【完結】少年が秤アツコの傷になるまでの話。   作:\コメット/

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姫の胸を盛るのは許さんってサオリ姉さんが言ってたけど、強さは盛っていいと言っていたので盛ります。


07 chamomile

 

 

「なん、で」

 

秤アツコがいる。

自分の元から去ったはずの少女が、今目の前にいる。

込み上げるのは無事だったという安堵、再会できたことへの喜び。そして、何故態々敵陣に来るようなマネをと彼女の行動を蛮勇と断じる現実視からなる悲観。

アツコがここに来た理由?決まっている。

 

『久しぶりですね、アツコ。ええ、本当に。会いたかったです。お目当てはこちらの少年でしょうか?』

 

アツコは、カナエを助けに来たのだ。

 

「如何しましょう、マダム」

 

『無傷で捕えなさい』

 

「御意」

 

六人のアリウス生が陣形を組み、アツコの制圧に動く。

彼女らは前回の戦闘で学んでいた。

殺傷力のある武器では、大事な生贄を傷つけてしまう。崇拝するベアトリーチェに仕置きを受けてしまう。

だから、武装は通常戦闘用の他に用意していた捕縛用へと切り替える。

 

「───」

 

対するアツコはというと、その様子をマジマジと観察していた。

見覚えのない武装について、自分なりに考察を広げているのだろう。

そして、彼女の中で問題ないという結論が出たのか、懐からある物が取り出される。

 

右目部分が欠けた、ガスマスク。

 

装着した直後、ソレは光を帯び暗い屋内で怪しく光った。

チラリと、隠されていない右目がカナエを見た。視線が合致し、少女は強調して目を瞑る動作を取る。どういう意図なのかは、察することができた。一ヶ月近く、共に暮らしていた彼だからこそ、できたことだった。

意図が通じたとわかったアツコは、スッと左手を上げる。

 

「───今」

 

姫の命令により、頭上のドローンから黒い物体が落下。

瞬間、物体は陣形を組むアリウス生の目の前で炸裂。辺りは強烈な光で満たされた。

その威力は、アツコの目的を察して目を瞑ったカナエ以外に容赦なく発揮される。

 

「ぐあああ、目が!!」

 

「閃光弾!?」

 

目を潰され困惑する六人の様子を確認するまでもなく、アツコは彼女らに向けて接近。

固い装備を貫き、且つ大きなダメージを与えられるスコルピウスの有効射程に入った。

 

ガガガガガッ!!!

 

愛銃が火を吹き、満遍なく銃弾がガスマスクとプロテクターを砕き、肌にも届かせる。

しかし、致命傷には至らない。ベアトリーチェから与えられた装備は相当頑丈なようで、極限にまで銃撃のダメージは抑えられた。

それを、奇しくも恩恵を一番に受けているアツコは理解している。

 

「こ、の・・・っ!」

 

流石にリーダー生、どうやら一人だけすんでのところで目を瞑って閃光弾をやり過ごしたらしい。

 

「大人しく、しろ!」

 

ロイヤルブラッド捕獲用に開発された睡眠弾が、アツコに向けて発射される。

当たらない。

間髪入れず、対象を捉え引き金が引かれる。

当たらない。

当たらない。

当たらない。

最小限の動きで、アツコは銃弾をかわす。ある時には障害物を使ってやり過ごし、全身を晒している時にはどこに弾丸がくるか分かっているかのように掻い潜る。

暗闇で舞う白いローブの彼女は、月のように美しい。

 

秤アツコにとって、屋内戦は十八番である。

 

前回は屋外の市街地で、居場所の知られてしまうマスクとドローンといった装備が使えなかったことが災いし、不覚をとった。

加えて、逃亡生活による疲弊、雨による行動阻害も影響。

飛車角落ちの状態で接敵し、敢えなく敗走した。

しかし、今回は違う。

体力は全快、得意な屋内、装備完全使用。更に、相手は捕獲を優先するあまり威力と弾速を捨てている。

アツコの本職はタンクだが、真骨頂は回避による戦闘継続能力。

遅い睡眠弾は彼女を捉えることができず、反対にアリウス側はじわじわとダメージが蓄積していく。

目眩しから復帰した五人が攻撃に加わわろうとも、形勢はアツコにあった。

 

「こうなったら!」

 

