【完結】少年が秤アツコの傷になるまでの話。   作:\コメット/

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コメント欄でノクトや直哉、デンジくんに夏油くんも生えてて草なんだ。


11 Blue Rose(2)

 

 

時間が止まった。

 

彼が何を言っているのかわからなくて、ショックでアツコの中の全てが凍結した。

 

『悪い、どこかで会ったか?』

 

脳が、思考が、肺が、呼吸が、愛してやまない少年の、ひどく他人行儀な声により微動だにしなくなる。

受け入れられないと、体が拒否する。

 

「おい、おーい、聞こえてるか?」

 

目を見開き、何も言わなくなってしまった少女に少年は無遠慮に声をかけた。

 

(やめて、やめて・・・っ)

 

そんな声音で、話しかけないで。

 

いつも聞いていたカナエの声とそっくりそのまま同じ。しかし、本当にこちらのことを知らないのだろう。その心配は秤アツコに対してのものではなく、赤の他人に向けてのもの。

 

揶揄いであって欲しかった。

日常的にイジってくる自分に対して、意地の悪い報復でもしているのかと思ったし、願った。

だが違った。

今目の前にいる少年は蒼井カナエであっても、彼女の知る蒼井カナエではない。

 

「・・・ごめん、なさい。知人と似ていたから勘違いして・・・勝手に入ったのも、謝る」

 

振り絞るように、アツコは不法侵入と手を煩わせたことへの謝罪をする。

一度、頭を整理するためにも場を離れたくもあったのも理由の一つだが。

 

「いいって、そんな畏まらなくても。立てるか?」

 

「あ、うん・・・」

 

手を差し出され、握り、立ち上がる。

 

(カナエなのに・・・)

 

いつか夢見ていた再会、手話を介さないでの日常会話。

これらは少女が望んでいたものではあるが、現在望まない形で実現している。

 

「まぁこれもなにかの縁だと思うか。近いうちに店を開くから、暇なら寄ってくれよ。泥棒とかそういう理由で入ったわけじゃないんだろ?」

 

アツコは頷く。

それを見て少年もまた首を縦に振り、

 

「来てくれたらサービスするよ。といっても、花屋だから食べ物じゃないんだけどな」

 

「・・・知ってるよ」

 

「え?」

 

「なんでもない・・・それじゃ」

 

「ああ」

 

背を向けて、建物を出る。

 

「───綺麗な子だったな」

 

ボソリと呟く少年の声は、もちろん少女には届かない。

すぐに人混みに混ざり、それらも抜けて人気のない場所へアツコは向かう。

ゆらりゆらりとおぼつかない足取りで、彷徨うように、ここなら誰も来ないであろう路地裏に着くと、彼女は顔をお腹と膝の間に埋めて蹲る。そして、堪えていたものを滲ませ、袖を濡らした。

 

「カナエ・・・っ」

 

生きていた。

 

生きていてくれた。

 

もうこの世にいないと思っていた大切な人が、再び自分の前に姿を見せてくれた。

 

「でも酷い、酷いよ・・・っ」

 

しかし、彼の生存を素直に喜ぶことはできなかった。

痛い。痛い。痛い。好きな人に、愛した人に誰だと問われたあの瞬間が、たまらなく痛くて、怖い。

治りかけていたカサブタを無理矢理剥がされ、その上抉られたような感覚に陥った。

 

「一生のトラウマになりそう・・・」

 

生存の安堵、他人扱いの恐怖で情緒もおかしくなるが、少女は後者を忘れるべく、そして今後のことを考えるために両頬を叩く。

先生が讃える通り、アツコは強かった。尤も、好きな人のために頑張れる女の子というのは、総じて強いものだが。

 

(順々にまとめていこう)

 

まず一つ目、どうして生きているのか。

死んでいなかったことは素直に喜ぶべき事実。ただ、記憶を失っていたことといいもしかしたら何か裏があるのかもしれない。

 

