これで合ってるんだろうか?
耳が痒い。
僕シド・カゲノーは耳の違和感に眉を寄せた。
学園を一人散策していたら急激に耳の奥から痒みが広がったのだ。
感覚的に多分鼓膜近く。
何か張り付いているような、そんな感覚だ。
「う〜ん……」
痒みを和らげようと僕は耳に手をあて擦った。
でもあまり効果はなく、むしろその行動のせいで耳の痒さが増した気がする。
自分で耳かきするにはちょっと難しそうな位深い位置が痒い。
痒みって一度意識しちゃったらもう気が散って仕方ない。
僕は耳をいじりながらどうしようかと考える。
「姉さんに頼むのはあとが怖いし、七陰のみんなはそもそも耳かき自体知らないだろうし……、気はすすまないけど医者に見てもらうかなぁ」
時折姉さんが突然僕の耳かきをしにくるが最近はアレクシアと一緒になにやら忙しくしてて、その回数も減ってしまっている。
自分から頼むのは後で何を要求されるのかわかったものじゃないので却下。
七陰含むシャドウガーデンのみんなに至っては耳かき自体知らないだろう。
この世界では耳かきなんて一部の夜のお姉さんが働くところのサービス位でしかやらない。
大体みんな医者に取ってもらうのだ。
「医者に見てもらうとモブっぽくない身体を見られるから嫌なんだよなぁ」
そう、僕はモブを演じるエキスパートだが身体まではモブにはできない。
着痩せするタイプだが一度脱げばどこのボディビルダーですか?というくらい筋肉が盛りに盛られた肉体が露になる。
せっかくモブとして学園生活を謳歌しているというのに実はキン肉マンなんて噂がたっては困る。
だから極力医者にはかかりたくないが耳の痒みが深刻だ。
「うーん、誰か耳かきできるような人姉さん以外にいないかなぁ……、あっ、いた」
脳裏にある獣人のお姉さんが思い浮かぶ。
あの人なら多分お客さん相手に耳かきしなれてると思う。
「よし、そうと決まれば行きますか!」
周囲に誰もいないのを確認すると僕はスライムスーツを身に纏い空を飛ぶ。
目指すは無法都市、白の塔だ。
※
「確かにウチら娼婦は耳かきもできますけども、よう耳かきなんて知ってはりましたなぁシャドウはん」
無法都市についてすぐ白の塔に来た僕は獣人のお姉さんと向かい合っている。
狐の獣人で無法都市の娼婦街を牛耳る元締めユキメだ。
以前共に偽札で一儲けしようとして失敗してから会ってなかったが、歓迎してくれるようだ。
「ああ、以前耳にしたことがあってな。それで耳に不調を感じてここに来た次第だ」
シャドウの口調でユキメに答えると彼女は「なるほどなぁ」と納得してくれた。
ちなみに娼婦が耳かきしてくれると聞いたのは本当である。
なんかジャガが鼻息荒く「娼婦のお姉さんは頼めば耳垢を取ってくれるんですよ~!!しかも膝枕で!!」とか言ってた。
童貞なのにどこからそういう情報を手に入れてくるのかよくわからない。
なんでも夜のお仕事ではなく耳かき目当てに通う人もいるらしい、風俗よりキャバクラが好きなおじさんみたいなものだろうか?
「しかしシャドウはんに耳かきするんも面白そうやけど、ウチがおたくんとこの七陰はんらに怒られそうやわぁ」
「?、問題ない、彼女たちとて解ってくれる」
別にアルファたちは関係なくない?
