【完結】少年が秤アツコの傷になるまでの話。   作:\コメット/

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お久しぶりです。アツコのメモロビで無事浄化されました。



番外編2:Sheside outside(1)

 

 

青い空、炎天直下の道を、一台の車が走っている。

 

「わぁ...!」

 

海沿いの湾岸線から、見渡す限りのコバルトブルー。

三つの自治区のちょうど境目になっている街を抜けた先にある、白い砂浜の更に奥にこれでもかと広がる一面の海に、アツコはたまらず感嘆の声をあげた。

 

「海、初めて見た...すごく綺麗。ずっと遠くの地平線までくっきりと...」

 

「今日は天気も良いし、ほんと遠くまで見えるな」

 

彼方の離島まで、目を凝らせば微かに観測できた。

助手席に座るアツコの隣、運転席で車を操縦しつつ景色の方を横目で見るのは、カナエ。

祖父のお下がり軽トラはどこぞの三流エセ教祖が起こした火災で逝ってしまったので、これはレンタカーである。

 

「泳いだりするのも初めてだったりするのか?」

 

「うん。カナエは?」

 

「小中で水泳の授業があったから初めてじゃないけど、実は海って行ったことなかったんだ。殆どがテレビ越しでさ」

 

そもそも、その時期は花屋の仕事を覚えるために休み返上で勉強に没頭していたので旅行等には興味が向かなかった。

だから、こうして生で潮風を感じ、景色を堪能するのはとても新鮮だったりする。

 

「なら、初めての海を満喫しないとね」

 

「だな」

 

青空をバックに、柔らかく微笑むアツコ。

 

(魅入ってしまう...)

 

運転中なのを忘れてしまいそうなほど、彼女は美しく可憐だ。

 

折角の夏ということで、海へと駆り出したカナエ達。

アウトロービーチと呼ばれる、ヴァルキューレの手が及びにくい砂浜で遊ぼうという計画だ。

ヒナやナギサ達とは和解したものの、世間から見たアリウススクワッドは未だ指名手配犯。なので、そのリスクを考慮しての選択である。

ヘルメット団主催のお祭りも開かれるということで、二人のテンションは軒並み高い。

 

「風、気持ち良いね...どうしたの?ジッと見て」

 

今日のために買ったという水着。

全て白で固められており、大きなキャペリンハット、フリルのついたビキニ、上に薄手のローブを羽織ったコーディネート。

普段着ているパーカータイプの上着やエプロン姿も良いが、こうして肌を露出させたものも悪くない。

悪くない、ではない。滅茶苦茶良い。

帽子が飛ばないよう頭頂部を手で抑え、再び景色を見渡す。解かれた長髪が風に揺れ、少し暑いのか額や頸に汗を光らせる少女の姿に、少年は目を奪われ、惹かれる。

 

「やっぱり、似合ってると思って」

 

「ふふふ。それ5回目だよ」

 

悪い気はしないけどね、むふん。得意げに胸を張るところもまた愛らしい。

因みに家で3回、車で2回という内訳。

 

「本心なんだから仕方ないだろ。綺麗で、可愛いよ」

 

「6回目。おだてても何も出ないのに。できて明日の献立を豪華にすることぐらい」

 

「俺が言いたいだけだから。それはそうと、明日の夕飯はカレーを所望する」

 

「りょーかい」

 

タイミングが合い、目が合う。

それがどこかおかしくて、二人はクスッと吹き出した。

 

「そんなに喜んでくれるなら、頑張って貯めたお給料を使った甲斐があったね」

 

「俺が買ってあげたのに」

 

「こういうのは自分で買うことに意味があるの」

 

このデジカメとか。

シャキーンと見せびらかす少女の手の中には、ブラックマーケットで安く買った中古品のデジタルカメラ。

 

「頼めば電気屋さんに買いに行ったのに」

 

「自分で買いたかったの。まだ公で顔を出すわけにはいかないから。近くのスーパーとかコンビニには、もう受け入れられてるけども」

 

「ほとぼりってどれくらいで治るんだろうな」

 

「生きてる間はずっと尾を引くと思うよ。私たちがやったことは、それだけ人々の傷になってると思うから」

 

「...」

 

