【完結】少年が秤アツコの傷になるまでの話。   作:\コメット/

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しっかり食え、おかわりもあるぞ。
遠慮するな、今までの分食え...。

秤アツコ、せいぜい噛み締めろ。



10 Blue Rose(1)

 

 

「先生、この花」

 

キヴォトス行政組織、連邦生徒会。

その独立連邦捜査部として日々活動を続けるシャーレのオフィスにて、秤アツコは日替わりの当番を務めていた。

掃除や書類関係のファイリング、コピー、識別など、与えられた仕事をやる中で、彼女は窓側に置いてある花瓶に挿さった花に目を向けた。

 

「ん?───ああ、この前トリニティに顔を出した時にナギサからもらったんだよ。綺麗だよね」

 

「うん、とても。今日手入れは?」

 

「できてないんだ。頼めるかな」

 

「任せて」

 

ブーケとして貰ったものを花瓶に、といった具合だろう。

アツコはそれを持って水道へ向かい、以前自身が居候していた店で毎日のように繰り返した作業を慣れた手つきで行う。

 

「黄色い薔薇・・・良い色してる。花言葉は友情、親愛、だったかな」

 

普段世話になっている人に対して渡すなら、この花は最適だろう。

本数は10本、これといった意味はない。

 

「よく知っているね。アツコは花が好きなのかな」

 

「大好き。花言葉は最近になって調べ始めたんだけどね」

 

パチッ、パチッ。

話す裏で、ハサミの奏でる子気味の良い音が鳴る。

薔薇が水分を吸い上げられるよう、茎の先端をカット。花弁と葉を散らさないよう勢いを殺した水を全体に馴染ませてやり、花瓶へ。

ポイントなのが、水分の過剰摂取をさせないこと。花瓶に入れる水は、少しで十分。

しかし、世話は毎日、丁寧に行う。

 

「できた」

 

「ありがとう。元あった場所に置いてもらっていいかい?」

 

「うん。少し窓も開けとくね」

 

トテトテと、歩幅を減らして慎重に花瓶を持ち運ぶ少女を見て、黒縁眼鏡に隠れる瞳を細める先生。

 

(よく、独りでここまで持ち直ったな)

 

強い子だ、と無性に褒めてやりたくなった彼は仕事用デスクから立ち上がると、手入れをした薔薇に満足げなアツコの頭を撫でる。

彼女本人も悪い気はしないようで、暫く先生の手に自分の頭を委ねた。

 

キヴォトスでは珍しい殺人事件の起こった日の夜、シャーレにアリウススクワッドの四人が訪ねてきた。

 

事情を聞いてみると、自分達に洗脳と教育を施した存在を打倒したいのだという。

力になりたかったが、教育者として復讐の手伝いをするのはどうなのか一瞬葛藤に陥る。酷い扱いを受けてきたのだろうが、手を汚させていいものなのかと。

 

だが四人の目はとても真っ直ぐなもので、そこには恨みや憎しみは感じられない。あったのは、一人の少年の死を無駄にしないという強い想い。

行政官であるリンの制止を押し切って、先生はアリウススクワッドを率いアリウス分校へ赴いた。

 

途中イレギュラー・・・聖園ミカとの邂逅や彼女とサオリのやり取りがあったが、それらを超えてとうとう大元、ゲマトリアのベアトリーチェと相対する。

苦戦を予見していたものの、ヒナが負わせた傷がまだ癒えておらず、加えてアツコから徴収予定だった神秘も無く、バルバラやアンブロシウスといったユスティナ聖徒会主力の殆どがヒナにより破壊されていたためか、ベアトリーチェは目立った抵抗もできずスクワッドに敗れ去った。

 

数年に渡り自分達を束縛し続けてきた女の最後がこれか、とサオリ達は半ば拍子抜けのようにも思えたらしい。

 

その後はゴルコンダという別のゲマトリアメンバーにベアトリーチェは連れて行かれたが、彼女の政権と統治は終わりを迎えたためこれにて終焉。

サオリは一人別行動。アツコ、ヒヨリ、ミサキの三人は各地を転々と。ミカは先生と共にトリニティへ、とそれぞれ別れる。

 

