ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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釣り 7

 そんな、トカゲ擬きの視線を尻目にじっくりと腰を据えて竿を構える。

 なんだかんだ釣れ始めては来てるからね。

 雑魚ばかりじゃなく、ここらで大きいアタリの一つでも欲しいところ。

 

「……来たか?」

 

 んな事を考えていたら、すーっと川の流れに身を任せ動いていた釣り糸。

 その動きがぴたりと止まった。

 

 早合わせは勿体無いが、ウキもなけりゃ竿先の感度も鈍いなんてもんじゃない。

 食いついてくれてることを信じて竿を引く。

 グッと、重い手応え。

 

 これはデカいぞ……

 

 この竿、そこらに落ちてた良さげな枝を使ってるだけ。

 なので竿先もかなり硬いのだが。

 それがしなる程度に力を入れても、水面に顔を出すことすらしない。

 

 こりゃ、やばい。

 今の装備だと釣り上げるどころか顔を拝むのすら不可能な気が。

 こんな小川にそんなヌシがいたとは。

 

 ……ん?

 

 違和感を覚え、試しに力を抜いてみた。

 竿を下げる。

 たらりと垂れ下がる釣り糸。

 

 あぁ、なるほど?

 どうやら星が釣れてたらしい。

 根掛かり。

 釣りをしてれば良くあることだ。

 

 竿を置いて、糸を手に軽く巻き付ける。

 多少左右に動かしながら引っ張ると上手いこと抜けてくれた。

 

 ふぅ、糸が切れなくてよかった。

 どうせ換金するわけじゃないしミスリルだからどうこうってのは俺には関係はないのだが、単純に銀製の針って時点でそこそこの値段はするからね。

 魚に切られて探す気にはならないが、根掛かりだと少し迷う。

 

 気を取り直して……

 

 いや、その前に糸を変えておくか。

 念の為ね。

 今のでダメージ入ってそう。

 ちょっと無理に引っ張っちゃったし、川底の石と擦れた可能性もある。

 

 これ、毎回ちょっと手間なんだよね。

 前世の頃からっちゃそうだけど、転生してから特有の事情もあるというか。

 この世界の釣り針、穴が空いててくれたりしないからさ。

 

 いわゆる平打ちってやつ?

 糸が抜けにくいように平べったく潰されてはいるが、それだけ。

 漁師結びだったか。

 針に糸を何回か巻きつけ、そこを通すように結ぶ。

 ちなみに手順はうろ覚え。

 多少間違ってる気もするが、まぁ解けなきゃいいのだ。

 

 ちょっと手こずったが、無事糸を変えて準備万端。

 トカゲが急かすような視線を送ってくる。

 待てって。

 

 餌をつけて川の中腹へ放る。

 糸を変えたばかりなのもあってか癖がついてたらしく、あまり飛ばなかった。

 

「お!」

 

 が、やはり際というのは魚がいるらしい。

 着水した瞬間、勢いよく餌に食いつくのが見えた。

 水飛沫からしてそこそこ大物である。

 

 今日釣りを始めてしばらく経つが、ファイトらしいファイトは初。

 魚の重みを感じつつ糸を緩めたり張ったりと慎重なやり取り。

 

 そこそこ大物と言っても小川で掛かる魚だからね。

 別に、海でデカい回遊魚でも掛けたような力と力の勝負にはならない。

 けど装備が装備なのだ。

 このサイズの魚でも雑に行けば簡単に糸を切られる。

 

 魔法で強化しろって?

 分かってない。

 んなことして何の意味があるというのだ。

 

 制限のある中で釣るからこその楽しさ。

 漁と釣りは違う。

 

 丁寧に、さっきまで釣ってた雑魚とは違うのだ。

 これまではほんと数秒でファイトが終わってたからね。

 

 魚にあまり逆らわず。

 力を出させず。

 と言っても、リールがあるわけでもないのですぐ糸が張っちゃうのだが。

 そこは工夫。

 180度で抵抗すると切られかねないから、大体90度を意識。

 

 泳ぎづらいように、進行方向を変えさせる意識。

 緩んだところで顔を上げさせ弱らせる。

 

 と、ずいぶん脳内で大袈裟に出力されているが。

 竿の作りが延べ竿である。

 慎重にとは言っても、せいぜい数十秒のファイト。

 

 無事勝利を納めなんとか陸へ引き寄せた。

 

「ふぅ……」

 

 肉体的にはどうってことないが、精神的に結構疲れた。

 ちょっと疲労感が。

 竿から手を離すと、ずいぶんと手汗をかいていたらしい。

 

 が、おかげでかなりの大物が釣れた。

 

 川岸に下ろしていた腰をあげ、魚に手を伸ばしたところ。

 横から勢いよくトカゲ擬きが飛び出す。

 

 あっ、おいこら!

 

 俺への警戒心ゼロ、真隣でスタンばってたわけだからね。

 常に狙っていたトカゲ擬きと大物を釣り上げて一息ついたおっさん。

 その勝負は明白。

 

 魚の体高、トカゲ擬きの顔とほぼ同サイズあったのだが。

 この手の生物特有のびっくりするほど開く口。

 食いついたと思ったら、あっというまに丸呑みにされてしまった。

 

 見ている事しか出来ない。

 ま、食われちゃったもんはしゃーないか。

 次だ次。

 切り替えていこう。

 

 餌をつけようと竿をあげると、妙に重みを感じた。

 

 ……

 

 トカゲ擬きと目が合う。

 満足げな表情。

 その口元から伸びる、細長い線。

 

 もしかして、……あなた釣り針ごといきました?




発売まであと2日!

ちなみに、刊行は本日らしいです。
なので通販サイトや電子書籍ではすでに購入出来るところも多いかもしれません。
発売とは?って感じですが、書店に並ぶ日が発売日なのです!
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