「人生は長いし、乗り換えるなら今のうち」

 

「何を今更」

 

「そっか。───そう言ってくれて嬉しい」

 

運転する少年の邪魔にならないよう、右肩あたりに手を添える。

意地悪なことを言ったけど、そんなことは気にせず即答で望んでいた言葉を貰えた。なんて幸せなのだろうと、アツコは今を噛み締める。

 

 

 

「...イチャイチャするなら運転交代するよ」

 

 

 

シュババッと、二人は後部座席からする声により離れた。

 

「だ、大丈夫だよミサキ姉さん。姉さんは仕事で疲れてるんだから」

 

「そ、そうそう。ゆっくり座ってて」

 

「...なら前を見る」

 

「「はいっ」」

 

「はぁ...」

 

まったく世話の焼ける、と同居し始めてから数えるのをやめたため息を吐くミサキ。

 

「安全運転だよ、カナエくん」

 

「す、すみません先生」

 

「アツコちゃんはカナエくんのこと、大好きですねえ」

 

「否定はしないよ」

 

「ど、堂々と断言...」

 

もちろん、ヒヨリもいる。

引率として先生も来てくれたので、心強い。

当初は運転を買って出てくれたのだが、彼もまた仕事に追われる身。これぐらいは自分にやらせてください、と今日はカナエが皆を目的地へと運ぶ役目を担った。

 

「サオリも来れたら良かったんだけど」

 

「お仕事が入ったなら、仕方ないですよね...私だったら仲間外れにされたショックで死んでしまいます...」

 

そう、現在車に乗っているのは五人。

運転手のカナエ、助手席のアツコ、後部座席の右からヒヨリ、先生、ミサキと、アリウススクワッドのリーダーであるサオリの姿はどこにも無かった。

なんでも、請け負っている仕事で高配当の案件が回ってきたらしく、先日惜しくも不参加をモモトークで伝えられた。

 

「サッちゃんとも楽しみたかったな。お祭りもあるみたいだし、きっと気晴らしにもなると思ったんだけど」

 

「仕事場で信頼され始めてるみたいだし、この機を逃したくないんだろ」

 

「...リーダーの分まで、みんな楽しみなよ」

 

「意外だね、ミサキがそんなこと言うなんて」

 

「茶化さないで、先生。...たしかに私は人混みとか嫌いだし、気乗りはしないけど...これでも空気は読める」

 

「ありがと、ミサキ。ついてきてくれて」

 

「...ん」

 

ミサキは照れ隠しのためか短く返し、その後は俯いて目を閉じた。

 

「アツコ、ビーチまでどれくらいだ?」

 

「待ってね。えっと...あと10kmくらきゃっ!?」

 

端末をいじるアツコのすぐ横を、猛スピードで車が通過した。

 

「ぼーっと走ってんじゃねえよ!」

 

「おっせえんだよノロマァ!」

 

騒ぎ立てるスケバン達、速度を守らず道を走るどころか、今度はこちらの前につけてノロノロと煽り運転を始める。

 

「危ないな...アツコ、大丈夫か?石とか飛んでこなかったか?」

 

「うん、大丈夫...少しビックリしただけ」

 

「ヒヨリ」

 

「は、はい」

 

ガチャコンッ

 

「ちょおっと待とうか!?」

 

ミサキの一声で躊躇なく狙撃銃を構えようとするヒヨリの手を、必死の形相で止める先生。

 

「先生、ど、どうして止めるんですか?」

 

「危ない運転をしたのは向こう。報いは受けるべき」

 

ここは穏便に暴力で。

うちの姫に危害加えといてただで済むと思うなよ?