(まさか、彼女(・・)が一枚噛んで・・・ううん、それはないか)

 

あの日見たニュースの内容を信じる前提ではあるものの、彼は一時ゲヘナ学園で治療を受けていた。

公式で死亡発表をしたのは、大方ベアトリーチェから彼を守るための偽装工作だろう。

何より、アリウススクワッドから逆に襲撃を受けたあの女の様子は相当余裕がなく、いくら未知の技術力を保持する組織とはいえ関わりは薄い、いや無いと考えるのが今は妥当だ。

少し脱線したが、カナエはゲヘナ学園で身柄を保護され命を助けられた、ということでいいだろう。

 

二つ目、どうして記憶を失っているのか。

 

(あの、眼帯)

 

間違いなくあの右目が関係しているに違いない。

ニュースでは頭から血を流して倒れていた、とボカして報じられていたが、実際は右目からの大量出血。失明し、眼球を摘出しなければならないほどの、重体だった。

主犯はベアトリーチェ、そして使ったのは拳銃、としておこう。

銃弾は眼のみならず脳にまでダメージを与え、記憶障害を引き起こした。

 

(どれもこれも仮定だけど、いくつかは当たってるはず・・・どのくらい記憶を失っているか、どうして花屋をまたやろうとしているのかは、全然わからないけど・・・)

 

調査を繰り返していけば、自ずと分かること。

再会によって回復した気力を振り絞り、アツコは未来を見据えて立ち上がる。

 

「絶対、カナエの記憶を取り戻す」

 

そのためにはどうすればいいかを考えるべく、知恵を求めて少女はミサキとヒヨリの待つ拠点へ戻ることにした。

 

 

 

********************

 

 

 

蒼井カナエは生きている。

 

空崎ヒナが追撃を許さず、氷室セナが花屋の場所を予め把握していた結果、予定よりも彼を搬送するのが早まった。

手術は長時間に亘り、救急医学部総出の尽力によってなんとか一命を取り留めるも未だ意識不明。

更に生きているのが分かれば例の女が再度やってくるかもしれない。

ヒナはそれを危惧し───返り討ちにするのは簡単だが───少年は死亡と公式では発表。以降は秘密裏に、ゲヘナ上層部と他校の一人の生徒のみが彼の存在を把握するに留まる。

 

「そっか、じゃあ蒼井くんは無事なんだね」

 

ゲヘナでの会合、シャーレの先生を交えた話し合いの場で、ヒナはそのことを打ち明けた。

 

「ええ、もう現場にも復帰しているわ。・・・ただ、問題があって」

 

「問題?」

 

「記憶障害、ですね」

 

第三者の割って入る声。

鈴の音のような美声に次いで、優雅にティーカップの置かれる音が鳴る。

亜麻色の長い髪、白を基調としたトリニティ上層部の制服、純白の翼、優しげでそれでいて凛とした瞳。

トリニティ総合学園生徒会ティーパーティーのホスト、桐藤ナギサ。

彼女が例の他校の生徒であり、今回の秘密を共有する関係者だ。

 

「まさかナギサも関わっていたなんて。この前会った時に教えてくれればよかったのに」

 

「ふふふ、すみません。しかしそういう訳にもいかなかったのです。打ち明けるのはこうして三者が揃ってから、というのが風紀委員長との約束でしたので」

 

「ナギサ、その節はどうも。もし協力が得られなかったら、きっとカナエは助かってなかったと思うわ」

 

「いえ、私も彼の先代・・・お祖父様とは親しくしていましたので、少しばかりの御恩を返したに過ぎません。どうかお気になさらず」

 

桐藤ナギサが手を貸したのは主に二つ。

一つは、救護騎士団の派遣。外科のスペシャリストの揃うゲヘナ救急医学部ではあるが、カナエほどの重症者を扱うのは稀だ。現場はセナが指揮していたものの少なからず混乱を見せ、バックアップのために蒼森ミネ率いる騎士団から数名、抜擢された。

