【完結】少年が秤アツコの傷になるまでの話。   作:\コメット/

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これにてイベスト完結です。




番外編2:Sheside outside(7)

 

 

誰が受けるものかそんな提案。

そう答えるのは、カナエにとって難しいことではない。

だが、

 

「...それ、断ったらどうなる?」

 

代償に何かを失う、その可能性があった。

故に、ゲマトリアに迎え入れたいという黒服へ、彼は問いを投げる。

クツクツと、どこが口なのかもわからない頭部から含み笑いをこぼす黒い大人は、一度差し出した右手を引っ込め、カナエの質問に応じた。

 

「別に、どうもしません。断られたらそれまで、と身を引く所存です」

 

「...」

 

「信じる信じないはあなた次第、疑い深いのは実にいいことです。尤も、過剰なまでの疑心暗鬼は身を滅ぼす、と忠告しておきましょう」

 

なぜか、本当になぜか紅茶を吹いて青ざめるロールケーキ大好きなティーパーティーホストの顔が頭を過った。

 

「てっきり、従わなければ身内に手を出すとでも言うと思ったけど」

 

「おや、そうすれば加入を検討してくださると?」

 

「おい」

 

「クククッ、冗談です。これでも一度、とある学園の生徒を騙してから先生に釘を刺されてましてね。彼とは敵対したくないのです。もちろん、あなたとも」

 

「どうだか...口先だけならなんとでも言える」

 

「ええ。ですが言葉、話し合いには行動にも優るメリットが存在します。例えば声質、例えば声音、例えば声量。これらを分析することによって、相手の思考を読む事が可能です」

 

「なら、今の俺が何を考えてるか当てられるのか?」

 

「はい、造作もなく。緊張による微少な声質の震え。気丈に振る舞おうとも誤魔化せない、私という大人への恐怖。さぞ、思い人の帰還を願っていることでしょう」

 

あ、こいつはヤバい。

子供の挑発で激情に駆られるベアトリーチェとは別次元に、この男は得体が知れない。

丁寧な口調、洗練された礼儀作法が前面に出ているだけで、黒服を構築するのは闇そのものだ。

恐らく、彼が本気を出せばカナエを潰すことなど容易いのだろう。

 

「...ああ、怖くて仕方ない。だから早くお帰り願おうか、お客さん。生憎とセールスは断ってるんだ」

 

「わかりました。残念至極ですが、縁が無かったということで、この場は引かせてもらいます」

 

そう言って、黒服は来店して何も買わないのも失礼と思ったのか、カウンターに近い場所に設置された種売り場から一つ手に取り、それを会計へ。

 

「...300円です」

 

「カードで」

 

持ち主と同じく漆黒の色をしたソレが電子音を鳴らしたのち、律儀にクーポンとレシートを受け取って店を後にしようとする男。

 

「ただの揶揄い、買い被り、過大評価。あなたはそう思うのでしょう。事実、私の仲間もそのような評価をあなたに下しました」

 

ですが。

立ち止まり、黒服は亀裂の入った白い眼球部分をカナエへと向ける。

 

「ですが、私には確信がある。あなたの抱く感情...その愛に、神秘を掌握するナニカが存在していると」

 

彼は恐らく、笑ったのだろう。

最後に頭部の黒いモヤを強め店を去ってすぐ、客の入りが元に戻る。

黒服が購入したのは、ルドベキアの種。

キク科の一年草であり、

 

(花言葉は...)

 

おまえを、見ている

 

これを忠告と受け取るか否か、カナエはちょうど買い物から帰宅した愛妻の笑顔を見て深いため息を吐きつつ思考外へと放り投げた。

 

 

 

********************

 

 

 

弾幕の中をすり抜け、掻い潜り、サオリとアツコが戦場となった浜辺を縦横無尽に駆け回る。

互いのイメージカラー、黒と白のコントラスト。交わるように、噛み合うように、絡み合うように、見事なまでの連携を見せつけ、二人はアケミを圧倒する。

 

「このッ、いい加減ジッとしなさって!」

 

雑に薙ぎ払われる機関銃の乱射は、アリウススクワッドの前線を張る二人を捉えることはできない。大幅なモーションの隙を突いて、更にダメージを加え続ける。

そんな姐貴分を援護しようとスケバン達が割り込もうとするが、

 

「ヒヨリ、ミサキ、今だよ!」

 

「了解です!」

 

「了解...!」

 

