V.II ス マ イ ル 作:でうすえっくすまきな
「V.VI」
「はい……?」
ある日の昼下がり。ルビコン3ヴェスパ―隊駐屯基地のハンガーで、V.VIメーテルリンクは彼女の上官にあたるV.IIスネイルに呼び止められた。
「少し、意見を伺いたいのですが構いませんね」
「なんでしょう」
「私のコールサインについてです」
「スネイル閣下のコールサインについてですか? 特に何か問題があるようには思いませんが……」
「いえ、そうですね、確かに私のコールサインは“スネイル”ですが」
不意に、スネイルがメーテルリンクと向き合う。
「“スマイル”の方が親しみやすいと思いませんか?」
メーテルリンクは開いた口が塞がらなかった。
***
今から二週間前。ヴェスパー隊にあるニュースが飛び込んできた。
ヴェスパー隊の実質的なリーダーであるスネイルが寒冷地帯で雪に足を取られ、転倒し頭を強打したというのだ。当たりどころが悪かったようでスネイルは失神。数時間ほど気を失っていた。
そして、今。失神から回復したスネイルはどうも様子がおかしくなっていた。周囲への気配りを欠かさなくなり、何かと振る舞いが爽やかになっていたのである。初めは同僚達も面食らったが、「これまでの陰険な振る舞いよりよっぽどいい」としてなんだかんだ現在のスネイルを受け入れていた。
「はぁ……」
「スネイル……“かたつむり”というのも可愛らしくて悪くはありませんが、やはりスマイルの方が表現もストレートでいいと思うのですよ」
「私としてはどちらでも。既に閣下は充分親しみやすいですから」
「嬉しいことを言ってくれますね」
「それはそうと閣下、“壁越え”についてなのですが……」
メーテルリンクが話題を変えると、不意にスネイルの表情が硬くなる。
“壁越え”──ルビコン解放戦線の要衝である要塞、通称「壁」の攻略作戦のことだ。ヴェスパー隊の親元であるアーキバス社の狙いはルビコンに眠る新物質「コーラル」の奪取。そのためには現地勢力であるルビコン解放戦線は邪魔でしかなく、その要衝ともなれば目の上のたんこぶであった。
「頼んでいたものは調べてくれましたか」
「はい。V.IVの報告によると、やはりベイラムはレッドガンを差し向けてくるようです」
「規模は」
「G4ヴォルタのアサインが確認されています。G5イグアスもアサインされていたようですが……何故か今朝になって外されたようです」
「ふむ……読めない。我々ヴェスパ―とレッドガンの共同戦線が確立されればかなりの戦力になる。戦力差を誇示してのソフトキルも見えてくるでしょうに……彼らの社是とも反する。ベイラムは何を考えているのでしょう」
そう言って考え込むスネイルにメーテルリンクは言葉を続ける。
「しかし、恐らく解放戦線はこちらの降伏勧告を受け入れないかと。先日搬入が確認された重装機動砲台に加え、四脚MTも確認されています。徹底抗戦の構えです」
「それは理解しています。ですが僅かでも可能性があるのなら、わざわざそれを潰すこともないでしょう」
「お言葉ですが閣下……なぜそこまでこだわるのですか? 既に解放戦線と我々の戦力差は歴然。陥落させることは決して難しい話ではないはずです」
「それでは彼らが救われません」
「は?」
「ルビコニアン達のことですよ。彼らの故郷を想う気持ちは無視できません。彼らは我々を略奪者と呼びますが、否定はできませんからね」
それまでのスネイルなら絶対に言わなかったであろう言葉に、メーテルリンクはあんぐりと口を開けた。
「要求には対価を用意すべきです。すでに彼らはアイビスの火で多くのものを失っている。最低でも星外での生活を保証し、支援をすべきでしょう。既に再教育センターも改革を進め、今週末にも就労支援センターとして機能し始めます。職業斡旋も抜かりありません」
「再教育センターを!?」
「しかし、だからこそベイラム側の戦力が減ったのは痛いですね。独立傭兵でも雇うべきでしょうか……」
「! スネイル閣下、閣下宛に通信が入りました」
「スマイルです」
