『いやっほー! どんどん走るわー』
『ま、まってくださぁーい』
今日も今日とてはしって体を鍛える日々。お母さんのミルクは卒業してお母さんから離れて幼駒たちで過ごすことになった。
で、私と走っている子はカラムーン産駒の牝馬。うちの牧場。どうにもアラブの王族やイギリスとも関わりがあるようで、カラムーンが病気になった時にお抱えのスーパー獣医に診てもらったら快復。以降はここで種牡馬生活エンジョイとかなんとか。
他にもバックパサーとか、クイックアズライトニングとかもいる超豪華、世界の名だたる名馬の血筋がここにいる。いやこの時代の日本にいていいんですかね?
『いい走りをすねーミネルバちゃん。この調子なら英国のティアラ三冠いけるんじゃない? 確かシャーガーも挑むみたいだし』
『ぷふー・・・そうですかぁー? 自信ないですぅ』
『えー? そうかなあー? すごく早いよ?』
ミネルバちゃんも流石カラムーンの産駒でありこの子も超良血。多分私よりも目をかけられていると言うか注目株だろうね。殿下直々にお世話を頼まれているし。
そんな牧場だけど、アイテイシロー、フサキネン、シンホープ、ハッピーベレン、コーナンルビーという牝馬。日本の牝馬でちゃんと片親はある程度血統がわかるけどもう片方は根幹牝馬か牡馬がわからないという全部サラ系。
私含めてだが、この牧場世界の名血とサラ系が同居しているという馬産界の混沌を煮詰めたような名牝と産駒がひしめく意味わからんめいた牧場なのだ。いやまあ私もそのサラ系の一頭だけどさ!
『ふぇーでも、イナビカリさんもすっごく早いですし、身体も大きいですし人間さんの行動もわかっていて、すごく羨ましいです。私、バグ? っていうのをつけるのが慣れなくて』
『馬具ね。まあーあれをつけていけるようになればすっごく優しい人が後々お世話してくれるようになるから。一緒に頑張ろーねー?』
『はぁい。あ、水を飲みに行きましょうよ。後お塩』
とりあえず今は友だちもできつつあるしほんとなんとかデビューして生き残れる成績を残してからこの牧場に帰って温和な日々を過ごすのを目標に頑張る他無い。
グビグビと水を飲みつつ、自分もいつか種付けされるのかあーという。そっちはもう特殊プレイとか、とねっこを見たりとかできる喜びのほうがいいと思いこんでおくことにする。
あと、ミネルバちゃんの成績とかも知りたいから死ねない死ねない。こんな可愛いほわほわ温和な名血の子供。私もお世話したいし。
きょーおはなーにをしましょっかね~♪ 走りながら馬具を喰む練習でバケツを咥えて走ってみよー
うーん。苦しい! でもコレも自主練! 一番に馬具を扱える馬になってデビューも早めていくのが目標! 私同期の中だと早生まれなのを差し引いても牡馬の奴らより大きいらしいし、鍛えて鍛えてレース前の調整に割ける時間を増やしたり、挑める数を増やして賞金を重ねないとやばいやばい。
「イナビカリ」
「ひひぅーん」
「うふふっ。今日も変な顔をするわね。かわいいかわいい♪」
後媚を売るために覚えたのが変顔芸。お嬢さんもいい顔をしてくれているから嬉しいし、こういうのは大事よ大事。日本は気性難大好きな人種多いけど、そのせいで競走馬として走れないと扱われたらヤバいからね。自主練はするけどそこは大事よ大事。
撫でられるのも嬉しいし、人から笑顔をもらえるのも嬉しい。うーん。案外いいものだねこの馬生。でもデビューして成果を残さないと不安。馬産に関る人等は経済動物としても割り切れるしね。そこはどうしてもしょうがない。
「あ、それと今日はイナビカリ。貴女を預かってくれる厩舎の人じゃなくて、貴女に興味を持ってなんとジョッキーが来てくれたの! しかも腕利きの人が。ダメ元で頼んで見るものね。きっと貴女ならメロメロにできるはずだし、出会ってちょうだい。