おかげで彼は死ぬことなく、無事延命したのである。

二つ目は、蒼井カナエが目覚めてからの生活補助。

実はトリニティの店がミサイル被害により潰れた後、MiracRoseはゲヘナに移る際、親交のあったナギサからある程度支援を受けていた。

今回もゲヘナの店が全焼したのを見兼ね、彼女はポケットマネーとティーパーティーの運営資金からポンと復興費を出し、今度はシャーレも近くにある比較的安全なシラトリ区へ店を建たせたのだった。

 

「それで、記憶障害について詳しく聞いてもいいかな」

 

「・・・症状は芳しくないわ。付き合いのあった私とナギサのこともまるで覚えていないみたい」

 

「ご自身の名前、更にはご家族のことも記憶にないと。ただ、自らが花屋であり、その仕事内容は忘れていないらしくて」

 

記憶喪失からの回復、一生戻らないこともあれば、何らかがキッカケになり突然戻ることもあるという。

幸い彼は手に職をつけた人間であり、それを覚えている。普段の仕事環境にカナエを戻せば、何らかの行動がトリガーになり元通りになるかもしれない。

その可能性に賭けたヒナとナギサは、少年が病床から復帰した後に店を用意し、そこへ住まわせた。

 

「今回、私たちから先生へお願いがありまして」

 

「シャーレ近辺に店を構える彼の様子を気にかけて欲しい、かな?」

 

「話が早くて助かります。先生ほどではありませんが、ヒナさんと私は多忙故校外に出ることが難しいのです。この会合も、他のスケジュールを前倒しにしてようやく確保できた時間なので・・・」

 

かたやテロリストの鎮圧、何かとやらかす生徒会のお守り、不良の取り締まり、動くパンケーキの処理。

かたやお偉いとのお茶会、お転婆で騙されやすく面倒くさいお姫様の話し相手、学園内の統率、あまり顔を見せないわ一言多いくせに声の聞こえない生徒会長の代行。

今回時間を取れたのが奇跡である。

 

「休憩の際、散歩がてらでいいからカナエを見てあげて欲しい。すごく我儘なお願いなのは自覚してる。だけど・・・」

 

「そんな暗くならないで。大丈夫、引き受けるよ。生徒の頼みを聞いて、それに応えるのが私の務めだからね」

 

任せておきなさい。

自身の胸をトンと叩き了承する先生に、やはり頼りになると改めて器の大きさに惚れ込む二人。

 

「さて、お話もひと段落したことですし。先生、お時間の方は?」

 

「まだ余裕あるよ」

 

「それはよかった。どうでしょう、これから三人でお茶会でも。ヒナさんも問題ありませんか?」

 

「この会合のために時間は空けてきたから、大丈夫。たしか接待用のいい茶菓子があったの。取ってく」

 

 

 

「風紀委員長!!温泉開発部の連中が運動場に穴をぉ!!」

 

 

 

「ナギサ様ぁ!罰作業中のミカ様が雑草ではなくナギサ様が大切になされていた低木を!!」

 

 

 

ピキリ、ピシリ。

前者は白モップの額に青筋が浮かぶ音。

後者は手にかけていたティーカップにヒビが入る音。

 

「・・・ごめん、先生。急用が入ったわ」

 

「わたくしも、少々片付けなくてはならない案件が」

 

「あ、うん。頑張って」

 

両者共に表情に影と殺気を落とし、「タダジャオカナイ」「一ヶ月ロールケーキの刑ですね」と口にし応対室を出ていく二人を、先生は見届けるのだった。

 

 

 

********************

 

 

 

「これが、私の立てた仮説なんだけど」

 

