今日も今日とて僕シド・カゲノーは陰の実力者目指して邁進していた。
だが、陰の実力者とてたまには休息が必要だ。
夜分遅くの王都の片隅、ラーメン屋の屋台にて麺をすすり、チャーシューを齧り、スープを飲む。
「はふぅ……やはりラーメンはいい。この安っぽい味が実に僕好みだ」
ミツゴシの影響か、前世でよく食べていたものがミドガルの王都近辺なら簡単に食べられるようになりつつある。
以前ユキメと共謀して偽札で一儲けしようとした時もよく来たなぁ。
「ボス!お肉ちょうだい!」
僕の足元ではっはっ!と犬そのものの呼吸をしながらお座りしている犬耳女が尻尾をぶんぶんと振っていた。
「はいはい」
僕は彼女の前にチャーシューの塊を置くと、彼女はそれに齧り付いた。
「ん~!おいし~のです!」
「よかったねー」
肉を頬張る彼女、デルタを横目に前もこんなことあったなと思い出す。
以前と同じくお前その格好で王都にきたの?と聞きたくなるようなスライムスーツによる胸と股関のみを隠した下着スタイルのまま目を輝かせている。
相変わらずバキバキに割れた腹筋が眩しい、ナイスバルク。
「ボス!おかわり!」
「もうないよ」
デルタがチャーシューに夢中になっている間に完食してしまった。
「ごちそうさまでした」
僕は空になったどんぶりを店主に返すと、彼女は無情にも空っぽのどんぶりを見た後に僕に目線を向けた。
「ボス!おかわり!」
「もう帰るよー」
「ぶー!」
頬を膨らませるデルタをなだめながら、僕らは夜の王都を歩く。
いつかのようにデルタを肩車しながら。
「今日はどうしたのさ、いつにもまして突然来たね」
「遠くで狩りしてたらボスに会いたくなって走ってきたの!」
「はいはい。デルタは元気だねー」
僕は呆れながら、彼女が「ボス狩り行こー」と僕の頭をぺちぺちと叩くのを手で止める。
遠くから走ってきたと言っていたが確かに汗ばんでいる。
というかぶっちゃけ臭い。
「デルタ、最後に水浴びしたのいつ?」
「ん~とね、走る前だから3日前!」
こいつ3日も走り続けてたのか。
デルタの足で3日もかかるなら本当に遠くまで狩りにいってたんだなぁ。
「じゃあ、僕の寮の部屋にいくよ、お風呂貸してあげるから入ってきなよ」
「わーい!ありがとうボス!」
デルタは嬉しそうに僕の頭をぺちぺちと叩く。
僕はデルタを寮まで肩車のまま連れていく。
貧乏学生向けのボロい寮だが、僕の部屋にだけ風呂がある。
以前アルファに寮に風呂がないのがきついと愚痴ったら次の日には僕の部屋が改装されてお風呂ができていた。
どこからお湯を引いているのかまったくわからないが、いつでもお風呂に入れるのはありがたいから気にしないで使わせてもらっている。
「着いたよ」
「わーい!お風呂だ~!ボス!一緒に入ろう!」
「はいはい」
僕は下着姿のままのデルタを風呂場の椅子に座らせると、シャワーを出し、お湯をかけて彼女の体の汚れを落としていく。
デルタは気持ちよさそうに鼻歌を歌い始めた。
やはりなかなか汚いなぁ、流れるお湯がどす黒く汚れている。
僕はデルタをある程度洗い終えると、次に彼女の長い髪の毛を洗う。
「ボス~!くすぐったいよ!」
「我慢しなさい」
手ぐしで髪を流しつつお湯をかけて濡らしていく。
もとは艶のある黒髪なのだが、デルタのデタラメな動きにつきあわされる髪の毛は傷んでしまっている。
「デルタ、シャンプーするよ」
「わーい!」
僕はポンプを押して手にシャンプーをとると、それを髪の毛に馴染ませ泡立てていく。