素早い動きを捉えられないならば、その動きを止めてしまえばいい。

そう考えたうち一人は、手近のカナエに手を伸ばし、銃を構える。

人質の有効活用。

その選択は最善で、

 

「止まれ!こいつがどうなっても」

 

しかし、アツコにとっての地雷でもあった。

 

「───っ!」

 

アリウス生が言い切る前に、姫君はスコルピウスで相手の持つ銃へ向け速射。

弾かれ地面に転がる自身の武器に気を取られ、アツコの接近を許してしまう。

左太ももに備えてあるスタンガンが閃き、紫電が疾った。

 

「がぁッ!?」

 

断末魔を上げる相手に容赦なく、少女はスコルピウスを鈍器のように扱い頭部を殴打。

まず一人、行動不能。

それで満足することなく、アツコは密集陣形を取る敵に向け弾を撃ちながら突進する。

割れたマスクから覗く瞳は鬼でも宿ったかのようにギラギラと輝いており、直視してしまった数人がヒッと情けない声を漏らした。

恐怖に呑まれてしまえば、照準は鈍る。元々回避力の高いアツコなら、それが避けようとした方が当たるものだとも気づいてしまう。

迷うことなく、アリウスの姫君は直線を突き進む。

 

「ぐぁ!」

 

一発が頭のいいところに当たったのか、ガスマスクを破損させて一人が倒れる。

これで二人目。

休むことなく懐に潜り込み、防具のないところへ0距離射撃を食らわせる。三人目。

 

「このッ!」

 

睡眠弾は今し方無力化した生徒を使ってガード。

蹴りで弾き、睡魔に刈り取られた仲間に気を取られている隙を見てスタンガンを直撃させる。四人目。

6対1だった戦力図が、僅か数分で2対1へと減らされた。

 

「撃つな!撃っても無駄撃ちになる!」

 

かくなる上はと、リーダー生が残った一人の仲間を制して接近戦を挑んでくる。

判断は正しい。

睡眠弾は当たらず、倒れた仲間はガードに使われる。同士討ちを狙う技量もアツコにある。

銃とスタンガンさえ奪って組み伏せれば、あとは確実に睡眠弾を直撃させればいい。

通常弾頭さえ使えれば難易度は下がるのだが、傷つけないようにというベアトリーチェからの命である。

 

「うおおおッ!!」

 

「・・・」

 

向かってくるリーダー生。

冷静に、アツコはそれに対処する。

向こうは銃が使えないが、こちらは銃を使えるのだ。

無謀にも迫る相手に、無慈悲にスコルピウスの弾丸が襲いかかる。

それをものともしない、とはいえない。近距離からの銃撃は、確実に相手へダメージを重ねている。

 

「・・・っ!?」

 

しかし、弾切れまで粘ることはできた。

 

「これで───」

 

掴みかかるアリウスのリーダー。

部隊の中では優秀で、故に上へと抜擢された存在。

では、秤アツコは。

 

「ふ・・・っ!」

 

スコルピウスを手放す。

白いローブを翻し、右脚で軌跡を描き、

 

「───っ!!」

 

側頭部へ、強烈なハイキックを叩き込んだ。

秤アツコは、アリウスの精鋭部隊スクワッドに身を置く少女。

一般兵に毛が生えた程度の生徒とは、文字通り格が違う。

余った六人目は恐怖に震えて何もできないことを察知し、ゆっくりとスコルピウスを回収。弾を込め、蹴りの痛みに呻くリーダー生に銃が乱射された。

五人目。

 

「ま、待って・・・っ」

 

ゆらりと自分へ視線を向けたアツコに、残された一人はただ怯え、マスクの下で涙を浮かべる。

流石に可哀想かと、アツコは地面に落ちている睡眠弾が装填された銃を拾い、一発放った。

六人目。

 

『ああ、なんと惨い。容赦ないのですね』

 

一部始終を全て見ていたベアトリーチェを映し出す機材も、氷のような瞳の少女によって壊される。

これにて、制圧が完了した。

 

 

 

********************

 

 

 

静かになったその場に、少年と少女の二人だけが残っている。

気絶し転がる雑兵を跨ぎ、アツコは拘束状態のカナエへ近づいた。

 

「アツコ・・・」

 

なんで来た。逃げろと言ったのに、なぜ。

問おうとしたが、できなかった。

マスクを外した少女の両瞳は、暗所でも分かるほどに潤んでおり、手からスコルピウスが離れ地面に落ちた瞬間、抑えられないとばかりに満身創痍の少年へ抱きつく。

 