カナエと再会したこと、彼が記憶喪失になっていたこと、その原因を自分なりにまとめた考察を、アツコはミサキとヒヨリへ話した。

現在、三人がいるのはトリニティ領内の空き家。逃亡生活中も使っていたセーフハウスであり、寝床やキッチンもあるなにかと便利な場所だ。

 

「・・・そっか、生きてるんだ」

 

「ひ、ひとまず良かった、でいいんでしょうか?」

 

「本当にひとまずだけどね。それで、アツコはどうしたいの」

 

答えは決まっているだろうが、確認のためにミサキは尋ねた。

 

「カナエの記憶を取り戻す」

 

「具体案は?」

 

「・・・なにか方法はないかな、二人の知恵を借りたくて」

 

「こ、こういうのって記憶が一生戻らないこともあるんですよね。もしかしたらどれだけ頑張っても無駄に終わっちゃうんじゃ・・・」

 

「「・・・」」

 

「ひいいいい!ごめんなさいごめんなさい!そうですよね、ネガティヴに考えちゃダメですよねすみません黙っておきますっっ!」

 

流石に空気読めよと二人に睨まれた気がしたヒヨリは、姫手製のおにぎりを頬張ってから口を閉ざす。

単に『考えたくないけどそういう可能性もあるよね』と二人は思っただけなのだが、悪い方向に考え早とちりするのがヒヨリの性格である。

 

「一番彼と接してたのはアツコなんだから、やっぱりアツコが彼と話さないことには始まらないと私は思う。調べたら、本人と距離の近かった人が献身的に介護すれば回復したって事例もあるし」

 

「そう、だね」

 

「怖い?」

 

「・・・うん」

 

今のカナエに会うのが、アツコは怖い。

他人扱いされ突き放されてしまえば立ち直る自信が無いくらいには、あの一言は心に効いている。

 

「でも、頑張る。自分の気持ちに嘘はつきたくないから」

 

「あまり無理はしないように。手伝えることがあれば、協力する・・・カナエには、うちの姫をキズモノにした責任を取ってもらわなくちゃいけないし」

 

「言い方」

 

「まさか二回戦をベッドで、しかも私たちがいる中でやり始めるなんて。おかげであの時あまり寝れてないんだから」

 

「わかった、わかったから。その辺にして、恥ずかしいから」

 

「姫ちゃん、声出さないように必死でしたもんね」

 

「やめてよぉ・・・」

 

フードを深く被り、茹蛸のように赤くなった表情を隠すアツコ。この際なので存分に揶揄っておこうと、共闘し姫君の羞恥度を上昇させるミサキとヒヨリ。

 

「と、とにかく。そういうことだから」

 

それが面白くないアツコは、開き直ったように声量を少し上げ、胸を張って見せる。

 

「ん・・・あぁでも、期限は明日まで。明後日には拠点を変えないとだから」

 

「わかった」

 

厳しい条件にも動じずコクリと頷いて、脳内でデモンストレーションを開始するアツコ。

自分の世界に入った彼女を他所に、ヒヨリはミサキに耳打ちをした。

 

「(さ、流石に短すぎるような。もう少し待ってあげても・・・)」

 

「(ここ、過ごしやすいから長居し過ぎた。そろそろ居場所を変えないと分校の残党やヴァルキューレに勘付かれる。そうしたら私たちどころかカナエにまで迷惑がかかるでしょ。それに)」

 

「(それに?)」

 

「(案外、アツコなら一日でどうにかするよ)」

 

お淑やか、溢れる気品、儚げで大人しそうな彼女は見た目と違ってアグレッシブで、行動力の鬼だ。

伊達に囮を買って出たり、単騎で敵陣に乗り込んだり、生活する中でカナエに子供の作り方を聞いたりしていない。

きっといい方向に向かうはずだと、ミサキは考える。

 

「一応、サオリ姉さんにも報告しておく」

 

「ですね」

 

端末を出し、現在別行動中のサオリへ電話をかける。

 

『もしもし、どうしたミサキ』

 