ガンマからもらったミツゴシ製のお高いシャンプーだけあって泡立ちが非常にいい。
デルタは目を細め気持ちよさそうにする。
シャンプーの一度泡を洗い流し、もう一度シャンプーを泡立てていく。
一度めのシャンプーで汚れは大分落ちたので二度めは髪の毛に栄養を与えるためじっくりともみこんでいく。
ぎゅぅっと頭皮を揉むように指を頭皮に押し付けた。
「ん~、ボス、きもちいい~」
「そりゃよかった」
僕はそのままデルタの側頭部をぐっぐっぐっと指圧していく。
時折指の腹でシャカシャカと擦るように頭皮を揉むのも忘れない。
「なんかそれゾクッとするのです」
「頭皮のマッサージだよ。血行がよくなって気持ちいいでしょ?」
「うん!きもちいいのです!」
デルタは尻尾をふりふりしながら、気持ちよさそうにしている。
ペチペチと尻尾が僕に当たるが、僕は気にせずマッサージを続けていく。
後頭部から頭頂に向かって押し上げるように頭皮に指を入れ、指圧する。
血行が大分よくなってきたのか頭皮が柔らかくなってきた。
血流がよくなるとかゆみが襲ってくるものだがデルタも例外ではなかったようだ。
「うぅ~、ボス頭かゆい~、かいてぇ」
「はいはい」
僕は指圧していた手にスライムを纏わせる。
そして前世で僕が愛用していたシャンプーブラシをスライムで再現した。
少し固めのゴムのような質感のスライムブラシをデルタの頭に沿わせると、そのまま頭皮を刺激しないように優しく動かす。
「わわ!ボスくすぐったい!」
デルタは笑いながら身をよじるが僕は気にせずに続ける。
頭頂部から側頭部、後頭部まで満遍なくブラッシングし、目に見えない頭皮の汚れをこそぎ落としていく。
「ボス!なんかゾワゾワするのです!」
デルタはシャンプーブラシによる頭皮のマッサージに慣れていないのか、それとも気持ちいいのか、目をつぶって体をよじっている。
元々は今世の父親の頭を見てハゲの実力者は嫌だと必死で再現したシャンプーブラシやヘッドマッサージの技術だがデルタのお気に召したらしい。
僕はデルタの頭皮を揉みほぐしつつ、頭頂部にあるツボを刺激していく。
「ボス~!きもちよすぎてあたまがふわぁってする~!」
「もうちょっとの辛抱だよー、頭流していくからね」
シャワーヘッドを手に取り、頭皮の泡を洗い流していく。
人肌より少し温かいくらいのお湯がデルタの頭皮を洗い流し、髪の毛の汚れも洗い流していく。
「はう~」
「次はトリートメントするよ」
シャンプー共々ガンマからもらったミツゴシ製ヘアトリートメントを手のひらに取ると、それを髪の毛全体に馴染ませていく。
このトリートメント、前にミツゴシで見かけたら凄い値段で驚いたなぁ。
度々姉さんが部屋に来ては強奪してくだけはある(なんかシドと同じ香り♥️とか言ってた気がする)
うとうとしてきたデルタの髪の毛にトリートメントを馴染ませつつ、指ですいて伸ばす。
「なんかこのとろんってしたやついい匂いするのです!」
「そうだねー」
僕は適当に相槌を打ちつつ、髪の毛全体にトリートメントを塗り終える。
「これで五分くらい放置するよー」
「わかったー!」
元気よく返事をするデルタの頭をぽんぽんと叩く。
五分間手持ち無沙汰なのでデルタの尻尾も洗うことにした。
デルタは尻尾に汚れが溜まりやすいのか、結構汚れがついているのだ。
そういえば敵を尻尾で突き刺したりとかやってたな。
僕はデルタの尻尾を手に取り、わしゃわしゃと洗う。
「ボス!くすぐったいのです!」
