相棒が不憫すぎて草生えたので、バグゴーストがやり返します 作:睡眠中の人
見間違いでは無かった。
自分の姿が3人見えてる時点でおかしいのだ。一人称のVRで自分のキャラが目の前にいるのも、さらに3人に増えているのも変である。4人に分裂しとる。まぁすぐに勇者の爆発で全員吹き飛んだけど。
で、どうなってんの?
爆発で吹き飛んだものの、全員リスポーンできたようだ。今はチュートリアルの蹂躙開始ボタンを押さずに会話をしている。全員アバターが同じだが、少しずつ性格が違うようだ。
「知らん」
「幻覚を見ているわけではないみたいだけど」
「なめたけ!」
分裂した理由は分からん感じか。最後の意味不明単語野郎はスルーしておくとして、他の二人はまともに会話できるようである。各々スキルとか動きとか普段と同じように動けているようなので、性能でいえば俺が4人に増えたって感じ。
つまりは……
「ここから反撃開始というわけだ」
「ヒャッハー!!」
「とんび」
とりあえずチュートリアルがクリアできるチャンス! 本当に蹂躙始めてやらァ!
四人並んで、4体4で向かい合う。今まで一人だったのでとても、頼もしい。
”蹂躙開始”ボタンを押し、散開してレーザー回避。4人に分かれてるから、攻撃も分散してるしすぐに近づける! 俺が一番乗り! ってか、ちょいちょい皆勇者乗っ取ろうとしてどうすんだよ。
「癖になってんだ勇者憑依」
「そりゃ一番ステータス高いからね」
「サランラップ」
さっさと散れ! 俺が勇者行くから、上から順番に魔法使い、僧侶、武闘家憑依よろしくぅ!
……熱のせいかテンションおかしくなっとるわ。
無事に勇者に憑依できたので一安心。他はどうかなって思ったが普通に憑依できたみたいである。今までにない快挙である。ようやく、ようやくクリアできるのだ。やべぇ涙出そ「オランダァ!」武闘家から殴られて吹っ飛んだ、っていうか何してんだぁ!
「どうやら全員憑依しただけではクリアではないようだな」
「全滅させないとって感じか」
魔法使いも僧侶も戦闘態勢に入っている。確かに分裂したときの憑依時間とかも不明だし、さっさとクリアした方がいいか。勇者に憑依した俺も、回復魔法を使って態勢を整える。じゃあ、まずは殴ってきた武闘家から潰す。
「収束する業火!」
「俺攻撃手段少ないな」
「せいばい!」
でまぁ、私が残りますよと。3体1なら負けただろうけど、バトロワだったら勇者が勝つわな。火力はあるし、耐久力もあるからね。
倒し終わったら分裂した3人とも、どっかいったけどまた出せたりするのかね。4人に分裂できるのはかなり強いから、この先もできるようにしたい。憑依時間も四分割かと思ったら、そのまま5分乗っ取れるしチートやチート。
っとか言ってる場合じゃないな。そろそろ5分経つから、勇者倒さないと。勇者の装備、アイテム全部外して自分の所持品に放り込む。そして、勇者のHPを1にMPを0にすれば準備OK。
このまま、HP0にしてもいいんだけど、また振り出しに戻る可能性が高いんだよな。今までも憑依したままやられたらそのまま死亡って感じだったし。憑依解除してから自分でトドメ刺さないとクリアできないと推測できる。
憑依時間残り全て使って、見落としが無いか確認する。ステータスは下げる事ができないので、ミスをすればまた地獄の再開である。普段通りにやれば、攻撃は避けれるし謎の爆発も発動するまでに時間があるのでそれまでにダメージが与えられればいい。
憑依時間が終わり、勇者の体からはじき出される。勇者は体の制御を取り戻し素手で殴りかかってきたが、武闘家の攻撃をいなしてきた俺に避けることは容易かった。レベル差が酷くても顔面などを殴れば必ずダメージは入るので、力を込めてぶん殴る。
「貴様も良き
そう、何度も心を折られた敵であっても、一年間戦い続けたことで友情のようなものが俺の中に芽生えていたのだ。……いやねーわ。ただただ理不尽すぎたし、しゃべらないし、そもそも1対4だからいじめじゃん。お前らが悪役だよ。
勇者が倒れるとようやく、チュートリアルクリアの表示が出る。これを見るためにずっとやってきたのだ。感動で涙が流れそうだが、ゲームなんでね流れません。ただ実感が湧いてきたのか、数分立ちすくんでしまった。
