『今年のジャパンカップに集った優駿たちはどれもが個性派揃い。海外の精鋭たちも集いまさしく祭典と言っていいでしょう。我が日本で揃った三冠馬同士の対決! ミスターシービーとシンボリルドルフ! そしてそれぞれの同世代のライバルも来てとまさしく日本競馬史史上初のレースでございます!!』
復帰戦があのジャパンカップなのは私を評価してくれているのが嬉しい、すごく嬉しい。大真面目にヒシアマゾンやエアグルーヴ、もっと言えばダスカとかウオッカのような牡馬相手に張り合える強い牝馬があんまりいないような時代でここまで高評価ってすごいもの。
だけど頭にその嬉しさと緊張以上に私は別の感覚に頭が満たされている。
「ふふふ。大丈夫だよサンちゃん。俺が優しくリードしてあげるからね」
「レディ・・・」
『レディ・・・』
そう。私の今回の鞍上の田所さんと、私を見ている岡崎くんとルドルフのねっとりとした視線を常に感じるのよ。おしりに変な汗かいちゃっているよ!?
ギラついた視線をレース中に感じることもあるし、なんか馬っ気出されるのもあるけど、まさかこんな視線を男性からもらうというのは初めてよ私!
『なーんか、大変だなあお前さん。こういうの、恋愛漫画でなかったっけ?』
『エース先輩。タシカニ女性の取り合いが起こる三角関係の恋愛ドラマや漫画はあるけど女の子が馬で男は人なのは流石にラリっていると思いますよ』
ウマ娘ならまだしもね。田所さんもなんか岡崎くんに挑発するような視線向けているしさぁ。何なのよこのへんな修羅場! 鉄火場の競馬場で修羅場も味わう二重の汗を掻くとかやめてくれよ。
『ま、俺の妹分で将来のお嫁さんだ。譲らねえけどな』
『・・・あ”?』
ええい火に油を注ぐな! 全くもー二頭揃って気性難、気難しい部類なのに。こうしてやる!
『おおっと、サンダーレディ、カツラギエースの目の下をモニモニとしております。カツラギエースも先程まで耳を絞ってシンボリルドルフを威嚇していましたが和らいでおります』
『あぁーん。ちょっ、レディ、気持ちいいけどそこは・・・はひゃぁああ~』
風間くんみたいな声を上げているがしばらく舌や鼻先でエース先輩の目の下を刺激。こういう場所が性感帯とは独特ですよねえ。馬って。たしかジャングルポケットとかトニービン産駒は舌を優しく握られるのが好きだとか?
『ふん。俺のライバルにこの場で慰められるとは無様だな。そして、久しぶりだ。足のほうだ大丈夫そうか?』
『バッチグーよ。ルドルフ。珍しいわねーあんたが私を心配するなんて』
自分のお母さんにも威嚇するような奴が私をねえ。なんて思っているけど、まーこいつのことだし・・・
『そりゃあそうだ。お前を倒して、ここに来ている知らん空気の奴らをねじ伏せて俺が一番だと証明してやる。エース自身はムカつくが、その勝利のためと岡崎にはまあ応えなければならんのでな』
言っていることがなんかサイヤ人の王子みたいなことだけど・・・うーん。これこそライオン。だねえ。ほんとしっかりきっちりしているけど荒々しさが抑えきれていない。
岡崎くんは落ち着いて威風堂々のルドルフに女の顔をしつつ、私と田所さんを見て難しい顔をしている。いやぁ・・・どういう顔で私はこれを見ればいいのか。多分私今耳がグルングルン回っているよ。遊園地のティーカップみたいに。
『さあさあ、我らが日本代表もやる気十分ですが海外勢も負けてはいません。海外のGⅠ、大レースを制覇してきた強豪たち。国も強みも違う彼らですがそのレベルの高さはまさしくワールドクラス!
