ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者   作:哀上

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釣り 13

「それで、結局何匹ぐらい釣れたんですか?」

「まぁ、そこそこ」

「ふーん……。お土産とかって」

「?」

 

 俺が乗って来ないのを察したのか、受付嬢の方から話を変えてきた。

 これまでの関係から俺に上昇志向やらなんやらそんな気皆無なのは分かりきってるだろうに。

 なかなかどうしてしぶといやつである。

 

 ……って言うか、お土産とは?

 

「釣りしてきたんですよね? おじさんの話のせいで、私すっかり魚の気分なんですけど」

 

 そんなことをのたまいつつ、手を差し出してくる受付嬢。

 魚をよこせと?

 いい笑顔浮かべて表情とセリフがまるであってない。

 

 図々しやつめ。

 なにが、魚の気分なんですけどだよ。

 

「さっき言った通り。雑魚は全部トカゲにあげて、いいのはトカゲに取られたの」

「え、1匹も持って帰ってきてないんですか!?」

「うむ」

「おじさんのアホ! これだからおじさんはダメなんです」

 

 酷い言いようである。

 森での釣りに苦言を言ってきたかと思ったら魚をよこせと言い始め、無いと分かったらこれ。

 自分勝手甚だしい。

 

 自分の心に素直すぎて、逆に清々しいまである。

 

 と言っても、これだけ土産話して物がないってのもアレか。

 俺にも責任の一端はあるか?

 期待しちゃう気持ちもわからなくはない。

 

 けど、これはこちら側が気を使うもので相手側から要求するものじゃ無いと思うのだが。

 この受付嬢にそこらへんのことを言っても無駄か。

 

「一応、帰りに市場寄って買ったのがあるけど」

「流石おじさん!」

 

 こいつの手首は歯車かなんかで繋がってるのだろうか?

 ひどい手のひら返しを見た。

 

 せっかくだからね。

 釣りに行って坊主というのも寂しいし。

 いや、釣れたんだが。

 何もないのは坊主と同じである。

 

 出来るだけ鮮度のいいのを選んで買ってきた。

 濡れた布で魚を包んでる。

 これやると、陸にあげてからも結構生きるんだよね。

 鮮度を保つのが難しいからこその知恵だ。

 

 急速冷凍なんかが出来るんなら、ストレス与える前に締めちゃうのがいいんだろうけど。

 この世界にそんな技術はないからね。

 

「ほら、これ」

「おぉ……立派な子ですね」

「まだ生きてるぞ」

「美味しそう」

 

 若い子が生きてる魚を見て美味しそうとは。

 いや、前世のスーパーのように切り身で並んでる訳でもないこの世界の住人としちゃ当然の価値観ではあるんだけどね。

 

 というか食べる気まんまんである。

 こいつ仕事中では?

 依頼の報告済ませたら、家帰って刺身と焼き魚でも作ろうと思っていたのだが。

 まさか仕事早退してついてくるつもりじゃあるまいな。

 仕事終わりまで待つってのもごめんだし。

 

 けど、ここまで来たら絶対諦めないだろうからなぁ。

 意地でも食おうとする未来が見える。

 

 ……

 

 受付嬢から視線を逸らし、どうしたものかと考えつつ辺りを見回す。

 酒場のおばちゃん。

 目があった。

 

 俺が珍しくこんな時間に依頼の報告してたからか。

 ちょっと気になってたのだろう。

 嫌な予感でもしたのか咄嗟に目を逸らされたが、それは手遅れというものである。

 

「おばちゃん、実はお土産あるんだけど」

「いらないよ」

「ちょっとこいつ使ってつまみを作ってくれないかなぁって」

「そういうのはやってないよ」

 

 く、なかなかしぶとい。

 

「手空いてる時でいいからさ。デカいから、もちろんおばちゃんの分もあるよ?」

「見てわかるように今は仕事中だよ」

 

 そりゃそう。

 酒場のおばちゃんは適当な受付嬢とは違うのだ。

 

「お酒あるよ」

「……」

 

 お? 手応えあり。

 もうひと押し。

 

「実は王都で買ったお酒がまだ、たしかおばちゃんが飲んだことないのもあったような……」

「なんだい。お代があるならそれを早くいいなよ」

 

 さっきまでの態度はなんだったのかとばかりに、魚を受け取りテキパキと調理を始めた。

 

 ちょっと無理強いしてしまっただろうか?

 まぁ、別に忙しくはなさそうだし。

 酒に釣られてってなら、イヤイヤってことでもないしいっか。

 

 案外、今日は3人で飲むのもいいのかもな。

 1人で食ってるとトカゲ擬きのこと思い出して、考えなくてもいいことに思考裂かれそうだし。

 酒飲んで忘れよ。

 

 あの大きさ、確かにゴブリンやらそこらの冒険者ぐらいなら一方的に殺しそうだが。

 別に無敵って程ではないのだ。

 大事になる前に死ぬ可能性も無くはない。

 あの森の中にトカゲ擬きを脅かす奴がいるかは怪しいところだが、可能性がなくもないってことはあるってこと。

 

 そもそも定住するとも限らないしね。

 仮に定住したとて、人を襲うようになるかも不明だし。

 

 何にもないでしょ。

 多分……

 

 さ、ぱーっといこうぜ、ぱーっと。




書籍発売記念SS、完結。

おかしい、ちょっとした短編を書くだけのつもりだったのに。
やはり本作において本編と蛇足とSSにはなんの違いもなかったらしいです。

そんな作者の戯言はさておき、読者の皆様にお知らせがひとつ。
書籍の帯に思いっきり書いてあったのですでにご存知の方もいるかもしれませんが、『ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者』コミカライズが決定しました!

まさか作者の書いた小説が漫画になるとは……

書籍化ですらどこか現実味がなかったのに、漫画化ですよ漫画化。
いやー、驚き。
続報についてはもうしばらくお待ちください。
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