「ねぇ、プロデューサー」
「何でしょう、月村さん」
「ペットを飼うなら猫? 犬? どっち?」
「……ふむ。すみませんが、きちんと考えて答えを出したいので、三か月程時間をいただけますか」
「長すぎるでしょ。3秒で答えて」
「では猫で」
「は!? 普通犬でしょ!?」
「理不尽」
「犬にしなよ。そっちの方が絶対いい。
猫なんて気まぐれで感情的で食べ物の好き嫌いも多くて構い過ぎたら引っ搔いて来るよ?」
「もしかして自己紹介の時間ですか? 私は初星学園専門大学プロデューサー科所属の月村手毬さんのプロデューサーですが」
「まぁ裏切ったけどね。私だけのプロデューサーだったのに咲季とことねも担当したけどね。今でも私怒ってますからねユニットの件。
……っていうか、誰も自己紹介なんてしてないでしょ。何聞いてたの?」
「時に月村さん」
「何? プロデューサー」
「私の顔のこの傷は何でしょう」
「だから、昨日のことは何回も謝ってるじゃん。というかそもそも、たかが仕事1つこなしただけで褒めるとか過剰すぎるし、何度やめてって言っても繰り返したら、引っ掻かれてもしかたないでしょ」
「…………」
「何その物申したげな顔」
「いえ、別に」
「それで? 犬? 犬だよね?」
「そもそもこれは何の話なのでしょう。性格診断か何かですか?」
「別に、殊更何か意味があるってわけじゃないけど。というか何ですか、用がないと話しかけちゃいけないんですか?」
「そんなことはありませんが、プロデューサーとして、月村さんの意図はいつ何時でも把握しておきたいとは思いますね」
「ふ、ふーん。そうなんだ」
(いつも私のこと考えてたいってこと!? うっ、嬉しいぃ~~~……!
やっぱりプロデューサーは私のプロデューサーなんだ! ユニットを組んでも私のこと一番に考えてくれてるんだ!!)
「まぁ、それなら別にいいけど? 教えてあげても」
「(扱いやすくて)助かります」
「ほら、私の食生活とかってプロデューサーが管理してるじゃないですか。
栄養管理は勿論、咲季に作ってもらってる分もあるけど、最近は5割くらいはプロデューサーに作ってもらってるし」
「そうですね。どうやって栄養素を確保しながら味を向上させるか精進の日々です。
いつの間にかプロデューサーから栄養士に転職したのかと思う日もあります」
「品質改良頑張って、期待してるから。でも次にんじん入れたら怒るからね」
「次というか、前回もしこたま怒られましたが」
「まあ過ぎたことはいいよ。話を戻そう。
プロデューサーは私のご飯を作ってくれる人だし、将来的には朝食もお昼のお弁当も夜ご飯も作ってくれるわけでしょ?」
「まぁやぶさかではないというか、それで間食をやめてくれるのなら何食でも作りますが」
「でもそんなに作ってくれるんなら、別居してるのも効率悪いし、将来的には同居することになるよね」
「? いえそんな予定は全くありませんし、通い料理人でいいと思いますが」
「なんで!? 浮気!? 浮気するつもりなんでしょっっ!!
