【完結】少年が秤アツコの傷になるまでの話。   作:\コメット/

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笑い90%、シリアス10%な小説を書きたい今日この頃。




番外編2:Sheside outside(4)

 

 

先生と別れたカナエ達は、ステージの裏手をサオリに気づかれないようこっそり抜け出し、屋台へと向かっていた。

何を食べようか、と気分を盛り上げていたのだが、戦闘後と照りつける日差しもあってか汗が滲む。

 

「暑いね...」

 

「アツコ、大丈夫か?」

 

「うん...ありがと」

 

じゃあ密着せずに離れなよ。

もっと離れて歩く選択肢を選びなよ。

こんな暑い日にまで見せつけなくてもよかろうに、ギューッと腕を組んで並んで歩く二人を見ての当然の反応だが、ツッコんだら負けな気がするので口をチャックするミサキ。

 

「また飲み物買わなくちゃな。ヒヨリ姉さん、何が飲みたい?」

 

「いいんですか?えへへ...なら、コーラを飲みたいです。以前飲んだ味が忘れられず...」

 

「オッケ。アツコは?」

 

「お水でいいよ」

 

「俺も水にするかな。ミサキ姉さんは?」

 

「アイスコーヒー」

 

「りょーかい。姉さん、コーヒー好きだね」

 

「どっかの誰かさん達のお陰でね」

 

「へぇ、職場の人?」

 

「...一応そうなるか」

 

バイトでたまに花屋を手伝っているので、あながち間違いではない。

そして、そういえばもう一方の職場にも、嫌味の多いコーヒー好きがいたことを思い出す。

 

「やけに高くて珍しい豆にこだわる、五月蝿い上司もいたね。もういなくなったけど」

 

「あらら、どうして?」

 

「汚職」

 

「連邦生徒会で汚職かよ...」

 

ニュースでクロノスが報道もしていた。

一国を管理する機関に裏取引などは付き物というが、いざ本当にあったと聞くとこの学園都市大丈夫かと心配になる。

元から治安は終わっているのでその心配は今更ではあるが。

ミレニアムのセミナー所属の生徒会長が街一つ作ることができるほどの金を学園から横領したという噂もあるが、アレももしかすると事実なのかもしれない。

 

「リーダーは...いないね」

 

様々な屋台が並ぶフードコートに到着。

流石にステージからここまで蜻蛉返りして、再びウエイターをやっていることはなかったが、用心するに越したことはない。

 

「じゃあ俺、向こうの自販機で買ってくるからメニューでも見てて。なんなら頼んで食べててもいいから」

 

「わかった」

 

「お願いします」

 

「すぐ戻るように」

 

義姉に釘を刺されつつ、カナエはヘルメット団や祭り客の間を縫って自販機へ。

 

「げっ、こんなするの...?」

 

ビーチでの飲み物は、暑さもあってか需要が高い。

それがわかっているようで、自販機を設置した主は中々強気な値段設定をしている。

多少値が張るのは仕方ないとしても、水500mlに200円は少々腰が引けた。

コーラは300円、コーヒーは250円と、カナエ自身の水と先生の分のお茶を買えば軽く1000円を超えてしまう。

 

「勿体無い...けど、熱中症で倒れるよりかはマシだな」

 

買う前に携帯に購入内容をメモる。

ノートにレシートや領収書を貼り家計簿を作る15歳の少年は、キヴォトスに一体何人いるのだろうか。

 

ガココッ

 

中身の入ったペットボトル、それが1150円を代償に大きな音を立てて自販機の外へ放たれた。

常に持ち歩いているエコバッグを広げ、丁寧に並べて入れ、アツコ達のいる屋台へと戻ろうとする。

 

「ん?」

 

その時、気が付いた。

四人用の席に、見知った面々がいることに。

四者それぞれ個人に合った水着を着こなし、テーブル中央に置かれた一杯のラーメンを、全員で大事そうに回し食べしている。

食事中に失礼か、と思いもしたが見かけて声をかけないのもそれはそれで、と考えたのち、話しかけてみることに。

 

「あの人たち、やはり私が爆破した方が...」

 

「早まるのをやめさないハルカ!あぁ...でも、今週どうしたらいいの...?」

 

「こんにちは、アル社長」

 

「ひゃい!?」

 

驚きで身体を跳ねさせ、その少女はバッとカナエの方を向いた。

こんな時に誰よ、とアワアワした様子だったが、少年の顔を見てすぐにパァッと明るくなる。

 

「て、店長!奇遇ね、あなたもここに来ていたなんて!」

 

こんにちは!

