「おはようございます、咲季さん」
「おはよう、プロデューサー!」
「……ふぅ」
「な、何よいきなり、そんな開口一番ため息吐いて」
「前にも言いましたが、俺のことは『お姉ちゃん』と呼んでください」
「嫌よ! 何度も言ってるけど、わたしには世界一可愛くて最高でとんでもない天才の妹はいるけど、お姉ちゃんはいないのよ!」
「……それこそがあなたに必要なものなんだ!!」
「それ言えば何でもかんでも受け入れると思わないことね!」
「可愛い! 歌が上手い! 良い性格してる! 扱いやすい!」
「えへへ~、そうよねぇ~♡ ……じゃないわ! 『取り敢えず褒めとけ』じゃないのよプロデューサー!」
「くっ、馬鹿な……咲季さんが褒め言葉で靡かないなんて、俺のデータにありませんよ……!?」
「前から思ってるんだけど、プロデューサーのデータって基本役立つけど時々無能化するわよね。データキャラやめたら?」
「疑問なのですが、何故俺のことをお姉ちゃんと呼んでくれないのですか?」
「逆になんで呼ぶと思うの? わたしとプロデューサーって血も繋がってないし親が結婚もしてないし幼少期を一緒に過ごしたわけでもないし、というかそもそもプロデューサーって男性じゃない」
「そんなことは些細な問題だと思いますが。今はジェンダーフリー、性差などなく誰もがお姉ちゃんになれる時代ですよ。世はまさに大お姉ちゃん時代」
「ジェンダーフリー概念自体は否定しないけれど、だからってアイドルに妹を強いるのはどうなのよ」
「プロデューサーとはそんなものです。アイドルを輝かせるためなら、お姉ちゃんだろうが妹だろうがなってもらうものなのです」
「プロデューサー以外にそんな人いるわけないでしょ」
「いえ、案外わかりませんが……まぁそれはともかく。
咲季さん、あなたを輝かせるためにはお姉ちゃんが必要なんです。説明したでしょう」
「理屈の上では理解できるけど実際のやるのは話が違うでしょ。
それに、別にお姉ちゃんじゃなくてもいいじゃない。プロデューサーは男の人なんだし……おっ、お兄ちゃん……とか?」
「は? 俺と咲季さんは血も繋がっていませんし親が結婚もしていませんし幼少期を一緒に過ごしたわけでもありませんし、そもそも咲季さんに必要なのは『お姉ちゃん』であって兄ではありませんが?」
「しまいには怒るわよプロデューサー」
「それはそれとして、今日も一歩ずつ進んでいきましょう。本日のレッスンスケジュールをこちらに用意しています」
「なんであの温度感から一瞬で真面目に戻れるのかわからないけど、プロデューサーのそういうところ嫌いじゃないわよ。
ええと……え、手毬とことねと合同のダンスレッスン?」
「咲季さんは非常に早熟な才能の持ち主、近い実力の相手と一緒にレッスンすることには実りがあるかと」
「まぁそうだけど……ことね、今日はアルバイト入ってるって言ってたような」
「やめさせました」
「えぇ……いいのそれ?」
「藤田さんの時間は安くありません。最低賃金で使える人材ではないのです。
それに、今週末の合同のトークショーを成功させさえすれば、そのバイトの100時間分以上の収入が入りますから」
「合同トークショー? 誰と?」
「月村さんとですが」
「じゃあ無理でしょ」
「同意したいところですが……咲季さん、甘いですね。
藤田さんは実のところ、あなたに次いで高い
「言ってる途中でちょっと自信なくなってるんじゃないわよ。
……まぁ、ことねのムードメーカーっぷりはわたしも知ってるわ。手毬が会場を凍らせてもなんとかケアできる……わよね? 大丈夫よね?」
「そっちも不安になっちゃってるじゃないですか。……一応見に行きますか?」
「そうする」
「話が逸れたけど、合同レッスンってちょっと新鮮なのよね。
わたしってプロデューサーの言う通り早熟な方だし、他のスポーツをやってた時も他の子が付いて来られなくなって、結局1人でトレーニングすることが多くて」
「でしょうね。実際、咲季さんのペースに付いて行ける者は少ないでしょう。
アイドルを初めて未だ1年未満、それなのに元よりアイドルとして活動し、高い成績を収めていた月村さん、確かな素養を有していた藤田さんと並んでも遜色ないペース。
流石は花海咲季といったところですね。素晴らしい素質としか言いようがありません」
「えへへぇ、そうでしょ~♡」
「というわけで、あの2人のこともよろしくお願いします。咲季さんの
「ふふーん、この花海咲季に任せなさい!」
「ではついでに俺のことは今後『お姉ちゃん』と呼ぶように」
「だからそれは嫌って言ってるでしょ!?」
「俺は……ッ! 俺は! 花海咲季をトップアイドルに育てたいんだ!!」
「そのちょっと断りにくくなる気迫のこもった言い方やめなさい!」
「お姉ちゃんと呼べば佑芽さんに未来永劫勝たせ続けてみせます」
「────ッ、おねっ…………いや……ぬぐぐ…………くっ、嫌よ! かろうじてギリギリ嫌!