***
それから少しして。スネイルはハンガーの近く、モニター付きの通信機の前に座っていた。 突如としてスネイルの元にある人物からのコンタクトを取ってきた人物──ハンドラー・ウォルターと名乗った男は、少し前からルビコンで台頭し始めた独立傭兵の主人であることと、じきに行われる壁越えに彼の“飼い犬”の売り込みの連絡をしたのだと言う。
──
────
──────。
「貴方ですか? レイヴンとかいう独立傭兵の代理人は」
「ヴェスパー第二隊長スネイル、知己を得て光栄だ」
「スマイルです」
「……」
「壁越えに参画したいということでしたね? 解放戦線の大型兵器を破壊し、自信をつけていると見える。猟犬の飼い主として頼もしい限りだ。助力は大歓迎です。感謝しますよ」
「今回も第一隊長が出ると聞い……何?」
「ですから、助力をいただけるならありがたいという話です。違うのですか?」
「いや……そう、だが」
「それだけの実績があれば、フロイトの代わりとまでは行かなくとも、求める結果を得られるだけの働きは期待できるでしょう。頼りにしていますよ」
「あ、あぁ……」
「あぁそうだ。今回はV.IVも出ます。あれも調子に乗っているようだ。少し気を引き締めてやってください」
「……善処しよう」
***
数日後。
“壁越え”作戦発令数時間前。
「V.II スマイルです。これより作戦内容を伝達します。共に作戦行動に臨めること、光栄に思います」
ブリーフィングが始まった。
「ルビコン解放戦線が拠点化した交易上の要衝、通称“壁”を攻略します」
スネイルが立案した作戦はこうだ。
「敵は多数の砲台とMT部隊により防衛ラインを形成している。まずはそれを突破し、壁上に到達してください。そこに配備された重装機動砲台『ジャガーノート』の撃破、ないし無力化が依頼の達成条件です」
簡単に言えば、ACを用いた電撃戦。MT部隊を投入して“壁”を強襲するが、独立傭兵レイヴン、及びヴェスパー隊の戦力を以て解放戦線側の主要戦力であるジャガーノートをさっさと叩いてしまおうというものだった。
理想は無血開城。しかし解放戦線側の強硬姿勢と先だって行われたベイラム側の作戦の影響でそれは不可能になった。であれば、主戦力を真っ先に潰し降伏勧告を突きつける方向で行こうとスネイルは考えた。
「本作戦においては、我がヴェスパーの誇る第四隊長も別ルートで侵攻しますが、先走り壁越えを果たそうとしたベイラム部隊は残念なことに壊滅しました。せいぜい犬死にしないように気を付けることです」
作戦をそこまで伝え、通信を切る。あとはウォルターとその部下がなんとかやってくれるだろう。スネイルは息をつき、椅子に深く座り直した。
「V.IVの準備はできていますか」
「問題ない」
呼びかけに応じ、別の通信回線が開く。相手はV.IVラスティ。ヴェスパー隊の新入りでありながら第四隊長のポストを任されている実力派である。
「改めて確認しますが、作戦内容は頭に入っていますね。あなたの仕事は壁上の制圧です」
「あぁ。わかっている。確実に遂行して来よう」
「それからもう一つ気を付ける点があったでしょう。覚えていますか?」
「あまり時間をかけずに、だったか?」
「それもそうですが、可能な限り殺生は避けなさい。捕虜はいくらとっても構いません。センターに話は通してあります」
今回スネイルがラスティをアサインした理由はここにあった。ヴェスパー隊随一のスピードを誇るラスティであれば、道中のMT部隊を無視して壁上へ到達するのも不可能な話ではない。実力はあるもののバトルジャンキーのケがあるV.Iでは道中の戦力を皆殺しにして進んでいくランボー状態になりかねない。
と、そこまで話すと、ラスティの返事が止まった。
「聞いていますか?」
「……いや、すまない。わかった、殺生は避けるんだったな。承知した」
「えぇ。よろしくお願いします」
そうして通信が閉じると、スネイルの眼前に置かれたモニター上で一つの点が動く。ラスティが出撃したのだろう。
「さて」
コーヒーを啜る。ラスティの出撃に併せてアーキバスのMT部隊も出撃するのが見えた。急遽増援として呼んだ傭兵もそこに合流するはずである。