太陽のような笑顔で丁寧に、裏社会の人間らしからぬ挨拶を返す彼女の名前は、陸八魔アル。

アウトローを心情とする何でも屋、便利屋68の社長で、MiracRoseのお得意様だ。

ゲヘナ郊外で店を構えていた際の初依頼以降、気に入ってもらえたのか定期的に花を購入してくれるようになり、交流も増え、今では経営者としても情報を共有する間柄となっている。

 

「こんにちは、店長」

 

「やっほーカナエくん!くふふ、こんな偶然あるんだぁ」

 

「...どうも」

 

課長のカヨコ、社員のムツキからも好意的に接されるカナエだが、どうにもハルカからの反応は良くない。

 

「こ、こらハルカ、そんな態度取っちゃダメでしょう!?彼はウチにとってもお得意様なんだから!」

 

「...(むすっ)」

 

「ハルカ〜!?」

 

「あはは...社長、いいですよ。元はと言えば俺が悪いんですし」

 

伊草ハルカは蒼井カナエが好きくない。

その理由は、彼が事務所に依頼品を届けに行った時、

 

『今お茶を出しますので、そこにかけててください』

 

『ありがとうございます...この鉢に植えてある物は?』

 

『あ...はい、私が育てた物です』

 

『そうなんですか、良く育てられてますね』

 

『え、あ、ありがとうございます』

 

『水やりに選定、毎日の世話に余念がないのが見れば分かります。とても大事になされている」

 

『えへへ...』

 

『綺麗なドクダミですね』

 

『...え』

 

『こちらのクローバーも、どれも端正込めて手入れを...伊草さん?』

 

『死んでください』

 

『え?』

 

『死んでください死んでください死んでください!聞きたくない...聞きたくないんです!わ、私が育てている物は雑草なんです!それ以外の何物でもありません!うわあああ!!』

 

という風に無自覚にも、育てている雑草の名称を聞きたくないハルカの地雷を踏み抜いたことがあり、その時はカヨコとムツキにより沈静化したが、以来こうして敵意とまではいかなくともあまり良い目では見られなくなってしまったのだ。

危うくアリウススクワッドとの全面戦争になりかねないため、この件はアツコ達に話さないでいる。

 

「店長は休暇?お店空けるなんて、珍しいね」

 

「せっかくの夏ですし、海水浴に行ったこともなかったので」

 

「じゃあ、アリウスの子達も一緒なんだ〜」

 

「はい。皆さんも休暇ですか?」

 

「あっ...スーーーッ」

 

痛いところを突かれ、動悸を治めるべく深呼吸をするアル。

言えない。

アウトロービーチ、アウトローたる自分達に相応しいビーチじゃない!とそんな単純な理由でこの地にやってきたなんて、相手が年下且つ比較的尊敬の眼差しをむけてくれるカナエに対して、言えるわけがない。

 

「もしかして、次の仕事に向けての下見とか?そちらも現地飯の試食だったりして」

 

「そ、そうそう!そうなのよ!仕事を盤石なものにするためにも、今日は社員の英気を養いつつ現場の確認をしているところなの!」

 

「流石。同じ経営者として、社長の仕事への姿勢からは常に学ぶ日々です」

 

「ふ、ふふふふふ...」

 

社長、あなたの良心は痛まないのか。課長からのジト目が横顔を突く。

自称アウトローに聞くのは野暮というものだが、辛口で言えば陸八魔アルという少女はスタイリッシュな仕事人に憧れる夢見る乙女に過ぎない。

無論〆る時は〆るし、未来のアウトローの片鱗は見せてはいるものの、生粋では無いし向いているとも思えない。

それが面白くて彼女に付いているのが一名、放っとけないのが一名、救われカリスマに魅入られたのが一名、そんな三人とアルで組織されたのが、便利屋68。

兎にも角にも、陸八魔アルには人を惹きつける何かがある。

 

「そ、そういえば!アリウスの方々はどこにいるのかしら?できれば挨拶だけでも、と思うのだけれど」

 

「向こうの屋台にいますよ。俺は飲み物を任されてて、アツコ達には焼きそばとかを買って貰ってます」

 

「...店長、なら早く行ってあげた方がいいかも」

 

どこか難しい顔をして、カヨコはカナエに早急な帰還を提案する。

 

「どうして?」

 

「(チラリ)」

 

「(ブンブンブンブン)」

 

「...ええっと、そう、奥さんがナンパされてるかもだから」

 

