【完結】少年が秤アツコの傷になるまでの話。 作:\コメット/
苦味のあとは甘味と、相場が決まってるのですわ。
そして、一体いつから番外編は水着回だけだと錯覚していた?
シラトリ区の大通りの一角にひっそりと、その店は営業している。
名を『MiracRose』
ミサイル爆破に巻き込まれ、お次は三流エセ教祖に燃やされたりと災難続きなこの花屋は、トリニティ、ゲヘナと続いて移店改装三回目である。
「そろそろ店閉めるぞー」
おまけに店主は右目失明により眼帯を付ける15歳の少年に、
「わかった。外の商品、中にしまうね」
従業員はエデン条約締結式を襲った元テロリスト、アリウス分校の元姫君という中々のツーアウトぶり。
時々二人増えるアルバイトも数えれば、ストライクカウントは二つ。時々もう一人加わるので実質スリーアウトなのだが、薄氷の上にいることも気にせず、揚々と店は繁盛している。
「手伝うよ」
「ありがと」
同じエプロンを着た男女は、それぞれ共同で役割を果たす。
最後に残った物を少女が運ぼうとすれば、それを少年が「持とうか?」と聞いて、「大丈夫」と返した。
「これで全部だな。シャッター閉めるよ」
「うん」
近隣住民に迷惑をかけないようゆっくりと、大きな音を立てずに、店口は閉鎖される。
「今日もお疲れ」
「カナエも、お疲れ様」
二人して仕事用に使っていた黒い手袋を外せば、覗くのは薬指で銀色に輝く指輪。
最初は妙に照れくさくて、見るたびににへらっと締まりのない笑みを浮かべていたバカップルだが、今ではその存在にすっかり慣れた。
幸せの時間は、更新されているが。
「俺は店の掃除と洗濯物取り込むから、アツコは飯を頼む。今日はサオリ姉さんも来れるってさ」
「うん、任せて」
少年が笑いかけると、少女もまた微笑み返す。
これが、二人の手に入れた日常の一幕。
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「こっち終わった。何か手伝えることあるか?」
「なら、レタスを千切って欲しいな。サラダに使うから、サニーレタスも」
「りょーかい」
今日はシチューのようで、クリーミーな良い香りがカナエの鼻と空腹を刺激する。
言う通りに冷蔵庫の野菜室から普通のレタスと、色の違うサニーレタスを取り出し机の上で適当な大きさに千切ってはボウルに入れる作業に取り掛かった。
家事は分担でやっている。朝食と昼食はカナエが作り、夕食はアツコが担当。
花屋の方も一ヶ月ゲヘナの店で彼の店頭での立ち姿を見ていた彼女は仕事内容を殆ど把握していたので、即戦力へ。
いつの日かに二人が約束していた、二人で花屋を営むという夢は、今こうして実現している。
「プチトマトと、朝作ったポテトサラダも出しとく」
「お願い」
「そういえば、今日客の子供と話してたけど」
「え?───ああ、うん。私のこと、綺麗だねって言ってくれて」
「ふーん」
「僕のお嫁さんにしても良いよーとか」
「・・・ふーん」
「ふふっ」
目に見えて不機嫌になったカナエに、アツコは吹き出す。
「それで私は『もうあの人のお嫁さんだから、ごめんね』と返したのでした。大人気なかったかな」
「好き」
「あうっ。もう、火を使ってるんだから」
危ないでしょう?と後ろから抱きついてきた少年に、少女は全く仕方がないと呆れながら、けれど幸せそうに彼を受け入れる。
「ヤキモチ妬いたんだ、珍しい」
「・・・ガキっぽいか?」
「まだまだ私たちは子供だよ。先生みたいに誠実で、正しい大人にはほど遠い。でも、そうだね。愛嬌があっていいんじゃないかな」
「早く大人になりたいな」
「なれるよ、いつかは。それまで一緒に頑張ろう」
さぁ、お皿を出して。
腕を解き、少女はシチューの仕上げへ。少年は人数分の食器を棚から取り出しに行く。
「サッちゃんの分もね」
「わかってる。一週間ぶりか?姉さんも交えての夕飯なんて」
「最近お仕事が忙しいらしいから。用心棒の依頼で、どこかの団体に雇われてるんだって」
「また騙されてないといいが」
ブラックマーケットを拠点に活動していた際は、足元を見られて只働きも多かったという。今はそれなりに給金を貰えているようだが、いかんせん暗い仕事なので心配だ。