「お疲れリーダー、今暇?」

 

『少し待て。もうすぐ撮影が終わる』

 

「・・・撮影?」

 

『ああ。なんでもブラックマーケットの宣材写真を撮りたいのだと『さ、サオリちゃん、次脇、ぐふふ、もっと脇を強調して・・・』ん?こうか』

 

「・・・サオリ姉さん、それ騙されてる。撃っていいよ」

 

直後、電話越しに銃撃と断末魔が響き渡った。

 

 

 

********************

 

 

 

「ダメだ終わらん」

 

見知らぬ美少女との邂逅から一夜明け、少年───蒼井カナエは店作りに従事していた。

そして、終わりの見えない永遠とも思える作業量に絶望していた。

 

「見栄なんて張らず、ナギササマに手伝いを頼むべきだったか・・・」

 

カナエは男である。

空き家を与えられた際、数人店を作る手伝いのために派遣しようかと彼女から厚意を向けられた。

しかし、男であるからにはいくら記憶喪失中とはいえ特有の意地というものがある。

彼は女の子の前で格好付け、それぐらい一人でできる〜と言い放ってしまったのだ。

結果、待っていたのは地獄。一人で商品棚を作り、一人で壁を塗り、一人でカウンターを作り、差し入れも何もなく、カナエは記憶の断片と家具作成の説明書を頼りに孤軍奮闘を続け、ようやく半分まで見えたか?というところでふざけんな終わるわけねえだろと逆ギレして開き直っている。

 

(せめてもう一人いれば、分担して楽になるんだけどなぁ)

 

無い物ねだりをしても仕方がない。

そもそも自らが招いた災難なのだから、店のオープンが遅れど自分の力で片付けなければ。

とはいえ、休憩は必要。

カナエは予め買っておいたミネラルウォーターを手に取り、ナギサとヒナから記憶を取り戻すきっかけになればと渡された端末、その中に入っている写真に目を向けた。

 

「これが俺の祖父さんねえ」

 

まだティーパーティーのホストではない頃の、初々しさの残るナギサの隣で優しく花の世話について教えている、自分の祖父らしい男。

離れたところで懸命に教わったことを実践している中等部ぐらいの少年が、自分か。

ヒナから貰った写真には、スイートピーの花束を抱えた少女を中央に、祖父とカナエが傍らに立って撮られた風紀委員長就任祝いのもの。

どちらを見てもてんで記憶にないが、祖父が二人と親しい間柄であり、同時に人柄の方も出来た人なのだろうと推測できた。

 

(俺の、お祖父ちゃん)

 

何かが引っ掛かる。

別に彼が本当に祖父なのかと疑いを向けているわけではない。

ただ、自分はこの老人と生活していたことになるのだが、そこで重要な、使命のようなものを与えられたような気がするのだ。

それは何か、とすぐに思い出せるほど記憶喪失は甘くない。

喉にも出かからず、彼の根底を作り上げた過去の情景は火種の時点で鎮火された。

 

カナエは重体から回復した頃、セナやミネから自らに起こっている異常を説明されても、別に記憶を失ったままでいいと思っていた。

 

親しい友人であり先輩だったヒナやナギサのことを忘却したのは悲しいことではあるものの、生きるための生活術や花屋としての蒼井カナエは失われていない。

また新たなスタートを切って、違う自分として再出発すればいいと楽観視していたのだ。

 

だが、昨日。そう、昨日だ。その考えを一変させる出会いがあった。

 

とても美しく、可愛い少女だった。

ヒナとナギサも相当の美人ではあるが、なんというかあの不法侵入の少女の容姿は、彼に刺さった。

薄紫色の長髪を二つ縛りにした、幸薄げで儚げな美少女。赤い瞳は宝石のようで、見たものを吸い込んでしまうのではないかと思える魔性の輝きを放っていた。

 