デルタが笑い声を上げる中、僕は無心で彼女の尻尾を洗い続ける。
手触りのいいフワフワの尻尾。
僕はそれをゴシゴシと洗い続ける。
「ボス~!ストップ!ストップ!」
デルタがジタバタするのを構わずに僕は尻尾を洗い続ける。
泡だてたスポンジできゅっきゅっと、丁寧に優しく洗う。
その度にデルタは笑い声を上げるが気にしない。
気にせずに尻尾を洗い続け、五分が経過したのでシャワーヘッドを手に取りお湯を出す。
「トリートメント流すよ、尻尾も一緒に流しちゃうから大人しくしててね」
「はーい!」
デルタの尻尾を優しく掴みながらシャワーヘッドからお湯を出すと、それを尻尾に馴染ませていく。
わしゃわしゃと尻尾全体を流し終えると僕は彼女の髪の毛にお湯をかけた。
手ぐしを通しながら髪の毛全体にお湯を馴染ませて、トリートメントを落としていく。
髪の毛が明らかに艶々しているのを確認すると、僕はシャワーヘッドを置いた。
「はい!デルタ終わり!」
「わーい!ボスありがとー!」
彼女はそう言うとぴょんと椅子から飛び降りた。
そしてそのまま僕に飛びついてくると、僕の顔をぺろぺろと舐めてきた。
「わっぷ!ちょっとデルタ!」
僕は慌てて彼女を引き離すが、彼女は嬉しそうに僕にじゃれついてくる。
そんなデルタに呆れながらも僕は彼女の頭を撫でるのだった。
※
その後デルタとお風呂に入った僕は、適度に温まると風呂を上がりタオルでデルタの髪を拭いていた。
「ボス!おなかすいた!」
「はいはい、わかったからじっとしててね」
僕はタオルで彼女の髪の毛を優しく拭きつつ、尻尾も丁寧に拭いていく。
わしゃわしゃと拭く度にフワフワの尻尾が揺れる。
そんな尻尾を見てふと疑問に思ったことをデルタに聞いた。
「そういえばさ、デルタは尻尾の毛繕いとかしてるの?」
「んーん!してないのです!」
デルタは元気よく答える。
「じゃあ今度僕がやってあげようか」
「ほんとー!?」
僕の提案にデルタは嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる。
デルタの髪の毛を洗ってたら前世飼ってたジョンを思い出してブラッシングしたくなったのだ。
そんな彼女の尻尾をタオルで優しく拭くと、僕はドライヤー(もちろんミツゴシ製、電源とかどうなってるんだろ?)を取り出した。
そしてそれを彼女の髪の毛に当てて熱風を当てていく。
ぶぉーっと音を立てながら彼女の髪の毛が風に吹かれ靡く。
「うん、髪の毛つやつやになったね、さすがガンマのおすすめシャンプーセット」
「わーい!ありがとー!」
デルタの髪の毛はサラサラになって綺麗になった。
そして尻尾にもドライヤーを当てていく、こちらも同様に綺麗だ。
乾かしながら彼女の尻尾をわしゃわしゃと触っていると彼女はくすぐったそうにして体をよじるが抵抗はしない。
むしろもっと撫でてと言わんばかりにこちらに体重を預けてきた。
「はい終わり」
僕はそう言うと、彼女から離れようとしたのだが、デルタは僕の服を掴んだまま眠ってしまっていた。
「zzz……ボス~」
「やれやれ……」
僕は涎を盛大に垂らして眠るデルタを抱きかかえると、彼女をベッドまで運んでいく。
そして彼女をベッドに優しく下ろすと、布団を掛けてやった。
「おやすみ」
僕はそう言いつつ、今夜はソファーで眠ることにした。
綺麗にしたデルタの髪の毛だがすぐに外を駆け回って痛むんだろうなぁ、と僕は思いながら眠りについた。