「カナエくん!」

 

「わかりました!」

 

そうは他の三人が許さない。

先生の指示のもと、高台からのヒヨリの狙撃、中距離からのミサキのロケラン、四人の攻撃力を強化するパルスをドローンで発生させるカナエ。

指揮者の有無。少人数といえど、この差は大きい。

一つ間違えれば展開が変わりかねない状況の中、的確に正解のみを選択し、生徒の持ち味を先生は活かしていく。

 

「きゃあ!?痛いですわね!」

 

「降参しろ、栗浜アケミ。立っている部下は僅か、おまえ自身も限界だろう」

 

「...ええ、その通りです。しかし!それで負けを認めるほど伝説のスケバンの名は甘くなくってよ!!」

 

ポージングののち、瞑想。

怒気と威圧感が増大し、対峙するサオリとアツコのコンビに緊張感が走る。

 

「ここは、多少強引に...ッ!!」

 

手に取るのは、ロケットランチャーの弾頭。

全身の筋肉をフル稼働させ、投擲態勢へと入った。

 

「アツコ!」

 

「わかってる!」

 

はち切れんばかりの肉体に熱を込めるアケミに対し、二人はここで仕留めようと火力を集中させる。

アリウス製のサブマシンガンが織りなす銃撃は正に凄まじいの一言。だが、それをアケミはなんと耐え切った。

 

「先ずは、一人ッ!!」

 

「..アツコ!」

 

「...っ!?」

 

照準は、アリウスの元姫君へと向いていた。

 

「ふんッ!!」

 

オーバースローで繰り出される弾頭。

サオリが必死でアツコを庇おうとするが、それも間に合わない。

真っ直ぐに、アケミの一撃は白い少女を捉え、轟音と衝撃を放って爆発した。

 

「アツコ...そんな...」

 

爆炎の余波など気にすることなく、サオリは着弾点を見た。

いくらヘイローのある自分たちではあれど、今のを直撃で貰えば大怪我は必至だ。

 

「手応えアリ。さて、次はムササビさん、あなたで.........なに?」

 

残ったサオリを片付けるべく、再度砲身を向けようとする伝説のスケバン。

だが、その手を止めざるを得なかった。

理由は一つ。

 

「...科学の力ってすげぇ...」

 

煙が晴れたそこに、無傷のアツコと彼女を庇うべく前線に出てきたカナエ、そしてその二人を完璧にガードして見せたドローンのエネルギーシールドに驚愕してのことだった。

 

「アツコ、大丈夫か?」

 

「う、うん。平気...ありがとう。そんなのも付いてるんだ」

 

「ヒマリさんに感謝しないとな」

 

ドローンを使って戦闘を覗く天才美少女ハッカーは、コロンビアガッツポーズをキメる。

 

「...また危ないことして」

 

「説教はあとで受けるよ。立てるか?」

 

「...ん」

 

「カナエ!前に出るなと...いや、すまない。助かった」

 

「気にしないで。───さぁ、そろそろ決着をつけよう」

 

「ああ」

 

「うん」

 

周囲を見渡せば、ちょうどヒヨリとミサキが取り巻きを一掃したところだった。

残る敵は、栗浜アケミただ一人。

 

「まさか、私渾身の一撃を防ぐだなんて...まったく、キヴォトスは広いですわね」

 

尚も抵抗の意思を見せる彼女に、サオリはもう何も聞かない。

それは、今目の前にいる戦士への侮辱になる。

 

「いくぞ!」

 

「かかってきなさって!」

 

猛者二人が、砂浜で最後の衝突を見せる。

サオリをサポートするように、ヒヨリとミサキが支援のための援護射撃を飛ばす。

 

「アツコ、いくよ」

 

「わかった」

 

その裏で、カナエとアツコはキュッと手を握っていた。

意味のない行為、ではない。

それを証明するべく、頭上を浮遊するドローンが薄紫と赤色の発光を繰り返す。

アツコが使用者の際に発揮する効果、持続回復。

カナエが使用者の際に発揮する効果、攻撃力強化。

二人が同時にドローンの本領を扱うと起こる現象、それは勿論、

 

「───いい仕事だ、二人とも!」

 

仲間の傷を癒やし、同時に力も増大させる。

神秘的な機械音───矛盾を孕んだ例えだが───を鳴らし、アケミと対峙するアリウススクワッド全員にバフが施された。

 

「ヒヨリ!」

 

