ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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釣り 8

 さっきの勢いをみるに、まさかご丁寧に針だけよけて丸呑みにしましたなんてこともないだろう。

 

 ここまでも、外道が釣れては雑に餌付けしていたわけだが。

 それだって最低限の気は使っていた。

 俺が釣る前にどっかで針を飲み込んでたりしたらそれは流石に知らんって感じだが、少なくとも俺の今使ってる釣り針がついたまま食わせるようなことはないようにと。

 ちゃんと針を外してからトカゲ擬きの方に投げてた。

 

 こいつ竿を立てるとすぐ寄ってくるからね。

 魚がついていようとついてなかろうとお構いなし、おそらく今までの経験から人が竿を立てると餌がもらえると学習してるだろう。

 

 針を外す前に食われまいと、気をつけてはいたのだ。

 こういうの餌付けする側の責任だし。

 けど、今回ばかりは一瞬気を抜いた隙にトカゲ擬きに先を越されたわけだからな。

 針を外す暇なんてなかった。

 

 実は勘違いだったりしないか?

 そう現実逃避を試みるも、やつの口元から伸びる細い線が残念な事実をまざまざと俺に見せつける。

 どうやらこのトカゲ擬き、勢い余って釣り針ごと魚を丸呑みにしやがったらしい。

 

 釣りしてる俺の横にどかっと陣取って、餌を付け直そうと釣り針を水中から出すたびに視線をよこし、随分と食い意地張ってるヤツだと思ってはいたが。

 まさか、ここまでだったとは……

 

 陸生生物の癖に川釣りで掛かるんじゃないよ。

 池で遠投しててたまたまトンボがかかったなんて事は幾度かあったが、これは初めての経験である。

 

 ……

 

 まぁ、ポジティブに言い換えれば大物が釣れたとも言えるか?

 サイズアップ。

 さっきの魚もこの装備にしてはいい勝負の出来る獲物ではあったが、所詮小川サイズだったからね。

 それがトカゲ擬き、メートル級に化けたわけで。

 

 って、んなふざけたこと言ってる場合じゃないか。

 釣り針を何とかしないと。

 

 竿を置き、慎重に糸を手繰り寄せる。

 トカゲ擬きは自らの頭並みの体高の魚に大満足と言わんばかりの表情、食後はゆっくりしたいのか微動だにしない。

 多少ムカつくが、変に暴れられると被害が拡大するのでありがたい。

 

 ま、この人馴れのせいで今の事態になってるわけだが。

 

 そうやって糸を手繰り寄せていくと、するりと糸が口元から抜けた。

 抵抗はない。

 力を込めるまでもなく何の引っかかりもなかった。

 

 針小さかったし。

 魚の口にかかってたわけだから、内臓と直に接してたわけじゃない。

 釣りだって、うまくアタリに合わせられないと仮に食いついてても針が刺さらないなんてこと多々。

 餌どり。

 それと同じことが起きてくれたのだろう。

 

 一瞬、そう安堵したのだが。

 糸の先。

 針がついてなかった。

 

 どうやら途中で糸が切れたらしい。

 変に力を入れた覚えはない、おそらく丸呑みにした時トカゲ擬きの歯で切られたのだろう。

 

 この体格、小動物どころか犬猫ぐらいのサイズまでは食いそうだもんな。

 釣り糸には馬の毛を使っていたのだ。

 動物の毛なんて、こいつの歯にかかれば切断できて当然か。

 

「……どうしよ」

 

 そりゃ、今日釣りに使ってた針なんてこいつの体格したらかなり小さい。

 直ちにどうこうって事はない。

 おそらく、普段の食事でも骨やら何やらでこれ以上のダメージを負うことはあるはずだし。

 

 ただ、消化出来ないのがなぁ。

 金属の時点でお察しなのにミスリルは腐食への耐性が最高レベルだ。

 

 奇跡的に排泄されない限り、一生体内に残る。

 

 焦る方がおかしい、魚もトカゲ擬きも同じ命だろと言われればそうなんだが。

 事情が違うというか。

 さっきまで愛玩動物扱いしてたからね。

 それに、同じ命って点からも。

 餌だって魚をたくさん食わせた上に結局トカゲ擬きも殺すとか、かなり罪深い気がする。

 

 別にこのせいで死んだからって何があるわけでもないのだが……

 これも何かの縁。

 食事ショーは見てて面白かったし、殺すのは少し忍びない。

 

 幸と言うべきか、飲み込まれた針はミスリル製。

 ん?

 腐食への耐性が高くてまずいんじゃないのって?

 放置するならそうなのだが、俺が手を出すとなると話は変わってくる。

 

 どうせ、形状と金属って素材の時点で取り出さなきゃダメだし。

 魔眼で見れるぶん、ミスリルの方がまだマシ。

 

 と言っても、俺に手術の心得なんてない。

 前世では医学部にかすりもしない成績、ってか医者になろうなんて考えたこともなかったし。

 この世界に転生してからは医学そのものと疎遠。

 

 ツテがないというか、多分技術を持ってるやつほぼいないと思う。

 髪を切りに行った床屋で瀉血すすめられるぐらいだからね。

 

 だが、俺にはチートがある。

 技術がなくても、知識がなくても、チートさえあれば万事解決。

 ゴリ押しでどうとでもなるはず。

 

 作戦は単純明快。

 

 まず、魔眼で針の所在を確認。

 取り出しやすいように、その点を通る直線でトカゲ擬きを真っ二つに。

 その後回復魔法で断面をくっつければ、手術完了。

 

 ……完璧な作戦である。

 道中、少々スプラッタ味が強いかもしれないが終わりよければ全て良しと。

 

「さて、」




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