変な方向に流れかけた思考を頭の中から追い出した。
枝先を川に向け、そこから伸びる糸をぼんやりと眺める。
比重が軽いのだろうか?
一部は表面張力で水面の上に乗るような形に、細い線を描き針と竿の間をつなぐ。
水中の動きのいい目安だ。
魚のあたり、この仕掛けウキもなければ竿もただの枝でしかないからね。
感度もクソもない。
合わせようと思ったら、糸を見て以外の選択肢はほぼ存在しない。
水の流れる音に、森の木々が風で揺れ、たまに動物の鳴き声が遠くから響く。
ゆったりとした時間が過ぎる。
釣り糸は川の流れに身をまかせ、下流の方へ少しずつ流されていく。
魚がかかる様子は皆無。
どうも入れ食いとはいかないらしい。
まぁ、こんなもんだ。
釣りの大半はこういう待ち時間なのだ。
この時間こそ醍醐味まである。
ちなみに、今回竿は現地調達したわけだが。
釣り糸を買った道具屋、その横には一応竿らしき物も置いてはあった。
木を削って作りましたよって感じの、無骨なフォルム。
延べ竿。
いや、竹竿的な?
長さは1メートルちょっとだっただろうか。
あれなら別にいいかなって、俺の触手は伸びなかった。
コンパクトロッドでも置いてあったら話は別だったのだけど。
アイテムボックスあるのに何言ってるんって感じだが、ロマンが大事だのだ。
実用性どうこうではない。
何メートルもある竿が数十センチにまで縮み、カバンどころかポケットにすら収まるそのサイズ感。
ロマンを感じずにはいられないだろ?
垂涎ものである。
ってか、実用性で言えば前世でも多分コンパクトロッドより継ぎ数少ない方が優秀だったろうし。
高いやつは装飾とかされてるんだろうが。
そこまで行けば、見た目的にも所有欲を満たしてくれそうではある。
でも、流石に……
釣り竿にそんな大金を出す気はない。
そもそも貴族向けの品、そういうのこの街には少ないし
王都に行けばあると思うけど。
最近まで避けてたからね、そもそも触れる機会も目にする機会もまるでなかった。
あ、竿はこんな感じで結構適当だが針にはそれなりにこだわりもある。
竿は別にいいのだ。
最悪竿を使わない様な釣りだってあるわけで、素手で釣り糸を手繰り寄せてる漁師の映像とか何度か見た覚えがある。
しかし、針はそうはいかない。
刺さらないとね。
魚がかからないんじゃどうにもならない。
昔は骨を削って針を作っていた時代があったらしい。
その再現を試みた動画を見たことがある。
何時間もかけて骨を削って、力加減を間違えると簡単に折れてまたゼロから。
そうやって作った釣り針がまるで魚に刺さらない。
最終的に、魚が餌に食いついたところをそのまま引っ張り上げてた気がする。
やってることはほぼザリガニ釣りである。
まぁ、これは大袈裟でこの世界はそこまで酷くないけど。
でも針の性能は前世には大きく劣る。
錆びるし、あんま尖ってないし、強度も微妙でよく曲がる。
俺が使ってる針は、銀製。
結構高かった。
それに魔力通してミスリルに変質させた品だ。
銀は錆びない代わりに柔いのだが、ミスリルにすればその足りない強度も大幅アップ。
予想外の大物にだって針が負けることはない。
ここさえしっかりしてれば、少なくとも釣りの体裁は保てるのだ。
……針に関してだけなら、前世の高級品よりも品質高いかもな。
その分価値もやばいわけだが。
ロストしたら、その損失ってどれぐらいだろ。
多分、前世の頃ショーケースに並んでいたような高級ルアーとか、その比じゃないんだろうな。
なんせミスリルだからね。
純金の釣り針、それ位以上の価格。
この世界の釣具にロマンがないとか言いつつ。
めちゃくちゃロマンある、ってか成金みたいな仕様である。
針だけ。
しかもこの針、ちょくちょくロストするんだよね。
糸が弱いから。
馬の毛がいくら釣りに向いてるとは言っても、前世の釣り糸よりは弱いしわけで。
前世でも、釣りをしてれば糸が切れることなんていくらでもあったのだ。
針は負けないけど、糸が切れればどうしようもない。
わざわざ水中入ってその魚見つけ出す気にもなれないし。
その時は潔く諦める以外ない。
自作だからね。
価値があると言っても、実際俺が払ってるのは銀の針の値段だけ。
高いけど、んな馬鹿高い訳じゃないし。
ただ、その結果と言いますか……
海の宝石だっけ?
アカハタだかキジハタだか忘れたが、えらい高級魚で獲れると船は大盛り上がりになるのだとか。
それ以上のお宝がこの辺りの川の何処かを泳いでいることになるのよな。
ビックドリームである。
まぁ、サイズがサイズだし大体は気づかないのだろうけど。
発売まであと5日!