「いでで、おい、痛いって」

 

「ごめんね」

 

彼の抗議は、か細い謝罪によって勢いを失う。

 

「ごめん、ごめん、ごめんなさい」

 

震える声で何度も、何度も、彼女はカナエにそう繰り返す。

 

「私が出かけようって言わなければ、あなたをこんな目に遭わせることはなかった。本当に、ごめんなさい」

 

傷は粗方修復した。

だが、完全には治らない。流れた血は多く、銃弾が貫通した右脚にはまだ痛みがあり、剥がされた爪が生え揃うには一年近くかかるだろう。

アツコは後悔している。

今日、外出に誘ったことを、この生活を続けると決めたことを、出自を話したことを。

───彼と、出会ってしまったことを。

 

「私が、私のせいで・・・痛かったじゃ済まないくらいのことをされて、こんなにカナエは傷ついて・・・ごめん、ごめんね。本当に・・・ごめんなさい」

 

抱きつく少女の顔は見えない。

けれど、きっと泣いているのだろう。声音が物語っている。

 

「・・・ああ、すっげえ痛かった。死ぬかと思ったし、死ぬ寸前だった」

 

「ごめ」

 

「でも、それに関して後悔はなかった。嘘じゃないぞ?本当に、アツコのためなら死ねると思った」

 

謝罪を遮って、少年は続ける。

死んでも、殺されても。その決心は、既にあの砂漠でのやり取りよりもずっと前から済ませていた。

 

「あるとすれば、もうキミに会えなくなることだった。それだけが、俺にとって心残りだった。ちゃんと想いを伝えたかったし、答えも聞きたかった。そうして死んでいくだけだった俺を、アツコ・・・キミが助けてくれたんだ」

 

割れた窓ガラスは少女を煌めかせる装飾、月に照らされる姿は服装も相まって天使のようだった。

あの光景を、彼は一生忘れはしない。

 

「助けるのは、当然。でも、私のためにカナエが」

 

「舐めんなよ。俺だってこれくらいされる覚悟で、キミを居候させてスクワッドとも関係を持ったんだ」

 

「それがカナエが傷ついていい理由にはならない。無理しなくてよかったのに、私なんかのために、傷つかなくてもよかったのに」

 

「結果的に生きてるんだし、いいだろ」

 

「よくないっ!・・・よく、ないよ」

 

堂々巡り。このままでは何を言ってもネガティブな反応しか返ってこないな。

カナエはそう判断し、ならばと対応を変える。

 

「あーもうわかったよ。全部アツコが悪い。俺が死にかけたのは全部、キミが悪い」

 

「そう、そうだよ。全部・・・私が悪い」

 

「なら、俺の今から言うことを叶えてくれ」

 

「なんでもする。なんでも、するよ」

 

抱擁が離れ、少女と目が合う。

目元が赤く、今も涙が頬を伝っている。それを拭くことが、拘束されている少年にはできない。

だから、その涙を止められる言葉を、かけるしかない。

 

「帰ろう。一緒に、あの家に」

 

「───ぇ?」

 

カナエの口から出たのは、あまりにも拍子抜けな提案だった。

目を大きく見開くアツコ。その目から視線を外すことなく、彼は言葉を並べる。

 

「ただいまを言って、風呂に入って、ご飯を食べて、寝よう。いつも通り、二人で・・・明日を迎えよう」

 

「そんな、当たり前のこと」

 

「・・・よかった」

 

「なにが」

 

「この一ヶ月が、キミにとっての当たり前になって、よかった」

 

酷い仕打ちを受けたはずだ。自分が受けた拷問よりも苦痛な日々を、送っていたのかもしれない。

そんな、普通を知らないで育った少女にとって、少年は少女の日常になれたことが、たまらなく嬉しかった。

 

「アツコ、帰ろう。それだけでいい。それ以上、俺は望まない。・・・あ、でも後で話があるから聞いて欲しのわぁ!?」

 

「聞く、聞くよ。いっぱい聞く。聞くから・・・帰ろう、カナエ」

 

あの家に。あの店に。MiracRoseに。

 

「───ああ」

 

抱擁が痛みを蘇らせる。

その痛みさえ、今の彼にとっては心地良い。

花の香りが鼻を突く。髪が触れ、服が擦れ、肌が触れる。

 