二人の目は笑っていなかった。

 

「一旦落ち着こう。流石に撃つのはダメだよ」

 

「...わかった。なら、カナエ」

 

「なに?」

 

「やっていいよ」

 

「よし来た」

 

「え、やるってなにを」

 

「シートベルトはしてますか?先生」

 

「もちろんしてるけどおおおおお!!??」

 

前から来る車もいないことを確認して、カナエの手が閃く。

煽り運転により時速30kmにまで落とされていたスピードが、一瞬で時速120kmへ急加速。

急なハンドル捌きに相手は動揺し、硬直。対向車線を通り、カナエ達の車はスケバン達の前へと躍り出た。

そのまま勢いを殺さず、フルスロットルで直線を突き進む。

 

「ま、待てゴラァ!」

 

「コケにしやがって!」

 

むこうも追走。

ただ、しばらく進んだ先には急カーブがある。

 

「捕まって!」

 

「おわぁ!?」

 

「ひいいいいぃぃぃ!?」

 

速度は落とさない。

一応の注意喚起をしてから、カナエは祖父直伝のドラテクを披露。

先生とヒヨリの悲鳴と共に、ギャリリリリリッとタイヤとアスファルトを摩耗させる甲高い音が響き、コーナーでスケバン達と差をつける。

 

(か、慣性ドリフト...!?)

 

Deja Vu!と例のBGMが先生の脳内に勝手に流れ出す。

直線に向き直り、後ろを振り返れば。

 

「のわぁ!?」

 

「クソッタレええ!!」

 

止まりきれず、ガードレールに衝突するDQN達の姿が。

 

「ハッ、おとといきやがれ!」

 

「あははっ」

 

珍しくテンションを振り切って煽るカナエ。

あまりの爽快さに笑いが止まらないアツコ。

ヨシ、と一つ頷くミサキ。

顔を青ざめてぐったりするヒヨリと先生。

五人を乗せ、車はアウトロービーチを目指して尚も走る。

 

 

 

********************

 

 

 

「ん?」

 

「どうしたバイト」

 

「いや...風に乗って知り合いの声が聞こえた気がしたんだが、どうやら気のせいだったようだ。次はこれを運べばいいんだな?」

 

「おう!あっちまで頼むぜ!」

 

「了解した」

 

アリウススクワッドの夏が、始まる。

 

 




カナエ:最近新しい爪が生えてきた。水着はあの日の情事を思い出させるトランクスタイプと、青柄のアロハシャツ。お祖父ちゃんから花の事以外にも教えを受けており、基本なんでもできる。戦闘は相変わらずからっきしだが、銃の腕前はミサキとヒヨリの指導により、止まっている的には当たるようになった。

アツコ:ご近所付き合いに気を遣うようになった。海に行くと決まってすぐ、結婚指輪は海水で錆びないか調べていたらしい。プロポーションは維持しているものの、カナエの作る朝昼ご飯が美味しすぎて少し体重が増えた。そのため、最近はデザート抜きで夜のおねだりをしてるらしい。

サオリ:頻繁に、とはいかないがアプリ程距離を空けていないため週一ペースでMiracRoseに顔を出せている。カナエの計らいで各街にセーフハウスが何個かあり、快適に寝泊まりできているという。世話になりっぱなしなので、今回のバイト代で何かプレゼントを買いたいのだとか。

ミサキ:最近、新婚夫婦のおかげで好物がコーヒーになり、豆からこだわるようになった。夕飯時にコーヒープリンを出された時は複雑な心境になったそう。仕事場では、小言のうるさい防衛室長がいなくなったため快適にやれているらしい。

ヒヨリ:この日のために絞りに絞った。冗談抜きで餅みたいになっていたので、本人も自覚したのかひーひー言いながら頑張ったらしい。なお、リバウンドはする模様。こればかりは二人の作る飯が美味しいのがいけない。私は悪くないです。本当に。

先生:保護者。最近ようやくミサキから相談を受け、二人に軽く説教した。おかげで防音工事が施されたらしい(そっちかぁ...)時々夫妻が散歩がてら夜食を届けにシャーレにやってくるので、快く迎え入れている。そのまま仕事も手伝ってくれるので大助かり。



お待たせしました、番外編第二弾です。
アプリのストーリー沿いになりますが、楽しんでいただければ幸いです。
イベントストーリーなので無茶苦茶やるつもりです。本編との温度差で風邪引かせます(宣誓)
最終編でのカナエの立ち回り、黒服とのやり取りにも触れようと思っています。

そしてご報告を。
この度、ハフバガチャにて無ツコを卒業いたしました!
6%偉大すぎる!

セレチケを使わず、水着アツコも配布で、良い意味で思わぬ誤算だ....石52000を残してサオリとヒヨリを狙える!
(アリウススクワッドの)みんなに!会える!

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