「ハンドラー・ウォルターとその猟犬……頼みますよ。あなたたちの働きが重要なのです」
と、そこで思い出したように近くにいたオペレーターを呼び止めた。
「私の乗機の起動準備もしておきなさい」
「閣下の機体を? 出撃の予定はなかったはずですが」
「用心に越したことはありません。まして相手はベイラム部隊を壊滅させています。何が起こるかわかりませんからね」
「承知しました! ではそちらの準備も進めておきます、スネイル閣下」
「スマイルです」
***
「企業ども…何度来ようともこの“壁”は越えられんぞ……!」
「コーラルよ、ルビコンと共にあれ!」
「死ね!独立傭兵!」
「次は隔壁にアクセスしろ。“壁”内部に侵入する」
「聞こえるか、こちらV.IVラスティ。早いな、どうやら話に聞くよりできるらしい」
「敵襲!増援は回せるか!?」
「君がレイヴンか……あのハンドラー・ウォルターの子飼いらしいな。これもめぐりあわせだ」
「ともに、壁越えと行こうじゃないか」
それから一時間後。“壁”攻略作戦は順調に進んでいた。前線のMT部隊から絶えず送られてくる情報を更新しながら、戦況の変化を慎重に読み取る。
「ここまでは順調。あの独立傭兵……思ってた以上にできますね。V.IVにライバル出現といったところ……か」
「スネイル閣下!」
「スマイルです。どうしたというのです」
と、そこへ一人の士官が息を切らして飛び込んできた。
「ベータ地点の部隊より緊急連絡です! どうやら解放戦線の増援が迫っているようで……!」
「場所は」
「“壁”街区から一キロの地点です!」
「一キロ……? 何故そんなに近づかれるまで気づかなかったのです!」
「どうやら待機させていた部隊が奇襲に遭ったようで……!」
「まずいことになりましたね。V.IV! 聞こえますか」
「こちらV.IV」
想定外の事態にスネイルは即座にラスティとの回線を開いた。
「そちらに増援が迫っているようです。対処できますか」
「……すまないが、正直ジャガーノートで手一杯だ、MT部隊を回せないか」
「ぐ……わかりました。増援に関してはこちらで対処しましょう。ジャガーノートを無力化次第、こちらへ急行しなさい」
そこで通信が閉じる。
「第二隊長閣下……申し上げにくいのですが、既に控えているMT部隊戦力に対処できるだけの数は……」
「戦力ならいますよ」
机の隅に置かれた、アーキ坊やのぬいぐるみを軽く撫でる。
「ここにね」
***
「管制システム、正常に作動」
「カタパルト、ロック解除、シリンダー接続」
「射出シーケンス開始!」
「ニッコリフェイス、出ます!」
ACが耐衝撃体勢を取り、重厚な音を鳴らす。同時にカタパルトが蒸気を吹き出し、爆発的な加速を生み出した。
操縦席に強い負荷がかかる。スネイルの乗機──“オープンフェイス”改め“ニッコリフェイス”は司令部から射出され、戦場へ降り立つ。
増援は出せない。MT部隊だけでは恐らく対処しきれない。であれば自分が出るしかないだろう。幸いニッコリフェイスは重装AC。相手がACや大型兵器でないなら、多対一の状況でも戦える。
「戦場の状況は逐一報告なさい。増援の対処と全体の指揮を平行して行います」
言うなりニッコリフェイスの重厚な脚部が唸りを上げ、スラスターが起動した。
そうして雪原を走り始める。戦場にいることを忘れてしまうほどの静かさだ。
だが、この先に解放戦線の戦力が待ち構えている。この先の戦線にはそれなりの数の戦力を置いていたはずだが、それを通信の暇もなく撃滅したというのだから、規模は計り知れない。
それらを殲滅──となれば確かに心許ない。が、単に足止めするだけならニッコリフェイス一機でも問題ないだろう。
「!」
その瞬間、レーダーが警告音を発する。とっさにかわすと、一瞬前までニッコリフェイスの立っていた場所に小型ミサイルが着弾した。
「接敵!」
叫び、周囲の様子を探る。今、ミサイルが飛んできたのは──
いた。30メートル先。少し隆起した地形の影にMTが見える。