「運営に一泡吹かせてやったぜ」
これで他のプレイヤーに追いつくことができる。謎の4分裂をものにすればすぐに強くなれるだろうし、勇者の装備もあるのは、唯一無二の強みである。いずれは自分もイベントボスになることができるのではないだろうか。
チュートリアルクリアの後には、「召喚されますか?」の表示が。長らく忘れていたが、相棒キャラがいるのだった。一年も待たせてしまったかと、申し訳ない気持ちになったが、リセマラとかの検証で召喚されるときに無契約のNPCが選ばれると聞いた気がする。なので問題無し。問題があるのはリセマラできない俺の方で、最悪すぐ契約解除かね。
正直、相棒キャラには外れが多い。若い冒険者とかであれば共に強くなることはできるのだが、年寄だったり若すぎるとまともに冒険ができない。農民とか商人とか自分の生活もあるし、魔物討伐に一緒に行くという自殺行為はなかなかできない。好奇心旺盛な奴と契約できればいいのだが、名のあるネームドはもう契約されている。まあ所詮ガチャ的な要素なので、無理に仲良くする必要は無いか。
「ちょっと緊張してきたな」
考えたら初めてのゴーストプレイヤーだし、無条件でイベントボス化とかあるかもしれない。相棒キャラには勇者装備させれば(俺は装備できなかった)死ぬことはそうそう無いし、結構活躍できるのではなかろうか。せっかくここまで頑張ってきたのだから、ちょっとぐらいは注目を浴びれたらなぁと自己顕示欲が少し出てきた。
ここでうだうだしてても仕方がない。さっさと召喚されて、ゲームの世界を楽しまなければ。なんのためにこのゲームを買ったのだ。ゴーストとして色んないたずらをしに行かねば!
「レディゴー!!」
召喚のボタンを押すと、地面に魔法陣らしきものが広がっていく。ここら辺は今まで動画で見たのと一緒だな。この後相棒になるNPCの目の前に召喚されるんだが……って何も考えてなかった! ドラゴンとかゴーレムなら立ってるだけでインパクトすごいけど、ゴーストなんてただ浮かんでるだけじゃん!! 何か何かインパクトがあることをしなければ!! 第一印象ってめっちゃ大事だから、何もないのは面白くない! けど時間無いし、思いつかない!! ……なら適当だ!
地面に寝っ転がる! 両手を耳の近くにおいて、足は曲げる! 両手を伸ばして、腰を浮かせて完成!!
ブリッジのポーズ!!
これで素早く動けばやべーやつ。インパクト十分だぜ!
「どんとこいやぁ!!」
目の前が光に包まれ、神殿から別の場所に転送される。次に視界が開けるとそこには……
なんということでしょう。今まで殺風景だった神殿から一瞬で、絶賛森林火災中の森の中。正面を見れば、自然豊かな中建てられたログハウスも全部燃えているではありませんか。右を見れば、複数のプレイヤーらしきドラゴンの集団とその相棒たち。左を見れば死にそうなグリフォンとその相棒? らしき少年。俺はその中心に召喚されたらしい。
う──ーん。
場違い☆
僕らは奴隷である。最初は抜け出そうと藻掻いていたが、どうやっても出ることができなかった。あいつらは僕らをおもちゃのように楽しむだけ。抗おうとも、枷をつけられたかのように体は重く、今まで培ってきた技は出すことができなくなっていた。生き残っても全滅しようとも、またこの場所に戻って来る。皆気が触れてしまって、心を閉ざしてしまった。僕自身ももう耐えきれそうに無い。
1人だけあいつ等の中によく見る顔があった。不思議なことにそいつと戦っているときだけ、僕らは本来の力が出せて自由に動けている気がした。まあ、結局はそいつに身体を乗っ取られるのだけれど。
そいつは最初、蚊のように弱かった。スキルを身につけ、こちらを乗っ取ろうとも、僕らに勝つことは無かった。当たり前だ。僕らは世界を救うためにここまで強くなったんだ。僕が敵になろうと崩壊するパーティではないし、誰かが危なくなってもすぐに回復できるアイテムは常備している。そいつが勝つ可能性なんて万が一、億が一にも無かった。それでもそいつは諦める事が無かった。圧倒的な力の差があっても、少しの隙、運をかき集めて、僕らを倒そうとしていた。思えば、そんな姿に僕も勇気をもらっていたのかもしれない。