課長の目配せ、社長の全力左右への首振り、今思いついたであろう言い訳。

気になる部分は多いが、たしかにアツコが悪い大人に拐かされている可能性は少なからずある。

見た目以上に強かで、脅されるようなら逆に脅し返すくらいはする彼女ではあるが、サオリにバレぬように動いている手前、公では騒ぎを起こせない。上手い手口で騙されている不安というのは、正直ある。

 

「そうですね、お気遣いありがとうございます。それでは、これからもご贔屓に」

 

「ええ!店長も、いつでも私たちを頼りなさい!」

 

快活な笑顔、控えめなバイバイ、対照的に大きな手振り、軽い会釈。

それらを受けて、カナエも頭を下げたのち小走りでアツコ達の元へ足を向けた。

 

 

 

********************

 

 

 

一旦カナエと別れたアツコ、ミサキ、ヒヨリの三人。

 

「二人とも、沢山食べていいからね。お給料はあるから」

 

奢りだよ、と使い古している財布を手に乗せて、自慢げにアツコは胸を張る。

カナエとは夫婦関係ではあるものの、同時に雇用関係でもあるわけで、労働の対価としてお給金は支給されている。

無論、バイトで手伝ってくれるミサキとヒヨリにも。

 

「私たちも一応働いてはいるんだけど」

 

「今日は私に奢らせて。今までこうして二人に買ってあげたことなんて、殆ど無いんだから」

 

「なら、お言葉に甘えさせてもらう」

 

「何にしましょう...定番の焼きそばでしょうか?ついにサオリ姉さんの言っていた、配給砂糖の3倍の味覚を楽しむ日がやってきたんですね...!」

 

「人混みで食欲無いけど...せっかくだし、二つで」

 

先ほど動いたのもあってか、強がるミサキも含めて三人は、漂うソースの香りに空腹を刺激され、比較的空いている屋台を選択した。

 

「らっしゃい!こちらメニューだ!」

 

「えっへへ、どれに...」

 

「待って。...なにこれ、アイスバーが3000円、焼きそばが7000円...?」

 

「お高い...」

 

「まさか、お祭りメニューは高級料理!?」

 

「いやどう考えてもぼったくりでしょ。屋台でこの値段はおかしい」

 

せめて0を一つ減らした金額が妥当だろう。

昨今は値上げが厳しいとはいえ、流石に過剰な請求料だ。

 

「そいつは聞き捨てならないな。需要と供給って言葉を知ってるか?お祭り気分で飯を楽しみたい人は大勢いる。だが、客を満足させるためには食材の運搬、人件費諸々金がかかる。なら、ちょ〜っとばかし高くなってもおかしくないだろ?」

 

「...でも、これは高すぎる。カナエの作るブーケでさえ5000円なのに」

 

お祭り料理が楽しみではあったが、彼の花束が焼きそば以下の価値と言われているようで、アツコは嫌だった。

 

「はぁ、嫌なら別に帰って構わんぜ?ウチは他と比べて安い方だ。確認してもいい」

 

「他も...そんな」

 

「完全にお終いです...憧れの焼きそばが目の前にあるのに、まさかのお預けだなんて...」

 

余程楽しみにしていたのか、ヒヨリはいつもの調子ではあるものの目に涙を浮かべてバニる。

ミサキもミサキでショックを受けており、二人の様子を見ていたアツコは位を決したように7000円を取り出した。

 

「大丈夫、二人とも。お金ならあるから」

 

「あ、アツコちゃん?」

 

「けど、予算が...それにそのお金、アツコが頑張って働いて稼いだお金なのに」

 

「せっかくの海なんだから、みんなで食べていこう?私のことは気にしなくていいから」

 

本当は、少し勿体無いという気持ちはある。

花屋で働き始めて、物の価値やそれに見合う値段、労働する上での知識をカナエから学んだ上で、今目の前で行われている横暴は明らかにぼったくり、悪意ある騙しだと確信できた。

けれど、ここで騒ぎを起こせばミサキやヒヨリの夏の思い出を壊すことになり、何よりステージの方で汗水垂らして働いているサオリが気付きかねない。

唇をキュッとし、震える手つきで彼女は店員へ7000円を渡そうとする。

 

「...これで、焼きそばを一つお願い」

 

「へへっちょうどだな?まいどあ」

 

 

 

「今どういう状況?」

 

 

 

アツコと店員の前を遮るように、少年の手が出された。

次いで、少女のお金の握られた手をソッと包み、こんなことで使うべきじゃないと懐に仕舞わせる。

飲み物の買い出しに行っていたカナエが、三人の元に帰ってきた。

 

「か、カナエ」

 

「なになに...うわ高っ。誰だよこんな法外メニュー作ったやつ」

 

「法外?おいおい言いがかりはよしてくれ。こっちは需要と供給がだな...」

 