そんな呼び方なんてしなくとも、プロデューサーと一緒なら、絶対に勝ち続けられるって信じてるんだから!」
「む……その言い方には弱いですね。わかりました、では『ねぇね』で妥協します」
「全然妥協できてないしむしろ悪化してるんだけど!?」
「……そういえばプロデューサー」
「なんでしょう、咲季さん」
「どうしてわたしたち3人をユニットにしたの?」
「どういう意味でしょう? 相性が良いから、という理由は伝えたはずですが」
「その『相性が良い』って言葉の意味よ。
わたしはまぁいいとしても、手毬は素直になれなくてコミュニケーション面に不安があるし、ことねだって表面上はともかく、本質的には自我が強くて協調性のない方でしょ?」
「まぁ、そうですね。否定はしません」
「あなたの夢、トップアイドルを育てるっていう目的を叶えるためなら……わたしに合わせるのは、協調性があってある程度実力も持ってる、他のアイドルでも良かった。違う?」
「ふむ……まぁ、そうかもしれませんが。
しかし、そんなアイドルを割り当てても、きっと咲季さんは大成しないだろうと思いましたので」
「そう?」
「ええ。
先程も言いましたが、咲季さんに足りていないのは、同等か格上と競い合える環境です。
その点、月村さんはあれでいてとてもストイックに事に臨みますし、藤田さんは先天的にアイドルとして必要なものを持ち合わせている。あなたに遅れを取ることはない。
咲季さんがペースを併せることなく、なおかつ月村さんや藤田さんがペースを落とすことなく、全員が最善な環境で最良のトレーニングを積める……それがこのユニットの相性の良さ、最大の強みであると思っています」
「……ねぇ、プロデューサーってそんな真っ当な判断できるのに、なんでいつもギャグみたいな感じで変なこと言ってくるの?」
「?????????????? 変なことなど、生まれてこの方一度も言ったことはありませんが」
「無自覚? アレ無自覚なの? こわ……。
……まあいいわ。私のプロデューサーが、花海咲季のために、花海咲季が勝ち続けるために選んでくれたメンバーっていうんなら、わたしは2人と一緒にトップアイドルになればいいんだもの!
今日のレッスンも、しっかりこなすわよ!」
「その意気です。
それでは月村さんのことは任せました。昨日無理やりブロッコリーのスムージーを一気飲みしてもらって以来寮の部屋に引きこもって反応すらしてくれないんですが後は任せました」
「ちょっと待ってそれは聞いてな……プロデューサー!? 逃げないでプロデューサー!! 私のプロデューサーともあろうものが逃げ出しちゃ駄目でしょう!? ねぇったら!!」
ギャグを書いてると5秒に1回「このキャラこんなこと言うか?」という疑問にぶつかるのですが、ギャグ漫画時空だからと自分を納得させています。
咲季P、「俺のことをお姉ちゃんと呼んでください」とか言い出すおもしろプロデューサーなんですが、冷静に考えると初手から「俺のお姉ちゃんになってください」と抜かすすげーヤツもいたな……となる。
上には上がいる。恐ろしいことに。
藤田ことねが自分のかわいさに自信を持てたら続きます。