終わることの無い戦いが途切れていたのに、今気がついた。今立っている場所は見慣れた謎の神殿ではなく……我が故郷の王都。その入口にある城門が目の前にある。この扉を開けるのは世界を救ってからと決めていたのだが、未だ達成できず戻ってきてしまっていた。
何故今ここにいるのか、仲間はどこに居るのか。不可解な点が多いが、僕は考えが回らないほどに疲れ切っていた。まずは馴染みのある宿屋で休もう。親方に怒られるけど、剣も鎧も消耗が激しいから直してもらわなきゃ。ギルドにも顔出して受付嬢のセナさんに挨拶しないと。王様の所には顔出しづらいから、手紙で済まそうかなぁ。
やる事がいっぱいあるからと少し早足で城門に駆け寄る。普段なら見張りの兵がいるはずだが、今日はいないみたいだ。仕方がないので、両手を城門に当てて力押しで開ける。10Mもある城門を全力で開けていく。
結論として、僕は開けるべきではなかった。
開けた瞬間に聞こえてきたのはモンスター共の咆哮と、逃げ惑う民衆の悲鳴。家屋や商店は焼け落ち、中心に見える王城も崩壊している。目の前の光景に立ち尽くす僕を横目に、人々は開いた城門から逃げようとしている。僕は信じられなかった。王都が襲われていることにではない。あれは、あのモンスター達は、人々を襲っているのは、
「神殿で襲ってきたあいつらじゃないか」
見間違えることはない。一年前に神殿に連れてこられて、何度もあいつらと戦わされた。王城を取り囲むのはゴーレムやキマイラ、逃げる民衆を追っているのはフェンリルや悪魔達。今わかった。色々な種族がいて、僕はあの場所でおもちゃにされていたのだと思っていたのだけれど。違ったんだ。言うなれば僕との闘いは前哨戦。僕に勝利することで自信をつけ、この世界を侵略するために戦わされ続けたのだ。僕が、僕らが勝っていれば、こいつらはこの世界に来ることはなかった。
「許さない!!」
許さない。許すわけがない。この世界を侵略してきたモンスター達に。それを止めることができなかった僕自身に。枷をつけられ何度も殺されようと、あの神殿から出ることができなくとも、諦めなければこうならなかったのではないか。心の折れた僕たちを見て、神は人類を見限ったのではないか。
だがまだ間に合う。力の戻っている今であれば、まだ救える命がある。聖剣を構え、指輪に魔力を集中させる。僕のスキルではない。この指輪に秘められた力をもって、モンスター共を駆逐する。
「ホーリーフレア!!」
聖剣を上空に突き上げ、指輪に込められた魔力を開放する。この光で王都を覆えば、モンスターのみを滅することができる。急速に広まっていく光によって、すべてのモンスターが王都から消えていく。すべての力を注いだことで、体中から力が抜ける。戦いが終わったこと、人々を救えたことに安心したのもあるだろう。失われた命は多かったが、これで王都は救われたはず。
「へぇー。そうやって使うのな」
その声が聞こえた瞬間、体の制御が奪われた。何度も見覚えのある視点、自分が幽霊になったかのように本来の体から離れていくことで理解した。
「爆発のスキルずっと使えなかったんだけど、なるほどね。指輪がキーアイテムだったか。剣を突き上げてるから、ずっと剣のスキルだと思ってた」
今思い出した。自分が城門に来る前の記憶はこいつに殴られたことだった。僕を倒したことで、今この世界に来たのだ。
「じゃあこの体もらっていくわ」
そう言うと、奴は体を乗っ取ったまま王城へ向かっていく。ふざけるな。体を返してもらうと、奴の背中に縋りつこうとするが、幽霊の姿では動けなかった。もがいてももがいても前に進めない。だんだんと視界が闇に覆われ、奴が見えなくなる。
気づけば体が半分見えなくなっていた。いや見えないのではない。沼のように沈み込んでいるのだ。体中を巻き付くように暗闇が侵食していく。手を動かしても、足を動かしても抜け出すことができない。いやだ。いやだ。このまま終わりたくない。
誰か教えてくれ。僕はどうなる。皆はどこだ。助けてくれ。
勇者の声は誰にも届くことなく闇の底に消えていった。
突如勇者の脳内に流れる記憶!!
一般ゴースト「なにそれ知らん、こわ」