先進国の精鋭が勝つのか、日の丸の戦士が勝つのか! 今年こそはと願う観客も、海外の名馬との出会いに興奮を覚える観客もたくさんでございます!』
『はっはっは。いいねえ。日本の奴らは。言葉はよくわからんが、アウェーでも優しいとは』
『多くの先輩らがここに来ているようだが俺等も引退後はここで雌共に種付けしたいものだ。そこのレディのようないい女揃いならウハウハだよなあ』
『あー・・・でも多分7割位は私より歳上の子たち相手かもよ?』
『なぬぅ? ・・・・・・それもいいな!』
あ、歳上も行ける口でしたか海外馬の皆様。いやあ、不知火とか、ラグナロクとか、夏さんみたいな対魔忍の熟女の皆様レベルの方々が多いのならそれでもいいけどね。でも多分日本で一番美魔女なのって未来に来るウインドハーヘアさんだと思うのん。日本馬じゃなくて海外のお方。
「君はモテモテだねえ。でも、今日は僕が一緒だ。一緒に海外に見せつけよう。息のあったダンスをね」
「田所くん。君がどこまでレディを理解しているか知らないが、僕のほうが知っているはずだよ」
あーあー野郎たちでもヒートアップがまたもや! もー少し離れていよう。流石にこれ以上野郎たちとの痴情のもつれを見ていたら私は何のためにここに来たかわからなくなるわ。
『やーやー人気者だねー君。エースがちょこちょこ自慢していたのもわかる』
あ、ミスターシービーさん。おーこの馬が・・・本当にすごい時代だなあ。こちらもペコリと頭を下げる。
『僕も今回では皆に勝つつもりだけど、君の方も油断はしない。しっかりと勝つ。だけど。楽しくレースをしようね』
『挑発しているのか何なのかわからないけど、ありがとうございます? こっちも負けないですよー』
『よろしくねえ~あ、レースだし行くね』
マイペースな感じでひょいと移動していくシービーさん。飄々としているなあ。ヒィッ。また視線が・・・あーもー・・・私も早くゲートに入る準備をするかな。ファンファーレが鳴りそうだし。
『史上初の三冠馬同士の対決。そして海外の精鋭。三冠馬たちのライバル。まさしく最強たちが揃ったと言えるでしょう1984年ジャパンカップ。淀の昇り龍と皇帝、復活の雷鳴乙女。闘将と役者揃い。
最初にゲートに入ったのはサンダーレディ。多くの牡馬たちと仲良く話していたようですが牡馬混合戦でも好成績を出しています女傑。復活を導くのは若き天才田所騎手。
そしてその同期にしてライバル、シンボリルドルフと岡崎騎手もただいまゲートに入りました』
ファンファーレを聞いて早速ゲートイン。復帰戦だけどある意味緊張がほぐれたと思うしか無い。さあ。勝利を狙うわよ・・・!
『前頭ゲートイン・・・・・・スタートしました! 先頭を切りましたのはカツラギエース。マジェスティックもいきますがその後を追う形に。サンダーレディは相変わらずの出遅れからの捲り上げる様子。三番手にはバンディットキース』
あーもー出遅れたぁ! でも、うん。脚はいいし、速度は出せるし逃げ気味がエース先輩と一緒にいるから伸びているから追い上げやすいかも?
えっほえっほ。わっせわっせ。今はコツコツと上がるしかないか。
『シンボリルドルフは前から5番手、外側から様子をうかがいます。一方サンダーレディは前に出る。先頭は依然カツラギエース。それを猛追しているサンダーレディ、しかし前にはバンディットキース、マジェスティックが並び後ろからはキウーイン、シンボリルドルフが続く。
ミスターシービーは最後尾についている。日本勢のエースたちは皆バラバラですが海外の精鋭たちは先頭を伺いつつ前につく様子です』
前にエース先輩と私、前目だけど先行と差しの合間のルドルフ。そして後方の追い込みのシービー先輩。うーん対照的。
「む・・・少し飛ばそう。レディ」
田所さんの雰囲気が変わった。私も追いつきつつあるけど、それ以上にエース先輩の気合のノリが違うと感じたのかな・・・? 後方の方に意識を向けるよりも前の方への視線の圧が強い。
私も逃げをしたいし、賛成なので手綱に合わせて加速加速。
『さあ既にカツラギエースは向正面を越えてサンダーレディも2番手、差は2馬身まで縮めていきますが他はまだ後ろで様子を伺う。大きく伸び切った馬群は先頭から最後尾で20馬身ほどはありそうです。
ああっとミスターシービーここで動いてきた。グイグイとダイアナソロンを追い抜いて後方集団から出ようとしていく。シンボリルドルフもやや前についてエース、レディを射程圏内に止めようとしていきます。
一方で海外組はサンダーレディたちの動きに対処を選んでいるのか今の場所をキープしながら伺っているようだ』
『はははっは。海外じゃ大逃げとかまくり逃げなんてないだろうしなあ。そして、来たなレディ!』
『やー後方も怖いですし、エース先輩も強いけど負けないですよぉ!!』
大真面目に逃げというペースを持ったままここまで来て1000メートルをとうに越えて中盤。私達逃げ組と先行組ですら8馬身近い差がある。しかもまあ、逃げがここまで変なの揃っていたり、三冠馬と勝ち負けをできるほどに成長したエース先輩もいるとすれば、多分レースペースメイクはボロボロよね。
こっちもどうにかこの安全エリアの距離をあまり詰めさせないままに勝利をしたいけど・・・!
