ほへー着いた着いた土御門の厩舎はここかーかなり新しい。まだ新築なんだなーでも、既にお馬さんがたくさんいるし期待されているのかー
「いやーこれがサンダーレディ。きれいな尾花栗毛の牝馬ですねえ。しかもかなり大きい」
「馬主さんも期待しているのも納得だ。ワハハハ。これからよろしく頼むよサンダーレディ」
「ひひぃん!?」
『もう飲んでるー!?』
私の担当厩務員らしい平野という若い兄ちゃんと、土御門先生が出迎えたけど早速飲んでやがるよこの調教師。え、マジ? いくら昭和とはいえ仕事中に真っ昼間に飲むかよ!?
「先生。流石に今日は月曜日とはいえここで飲むのはちょっと」
「ははは。なあに唇を湿らせる程度よ! 気付けだ気付け。なあエースもそう思うだろう?」
エース? そう思ってその馬の方を見ると黒鹿毛の牡馬がこちらを見てなんかジロジロ様子見をしている。
その表札。もとい馬名が書かれているものを見ればカツラギエース。という名前が。
あ、あのカツラギエース!? ウマ娘でも出ていたあの名馬! あー土御門先生の育てた馬なんだね。今は確か1982年の冬。この前りんどう特別(400万条件戦)で勝ったのかな?
『ほーん。マブいスケじゃん。俺はカツラギエース。お前は?』
『サンダーレディ。よろしくねーエース』
『はん。ま、頑張れよ。それとこの爺さん酒飲むのは割といつもだから』
『あ、そうなの』
しかしまあ、名門厩舎にこれ預かってもらえたのかあー今は新設バリバリのところだけど、いやーこれは嬉しい!
厩務員も若いけど根性ありそうだし、名うての。呑兵衛だけどな調教師。生き残れるぞ。生き残れるぞ私ー!
しかし、思えば私の適性ってどこなんだろうね? 牧場ではとりあえず土も芝も歩いたり走ったりしたけど。できればやばいやつ等とぶち当たることはしたくないから、ダート・・・と言いたいけどこの頃って地方と中央の馬の質って実はあんまり差がない時もちらほらあるからなーユキノビジンとかイナリワンとか、あそこらへんとかは血統的にも中央行けるんだけど入れる枠、受け入れられる厩舎がいないからしばらく地方で走っていましたっていう話もあるっぽいし。
んーできれば芝がいいのかなーレースの数も多い分、稼げるチャンスもローテの調整もしやすそうだし。私の脚質よ。どうかいい方向に生きておくれ。
「よし。じゃあお兄さんと調教。行こっか」
『はーい』
とりあえずここの厩舎に馴染みつつ。カツラギエースともなんか仲良くなって過ごせるようになれてきた。
そして練習もしていたんだけど私の脚質はまさかの両刀。芝のほうがいいけどダートの方もよっぽど重すぎなければ走れるという感じ。
この時期は冬とか芝が荒れればダートと変わらないってのもあるのかな。土と芝の違いなんて誤差だよ誤差! みたいな。
まあ、そこら辺は知らないがとりあえず私はある程度場所を選べず戦えるという。そこそこのいい感じらしい。今日も平野厩務員。もとい調教師補佐候補に連れられてポコポコ。
私の馬体重は現在490キロ。まだデビュー前の2歳牝馬としてはでかいそうで。そして今の時代の競馬だと小柄な馬よりもアメ車のような大きな馬のほうがパワーもスピードもあるぞーって感じで、そこも相まって私の評価は良いようだね。
まあ、数年後にタマモクロスという芦毛のジンクスと馬体のアレコレをぶっ壊す怪物がでてくるけどやっぱり人の荒さとか、言葉遣いとかテレビやラジオで時代を感じる。これが昭和なんだなって。
「今日は芝で岡崎騎手も来てくれるんだけど、もう一頭。プチ遠征の練習がてら君の同期が来ていてね? その子と一緒に併せをするんだ。きっといい刺激になるはずだよ」
ほほう。併せとな。私もゲート練習とかはしていたけど、なんか下手くそのままだけど次の段階に行けたのかあー。併せ。牝馬なのかな? そうなると誰だろう。キョウワサンダー? それともトウカイ? メジロ? トウショウ、メイショウの冠名の誰かかな~?