「どうして、カナエは私を助けてくれるの?・・・許してくれるの?」

 

カナエが優しいのはわかった。

しかしわからない。異常なまでの覚悟と許す心、それを成り立たせる根底には何があるのか。

 

「まずはここから出よう。そしたら話す」

 

「・・・うん。少し待って」

 

不服そうだが、確かにジッとしているわけにもいかない。

言われた通り、アツコは彼に従う。懐から携帯ナイフを取り出し、先ずは両足を縛るロープを切断。

 

「歩けそう?」

 

「肩は貸して欲しいな。まだ痛みが───」

 

 

 

アツコの背後で、リーダー生が立ち上がる。

 

 

 

銃を叩きつけようと、振り上げている。

 

 

 

「アツ」

 

影が重なり、カナエの指摘よりも先にアツコは気づいていた。

かわすことはできる。反撃も容易だ。

しかし、

 

(今避けたら)

 

カナエに当たってしまう。それだけはダメだ。

彼を庇うように、少女は覆い被さった。

 

バキッ!!

 

アツコの脳天に、鈍器と化した銃が直撃する。

 

「───っ、うぁ・・・っ!?」

 

衝撃が足まで響く。雷に打たれたように頭から全身を通じて四肢へと痛みが伝播する。

攻撃に備えて力みはした。しかし、それだけで防げるほど甘くはなかった。

 

「いい加減にッ!」

 

「・・それはっ!」

 

こっちのセリフだ。

スタンガンが抜かれ、最大出力で相手に稲妻が注がれる。

 

「ぎぃッ!?こ、の・・・」

 

余程のタフネスもここまで。

マスクの中で泡を噴き、白目を剥いて気絶した。

完全に沈黙したのを見届け、アツコはカナエの拘束を解く作業に戻る。

 

「あ、アツコ」

 

「大丈夫」

 

「大丈夫なわけないだろ!ノーガードで頭に直撃だぞ!?」

 

「大丈夫だから。本当に、だいじょ・・・づぅっ」

 

いくらヘイローのある人間でも、限度というものがある。

あれは明らかに当たりどころが悪かった。現に、手のロープを解くとアツコはカナエに身体を預けるようにぐったりと倒れこむ。

 

「早く、早くここから、出ないと・・・っ」

 

今になって、額から血が流れ少女の柔肌を赤く濡らす。目に入ったのか、白目部分が赤く染まり視界半分が阻害される。

 

「無理するなって・・・!歩けるな?俺が肩を貸すから」

 

『はいそこまで』

 

二度と聞きたくなかった声が響く。

それが合図かのように、入り口からゾロゾロと重装備をしたアリウスの生徒が入ってきた。

その数、40はいるだろう。囲むように、包囲するように陣形が組まれ、銃口が手負いの二人を捉える。

 

『傷をつけるなとあれだけ言いましたのに、これだから。しかし、ええ、今回ばかりは許すとしましょう』

 

ホログラムで映し出されるベアトリーチェは、ニタニタと笑みを晒している。

 

『お寒い喜劇をどうもありがとうございます。それで?一転して悲劇になった気分はいかが?』

 

「見れば分かるだろ。最悪だよクソッタレ」

 

ここにはいないどこかで勝利を確信する怪物を前に、カナエは悪態を吐きつつアツコの傷を布で塞ぐ。

ガシャリと音を立てて、治癒の恩恵を与え続けていたドローンが主人の負傷により効力を無くして地に落ちる。状況は、言った通り最悪らしい。

戦闘の継続は困難。あとは数で押さえ込まれるのを待つのみ。

 

『それはそれは。ではどうでしょう、私と取り引きでも』

 

「取り引きだ?」

 

自軍が優位に立ったことで余裕を生んだのか、先ほどまで撃てと連呼していた怪物はカナエにそう持ちかける。

 

『ロイヤルブラッドをこちらへ渡しなさい。素直に応じれば、あなたは帰しましょう』

 

「ハッ!オマエみたいな汚い大人を誰が信じるとでも。どうせ後で殺されるのがオチだ。わかってんだよ、人間性が透けて見える」

 

『吠えますねえ。あなたが助かる道はそれしか無いでしょうに』

 

「カナエ・・・っ」

 