錠前サオリという最強の傭兵への不安は一切ないけれども、世間知らずな一面については常にスクワッド共々不安視不可避。
若くして店を経営するカナエには、子供ながらそういった契約面への知識が備わっているので、不当な取引に巻き込まれているようなら力になれるだろう。
「カナエ、味見して」
「ん・・・いいな。また腕上げたか?」
「色々勉強してるから。───ね、今日は食後のデザートは有り?無し?」
「無しかな」
「ダメ、有りって言って」
「そんなこと言って、昨日もだったじゃないか」
「お願い」
「・・・はぁ、わかったよ。我儘な姫さんだ」
「ふふふ」
「ただいま」
先生の手配により現在連邦生徒会でアルバイト中のミサキ、帰還。
仕事による疲労と目の前で行われているだだ甘空間を直視したおかげで、目の光は逝った。
「あ、ミサキ。おかえりなさい」
「おかえりミサキ姉さん。なんだか疲れてるね」
「・・・半分は二人のせいなんだけど」
なして?と首を傾げる新婚二人に、わからないならいいよと手で制す。
「た、ただいま帰りました・・・今日はシチューですか!?」
「ヒヨリもおかえり。もうすぐ出来るから、着替えてきて」
「はい!」
ヒヨリも帰宅。彼女もミサキと同じく、連邦生徒会で雑用として働いている。
「・・・ごめん、ちょっとソファで休む」
「飲み物出す?」
「いらない」
「そっか」
ふらふらリビングへ向かうミサキに余程疲れてるんだろうという労りの視線を向けたのち、であれば急いでご飯を食べさせなくてはと作業のスピードを二人は上げた。
(・・・空気が甘い)
往年のOLのような雰囲気で黄昏る少女、戒野ミサキ。
彼女はある悩みを抱えていた。
それは、家主と姫の新婚夫婦がバカの付くほどにラブラブなことにある。
あらゆる障害と困難を乗り越えて、カナエとアツコは結ばれた。
それを祝福はすれど、非難はしない。少なくともミサキは今でもそういうスタンスである。
だが、毎日人目を憚らずイチャイチャする夫婦を見て彼女は、まるで溶け込まない量の角砂糖を入れられたコーヒーをがぶ飲みさせられている気分に陥った。
(おまけにさっきのやりとり・・・)
デザートは有りか無しか、という問答。
あれは『夜シます?シません?』の確認だ。
最近気づいたことなのだが、デザートが出る日はいつも上の階から少しの物音と色気立った声が聞こえてくる。
YES,NO枕ではないのだから、心底やめて欲しい。
ヒヨリはもう慣れたらしいが、ミサキは慣れていない。夜は耳栓必須である。
しかもここのところ毎日デザートが出ているので、即ち毎晩ハッスルしていることになる。
体力底無しか?
とはいえ、口には出さない。なぜなら居候させてもらっている恩義があるから。
『私、カナエと暮らす。二人も住んでいいって』
『『??????』』
カナエの記憶が戻った日の翌日、昨夜はお楽しみだったのかテッカテカ且つ首元と鎖骨あたりに何個もキスマークをつけて二人の前に姿を現したアツコ。
情報量が多く訳がわからなくて、レッドウィンターへ行くための荷物をボトリとその場に落としたことは、今でも覚えている。
(最初はなんて無茶で無謀な、なんて思ったけど・・・意外とどうにかなるものなんだ)
自分たちがいればカナエに危険が及ぶ。
撃たれ連れ去られ、撃たれ記憶を失い、とロクな目に合ってない彼からの提案だ。信じる方がどうかしている。
だが、今は何不自由なく、何のトラブルもなく、文字通り平和で平穏な毎日。辛かった日々の感覚も徐々に薄れ、戦闘感が鈍ってしまわないか不安になるくらいだ。
(やっぱり、あれが効いてるのかな)
店頭に貼られた、三つのシール。
『シャーレの先生行きつけ!』
『ナギサ様も認めた!』
『ヒナ委員長も来ます!』
最後の威圧感が半端ないが、機能しているなら今後とも名前に縋らせてもらおう。
この、キヴォトス全土を見回しても絶対に敵に回したくない勢力のうち三つの保護下にある店に手を出す輩など、余程の阿呆でもない限り存在しないのだから。
イベントというか事件というか、サオリと三者が店を訪れるのが被った際はまさに修羅場だったが、何やら話し合いとサオリの謝罪によって丸く収まったらしい。先生やカナエの手前、ヒナとナギサは強く言えなかったのもあるだろうが。