「それはどっちもWin-Winじゃなきゃ成立しないって。祭り楽しむより先にぼったくりで萎えるだろこれじゃ」

 

一経営者として反論の姿勢を取るカナエ。

相手も譲れないようで、二人の間でバチバチと火花が散った。

 

「鬼方先輩が言ってたのはこのことか...普通に考えてこの値段はあり得ないよ。高級食材を使ってる訳でもないし、サービスも客対応もそこまで良いとも言えないな」

 

「ハンッ、とんだクレーマーだな!言っとくが、マケるつもりはないぞ。これが正規ったら正規なんだ」

 

「冗談はその馬鹿でかいヘルメットだけにしてくれ。ただでさえこっちは非常識な値段設定で笑い転げそうなんだから」

 

「...なんだって?」

 

あ、地雷踏んだ。そのままやってやれと隠れて拳を握るミサキ。アワアワするヒヨリとアツコ。

 

「お、ヘルメットが邪魔で聞こえなかったか?」

 

「テメェ、私たちヘルメット団の象徴たるこのヘルメットをバカにしてんのか!?」

 

「やっぱり聞こえてないらしいな。俺は冗談みたいなデカさのヘルメットと法外な値段について言ったんだ。何も質問を質問で返せとは言ってない」

 

「ンの野郎...!おい、こいつ摘み出せ!営業の邪魔だ!」

 

「...いや、その兄ちゃんの言ってることは正しいぞ!」

 

ヒートアップする屋台の周りには、いつの間にか人垣が出来ていた。

そこからの第一声を皮切りに、客として来店していたヘルメット団、他の屋台の店員、一般客から不満の声が上がる。

 

「高過ぎるんだよおまえらの屋台!」

 

「ウチの屋台はちゃんとやってんだぞ!」

 

「そんな値段にしてるから客も少なかったんじゃないのか!?」

 

「そ、そうよ!私たちのなけなしの7000円返しなさい!」

 

「そーだそーだー♪」

 

溜め込んでいたものを吐き出すかのように、不満を爆発させる人々。

ただの少年だけならまだしも、この場にいる全員を相手取るのは些かキツいのか、悪徳店員は一歩後退る。

だが、ここで性根を曲げないのがヘルメット団。

 

「う、うるさい!営業妨害だ営業妨害!どうしてくれんだ!?あぁ!?」

 

なんと開き直った。

会場を味方につけたカナエに、臆せず店員は凄む。

 

「はぁ...たしかに、これじゃあ今日のところは客も寄り付かないな。詫びと言ってはなんだが、素直に払ってやるよ」

 

「は、はは!最初からそうしろってんだ!焼きそば7000円、キチッとはら」

 

 

 

ドンッ

 

 

 

「へ?」

 

置かれたのは、札束。

 

「70万ある。百人前、今すぐ作ってこい」

 

盛り上がる会場。

何を言ってるのかわからない店員。

顔面蒼白のアリウススクワッド。

 

「みんなも焼きそば食べたいよなぁ!」

 

『うおおおおおお!!!』

 

つーくーれ!つーくーれ!

大歓声、大合唱と手拍子が響き渡る。

 

「ほら、早くしろよ。こっちはちゃんと払ってんだから」

 

「く、くそ...!おい、作るぞお前たち!」

 

「ほ、本気ですか!?」

 

「仕方ないだろ払われたんだから!泣き言言うな!」

 

店員たちは睨みながら屋台の奥へと消えていく。

それを見届けてから、会場の人々の方に向き直り両手でガッツポーズ。

カナエを讃える拍手、口笛、歓声が再び湧き上がった。

 

「えっと、カナエ...」

 

「...」

 

「か、カナエさん...?」

 

「...」

 

「...まさかここまでやるなんて」

 

「...とりあえず、座ろうかみんな」

 

英雄を讃えるべく、着席していた客までスタンディングオベーションで盛り上がる彼彼女らとハイタッチしながら、眼帯の少年は空いている席に三人と座る。

 

「ふぅ...」

 

「「「...」」」

 

「はぁ...」

 

「「「...」」」

 

「今月どうしよう...」

 

「おバカぁ!!!!」

 

ポカポカ。

今まで聞いたことのない声量で叫ぶアツコに、優しく叩かれるカナエなのであった。

 

 

 

********************

 

 

 

「なんでこんなことしたの」

 

会場の盛り上がりも収まったところで、カナエはアツコに正座させられた。

普段の仲睦まじい二人にしては珍しい、いや金が絡めばそりゃ叱るかと、コーヒーを啜りその光景を見つめるミサキ、そして未だアワワなヒヨリ。

 

