ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

260 / 267
釣り 6

 この世界、庶民にはそこまで余裕がある訳じゃない。

 餌付けするやつなんて居るのかって思われるかもしれないが、実は以外と多いっぽい。

 

 単に、街中で買い出しをして晩飯を作るにしたってだ。

 前世のように過食部位だけ綺麗に取り分けられて売られてるのばかりじゃないのだ。

 結構端材が出る。

 それをそこらを歩く小動物にあげるのなんてしょっちゅう。

 

 前世基準で言えば野生動物への餌付けとか、あまり良くないことなのだろうが。

 この世界にそんな概念はない誰に憚る必要もない。

 

 漁師の連中にしたって、荷物を減らすために頭やら内臓を捨ててく奴は多いだろうし。

 それに、魚にも下魚と上魚って奴が存在するからね。

 釣りで言うなら外道ってやつか。

 

 骨が多い上に味も良くない。

 食おうと思えば、骨ごとすり潰して練り物に出来なくもない。

 でも、手間がかかる。

 そこまでしても大した値段で売れやしない。

 

 街まで持ち帰るだけ無駄ってわけだ。

 

 リリースする人も多いが、一度陸に上げられると弱るからね。

 魔力のおかげで生命力が高いとはいえ、ずっと水中で生きてたのがいきなり空気中に出されるのはエグいぐらいの急激な環境変化である。

 小さい個体は特に。

 そこら辺の影響は前世の魚へのものと大差ない。

 

 どうせ死ぬし、利用価値もないし。

 となれば、余興がわりにと近場の小動物に与えるのも一興だろう。

 

 この世界娯楽が多いわけじゃないからね。

 ちょっとした庶民の娯楽なのだ。

 

 確か、前世の世界でも昔からあったはず。

 俺が知ってるのは、江戸時代かなんかの頃だったか。

 似たような話を聞いた覚えがある。

 

 なんでも、当時の江戸っ子てのはえらいせっかちで食事時に手を洗うのすら面倒がってたとか。

 屋台で魚を買って、汚れた手で尾を持って頭と胴だけ食べ、残った尾っぽは近くの野良犬に投げていたらしい。

 野良犬同士が尾を取り合う様を見て、それがひと時の癒になってたんだとか。

 

 ……あ、これはたい焼きの話だったっけ?

 

 ともかく。

 餌付けってのは結構原始的な文化だってこと。

 猿でもやるらしいしね。

 

 んな事を考えつつ、竿先から糸を垂らしじっと待っているのだが。

 一向にアタリがない。

 

 背後から視線を感じる。

 

 トカゲ擬きめ、プレッシャーかけてくんなや。

 言っとくが釣りあげてもお前にあげるとは限らないからね?

 それに、だ。

 仮に釣れなくても、釣りをした時間は尊いものだから。

 こちとらぼうず上等でやってんねん。

 

 いや、まぁ……

 釣れてくれた方が断然嬉しいけど。

 

 ちょっとトカゲに対抗意識が、我ながらなんて情けのない。

 

「お!?」

 

 んな馬鹿なことを言ってる間に、アタリが。

 咄嗟に竿をあげると緩んでいた糸がピンと張り、針と餌だけだった時とは違う重い感触。

 

 こりゃ、上手いこと掛かったな。

 

 釣りの技術としては前世の頃から変わらず拙いまま。

 でも、釣り針が特別性だからね。

 下手な合わせでもしっかり刺さってくれた様子。

 ここまでくればほぼこっちの勝ちよ。

 

 大物相手だとここからの勝負だが、手応え的に小魚だ。

 そもそもこんな小川に大物などいるわけがない。

 

 と言っても油断は禁物。

 大物ではなさそうだが、こっちの装備も針以外は貧弱もいいとこ。

 この手応えでも糸を切られる可能性は十分にある。

 

 魚の抵抗を感じつつ慎重に竿を上げ、必死に泳ぐ獲物を水中から引き摺り出す。

 数分どころか数秒のファイト。

 幸い、糸が切れるなんてハプニングが起きることもなく魚を手元に手繰り寄せた。

 

 しっかし、フラグというかなんというか。

 

 一目見てわかった。

 外道である。

 

 ほら、俺って魚料理好きだからさ。

 受付嬢にまたかと呆れられる程度には隣の港町に頻繁に通っている男である。

 近場の川魚を試さないはずがなく。

 よく街で食べられてるものから、あまり食べられてないものまで。

 見かけたものは片っ端から試したのだ。

 おかけでこの辺りの川で釣れる魚ならほぼ味がわかる。

 

 他の街じゃ初見の魚に出会うことも多いんだけどね。

 よく行ってる港町ですらそう。

 まぁ、川と海じゃバリエーションが違いすぎるってのもあるが。

 

 んで、この魚だけど別に不味いってことはない。

 味は普通。

 ただ鱗が絶妙に硬くて捌きにくいし、サイズがサイズなんで過食部位が少ない。

 骨もなんか辺なとこに数本入ってるし。

 

 悪くはないが食用にされないのも納得というか。

 そんな感じの魚である。

 

 このサイズじゃリリースしても死にそうだしな。

 少々癪だが。

 欲しいならやろう。

 

 釣りあげた小魚を針から外しトカゲ擬きの方へ投げると、のそのそと魚の方へ歩き丸呑みにした。

 

 豪快な奴め。

 確かに、これはいい娯楽かもな。

 ハマるやつがいるのも納得ではある。

 

 小魚を丸呑みにしたトカゲ擬きと目があう。

 バラエティなんかじゃ、“ありがとう”とか勝手な字幕をつけられそうなシチュエーションである。

 が、こやつの目を見るに全く違うことを考えていそうというか。

 

 竿に視線が突き刺さる。

 もっとよこせと言わんばかり。

 

 見た目トカゲな癖に。

 やたら感情的なトカゲ擬きである。

 結構知能高いのか?

 

 はいはい。

 また外道が釣れたら、ね。

 

 ……

 

 しばらくの時が過ぎ、何度かアタリはあったのだが上がるのは全て外道ばかり。

 釣ってはトカゲにあげての繰り返し。

 こいつ、疫病神か何かか?

 おかげですっかり警戒心も解けたのか、初めはそこそこ距離あったのに今じゃ俺の隣でスタンバイしてやがる。

 

 図々しい奴め!

 そんな糸の先ばっか見つめても、まだかかってないもんはない。




発売まであと3日!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。