よく解んないけど適当にごまかしとこ。
「そうやろか?まぁそうならええわ。ほな部屋いきましょか、ウチの子らには準備するように言っとくさかい」
「ああ、案内を頼む」
こうして僕はユキメの部屋に通された。
ユキメの部屋は白の塔最上階のワンフロアをまるごと使ったかなり広い部屋だった。
その部屋には畳が敷いてあり囲炉裏まである。
前世以来の純和風部屋にテンションがあがる。
「ほないこか?シャドウはん、こっちや」
囲炉裏の近くに敷いてある座布団をぽんぽんと叩きながらユキメが僕を呼ぶ。
僕は彼女の指示に従い囲炉裏の前に座った。
「ほな、シャドウはん。ここに頭乗っけてや」
「うむ、失礼する」
座布団に正座したユキメがぽんぽんと自分の太ももを叩く。
僕は素直にその膝枕に頭を預けた。
ユキメの太股は肉感的で柔らかく、温かい。
上質な着物の滑らかな感触とユキメの体温が頭を刺激する。
「ふむ、これはなかなか」
「せやろ?ウチの膝枕やさかいな」
思わず漏れた僕の声にユキメは得意げな顔をする。
しまった、陰の実力者がこんな簡単に声を漏らすとは!
「ほな、耳掃除始めるさかい。じっとしとってや」
「うむ、頼む」
僕の頭の位置を微調整したユキメがおしぼりで耳を拭いてくれる。
ぎゅっ、ぎゅーっ、すーっ
温かいおしぼりのはずなのに確かな清涼感をかんじる。
「これは……、薄荷か?」
「さすがシャドウはんやわぁ、一発で薄荷に気づいたお人は初めてや。せやけどよう薄荷なんて知っとったなぁ」
「当然だ」
前世で夏場にお世話になってたからね。
お風呂に入れて清涼感を楽しんだり、虫除けに使えたりと便利な薄荷。
ユキメはそれをおしぼりに少量染み込ませて耳を拭いてくれてるようだ。
一拭きごとに清涼感とおしぼりの温もりが相まって、心地よい感触を僕にもたらした。
ぎゅっぎゅっ、こりっ、こりっ
耳の裏側から耳朶までを拭いたユキメは今度は僕の耳を揉み始めた。
「ん〜、シャドウはんの耳硬いなぁ。血行良くせなあかんで」
ぎゅーっ、もみもみっ、ぎゅううう
強く揉んだり弱く揉んだりして絶妙な刺激を与えてくる。
さすがプロというべきか、姉さんの力任せな耳揉みとは大違いだ。
……本当、ぐいぐい引っ張ってくるからな姉さん。
僕はユキメの耳揉みに身を委ねる。
ぎゅっ、もみっ、こりっ
「どうや?気持ちええやろ?」
「うむ、なかなか良いものだ」
「ふふん♪せやろ?ウチの子らはみんな上手やからなぁ。気持ちよくないなんて言わせへんでぇ♪」
自慢気に言うユキメはどこか嬉しそうだ。
しかし、本当に上手いなこの狐娘……。
ユキメに頼んで正解だったようだ。
「さて、そろそろ耳垢とるさかい。ちょっと力抜いとってや」
ユキメは僕の耳に息を吹きかけながら言う。
薄荷で清涼感を得た僕の耳にユキメの生暖かい吐息が吹きかかる。
「っ、」
その刺激に思わず反応しそうになるが僕はなんとか耐え忍ぶ。
ここで変な声なんて出してしまっては陰の実力者の名折れだ。
「ほな、いくで〜」
耳かきが耳に入ってくる。
……かと思ったが耳に入ってきたのは別のものだった。
ジョリッ、ジョリジョリッ、ずーりっ
「〜〜〜ッ!?!?」
耳の中で何か棒のようなもので耳穴をなぞるユキメ。
初めての感覚に驚嘆する僕。
「お、シャドウはんええ反応やな、これは穴刀いうてな、お耳の毛を剃る道具でありんす」
耳の中でジョリジョリと音が響く。
穴刀、聞いたことはあったが実際に使われるのは初めてだ。
耳の毛なんて産毛くらいの細い毛のはずだが、はっきりと毛が剃られる感触がある。
「シャドウはんの耳の毛は薄い方やけどやたら硬いなぁ、剃り甲斐あるわぁ」
「ぬっ」
耳の毛を剃られてるからか耳に普段とは違う違和感がある。
あと硬いのは人体改造してるから毛根も強くなってるのかもしれない。
ジョリッ、ジョリジョリッ、ずーりっずり
耳の外側も内側も穴刀で剃られる。
耳全体がひんやりする感覚とジョリジョリと毛が剃り落される快感の両方を味わい変な気分になる。
「剃った毛はこの綿棒で取っていくさかい。ほれ」
ユキメは綿棒に毛を絡めていく。
ぺたぺたと耳毛が引っ付いていくのがわかる。
これ粘着綿棒?