従って。私を差し出して。

少女の目はそう言っているが、カナエは聞く耳を持たない。

口では安全を保証するだなんだとほざくベアトリーチェに、約束など意味を為さない。応じたら最後、アツコの生贄と自分の死が確定してしまう。

最悪自分は死んでもいい。しかし、アツコが死ぬのは許容できない。

なんとかしてこの子だけでも、と手立てを考えるが、ただの花屋の彼に状況を打開する策などある筈がなかった。

 

『あなたを見るのも、もうウンザリです。そして、道具の持ち主としてやはり仕置きはしておかなければ。───各位、通常弾の使用を許可します』

 

「御意!!」

 

待っていましたと、少年を蜂の巣に、少女を無力化せんと全方位から銃口が向けられる。

 

「カナエ、伏せて・・・私が、庇うから・・・お願い」

 

「さっきは守ってくれてありがとな。今度は、俺の番だ」

 

「ダメ、だよ・・・」

 

半分赤く染まった視界に写る少年は、愛おしむように少女の頬に触れた。

柔らかい。温かくて、滑らかで、本人が許すならずっと触れていたいと、魅力的な感触だと彼は思う。

 

「目を瞑るんだ。少しの間でいい。すぐに終わる」

 

「嫌だよ・・・生きて。いなくならないで」

 

「いるよ、ここに。ずっとアツコの側にいる」

 

女の子一人を覆うには、少し足りない。

だが、今できる精一杯で腕を広げ、少女を守るべく懐に入れる。

爪が無いせいで力の入らない両手で、抱きしめる。

 

『総員』

 

二人の行く末に審判が下される。

 

 

 

 

その刹那、空を流星が駆けた。

 

 

 

 

煌々と輝くソレはまるで彼岸花のようで、一つ一つが小さな爆弾であることを知るのは花弁が散るかの如く四方八方に拡散し、アリウス生に着弾してからだった。

 

「なん、だ?」

 

敵の仲間割れ、かと思えばどうやら違う。

 

「姫っ!!」

 

次弾が発射され再び効果を発揮したのと同時、アツコを呼ぶ声がする。

無骨なロケットランチャー、セイントプレデターを片手に戦場へ参入したのは、アリウススクワッドの一員、戒野ミサキ。

三発目を放ち、敵陣中央にいながらも二人が無事なことを確認し一先ず安堵した彼女は、すぐさま砲撃へと思考を切り替える。

 

「戒野・・・!邪魔をさせるな、特殊弾頭に換装し撃ち殺」

 

指示を飛ばす生徒が、最後まで言い切る前に頭を撃ち抜かれ地に伏した。

それが皮切りとなり、立て続けに各所で一人一人無力化されていく。原因を作っているのは、こちらもアリウススクワッドの所属。

 

「ヒヨリ・・・!」

 

希望に満ちた声で、アツコはその名を呼ぶ。

スナイパー、槌永ヒヨリ。遠距離用ライフルのアイデンティティを駆る彼女の狙撃は正確無比。

数秒を追うごとに一人、また一人と姿の見えない場所から放たれる銃弾により、地面に転がる敵が増えていく。

巨大な対物ライフルが人間相手に威力を発揮する様は、正に圧巻だ。

そして、

 

ズガガガガガッ!!!

 

爆音が木霊する。

暗所をミサキのミサイル、ヒヨリの弾丸が軌跡を描く中で、絶大な威力を発揮してアリウス生達にそれは襲い掛かった。

前者二人によってダメージを与えられていたとはいえ、一瞬にして十人ほどをノしたのは、黒い少女。

 

「アリウススクワッド総員に告ぐ」

 

精鋭部隊のリーダーを務める、錠前サオリ。

 

「各自、己の義務を果たせ」

 

『「了解」』

 

今ここに、アリウス分校最高戦力が集結した。

各々が屋内戦闘のスペシャリストであり、更に首領のサオリはゲリラ戦において白洲アズサの師でもある。

奇襲、白兵戦は御手のもの、戦力差はあるが体力に余裕があり、自分達を魚と例えるならこの場は水。

負ける道理はない。

 

「私も・・・!」

 

ガスマスクを付け、光を灯しドローンを再起動させるアツコ。

 

「待っててね、カナエ。すぐに終わらせてくる」

 

彼の返事を待たず、アリウスの姫君はサオリ達に加勢する。

 

「アツコ!怪我は!?」

 