「あっ。岡崎さん。そしてシンボリルドルフ。今日は一緒にお願いします。いやーきれいな鹿毛ですねえ」
「お願いします平野さん。ふふふ。この子達はきっと、特にルドルフは最高ですよ」
『・・・・』
マジカ。まじかーもう出会っちゃうのかシンボリルドルフ。うーん。この気迫。目力。2歳だってのにカツラギエースよりも迫力あるわ。
そして、改めて額の流星。うーんこれは確かに月。ルナと呼ばれるのも納得。あと馬体もピカピカで、いやー見た目がいい。
『私はサンダーレディ。よろしくね。シンボリルドルフ』
『おう。良い女だなアンタ。ま、とりあえず相手してやるからまあ、着いてこれればいい。練習だろうとひねるが』
まー可愛げないねえー。ま、こいつ母親相手にも威嚇していたらしいしこれくらい気難しいか。今は岡崎さんがいるから大人しくしているだけだろうけど。
にしても・・・いや、じっと見過ぎじゃない? なに? 尾花栗毛って珍しいの? そっちの厩舎にいないの?
あと、なるほど。ルドルフは確か美浦の厩舎で私らのいるところは栗東。県をまたいでの移動で今後のレース場に向かう際の移動の練習も兼ねていると。
とりあえずは東西のトレセンの移動と。で、レース代わりの併走。理にかなっているし、同期で慣らすのもまあ分かる。多分私への配慮だろーなー。ルドルフなら多分年上の馬相手にもひるまないだろうし。
準備運動と厩舎、騎手との話も終わってからいざ練習開始。未来の皇帝の走り。学ばせてもらうわ!
『やあぉおおー! 早いぃい! ってか強ぃい!』
『力み過ぎじゃないのか。この程度か』
負けました。全敗。いやー・・・・悔しいぃ。いやほんと。私は逃げの脚質なんだけど、併走からのダッシュでの勝負とかでも私が好きに走ってもルドルフが最後に追いついてすぐに抜いてゴールを奪っていく。
真面目に仕掛けどころが巧すぎる。一応、田所騎手さんも協力してくれて交互に乗り手を変えてと練習したんだけどそれでも駄目だった。シンボリルドルフ・・・これが永遠の皇帝かあ・・・ぬぅう。同期だけどクラシックはかち合わないのを幸運と思ってしまう自分がいる。
牝馬だからまずクラシックシーズンはレース合わないしね。合わないよね・・・? 私ティアラの方に行くよね?
「うーむ。ルドルフは先行での王道ですが、そこから逃げを捉える瞬発力もある。しかもその足もちゃんとある程度の時間使えそうですし、いやあ・・・これはすごい」
「サンダーレディは逃げ。ペース配分やプレッシャーへ慣らせばGⅠ戦線も目指せそうですね。血統自体はシンザンにサラ系と勝利でいいところを見せたほうが繁殖牝馬としても価値が出そうですし。私もペーペーだけど、この牝馬も牡馬も、同期だけどレースが合わなくていいと思ったような。そうでないような」
「できれば潰し合いがなくて僕は良かったよ。それにルドルフに乗れなくなるのは勘弁だし」
「ははは。ですな。シンボリの最高傑作。そしてあの牧場の期待株。レースが待ち遠しいですよ」
あ、一応私もいい感じなのね。頑張らないとなー
『俺とお前は同じレースを走らないのか?』
『しばらくは男の子と女の子が一緒のレースは無いみたいよ。だから、また会うときは大分後だね』
『そうか。なら、いずれその時が楽しみだな。この練習だけではない。本番で岡崎とお前と戦うのも』
『私は勘弁してほしいなー』
なんかなにげに皇帝からも気に入られているのかな? 威嚇されないだけまし。かなあ。レースで気が荒れてしまう機会がまだないからだけかもしれないけども。
「ふぅー・・・・・・お、手紙が来たか。サンダーレディ。お前さんのデビューが決まったぞ」
『また飲んでいるよー。今日の仕事は終わったとはいえ。もー』
仕事が終わり、連絡を待ちつつ呑んでいた土御門先生が赤い顔をしてやってくる。まだほろ酔いだけど酒の匂いがするよー。
で、私のデビュー? たしかに年は明けてしばらく立ったけど。予定が決まったのかー。
「6月末に新潟競馬場で1600メートルデビューだ。ふふふ。いや~楽しみだなあ。君のデビューにもちゃんと岡崎くんが来るからね。ヒック・・・暑い中大変だけど勝ってきてくれ。私もそのために鍛えるよ」
はーい。それはそれとして、まだ飲むのかアンタ!
サンダーレディの調教師のモデルの方。本当に呑兵衛で有名だったようで。調べると出るのが呑んでいる話がすごく多かったりします。