以降、日替わり当番の日にひょっこり顔を出すスクワッドのメンバーを、彼は温かく歓迎するようになった。

 

「他にやることはある?」

 

「もう無いかな。少しゆっくりしていく?」

 

「ううん。あまり長居したら迷惑だろうから、お暇するね」

 

迷惑なんてそんな、とは思うがここはアツコの気持ちを尊重した方がいいだろう。

 

「そっか。何かあったらモモトークに連絡するんだよ。生徒を助けるのが私の役目だからね」

 

「ありがとう、先生」

 

微笑む幸薄げな少女は、礼を言うとオフィスを出て行った。

一人になった部屋の中で、先生は一つ息を吐く。

 

「キミは本当に強いな、アツコ」

 

件の少年と仲が良かったことを、ベアトリーチェを打倒した後にサオリから聞いた。

巻き込んでしまった申し訳なさと、少年がもうこの世にいない事実に苛まれていないか不安だと相談を持ちかけられたのだ。

ミサキとヒヨリとも連絡を密に取り、アツコを気にかける日々が暫く続いたのだが、こちらの心配を他所に、彼女は今も強く生きている。

 

(私も、研鑽が必要だ)

 

もっと早くに頼られていれば、頼られる存在であれば、もしかしたら少年が死ぬことも無かったかもしれない。

キヴォトスで生活する子供である以上、彼もまた自分の生徒の一人だ。その命を救えなかったことを、彼は悔いている。

今後、二度と同じ過ちを起こさないよう努めなくては。

 

「先生、失礼します」

 

ノックの音、次いで扉の開く音。

オフィスへ足を踏み入れたのは、七神リン。連邦生徒会統括室主席行政官という、なんとも長く堅苦しい役職に就いている少女だ。

ここだけの話、性格も少々融通が効かない時がある。

 

「今私に対して失礼なことをお考えになったのでは?」

 

「いやいや。今日もリンは綺麗だと思っただけだよ」

 

同じ連邦生徒会所属故に、自然と他の生徒よりも付き合いは長くなる。

知らないうちに表情筋の癖を読まれていたか、と先生は今後の接し方に修正を加える。

 

「はぁ、冗談はその辺で。資料をお持ちしました。閲覧と印鑑をお願いします」

 

「帰ってきてからでいいかい?これからゲヘナで会合があってね」

 

「構いませんが、その前に一つ」

 

「なにかな」

 

「その、先ほどアリウスの生徒さんとすれ違ったのですが・・・先生の面子や評判を考えると、あまり彼女達と接するのは控えた方がいいかと」

 

「どうして?」

 

素で返す青年。

 

「・・・いくら裏に首謀者がいたとはいえ、テロを行った事実は消えません。彼女達をバッシングする声が減ろうと、指名手配犯なのは変わらないのですよ?」

 

「けれど、それ以前に私の生徒だ」

 

その目は教育者の目だった。

温かで、冷静な、相反する二つの特性を備えた、生徒を導く大人の目。

 

「あの子たちを導く義務が、責任が、私にはある。守る務めも含めてね」

 

一変した雰囲気に気圧されて、リンは息を飲む。

そんな彼女に気づいた先生はいかんいかんといつものにへらっとした微笑みを向けた。

 

「なんにせよ、間違った道に進まないよう見てあげるのも大人の役目なんだ。私の見える範囲にいてくれた方が、寧ろ都合がいいだろう?」

 

それじゃ、行ってくるね。

少し袖が余るシャーレのコートを羽織り、彼はオフィスを出ていく。

 

「まったく、敵いませんね・・・」

 

その後ろ姿を、リンは呆れ半分、惚れっ気半分の目で追うのだった。

 

 

 

********************

 

 

 

「キキッ。ついに、ついにだ。今日という今日を貴様の没落日とさせてもらおうか、空崎ヒナ」

 

羽沼マコトは現在、大層ご機嫌である。

万魔殿議長用の席でクルクル回り笑いを漏らすくらいには、ご機嫌である。

 

「契約は契約だから。素直に従うわ」

 

デスクの前に立つヒナはというと、対照的に落ち着いた様子。

これから不利益を被るというのにいつもの調子なので、少し面白くないがまあいいと些事として切り捨てるマコト。

 