「見つかったか……!」
即座に操縦桿を切り、MT部隊と向き合う。
「貴様……企業のACだな!」
男の声だ。目の前のMT部隊の先頭に立っている隊長と思しきMTからか。
「えぇ。そちらこそ、よくこの短時間で私を補足しましたね」
「当たり前だ、そんな……」
「そんな……なんです?」
「そんなピンク一色の機体なら見つからないわけないだろうが!」
オープンフェイスは、ニッコリフェイスに換装されるにあたって全身をピンク色に塗装しなおされていた。
「ぐ……親しみやすさの演出のために可愛らしい配色にしたのが裏目に出ましたか」
ちなみにわざわざヘッドパーツにデカールを貼って笑顔の表情をつけてすらいる。
「ふざけたACだな……! 貴様何者だ!」
「V.IIスマイルです」
「ヴェスパ―……? アーキバスの第二隊長か!」
解放戦線の男が黙り込む。雪原に立ち尽くす頭からつま先までピンク色のニッコリフェイスをじっと見つめ──
「……嘘つけェ!」
「嘘ではありませんが」
その瞬間、一斉にMTがスネイルに襲いかかった。
「誰だか知らないがふざけたAC乗りだ! 殺せ!」
「やめなさい! この戦いは無益です!」
スタンガンをMTに向け、引き金を引く。相手を単純に無力化できるよう出力を最大限落としているが、それでもMTが相手であれば充分な威力を持っている。できるだけ直撃を避け、至近弾による放電を狙った。
次々に襲い来るMTに向けスタンガンを放つ。正確な狙いによって的確に放電させられ、無力化されるMTが増えていった。しかしそれでも一向に後続が減る気配がない。
「何故争うのです……! まずは対話を!」
「お前たちに話す言葉などない!」
解放戦線の面々から戦う意思は無くならない。このままでは──どちらかに大きな損害が出る。
どうにかしなければ──と、スネイルが思案を始めた時。
「!」
瞬間、どこからか銃弾が飛来した。かなり大きな口径のようだ。ニッコリフェイスに向けて放たれたかに見えたそれは、解放戦線のMTも容赦なく撃ち抜いた。
「これは……!?」
スネイルが見上げる。そこには、一機の巨大なヘリコプターがいた。しかし、ヘリコプターと呼ぶにはそれはあまりにも巨大かつ堅牢。豊富な火器で武装した空中要塞とも言えるものだった。もはや既存のヘリコプターと呼ぶにはあまりにも形を逸脱しており、それゆえ別種として扱われている。誰が呼んだかルビコプター。それがこの兵器の名である(要出典)。
「惑星封鎖機構……! く、こんな時に!」
惑星封鎖機構にとって、星外企業であるアーキバス所属のスネイルはもちろん、現地住民である解放戦線すら排除の対象になる。そして目の前にいる巨大なヘリコプターはSG部隊に配備されている機体。間違いなくこちらを解放戦線もろとも殲滅する気だ。
「一時休戦です! 回避に専念しなさい!」
スネイルの駆るACならまだしも、解放戦線のMT部隊ではどうこうできる相手ではない。殺意を向けられたが最後、哀れ爆散するのが目に見えている。スネイルは叫ぶなり即座にヘリに向き合い、肩のレールキャノンにエネルギーを充填し始めた。
「彼らに話は通じない……」
スマイルと化してなお、スネイルは封鎖機構と対立を続けていた。
同じルビコンの来訪者でありながら、ルビコニアンすら排除対象とする姿勢は、彼らが公人であってもスネイルには容認できないものだったからだ。
おまけに封鎖機構には話が通じない。撃破するしかないだろう。ましてルビコプターが相手とあれば、手加減などしていられないだろう。
同時に左腕のレーザーランスが唸りを上げ、機体が急加速する。スネイルの突撃にヘリは一瞬反応が遅れ、機体を掠めていく。
「外したか……!」
その時。スネイルがルビコプターの後方へ飛び出す形となってしまった結果、ルビコプターの視線の先に解放戦線のMT達が現れる。
安い方から片づけよう──と言わんばかりに、ルビコプターのミサイルランチャーから数十発はあろうかというミサイルが飛び出した。
「危ない!」