『仕掛けるのならやはりここだな!』
私達逃げ組が疲れ始める2000メートル前後で、速度も落ちちゃう最終コーナーあたりのカーブ。ここらへんを狙ってくるよね当然!
あーもーさすが大僧正に競馬を教えたといわれる名馬。勝負の仕掛けどころを間違えないんだから!
『さあしかし後方集団追いついてきて最終コーナーを曲がっていく。カツラギエースとサンダーレディに喰らいつくが2頭とも粘る粘る! ミスターシービーも追い込みをかけますがまだ中盤から抜け出せていないぞ!』
息が苦しぃ。きっつい。だけど負けるのは嫌だ。せっかくのこの晴れ舞台の復帰。勝ちを諦めるのは嫌! ぬぅうう!
「大丈夫。いけるよレディ! もう一押し! さぁファイト!」
わかっているよ田所さん。ここで粘って勝利に逃げちゃうのが逃げ馬だしね! もう最後の直線。そこでどうにか・・・!
『さあマジェスティック、バンディットキースがレディに並んできますが、おおっとシンボリルドルフも前に! 3頭並ぶことなくルドルフが抜いて先頭は日本馬で勝利を争うのか! 先頭はカツラギエース、シンボリルドルフ、サンダーレディが』
実況では、そっか。ジャパンカップは開催してから確かに日本に呼び込む海外の名馬。その血筋を見定めるレースだけど海外馬に負け続けていたもんね。ここで日本馬が勝つのは確かにいいこと。
だけど私の方は今は勝利! 一着を目指すのが大事なのよぉ! もう一息、もうひと押しぃ!
『こっちが勝つわよエース先輩!』
『なんのまだまだ! お前らの世代にも海外にも、シービーにも見せてやる・・・! これが、エースの力だ!!』
遠い・・・! 後もう少し、もう少しなんだけど・・・!
『シンボルドルフ伸びる! 雷鳴とエースに迫るも、マジェスティックもくるがこの二頭はもう届かないか! いや、シンボリルドルフがレディをぬく。しかしエースだエースだ! エースがそのまま逃げていく!』
届かない・・・!
『クソぉ!』
『復帰戦なのにぃ!!』
『こっちだって負けるのはもう勘弁なんだよ! いよっしゃあ!』
『カツラギエース逃げ切って今ゴールイン!! ジャパンカップを制したのはカツラギエース! 皇帝シンボリルドルフに初敗北を、そしてミスターシービーへのリベンジ! サンダーレディへの先輩としての維持を見せつけると大々金星をあげました!
そしてこのジャパンカップの日本馬の制覇! お見事です!』
ぬぁあー・・・負けたぁ・・・とほほ・・・初の3着・・・ルドルフにも負けたし、掲示板を見ると・・・クビ差。エース先輩とは胴ひとつ分。うーん。悔しい!
会場からは応援もしてくれるんだけど、勝ちたかったなあ・・・はぁー・・・でも。
『おめでとうございますエース先輩。2つ目のGⅠ制覇ですね!』
『今度は負けん・・・! 必ずやり返すからな。首洗って待っておけ。カツラギエース』
『おうさ! そしてシービー。どうよ?』
『見事だったよ。こっちも頑張ったんだけどねー』
おぉっと。皆このままだとウイニングランをできないかもだから後でね? 私は・・・ちょっと気持ちの整理もしたいかも?