万魔殿と風紀委員会が一時的な連合を組むとして、空崎ヒナは羽沼マコトとある契約を交わした。

それは『作戦終了後になんでも一つ、空崎ヒナは羽沼マコトが提示する条件を飲まなければならない』というもの。

少々事案の鎮圧に時間がかかったので報酬を受け損ねていたが、今日暇ができたのが運の尽き。

 

「風紀委員会の予算カット、規模縮小に貴様の権限の一部剥奪。ククッ、さぁて何を命令してやろうか」

 

「マコト先輩、権限剥奪したらゲヘナ終わりますよ」

 

「なに!?」

 

「風紀委員長があれこれしてるお陰で調律が保たれているのですから。委員長としての個人、若しくは風紀委員会に関わることについては触れない方がいいかと」

 

ゲヘナ生徒会万魔殿において真面な立ち位置にいる少女、棗イロハからの進言である。

 

「なら、何を命じればいいと思う?」

 

「先輩が優越感に浸りたいなら、購買に何か買いに行かせるというのは?」

 

「むむ・・・妙案だがこの特権を使うには些か勿体無い気がするな」

 

「では首輪でも付けて校内一周というのはどうでしょう。最近、夜の学園をそういったプレイをしながら徘徊する二人組の噂がありますし」

 

「そんな馬鹿げた変態行為、するわけないだろう。どうせ怪奇現象の類だとは思うが、もし本当なら我ゲヘナに救えない痴女がいることになるな・・・空崎ヒナ、この件について何か知っているか?」

 

「ナニソレシラナイ、キイタコトモナイワ」

 

何故にカタコト?と首を傾げるマコトの視線を、ヒナは死んだ顔で受け流す。

心当たりはあるし、なんならそれが自身の組織の一員、更に補佐兼側近の可能性がある。

なぜか彼女の首についていた首輪の跡、特定の日を境にテッカテカで出勤、鞄からはみ出していたリード。

スリーアウト、コールドでゲームセット。

 

「まぁそんないるかどうかも分からない可哀想な変態のことについてはさておき、貴様への命令を考えねば」

 

(早く終わらないかしら)

 

このあと先生を招いての会合があり、上に立つ者として彼を迎える準備もある。こんなところで時間を食っている暇はないのだが。

熟考するマコト、上の空なヒナ、欠伸をするイロハ。

 

「あ、クレヨン飛んでっちゃった!」

 

お絵描きに熱心なイブキ。

使う色を変えようとして、誤ってヒナの足元にクレヨンが転がってきた。

 

「ヒナ先輩、取って〜!」

 

「む、これはいかん。空崎ヒナ、“取ってやれ”」

 

「えっ」

 

「“了解”」

 

「あっ」

 

折らないよう拾い、駆け寄ってきたイブキへ優しく渡す。

何もおかしな点などない、極々自然な微笑ましい光景。

ただ一人やらかしたよこの人、と赤モップは頭を抱えているが。

 

「ありがとう先輩!」

 

「どういたしまして。今は何を描いているの?」

 

「おはな!」

 

「うんうん、上手いぞイブキ。さすがは我が万魔殿が誇る・・・む?どうしたイロハ」

 

「・・・ご自身の発言を今一度振り返ってみてください」

 

「どうしたイロハ」

 

「もっと前です」

 

「上手いぞイブキ」

 

「前」

 

「取ってやれ、空崎・・・ヒナ・・・」

 

「今回我々が提示するのは?」

 

「空崎ヒナがなんでも一つ、私の命令を聞く・・・」

 

自分がどんなミスをしたのか、諭されることで彼女は理解した。

 

「あ、な・・・っ」

 

あの一瞬、ただクレヨンを拾い上げるだけの一瞬に、今回の権限を使ってしまったのだ。

 

「は、謀ったなあ空崎ヒナァ!!」

 

「なんのことよ」

 

「とぼけるな!ぐ、うおぉ・・・せっかくの、せっかくの命令権が水の泡にぃ・・・っ!」

 

地に頭を擦り付け本気で悔しがるマコトを尻目に、では私はこれでと冷めた態度で部屋をあとにしようとするヒナは、去り際にイブキへ『今度お礼にプリンをご馳走するわ』と言い残していく。