咲季とことねは言ってた通り相性抜群だったからギリギリ許すけど、他の子なんかに目をやったらめちゃくちゃに暴れるからね!!」
「??? いえ、(とんでもなく大きな炎上リスクを極力カットするためにも)月村さんから(監視的な意味で)目を離す気はありませんが……」
「っ!! そ、そんなの当然です! あなたは私のプロデューサーなんだから!」
「とにかく! 私とプロデューサーは将来同居する! ここまでは確定事項です!」
「ええと……はい、では一旦そういうことで話を進めましょう。それで?」
「将来一緒に住むなら、飼うペットは何がいいかの意見統一が必要ですよね」
「その前に同居する同意の確認が優先のような気もしますが、確かにないよりあった方がいいでしょうね。アレルギーなどの可能性もありますし」
「アッ!? ……ま、まさかプロデューサー、犬アレルギーなの……? 人生半分損してる……?」
「いえ、アレルギーは殆どありません。強いて言えば元気ビルド追い込み最終ターンにメンタルカードが3枚揃う現象アレルギーと、好印象ビルドを組んでいる時に入手カードが元気系3枚アレルギー、それからその逆くらいでしょうか」
「何それ……とにかく、それなら犬でいいよね?」
「えらく犬を推しますね。……ま、まさか……いえ、あり得る話か。月村さん、流石に犬を食べるアイドルというのは外聞が……」
「食べませんが!?!? なんでプロデューサーはそういう方向ばっかりに話を転がすんですか!! まるで私が常にお腹を空かせてる腹ペコアイドルみたいじゃないですか!! こんなにクールなアイドルなのに!!」
「????? いえ、月村さんは減量期間中についつい自制し切れずマクド◯ルドのメガマ◯クを2つとポテトLコーラLチキンナゲット15個を完食してしまう系アイドルだと思いますが」
「……その件はもう謝ったじゃん。なんで蒸し返すの……?」
「食べるのが幸せなのはわかりますが、今度からできるだけ味は落とさずに栄養を補完した再現メニューを作りますので、我慢の限界が来たら声をかけてください」
「…………はい。すみませんでした」
「それで、何故犬なのでしょう。何か深い意味でも?」
「犬、可愛いじゃん。飼うなら犬でしょ」
「すさまじく直球でしたね。
犬が可愛いことには同意しますが、飼うとなると話が別になりますよ」
「? なんで」
「根本的な俺の管理リソースの問題です。
こんなことを言うのは情けないとは自覚していますが、毎日プロデューサーとしての責務を果たしつつ犬を飼い十分に可愛がるとなると、体力時間ともに持ちません。
……まぁ、担当アイドルが月村さんでなければ可能性はあったかもしれませんが」
「なんですか、人を手のかかるアイドル筆頭みたいな言い方して」
「一般的に言って、栄養管理と徹底的な監視が必要で、2日に1度の頻度で問題を起こすアイドルは手のかかるアイドルに分類されますよ。
昨日だってクラスメイトの葛城さんと話していて『でも減量中にドカ食いを我慢するのは前提だから、プランを狂わせる理由にはならないよね』と言われてメンタルボコボコのワンパンKO喰らってたじゃないですか」
「ウッ……ワァ……ァ……」
「しまった、月村さんが過度のメンタルダメージでちいかわ化してしまった。
大丈夫です、そんな手のかかるアイドルでも、同時に誰より頑張っているアイドルでもあります。そんな子が自分の担当で、俺は幸せですよ」
「ふん、当然だよね。プロデューサーには私のことプロデュースさせてあげてるんだから」
「復活が早い」
「そもそもですが、根本的な問題が2つ程あります」
「なんですか。まさかそもそも動物が嫌いとか?」
「嫌いではありません。むしろ問題は俺の方ではなく、月村さんの方です」
「私?」
「まず、月村さんがまともにペットの世話をできるとは思えません」
「は? できますけど」
「では毎日朝早くに起きてペットのペースに併せて散歩をし、体調を見ながら適量のご飯を出して、定期的に水を補給し、あちらが遊んでほしそうにしていればそうする。アイドル活動と並列してできますか?」
「……できます、けど」
「そうですか、ではもう1つの問題に行きましょう。
ペットは人間ではないとはいえ、家族です。である以上、場合によっては月村さんよりもその犬を優先する場合が発生……」
「駄目!! そんなの許さないから!!」
「とまぁ、そうなるわけです。
どうしても飼わねばならない理由がないのなら、やめてもいいのではないでしょうか」
「むぅううううう!!」
「それに……何も、増やす必要はありませんしね」
「はい?」
「やはり、付き合っていくとしたら猫です。
自由気ままで、言うことを聞いてくれなくて、偏食家で、けれど誇り高く、時々可愛いところを見せてくれる。
そんな猫を、世界一可愛い猫に育て上げるのは、とてもやりがいがありますから」
「なんでそんなダメダメなペット選ぶの!? ホントプロデューサーってセンスないですよね!」
「いえ、センスはあると自負していますよ。少なくとも、本当に輝くものを見抜くセンスは」
飼いたいペットと書いて新たな家族と読む。
せっかくの誕生日なのでPドル強め、ギャグ抑えめでした。
花海咲季が固形物を料理できるようになったら続きます。