「了解です!」

 

全ての条件は整った。

そう判断を下し、先生の指揮に先ず動いたのはヒヨリ。

死角からの狙撃により、アケミの肉体強度に綻びを生じさせる。

 

「ぐっ!?」

 

「ミサキ!」

 

「...っ!」

 

次いで放たれるは、爆薬の花。

流星の如く、無数の火力が上空から対象へと注がれる。

動きは、これで止まった。

 

「サオリ!」

 

「サオリ姉さん!」

 

「サッちゃん!」

 

「「リーダー!」」

 

「───任せろ!」

 

突進しながら右手にサブマシンガン、左手にハンドガンを駆り、回避不能な必殺の構えを彼女はとる。

アケミの懐へと潜り込んだサオリは、苦し紛れに飛んでくる拳を紙一重で躱し、サブマシンガンをほぼ0距離で腹部へと当てがった。

 

「vanitas vanitatum」

 

ドンッ!!

 

「がはぁ!?」

 

灰色の輝きを放つ、一撃目。

後退る伝説のスケバンに追撃を加えるべく、今度は左手のハンドガンを構えた。

これら一連の流れで一気に決め切ろうと、かつてないほど引き金に指の力を込める。

 

「et omnia vanitas!!」

 

ダンッ、ダンッ、ダンッ...ドンッ!!

 

「が、ぐぅ...!?」

 

四発の凶弾が一撃目と同じ場所に命中し、ついにアケミが膝をつく。

手応えは格別。仕留め切った自信がサオリにはあった。

しかし、

 

「まだ、ですわ!」

 

満身創痍でありながら、尚も彼女はその背中を地につけようとはしない。

伝説のスケバンとしての矜持が、数々の手下を従えるカリスマが、アケミ自身の後退と敗北を決して認めまいと無理矢理に体を動かしているのだ。

 

「私が、ここまで押されるだなんて...あなたたち、何者ですの?」

 

自らを追い込んだサオリ達を見据え、彼女は尋ねる。

 

「私たちは...」

 

『そこまでにしなさい、アケミ。ここが引き際です』

 

死闘に水を刺したのは、端末越しに聞こえる少女の声だった。

 

「なっ!?私はまだ戦えますわ!」

 

『ほむ、強がりはよくないですよ。ただでさえ収監時のブランクがあるというのに、今の状態で彼女らを相手取るのは得策ではありません。大人しく引きなさい。ここであなたを失うわけにはいきません...なにせ、せっかく脱獄させた七囚人の一人なんですから』

 

忠告はしましたよ、それでは。

一方的に通話を切った正体不明の少女とアケミのやりとりを見ていたカナエ達は、何が何やら。

ただ一人、先生には心当たりがあるようで訝しむ目つきで姿の見えない敵の存在を睨んでいた。

 

「...仕方ありません、ここは素直に従っておきましょう。白いキャップの黒髪の方!そう、そこのムササビさんですわ。あなたとは、万全の状態での再戦を望みます。いつになるかは分かりませんが、いずれ決着をつけましょう!」

 

そう言って、アケミは手下を連れてその場を猛スピードで去っていた。

ヘルメット団の何人かが追走するが、恐らく追いつけないだろう。

 

「戦闘終了、でいいのかな」

 

喧騒が止み、静寂の訪れた浜辺。

武器を収めマスクを外したミサキに続いて、サオリ達も銃を下ろす。

 

「ああ。皆、ご苦労だった」

 

「お疲れ、サッちゃん」

 

「最後、すごい格好良かったよ姉さん」

 

「そうか?」

 

「はいっ!でも、リーダーの必殺技を食らっても倒れないなんて、恐ろしい方でしたね...」

 

マスクやサングラスを外したそれぞれの顔には、笑みが浮かんでいた。

五人の様子を見て、終わりよければいいかと先生も肩の荷を下ろすのだった。

 

 

 

********************

 

 

 

観客の熱気が、会場を満たしていく。

心地良く、けれど本能に訴えかけるような重低音を奏でるのは、DJ B.o.Bの代打登板となった我らが錠前サオリ。

 

「サッちゃん...!」

 

「かっけえ...」

 