~岡崎心の日記~
皇帝シンボリルドルフに初めての敗北の土がついてしまった。それはきっと僕の移り気な心のせいでもあるだろう、そしてカツラギエースの実力を見誤っていた。サンダーレディで逃げの上澄みの実力は知っていた。感じていたはずなのに仕掛けるタイミングを間違えた。
雷鳴への嫉妬とその光に目を焼かれていたというのだろうか。皇帝という偉大な僕の相棒の強さをあまりに信じたゆえに助け合う騎手という存在なのにそこを怠ったのか。
兎角僕の責任であり失敗だ。日本馬による1~3位の独占は快挙であるのに僕の心は晴れない。
ああ、レディ。ルドルフ。僕は身体が二つほしい。そうすれば思い切り君たちにまたがって最高に楽しい時間を過ごせるのに。だけどレディの背に乗っているのは田所くんだ。しかもしっかりと実績もだした。
僕とレディの間に入るというのかい? 田所くん。
『あ、私の記事小さいけどある。ほへー・・・馬券師のおっさんたちからは会場ではやじ言われたけど、評価は上々なのかあ』
「いやー本当にありがとうね。僕も史上初の快挙で嬉しいよ。君たちには儲けさせてもらってばかりだ」
「ふふふ。いやーよかったよかった。皆怪我もなく健康にレースを終えてしかも厩舎から2頭だして1位と3位の。平野くんも調教助手として担当している子たちがこの成果。新鋭の調教助手として話題だねえ」
ジャパンカップが終わってはや2日。新聞をじっくりと見れば意外と私の方は高評価、そしてスポーツ新聞を飾るのはカツラギエース先輩と、土御門厩舎は今一番話題の厩舎じゃないかしら。
そして、私の方は海外馬相手にも負けずに3着で入着と牝馬とは思えない強さ。ということで高評価。あと海外の人からはサラ系なのウッソだろお前。とか言われているみたい。いやまぁ。それ言ったらパーソロン系列とかが日本で流行っている時点で嘘でしょ案件じゃないかなあ。
確かパーソロンって現役は未勝利の馬でしょ? オーストラリア、アメリカとかならまあー種牡馬入りなんて夢のまた夢だろうし。まあ、欧州では駄馬扱いだった馬がアメリカ競馬を根幹から変えるほどの大種牡馬になって欧州以上のスピードを持つ程にアメリカ競馬を成長させたりとかするからわからないけども。
「これは今度は最高のりんごとみかんを持ってきてあげるねレディ、エースには人参と・・・ぶどうがいいかな? さてさて、先生。オーナーさんからはレディのローテーションについてご意見があったとか?」
「うん。というのもエースもルドルフも有馬記念に挑む。で、レディの方は砂もいける両刀スタイルだ。あのレベルと十分に戦えるのはジャパンカップでわかったし、東京大賞典で砂の大レースでどれほど通用するかを可能なら見てほしい。とのことだ」
セリアさん。結構チャレンジャーなのと、有馬記念よりそっちを優先ってなかなかね~でも砂のレースも楽しそうだし、次の勝利を目指すのは変わらないから、私はいいかな?
「あーそのために先生とオーナー、有馬と東京大賞典どっちにも登録はしていたんですね。じゃあ、しばらくは砂の方での練習ですか。エースとは別々で?」
「うーん。一応エースとも相性がいいし、冬枯れの芝で走るエースにもパワーを付けたいから一緒に砂で走ってもらうとしよう」
『だって。エース先輩。一緒に頑張りましょうね~』
『おう! 負けねえぞぉ!』
私の方は砂、先輩は芝で。今度こそGⅠ取って錦を飾るぞー! 後美味しいみかんをもらうぞー!
負けちゃいましたが勝ったという。この時代の牝馬の調製とか強さの基準を考えるとサンダーレディはクリフジを知っている人がいてもだいぶ強いと見られているとは思います。
戦績 11戦 8勝 3敗 獲得賞金 5億1920万円