この世界にもこんなのあるんだ。
「これいいやろ?粘着質な薬草に漬けた綿棒でなぁ、お毛毛とか耳垢も引っ付いて取ってくれるんよ。わっちのお気に入りでありんす」
綿棒を僕の耳に突っ込みながらユキメは言う。
なるほど、粘着質な薬草ねぇ……。
薬草なら耳にも優しいのかな?綿棒が耳穴の壁を優しく撫でる。
ぺたっ、ぺたっ
耳毛を丁寧に巻き取っていく綿棒。
「剃った毛は綺麗に取れたなぁ。ほな、そろそろ本格的に耳掃除いくで〜。シャドウはん、耳の中見るから力抜いてな?」
「……ああ」
僕は脱力して耳をユキメに頭を預ける。
じっと僕の耳を奥まで覗こうとユキメが顔を近づけてくる。
「あー、シャドウはんの耳はあれやわ、ぎょうさん溜まってはるなぁ」
「痒みが酷いから察してはいたがそこまでか?」
僕がそう答えるとユキメは少し申し訳なさそうな顔をして謝った。
「堪忍なぁ、ここまで溜まってると思わんくて……。ちょっとしんどいかもしれへんよ?」
「問題ない、全て任せる」
「おおきに。ほな、入れていきますえ〜」
いかにも高級品といった朱色で金の模様があしらわれた竹の耳かき棒をユキメは手に取る。
「まずは入り口からやな」
つぷ、ずっ……ずーっ
耳の中に入ってきた耳かき棒は僕の耳垢を掻き出していく。
昔僕が作った耳かきよりよっぽどいい感触、これが職人の技か……。
「お〜、シャドウはんの耳垢は乾いてはるね、結構珍しいで」
「そうなのか?」
耳垢の質なんて気にしたことがないからわからない。
前世だと日本人は乾いてる人が多いんだっけ?
「せや、普通やったら耳垢って湿ってるもんやけどシャドウはんみたいに乾燥したやつはあんまりないでありんす。なんか特殊な体質なんかなぁ?」
肉体改造しまくってます。
まぁ、それは関係ないだろうがこの世界の人たちは前世でいう外国人みたいな見た目の人がほとんどだ。
耳垢も外国人よりなのだろう。
僕は前世日本人だから乾いてるのかな?
「……さてな、乾いていたらやりにくいか?」
「むしろやりやすいなぁ、乾いてたら取りやすくてええから助かるわぁ」
ユキメは機嫌良さそうに耳かきを続ける。
カリッ、カリリ 耳の中で耳かき棒が奏でる音が響く。
手前だけでも結構な量があったのか、ユキメは耳かき棒を何度も往復させる。
「ん〜……、シャドウはん、ちょっと奥まで入れるで」
ユキメはそう言って耳かき棒を僕の耳のさらに奥へと差し込んだ。
こつん、何かが耳かきに当たる感触。
「っ!」
僕は思わず反応しそうになったがなんとか堪える。
これが痒みの原因だとすぐにわかった。
「あ〜、やっぱりやわ。奥の方に大きいのあるんやけど耳壁に全体的に引っ付いてるわぁ、少しずつ剥がしてくさかい我慢してなぁ」
僕の反応を気にせずユキメは耳かきを続ける。
ズリッ、ズッ、ずりっ
耳壁がゆっくりと剥がされる音がダイレクトに脳に響く。
当たり心地が柔らかい耳かきが耳壁を刺激しながら剥がしていく。
「ん〜、ここやな」
ユキメは耳垢と耳壁の隙間を見つけたのか、耳かき棒をそこに入れようと掻き始めた。
ズリッ、ズッ、ずりっ
「〜〜ッ!!」
僕は思わず反応しそうになる。
しかしここで変な声を出せば陰の実力者の名折れだ。
歯を食いしばり耐える。
「シャドウはん、力抜いててや?ウチもやりにくいわ」
無理をおっしゃる。
「ぬぅ……っ」
ズリッ、ズッ、ずりっ、ずーっ
カリッカリッ
ユキメの耳かきは止まらない。
僕の耳壁から耳垢が少しずつ剥がされ、奥で大きな耳垢が少しズレたのが感触でわかった。
「う〜ん、これだけ剥がれかかっとると下手すると鼓膜に堕ちそうでちょっと厄介やわぁ」
ユキメはそう言うと耳かき棒を僕の耳から抜き、何か別のものを手に取った。
「鑷子で一気に引っこ抜こか」
「鑷子?」
え?何それ?