「...アツコが、不当な金額払わされてるように見えて、頭が真っ白になって」

 

「うん」

 

「最初は話し合いで解決しようと思ったんだけど、向こうが強情で」

 

「あれだけのお金を出しちゃったと」

 

「...はい」

 

「...おバカ」

 

「二回も言われた...」

 

「何回も言うよ。バカバカ。カナエのバカ」

 

「ぐうの音も出ない...」

 

「変なところで甲斐性なし、鬼畜、私で童貞捨てたくせに」

 

「おい今日の夜覚えとけよ」

 

なぜ今関係ないことを言って貶めたんだと、流石の彼も反論が出た。

 

「まったくもう」

 

少年の頭を、少女は自身の胸元へ抱き寄せた。

 

「私がそれなりに強いことくらい、知ってるでしょう?」

 

「...ん」

 

「丸く収める方法があれだったの。カナエが頑張る必要はなかったんだから」

 

「...ん」

 

「でも、その気持ちは嬉しい。私のこと、本当に大切なんだ」

 

「...当たり前だ」

 

「なら、もっとお金は大切にする。わかった?」

 

「はい」

 

「よろしい」

 

失った金額は大きいけれど、二人の仲の再確認を行えた気がして、少しながら彼は良かったと思った。

 

「...コーヒーあってよかった」

 

「コーラ甘々です...」

 

結局このパターンかよ、と普段通り顔を顰め失笑の二人。

 

「お待たせしましたぁ!こちら、焼きそば四つに焼きとうもろこし、かき氷、アイスクリームです!」

 

お家芸が展開される中、唐突にそれは現れた。

頼んだ覚えのない大量の料理が、四人のテーブルにドサリと乗せられる。

 

「...こんなに頼んでない」

 

「まさか、押し売りでもするつもり?いい度胸だね」

 

「い、いえいえいえ!そんなつもりはありません!───そ、そうです!皆さんは一万人目のお客様だったんです!代金も、えーっと...はい!こちら、お返しします!」

 

「え、ほんとに?」

 

「はい!他のお客様にも、キャンペーンとして無料で提供させていただきます!それでは!」

 

バヒュンッと音速でその場を後にしていった店員。

そこには焼きそばたちと、失ったはずの70万円が残った。

 

「...怪しい」

 

ミサキは何か企んでるのでは?と屋台の方へ訝しげな視線を送る。

しかし、もう我慢できないと涎を垂らし、念願のチートデイの到来に咽び泣くヒヨリによってそれは妨げられた。

 

「は、早く食べましょう!うぅ、こんなに、こんなに沢山食べていいのでしょうか!?バチが当たるのではないでしょうか!?」

 

「...そうだね。冷めないうちに、みんなで食べよう。さ、カナエも立って」

 

「ありがと」

 

差し伸べられた手を掴み、カナエとアツコも他二人と同じく食卓につき、食し始めた。

 

「これが焼きそば...もぐ...おいひいへふぅ!」

 

「ヒヨリ、お水置いとくね。喉詰まらせないように」

 

「結構いける...悪くないね」

 

「おぉ、美味い。今度家でも作ってみるか」

 

「そうだね」

 

「え!?家でも食べれるんですか!?きょ、今日私死ぬのでは...?幸せすぎます...」

 

食事にありつき、ご満悦の一向。

 

「...みんな、美味しそうに食べているな」

 

「私たちも食べようか」

 

「先生、いつの間に買って...では、いただこう」

 

裏で店員を戒めた、彼らを見守る二つの影。

それぞれの納得がいく結果をもって、お昼時は緩やかに過ぎていく。

 

 




カナエ:はっちゃけ過ぎた現金派。水200円で渋ってたのに70万円ポンと出すな。
アツコ:怒る姿も愛らしい。今日の夜はお楽しみ。
サオリ:ゲーム通り裏でなんとかした。百人前を無料で作る店員は泣いていい。
ミサキ:コーヒーが無ければ致命傷だった。
ヒヨリ:焼きそばを食い過ぎて体重に致命傷。
先生:説教すべきか悩んだが、アツコが代わりに叱ってたのでならいいかと手を引いた。
便利屋68:社員分の焼きそばをタダで食べれてにっこり。カナエが彼女らにとってのお得意様、というのは珍しい花々の運搬時に護衛として雇われているため。

一杯のラーメン啜ってる四人組って絶対便利屋だよな...と思い、なんとか関わらせました。
その分ヘルメット団の店員が泣きを見ますが、誤差です。キヴォトスで理不尽は日常茶飯事ですから(畜生)

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