あ、どうぞ~」
「オーナーも感謝します。ほう・・・この子が・・・イナビカリちゃん。ですかな?」
「ええ。岡崎ジョッキー。貴方の今の最高の相棒候補はルナちゃんでしょうけど、騎手はその子だけにつきっきりとはいきませんもの。この子は牝馬でルナちゃんと路線も被らないはず。ウチの牧場の国内では期待株ですし、どうでしょう?」
「ふむ。幼駒なのに成長して大きく、しかも早熟とは思えない馬体。そして・・・変顔をしますが人懐っこい。馬具の方も問題なくつけられるようですし、ええ。できれば私から是非お願いしたいです。土御門先生のところに預けるんですよね?」
え。まさかのレジェンドジョッキー岡崎騎手!? うへぇーすごい騎手が私に・・・いいのかなあ? これいいのかあ!? 生き残れる可能性はまた増したけど、すごいなこれ! いいねいいね。ルドルフで鍛えられた手綱さばきに応えられるように頑張らないとなー
「ええ。土御門先生も期待できるとウキウキでして。良ければぜひ」
「もちろんですよ。私も後で挨拶に伺います。オーナー。感謝します」
お互いに、私も頭を下げて二人と一頭でお辞儀をしてから解散。うーん。社交辞令なのはあるだろうけど、それでも私に乗ってくれるかなー。そうだといいなあー
~岡崎騎手 心の日記~
今日とあるオーナーさんのところであのシンボリルドルフを比較に出せそうな素質馬が出ているという話を聞いてみてきた。
なるほど牡馬より大きく既に整いつつも成長し続ける馬体に、がっしりとした脚に形の良さそうな蹄。後ろ足もぴしりと綺麗で見本のような美しい馬だった。顔立ちも可愛いが最初からバケツを咥えて変顔をして、厩務員等を振り回し、牝馬なのになんか牡馬たちのリーダーにもなっている。変な馬だなあ。という印象が大きい。
でもまあ、素質はありそうだし、たとえじゃじゃ馬だとしてもデビュー戦を乗れば義理は通せる。サラ系というのもあってどこでコケるか不明なのも怖いが、まあこういうのも付き合いだろう。そして経験だ。あの変な馬に乗ればルドルフと気兼ねなくターフを駆け抜けられる。あの最高級のベルベットのような毛並みを思い切り触れたいものだ。
「イナビカリ。貴女の名前を決めたの。そして、今日から競走馬として挑む日々が始まるのよ」
「ひひぃーん」
『やったー。無事にデビューできるって能力と資格は手に入ったんだー』
あれからまたしばらく自主練と、一足先にイギリスに行ったミネルバちゃん。あっちは確か競走馬名はシャーアイナ だったかなあ? とかなんとか。そして私の方は日本で走るのでもうしばらく牧場で過ごしていたらようやく土御門先生とやらの場所で修行が始まる。のだけどその前に競走馬名をオーナーさんからもらうことに。
命名式ってやつかねえ。なんか、こうして名前が変わる瞬間を味わうのは新鮮。
「貴女の名前はサンダーレディ。よ。雷のような早い足を持って牡馬も追い越してゴールしてくるのよ」
サンダーレディ。か。あちらは王女だけど私は雷鳴の乙女、私の流星が雷のような形だからそれにちなんで。かな?
ふふふ。いいねいいねーなんか、また一歩前にアスリートとして進めたような感じがして嬉しい。行ってくるねオーナー! いつもジャージや作業服で会っているけど、応援するときはきれいな服をつけてきてよ。ほんと同性として羨ましいくらいにきれいなんだから。
お別れのハグを済ませて。私は首と頭だけよ? をしてから馬運車に乗ってトコトコ。さーて。どうなるか楽しみだなー。頑張らないとなー。ここからは競争の結果が大事な世界。戦いの場よ。
命名 サンダーレディ に決定。あんまり多くの意味やおしゃれな名前よりもこういうのも好きです。