そこで先生から、時々当番じゃなくてもシャーレに顔出さない?と誘いを受け、ミサキとヒヨリは花屋のバイトをする時もあれば連邦生徒会の方で業務を貰うようにもなった。
(何はともあれ、カナエには感謝しないとね)
三人が住むと決まってすぐ、カナエは二階建てだった店を三階建てへ改装した。なんでも大工技術も祖父から教わっていたそうで、花屋を辞めても充分食っているだけのスキルはあるのだと。
二階に台所、リビング、ヒヨリとミサキの寝室。三階がカナエとアツコの寝室となっている。
「着替えてきました!」
「お疲れ。はい、これヒヨリ姉さんの分」
「ありがとうございます!」
ヒヨリもネガティブで図太いアイデンティティを忘れ、今では毎日のご飯に尻尾を振るポメラニアンと化した。
環境は人をこうもあっさり変えるらしい。
「あ、あの、おかわりってあります?」
訂正、あまり変わらない。むしろ贅沢に浸るおかげで図太さはより洗練された。
「たくさんあるから安心して。サッちゃんの分は残しといてね」
「今日リーダーも来れるんですね〜」
えへへ、と締まりのない笑顔。腹回りも締まりがなくなってきたが、指摘したら泣くのでグッと堪える。
「ミサキ、できたよ」
「・・・ん、ありがと」
ピンポーン
「あ、サッちゃん来たね」
「俺迎えてくるよ」
ちょうどシチューを盛り付けている最中なので、ここは自分がとカナエが客人の出迎えへと向かう。
階段を降り、玄関へ。
「おかえり、サオリ姉さん・・・んえ?」
「ただいま、カナエ」
確かに、ドアの前にいたのはサオリだ。抱えるフルフェイスのヘルメットが何かは気になるが、今は追求しない。
彼女には連れがいた。
黒髪に黒縁メガネ、白い袖の余る制服を着た好青年。
「先生っ、こんばんは。お疲れ様です」
「こんばんは、カナエくん」
連邦生徒会シャーレ所属、キヴォトスの生徒全員の先生だ。
「さっきそこで出会したんだ。私はいいと言ったんだが、ここまで送ってくれてな」
「女の子がこの時間に出歩くのは危ないからね。お店の様子も見たかったから・・・どう?最近は。不自由無いかい?」
「お陰様で、平和にやらせてもらってます。これから夕飯なんですけど、先生もどうですか?」
「いやいや、せっかくの家族団欒に悪いよ」
「そんなことない。だろう、カナエ」
「そうですよ。アツコー!先生来てくれたんだけど、シチューまだ余ってるかー!?」
『余ってるー』
「ってことで、どうぞどうぞ」
「なら、お言葉に甘えさせてもらおうかな」
憧れだった幸せに、当たり前になった幸せに、毎日感謝して、噛み締める。
一人の少女の救済から始まった物語は、その果てにもう三人の救済へと繋がっていた。
この日々が永遠に、命尽きるまで続きますようにと願いつつ、時は流れていく。
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『あっ、カナエ・・・そこは・・・ひんっ』
ギシッ、ギシッ
(・・・寝れないっ!)
早く子供でも出来て落ち着いてしまえと、ミサキは思った。
begonia:ベゴニア
花言葉:幸福な日々
《〇〇→カナエ》
アツコ:好き、大好き、愛してる、夜は立場が逆転してアヘアヘ言わされてる
サオリ:弟分。家族。幸せになって欲しい
ミサキ:弟分。恩義はあるし大切な存在だが、今日もコーヒーが美味い
ヒヨリ:年下なのに兄が出来た気分。ただ、姉さん呼びにご満悦
先生:本当に未成年?と疑ってる。良い子だし気が利くし、晩酌も付き合ってくれるので有難い。カナエはジュース
ヒナ:今でもお得意様。アリスクメンバーとも普通に話す。あの時交わしたカナエとの契約上、時々部屋の花を手入れしにくる際は茶菓子を用意している
ナギサ:中々会う機会は無いものの、時々ロールケーキを土産に顔を見にくる。
便利屋68:高収入が入った時に花を買いに来る。生きてて良かったと社長と課長は思っているとか
万魔殿:ヒナに負けじとマコトが買いにくる。まだアリスクメンバーには唸っている(マコトだけ)
補習授業部:カナエの顔を見た瞬間、安堵と同時に泣き崩れた少女がいたとか。暇な時は頻繁に遊びに来る
セナ:また怪我をしないか顔を見に来る
???:クククッ、サービス良いですね
まだ書けることあったら書きたいとは思っとります。
2024/07/02/18:00
R-18投稿します。