 

「の、ノーカンということには・・・いや、しない!それはイブキの厚意を否定することに繋がる!」

 

「見て見て、マコト先輩!紫色の薔薇と、マコト先輩を一緒に描いたの!」

 

「おおっ、また傑作ができたなイブキ。イロハ!新しい額縁と絵を貼るスペースを確保しろ、大至急だ!」

 

「はいはい」

 

「キキッ、イブキの金賞間違いなしの絵を見れたのだ。空崎ヒナへの命令権など・・・など・・・」

 

やっぱり少し悔しいんじゃないですか。

我慢する上司の手前、流石に口に出すのは堪えるイロハであった。

 

 

 

********************

 

 

 

彼が亡くなってからも、ベアトリーチェを打倒してからも、秤アツコは生き続けている。

 

大きな穴を抱えて、ただ心臓を動かしている。

 

(先生は優しいね)

 

憎しみと憤怒を教え込んだ女が姿を消してから、アリウススクワッドの生活は変化した。

追われる身なのは変わらないが、以前よりさほど周りの目を気にすることなく街を歩けるようになったのである。

救済してくれた、尊敬する大人の温かみを思い出し、未だ自身に空く穴からその温みを垂れ流しながら、彼女は大通りを進む。

 

今の自分には何かが欠けている。

 

その『何か』の正体に気づかないほど、秤アツコは疎くない。

 

(カナエ・・・)

 

自然と彼を思う。

隣にいるのが当たり前で、そんな日常がたまらなく愛おしくて。もうあの頃には戻れないと何度も自覚するたびに、自分が自分ではなくなる。

ぽっかり心に空いた巨大な空洞、それを埋めるための術を、今の彼女は持ち合わせていない。

時間が解決するだろうが、彼との思い出が風化するようで嫌だった。

まだ顔を思い出せる。声も、背格好も、熱も、消えずに脳裏と体に焼きついている。

片時も忘れたことはない彼のこと、それがいずれは消えてしまう。

 

乗り越えたくない。

彼の死を、受け入れたくない。

奇跡を夢想して、それは幻想だと自覚する。

皆の前では平気を装っているが、ただ痩せ我慢しているに過ぎない。

 

彼の作った傷が、蒼井カナエという名の傷が、秤アツコの根底に深々と刻まれていた。

 

夜はミサキとヒヨリが寝てから、心配させないように一人トイレの中で泣く。

無理して笑い、喋って、話を合わせる。普通の秤アツコを、頑張って演じる。

繰り返し、繰り返し、その行程を周回するごとに、心が壊れていくのがわかった。

 

(ううん)

 

心なんて、彼が死んでからとうに砕けていた。

あの日、彼の死を知った時のことをよく覚えている。

スゥッと脳の中が真っ白になって、体温がマイナスになり、手足が震え、悲しみよりも先に空虚が心臓を満たした。

氷点下に晒され心は凍てつき、亀裂が入り、音を立てて粉々に砕ける。

 

もしかしたら彼は生きているかもしれない、何食わぬ顔で花屋をやって、屈託ない笑いを客へ向けているかもしれない。

そういう希望に縋りたくて、一度ゲヘナ郊外を訪れたのだが、そこには既に更地になった空き地があり、少年と少女が暮らしていた痕跡は綺麗さっぱり無くなっていた。

 

貰った青い薔薇も枯れ、虚しさだけがアツコに残る。

 

(痛いよ、カナエ)

 

悲しみは収まっても、この傷が完全に癒える日は恐らくこないだろう。

それは彼が己の中で生き続けることではあるが、果たしていつまで痛みに耐えられるだろうか。

今ならミサキが自傷するのも解る気がする。

 

しかし、死ぬのは違う。

 

そんなことをすればサオリ達を、何よりカナエを悲しませることになる。

彼から貰った命を無駄にはしない。

生きて、生きて、生き抜いて、天寿を完うして空の上で少年と会う。

そうすることが恩返しに繋がることはわかっている。ただ、今は気持ちがそれについていかないのだ。

 

「・・・」

 

過去を振り返ることは、傷を抉るのと同義。

故に空洞は埋まらず、少女は生気の抜けた亡霊のようにただシラトリ区の街中を彷徨う。

 

(そろそろ帰らないと)

 

あまり遅いとミサキとヒヨリが心配する。

アツコは現在拠点としている場所へ帰るべく、人気のないところを通りそこへ向かおうとした。

 

(あれ?)