聞きなれない単語に僕は思わず聞き返してしまった。
横目でユキメの手にあるものを見る。
「ああ、ピンセットのことか」
へー、ピンセットって鑷子って言うんだ。
「せや、このピンセットで一気に引っこ抜くわ」
ユキメはそう言うと僕の耳にピンセットを挿し込んだ。
ピンセットが耳壁に触れぬよう慎重に奥へ入ってくる。
触れるか触れないかのもどかしい刺激。
ピンセットが奥の耳垢に触れる。
ズリュッ
「〜〜ッ!」
思わず声を漏らしそうになるがなんとか堪える。
「あ〜、やっぱこの耳垢は固いわぁ」
ユキメはピンセットを耳垢と耳壁の隙間にゆっくりと挿し込み、隙間を広げるように動かす。
カッ、コッ、バリ!
耳壁から耳垢が剥がされる音が響く。
ピンセットの先が徐々に深く刺さり耳壁に若干食い込む。
今完全に耳垢を掴んだ状態なのだろう。
「ちょっと痛いかもしれへんけど、我慢してなぁ」
ユキメはそう言うとピンセットを一気に引き抜いた。
バリッ、パリッ、バリバリバリバリ!
ズリュッ!ズルルルルル〜ッ!
「〜〜〜〜っ!!」
耳の中に痛みと快感の刺激が入り交じり、僕は声なき声をあげる。
ピンセットが僕の耳から抜けていき、ユキメの手の中で耳垢を確認できた。
「あ〜、やっぱり大きいなぁ。シャドウはん大丈夫やった?」
「……問題ない」
そう答えるので精一杯だった。
まさかあんな刺激が来るとは思わなかったよ……。
すっかり痒みは消え去り耳の中はすっきりとした感じである。
傍らに置かれた白い紙の上には僕の耳から出てきた大きな塊がある。
「……我ながら大きいな」
「せやなぁ、こんなんが耳の壁に引っ付いてたらそりゃ痒ぅなるわ。ま、これでもう大丈夫やと思うで?あとは梵天で仕上げや」
そう言ってユキメが取り出したのはフワフワとした毛玉のついた耳かきだった。
あ~、梵天かぁ。
この世界にきて再現しようとしたけど上手くいかなかったんだよなぁ。
まず材料が何か知らなかったし、スライムで再現しようとしても良い感じのフワフワ感が出なかったんだよなぁ。
イータやガンマに相談してたらできてたかな?