スケバン達の襲来に耐えかねて、DJは逃走。急遽代わりをサオリが務めることになったのだが、関係者の心配を他所に彼女は人々の芯へと届かせるEDMを鳴らす。

会場は、今日という日に誕生したスターに目を奪われると共に、この時間を忘れまいとテンションを上げながら体を揺らし、踊る。

ぎこちなくも、ヒヨリとミサキ、先生までも音楽に合わせてステップを踏んでいた。

アツコとカナエはというと、ステージ上のサオリを見つめたまま応援うちわを握り締める。心の底から楽しむリーダーの姿を、この目に焼き付けるために。

 

「すごい、すごいよサッちゃん...格好良い。輝いてて、煌めいてて...夜なのに、太陽みたい」

 

「ほんと、姉さんはすごいな...」

 

語彙力が消失しているが、それも無理はない。

普段は無表情な義姉が、爽やかな笑みと共に爽快な汗を流して、会場を盛り上げているのだ。

その姿に、見惚れない者はいない。

 

「写真撮っとくか。アツコ、デジカメ貸してくれ」

 

「そうだね。はい」

 

照れながらもヒヨリと先生と共に踊るミサキ、機材を巧みに操り、片手間でファンサービスもこなすサオリをレンズに収め、カメラのシャッターを押す。

 

「うん、良い感じに撮れた。アツコ...」

 

持ち主に撮った写真を見て貰うとして、カナエは気づく。

 

「───」

 

傍らの少女が、一心にステージを見つめていることに。

瞬き一つせず、サオリの勇姿を刻み込もうと、静かに、燃えるような瞳で視線を向けている。

会場の熱により額には汗が滲み、輪郭を伝い水着を濡らした。

紅潮した頬、潤んだ瞳、鮮やかな照明に照らされるアツコを見て、

 

パシャッ

 

咄嗟に、カナエは写真を撮った。

 

「あっ」

 

最高の一枚を収めた直後、シャッター音に気づいたのかアツコがこちらを向いた。

気まずさではなく、してやったりの少年と惚けた横顔を撮られて面白くない少女の間に沈黙が訪れる。

ニシシ、とカナエが笑えば、アツコはぷくっと頬を膨らませ、彼からカメラを取り上げてお返しに写真を...、

 

「...容量、いっぱいになってる」

 

撮ることは、叶わなかった。

今に至るまで、二人で何枚も思い出を作ってきたのだから、それも当然だろう。

 

「ずるい」

 

「隙を見せたそっちが悪い。よく撮れてるだろ?」

 

「...たしかに、そうだけど」

 

納得がいかず、ぷんすか怒るアツコ。

そんな様子もまた愛らしいが、少々攻めすぎたかと反省。

 

「ごめんごめん。今日一の表情だったから、ついな」

 

「...むすっ」

 

「えーっと、かき氷、あとで食べるか?」

 

「食べる。でも、食べ物で許すほど私はチョロくないよ」

 

「なら、どうすれば許してくれるんだ?」

 

教えてくれよ、と聞く前に、カナエの右手にはアツコの左手が指を絡めて握られていた。

 

「ライブが終わるまでこのまま...それで、許してあげます」

 

表情を伺えば、先ほどまでの不機嫌はどこへやら。

いつもの揶揄い半分な柔らかな微笑で、薬指の指輪をカナエの指に強調させながら握り力を強める。

 

「...大概、アツコは甘いよ」

 

「そう?...でも、カナエも人のこと言えない」

 

「そうか?...そうだな」

 

高らかに鳴るEDM。

治る熱を知らない会場。

誰もがサオリを見る中で、少年少女は互いを見つめ、口付けをかわす。

ラストスパートを象徴する花火が夜空に咲き誇り、色とりどりの光がステージを、観客を、二人を極彩色に染め上げる。

 

「───カナエ」

 

「ん?」

 

「来年も、また来よう。みんなで...一緒に」

 

白い歯を見せて快活に笑う少女に、少年は無言で首肯するのだった。

 

 

 





カナエ:ライブ終了間際、先生とラップでバトった。その後はホテルでアツコとお楽しみ。帰宅後は二人でパソコンの前に座って甘い雰囲気を漂わせながら写真の整理をした。

アツコ:誘い受けの甲斐があった。帰宅後の夕飯は、かねての要望通りカレーを作ったらしい。日焼け止めは塗っていたが薄らと痕が残ったようで、カナエはそれに唆られている。




駆け足になりましたが、これにてイベスト回は終了です。
29日12:00、本作品の最後の更新となる番外編3を投稿します。
ベアトリーチェの襲撃が起きなかったら、のif√です。是非是非、楽しみにしていただければ。
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