 

そして、見つける。

 

(こんなところに、あったかな)

 

彼女の目を惹いたのは、大通りの一角にひっそりと佇むとあるお店。

まだ看板は真っ白で、開放されたドアから見える店内に商品は置いていない。

開店に向けて準備中なのだろうが、アツコは内装からしてどんな店が出来上がるのか想像がついた。

 

(お花屋さん)

 

店頭の商品棚、ジョウロや霧吹き、スコップなどの小道具、土の入った麻袋。

どれも一ヶ月過ごした家にあったものと酷似するラインナップだ。

 

(少し、気になるかも)

 

なぜか早り脈打つ鼓動に促され、彼女はマジマジと店を見つめ、近づき、ダメだとわかっていながらも中に入ってしまった。

構図としては指名手配犯が不法侵入中なわけだが、当の本人はそんなの知ったことではない。

室内に花の匂いは漂っておらず、壁を塗装したペンキとシンナーの匂いが微かに残っている。鼻には少々キツく、むぐぐっと顔を顰めた。

 

「カウンターに、商品棚・・・」

 

ここに住んでいたわけではないのに、妙な懐かしさが込み上げる。

場所も違えば装飾も違うのに、どうして。

 

「誰かいるのか?」

 

「・・・っ」

 

家主だろうか、カウンターの奥からコチラへ歩いてくる。

咄嗟のことで驚いて、急ぎ店を出ようと身を翻すが、踏み込んだ箇所にブルーシートが敷かれており、足を取られてしまった。

 

(まず)

 

まずい、と思ったがしかし。

足裏は地面から離れ、背中から後ろに倒れるのはもう止めようがない。

ああ、なんかデジャヴ、と呑気に思いながら、アツコは目先に天井を捉えて見事に転けた。

 

 

 

転ける、はずだった。

 

 

 

「あぶなっ!」

 

固い地面ではなく、部屋の整備に使っていた道具類を蹴散らし滑り込んできた誰かに抱き止められた。

 

「いってえ・・・くそ」

 

少年の、声。

 

それには聞き覚えがあって。

 

身体を支えてくれている両手には黒いグローブ───ちょうど、アツコがしているものと似た、というよりも同一のもの。

胸板の厚さ、抱き抱える力加減、消えず残っていた肌感。

 

(なんで、なんで)

 

他人の空似、にしては類似点が多過ぎる。

もしかして、まさか、いやありえない、でも本当に?

頭の中をグルグルと、信じたい気持ちと夢を見るなという否定の気持ちが駆け巡る。

 

「おい、大丈夫か」

 

恐る恐る、少女は自身を助けてくれた人の顔を伺うべく視線を上げた。

黒い髪、黒い瞳、右目は眼帯に覆われており、最後にあった時よりも若干痩せ気味だろうか。

 

「ぁ・・・っ」

 

砕けていた心がゆっくりと、再構築されていく。

間違いない。

間違うはずがない。

間違ってなるものか。

今自分の目の前にいるのは、紛れもなくあの少年だ。

 

「カ・・・」

 

名前を出すのが怖い。

もし違ったらという不安が先行し、少女を躊躇わせる。

けれど、言わなければ。

もうどこへも行かせないためにも、

 

「カナエ・・・っ」

 

愛しき3文字を、告げる。

 

 

 

 

 

 

「・・・?悪い、どこかで会ったか?」

 

 

 

 

 

 

「───ぇ?」

 

再び、心が砕ける音がする。

 

 

 




Blue Rose:青い薔薇
花言葉:不可能

ただいまより対鬱訓練を開始する‼︎
この感覚を体で覚えろ!今散布しているのは31%の曇らせだ。心配するな、計算上死ぬことはない!
ただし...純愛とハッピーエンドを求めたやつほど苦痛は続く‼︎

眼帯キャラって良いですよね。ロックオン・ストラトスとか好き。
もう少しだけ続くんじゃ...蛇足感は否めませんが。
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