そんなことを考えてたらユキメの梵天が耳に入ってきた。
フワフワで気持ちが良い。
「ほな、動かすでぇ」
もふ、もふ、もふ
ユキメの梵天が僕の耳を優しく撫でるように動く。
「ん……」
思わず声が漏れてしまうほど気持ちいい。
耳の中でゆっくりと回転し、梵天の毛が僕の耳垢を絡めとる。
「シャドウはん、結構詰まってたからなぁ〜、今綺麗にしてるけど痒いとかあらへん?」
「問題ない」
実際もはや痒みは全くない。
ユキメの耳かきの腕が相当良かったのだろう。
「よし、梵天はこれくらいでええかな」
もふ、もふ、もふ……
最後に梵天が僕の耳の中で一回転してからユキメが耳かき棒を抜いた。
「これで梵天は終わりや、仕上げいこか」
ふ~~っ
「〜っぁ!」
仕上げに耳に息を吹きかけられて、ぞくぞくっとした感覚が全身を駆け巡る。
あ~、やっぱり僕これ苦手……。
「仕上げは終わりやで、お疲れ様ぁ。それじゃ逆の耳いきますえ」
そう言ってユキメは僕の身体をごろん、と転がした。
僕はユキメのお腹の方を向くように横になる。
「こっちはこっちでやりがいあるわぁ」
ユキメは僕の頭を優しく撫でると、またおしぼりで耳の辺りを拭いてくれた。
きゅっ、きゅっ
耳の外側を拭かれると乾いた音が耳に聞こえる。
もみもみ、ぎゅっぎゅっ
そのまま耳のマッサージが始まり、血行が良くなるのを感じる。
「シャドウはん」
ユキメの声が耳に届く。
僕は黙ったまま耳を揉まれ続ける。
「あんさんにはえろう感謝してはるんよ、うちの店の子らを助けてくれたことも、ガーター商会を潰すんを手伝ってくれたことも……ゲッタンのことも……」
ユキメがしんみりと話を続ける。
ゲッタン、か……。
僕は耳のマッサージを受けながらユキメの話を聞いて思う。
ゲッタンって誰だろう?
えっ、待って、マジで何の話?
赤い月の時にテンション上がってユキメの店の子を助けた覚えはあるけど、ガーター商会を潰すとか知らないんだけど。
ユキメが言ってるのって間違いなく僕の事だよね? なんか身に覚えのない感謝されてる……。
ここで何の話?とか聞ける雰囲気じゃない。
「みんなあんさんのお陰やす、これからもウチはシャドウはんの力になるさかい……なんでも言うてなぁ?」
「……ああ」
僕はそれだけ答えた。
とりあえずゲッタンって誰だよ?と聞きたかったが空気を読んで我慢した。
その後も耳かきって気持ちええやろ?とか、この梵天は自分で作ったんよ、と耳かきの自慢話をユキメが続ける。
僕は黙ってそれを聞いていたが、その内うとうとして寝てしまったのだった……。
「シャドウはん!シャドウはん!」
ゆさゆさと身体を揺すられて目を覚ます。
どうやらあのまま眠ってしまったらしい。
完全に油断した、シャドウの姿の時に人の膝枕で寝こけるとかありえない……。
「ん……」
僕はのっそりと身体を起こす。
するとユキメが僕の顔を覗き込み心配そうに聞いてきた。
「シャドウはん、えらい気持ちよさそうに寝てはったけど大丈夫やろか?疲れとったんやねぇ」
ユキメはそう言って僕に微笑む。
いや、疲れてたわけじゃないんだけど……。
うん、耳かきが気持ちよくて寝落ちしただけです……。
寝ている間に耳かきも済ましたのか両耳の聞こえがすごくいい。
完璧な仕事である。
「ああ、問題ない。感謝する」
僕はそう言ってユキメに礼を言うと立ち上がった。
起きたばっかりなのに身体が軽いことに驚く。
プロってすごいね。
そのまま窓辺にいき外を眺める。
太陽はもう沈みかけ、もうすぐ夜になりそうだ。
「すまんなぁシャドウはん、疲れとるとこ無理させてしもうたやろか?」
ユキメが申し訳無さそうに言ってくるが僕は首を振る。
「問題ない、とても有意義な時間だった」
不覚にも寝落ちしてしまったのがいい証拠だ。
そんな僕の反応を見てユキメはホッとした顔になる。
「あんじょうおおきに、ほなまた来てなシャドウはん。いつでも耳かきしたるし、別の用事で来ても歓迎するでありんす」
ユキメは笑顔でそう言ってくれた。
「ああ、また来る」
僕はそう答えると窓から身を翻してユキメの店を後にした。
空を駆ける僕の耳にかかる風が心地いい。ん~、今日は充実した一日だった。
けど……
「結局ゲッタンって何なのか聞きそびれたなぁ…」
まぁ、次にユキメに会ったときに憶えてたらそれとなく聞いてみよう。
この時はそう思っていたが、次にユキメに会うときにはきれいさっぱり忘れてる僕だったとさ……。