(同い年ぐらいか?・・・人違いって言ってたけど、あの様子からしてそれはない気がするんだが)

 

泣きそうな顔をしていた。

両目は潤み、今にも涙が溢れてしまいそうだった。

その理由を問うことを、彼はしなかった。できなかったの方が正しい。

可愛かったとはいえ勝手に店に入ってきた事実が先行し、客として今度は迎えると言って遠回しに彼女を避けた。

あの行いは正解だったのか、これだけ悩むのなら、恐らく不正解だったのだろう。

 

(もし、もう一度あの子と会えたなら)

 

聞いてみたい、キミは自分の何なのかを。

知ってみたい、キミ自身のことを。

 

「・・・さぁて、なら迎えるためにも、完成させなくちゃな」

 

「誰を迎えるの?」

 

「そりゃ勿論、来てくれーって約束した子に決まって・・・」

 

待て、俺は誰と話している。

ギギギッと声のした方を向くと、そこにはあの少女がいた。

こちらの顔を覗き込むような上目遣いで、ジーッと視線を合わせてくる。

 

「おはよ」

 

「おはよう・・・もう来たのか。けど悪い、まだこの通り、店ができてないんだよ」

 

「でも昨日よりは進んでる。頑張ったんだ」

 

えらいえらい、と自分よりも身長の低い少女に撫でられた。

普通なら払い除けるが、存外悪い気はしないし、何より大事な客を無下には扱えない。

 

「あとは看板と商品棚の設置と掃除ってところかな」

 

「まぁ、な。掃除が一番面倒くさいけど。整備で出たゴミもまとめないといけないし。というか、よく一目見てわかったな」

 

「以前、お花屋さんに住んでたことがあったから。その内装と比べれば、何が足りないかは分かるよ」

 

「特殊な経歴だな・・・今日はどういったご用件で?お客さん」

 

見ての通り花は無いぞ、と両手を広げて作業の進み具合をひけらかす。

すると、何を考えたか少女は店に入り、箒や塵取りといった掃除道具を持ってくる。

 

「おい?」

 

「手伝うよ」

 

「そんな、悪いって。これぐらい一人で」

 

「そうやって見栄を張ったせいで、作業が滞ってるんじゃないの?」

 

「・・・」

 

図星で何も反論できず、声を詰まらせるカナエ。

だと思った、と少女はため息を吐き、得意げに慣れた手つきで箒を扱いながら、言った。

 

「お店に住んでた時、いろいろ仕事を手伝ってたから要領くらいは分かるよ。昨日勝手に入った謝罪も兼ねてってことで、どう?」

 

「どう?って言われても。断ってもどうせ意味ないだろ?」

 

「よくわかったね」

 

「そんな気がしただけだ。───なら、お言葉に甘えさせてもらうよ」

 

「よろしい」

 

「俺は蒼井カナエ。絶賛記憶喪失らしいんだが、昨日の様子からしてキミは俺と面識があるだろ?なんていう名前なんだ?」

 

「アツコ。秤アツコ。カナエとの関係を話すのは簡単だけど・・・私としても話したいけど」

 

「なんだよ」

 

「記憶を取り戻す手助けはする。でも、ちゃんと思い出すのはカナエ自身の力でやって欲しい」

 

なんでそんな遠回りなことを、と言わないが顔に出した少年を見て、アツコは少々不機嫌に。

 

「女の子に言わせちゃいけないことがあるの。だから、自分でキッカケを見つけて。頑張って」

 

「・・・はぁ、わかったよ」

 

見た目とは違い、童話のお姫様のようにお転婆で、猫のように愛くるしい少女だと、カナエは思った。

 

 

 

 

 




Blue Rose:青い薔薇
花言葉:可能性

個人的に、少し蛇足かなとは思っています。なので、一応の最終回は09ということで。

次回で本当の本当に最終回です。もう暫く、お付き合いください。

そして誤字報告感謝・・・ごめんミカ。
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