんな虫この世界に居ないのに。

 日本の夏の田舎、ノスタルジックな雰囲気が漂う。

 

 歩きながら、ふと思う。

 久々に1人だったなと。

 

 いや、ずっとソロだけどさ。

 依頼を受けるから受付嬢や酒場のおばちゃんとはちょくちょく話すし。

 街を離れてもその先々で何だかんだ知り合いがいる。

 

 今の環境も悪くない。

 でも、どこまで行っても俺は1人が好きらしい。

 ギルドの片隅で1人飲んだくれてるぐらいがちょうどいい。

 そんな人間だってこった。

 

 たまにはこういう日も必要だろう。

 誰にも会わない日も。

 

 ……

 

 んな事を思いつつ。

 ギルド前を通り過ぎようとして、そこで足を止める。

 

 薬草。

 別に明日の朝、依頼を受けて報酬を受け取ってそれで何の不満もないはずだ。

 ついでに採取を済ませたわけで。

 普段楽な仕事が、それ以上に手間をかけずに済ませられる。

 

 実際、今の今までそのつもりだったのだけど。

 

 そういや昨日は休みだったな。

 ってな思考が頭をよぎる。

 一労働一休日制から考えれば今日依頼を済ませるのが筋だし、今日済ませれば明日も丸々お休みか……

 

 数分も掛からない。

 そのほうがお得だな。

 

 さっきまでの、偶には1人でいる日もなんて独白はどこへやら。

 俺は適当な人間である。

 実際、さっきのはちょっとカッコつけ過ぎだよな。

 

 ギルドへ。

 

「あ、おじさん。こんな時間に珍しいですね」

「まぁな」

 

 中に入るなり受付嬢の方から声をかけてきた。

 夕暮れ。

 後数刻もしないうちに日も暮れるぐらいの時間帯だからな。

 

 中に冒険者も居るが、飲んでたり話し合ってる奴らが殆ど。

 受付は暇そうだ。

 

「って、煙臭い。後お酒の匂いも……ずるい!」

 

 依頼の処理をして貰おうとカウンター前まで行くなり、受付嬢のこの言い草。

 

 ずるいって。

 冒険者が休日に何をしてようと個人の自由では?

 

「1人で楽しんで、酷いです。私の事も誘ってくださいよー」

「何言ってんだか。それ、受付嬢と冒険者の関係としてちょいと不健全なのでは?」

「そんなの今更です!」

 

 確かに。

 誕生日とかその後とか色々あったしな。

 今更ではあるか。

 

 でも、1人で楽しみたい気分だったのだ。

 仕方がない。

 

 肉は残ってるし、森でってのは面倒だが七輪に火でも焚べてってのも悪くはないか。

 仲間と一緒にってのもそれはそれで楽しいしな。

 ま、すぐ呼ぶのも癪だから。

 やるにしてもちょっと間を空けてからにする予定だけど。

 

 ほら、折れたみたいじゃん?

 幸い今日焼いたブリスケットはアイテムボックスのおかげで腐ることもないし。

 忘れた頃に誘ってやろう。

 

「ってか、別にこんな話をしにきた訳じゃなくてだな」

「はい」

「薬草の採取依頼の手続きお願いしても?」

「え……、おじさんもしかしてさっきまで森行ってたんですか?」

「そりゃな」

 

 俺の言葉に信じられない物を見るような顔をする受付嬢。

 

「お酒飲んで、森行ったの?」

「まぁ」

「もしかして森の中で肉焼いて酒も飲んでました?」

「お、正解!」

「んな、危ないですよ!?」

 

 責めるような口調。

 全くもって正論ではある。

 

「はいはい」

「もう、死んでも知りませんからね」

「分かってるって」

 

 俺の空返信に本当に心配そうな目を向けてくる彼女。

 

「……死んじゃ、ダメですからね?」

 

 こんなつもりは無かったのだが。

 チートのせい、一応自覚してるつもりだが感覚がズレまくってるな。

 

 死ぬ気なんてない。

 安心して欲しい。

 それぐらい安全だからこそ、普段薬草採取に行く気にもなるのだ。

 

「これはノア様とお姉様に報告ですね」

「いや、ちょっと待って!?」

 

 非常識なのを自覚して。

 これはマズい。

 何がマズいのかって、そりゃねぇ……

 

 その2人による怒られでどうなるか。

 語るまでもない。

 

「はー、おじさんって慎重なんだか何なんだか。森の中で飲んだくれるより討伐依頼の方がよっぽど危険も少ないと思うんですけど」

「それはそれ、これはこれ」

 

 都合の悪い方向に話が流れかけたので、無理やり終わらす。

 

 まだまだ言いたげな顔だが。

 何だかんだ、受付嬢との付き合いも長い。

 結局諦めたらしい。

 

 軽口を叩きながらも書類の記入を澱みなく進める彼女。

 本当は先に依頼を受けるのがルールなんだけど、物品はあるし大きな問題はない。

 

 書類を書く受付嬢を眺める。

 キリッとしてる。

 キャリアウーマンの様、ちょっとしたギャップだ。

 

 普段の軽い調子と大違い。

 そういや、これでも結構昇進してなんなら出世頭らしいもんな。

 

「おじさんどうかしましたか?」

「……いや、何でも」

 

 1人の時間が好きなのを自覚しつつその上でこの空間も悪くないと感じているのなら、多分それが答えなんだろうななんて思ってみたり。

 

ー完ー




ここまでダラダラと更新して来た蛇足編ですが、この話で一旦の区切りとさせていただきます。
次回の更新は未定。
まだプロット自体は残ってるので気が向いたら更新するかもしれません。

感想、評価、なんでもいいので反応もらえると嬉しいです。
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