「大丈夫。ありがとう、きてくれて」

 

「彼から二人で出掛けるという連絡を受けたんだ。もしもがあっては遅いと思ってゲヘナに来てみたが、どうやら正解だったな」

 

互いに背中を合わせ、見事な連携で隙をカバーし近接戦をこなす黒と白の少女。

 

「私がいけないの。もっと用心するべきだった・・・」

 

「ああ、それに関しては後で説教だ。───だが先ずは」

 

「うん」

 

こいつらを片付けよう。

爆薬の花が道を切り開き、彼方から打ち出される凶弾が敵を撃ち抜き、取りこぼしを狩るように前衛二人が踊り舞う。

付け入る隙はなく、その完璧過ぎるチームワークに文句の一つも挟まれることなく、スクワッド四人が力を振るうごとに、バタリバタリと相手は倒れる。

 

「すっげえ・・・」

 

あれだけの戦力差を、たった四人で補い、超える。

曲芸、芸術、どちらにも取れる戦い方に、カナエは魅入った。

 

そして、遂に。

 

『・・・忌々しい』

 

ホログラムのベアトリーチェを残して、敵部隊は全滅した。

 

『おまえ達は、いずれ全て無に帰す虚しい行いをしている自覚はお有り?』

 

乱戦を終えて、擦り傷一つないサオリが彼女の前に立つ。

 

「とうに理解しています、マダム。あの日、作戦を失敗し逃走を選んだ日から」

 

『ならばアツコを渡しなさい。そして私のために死ね』

 

「それはできかねます」

 

黒い少女は、愛銃を構え、言った。

 

「スクワッドの総意は、既にあなたのものとはかけ離れている」

 

彼女を映す機材が撃ち抜かれ、破壊される。自らに洗脳という教育を施した怪物への、決別の一撃。

もう後には引けないと改めて決意を固め、サオリは全員の無事を確認する。

 

「ミサキ」

 

「少し食らったけど、問題ないよリーダー。姫のドローンでもう回復してる」

 

「ヒヨリ」

 

『い、生きてます・・・今そちらに向かってて、後少しで合流できるかもです』

 

「アツコ」

 

「大丈夫。頭に一発もらったけど、ミサキと同じで回復はしてる。傷も塞がってるよ」

 

「そうか・・・」

 

スクワッド総員、自身を含めて目立った怪我は無し。問題は、とサオリはアツコに肩を借りるカナエに近づいた。

 

「サオリさん、すまない。あなたに託されて早々にこれだ。言い訳のしようもない」

 

「いや、キミは姫の要望に応えようとしてくれたんだろう。これまでの恩もある。万全の状態でなかったら、倒れているのは我々だった」

 

撃ち抜かれた右足と、剥がされた爪の痕が痛々しい。アツコのドローンとその後の応急処置で回復はしているが、完治には時間を要するだろう。

 

「姫共々、世話になったな。これだけ危険な目に遭わせた以上、もう迷惑はかけられない」

 

「・・・まぁ、そうなるよな」

 

二手に別れて撹乱する手は、二度と通用しない。

無関係だったカナエと共にいることで成り立っていた作戦だっただけに、アリウス側にカナエの顔を知られてしまった今、協力関係を維持するメリットは無くなった。

 

「ここにいるのもなんだ。店まで送り届けよう、それから今後の方針を決める」

 

別れるための時間も必要だろう。

サオリはカナエとアツコを交互に見てから、白コートを翻して先頭を行く。

 

「・・・姫、私も肩貸そうか」

 

「ありがとう。でも平気、カナエのことは私に任せて」

 

「ん」

 

「み、皆さーんっ。ご無事で何よりです・・・!」

 

ヒヨリが合流。三人が負傷しているカナエと彼に肩を貸すアツコの前に出て、警戒を強めながら歩みを進める。

 

「カナエ」

 

「・・・なんだ?」

 

「明日を、一緒に迎えよう」

 

「・・・そうだな」

 

「・・・ずっとは、いれないけど」

 

別れの時が近づいている。

寂しげにそれ以降口を閉ざした少女の隣で、少年も同じく寂しさの到来を感じ押し黙る。

四人と一人は闇に紛れるように、その場を後にした。

 

 

 




chamomile:カモミール
花言葉:逆境で生まれる力

頭からの流血で片目が赤く染まるのって良いですよね(好きな性癖発表ドラゴン
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