それを見たスネイルは叫ぶととっさに急速にブーストを吹かし、MTの前に飛び出した。間一髪、放たれたミサイルはニッコリフェイスの背中に着弾する。
「うっ! く……まだ、動きますね」
「おいやばいぞ!」
「!」
見ると、ヘリは追撃の体勢に入っている。バルカン砲をこちらに向け、斉射の構えだ。
「まずい……このままでは」
仕方ない──スネイルは内心舌打ちしながら、操縦席のコンソールに手を伸ばした。
「各員、集まりなさい!」
瞬間、その場に衝撃が走る。ニッコリフェイスを中心に急激にパルスエネルギーが高まり、一気に放出された。
その場に球状のパルス障壁が展開される。バルカン砲から放たれた弾丸は障壁を通過し、威力を大きく削がれてスネイルに飛来する。数は多いが、この程度の威力であればニッコリフェイスの装甲に大したダメージは通らない。
スネイルが今発動したのはパルスプロテクション。オープンフェイスがニッコリフェイスへと換装される際、唯一積み替えられた装備だ。なぜ、アサルトアーマーからこれに組み替えたか──それは、もちろん。
「障壁の中へ!」
自分と、自分以外の誰かも守ることができるからだ。
解放戦線のMT達は突然現れたルビコプターとスネイルの行動に混乱しつつも、障壁内へ避難する。
しかし、ヘリからしてみればそれは的が一つにまとまったに過ぎない。これ幸いとバルカン砲とミサイルをスネイルに向ける。
「くっ……うぅ……!」
まずい。判断を誤ったか。スネイルは内心舌打ちし、コンソールを必死に操作する。何か、何かこの状況を打開できる装備は無いか──
ブースターを再度噴かして脱出──いや、解放戦線のMTを守れない。
ミサイルを斉射してレーザーランスで差し返す──いや、相手がミサイルを再度撃ってきたら受けきれない。
レーザーキャノンで反撃──現状これが最適解か。
単にヘリ一機を相手にするだけならいいが、背後のMT達を傷つけずに、というのが難しい。とにかく、攻撃を受け止めながら肩のレーザーキャノンを撃ち返すしかない。
コンソールに指を走らせ、レーザーキャノンの照準器を呼び出す。ジリ貧になるのが見えているが、とにかく一発でも多く通して見せる。
と、その時。
「すまない待たせた、無事か?」
ヘリにプラズマミサイルが着弾する。ヘリはそれによって姿勢を崩し、照準を外してしまう。
この声は。スネイルが顔を上げると、不意にニッコリフェイスの眼前に一機の細身なACが降り立った。
「V.IV!」
「状況は聞いている。あれを墜とせばいいんだろう?」
「ジャガーノートはどうしました」
「無力化したさ。乗員に降伏勧告を突きつけてね」
「よろしい。見事な働きです。あとはあれを──」
「あぁ、それから」
スネイルの言葉をラスティが遮る。その背後で、ヘリが姿勢を整え再度攻撃に移ろうとする──
「強力な助っ人を連れてきた」
瞬間、再びルビコプターに強い衝撃が走る。
見ると、一機のACが猛烈な勢いでヘリを蹴り飛ばしたところだった。
「彼も手伝ってくれるらしい」
そこにいたのは、“壁”攻略作戦のブリーフィングの際、画面越しに確認したAC。独立傭兵レイヴンが駆るACだ。
「なるほど、それは心強い」
LORDER4、スティールヘイズ、そしてニッコリフェイスが並び立つ。
「独立傭兵レイヴン。直接会うのは初めてでしたね」
LORDER4の無機質なヘッドパーツがニッコリフェイスを見やる。そして、静かに親指を立てて見せた。
「……これもめぐり合わせです。ともに、ヘリ墜としといきましょう」
スネイルの言葉と同時に、三機のACが飛び出した。
「SG部隊強襲制圧ヘリルビコプター……正面から攻めるのは得策じゃない。スティールヘイズのスピードで撹乱する。二人は死角から叩いてくれ」
言うなりラスティはスラスターを吹かし、ルビコプターの前へ躍り出た。
「無茶をして……独立傭兵レイヴン! 両脇から叩きます。あなたは右からです、いいですね!」
次の瞬間、レイヴンとスネイルが左右に別れ、ルビコプターを挟み込むように包囲する。そのまま二機のACは銃口を向けトリガーを引いた。
「くっ!」
しかしルビコプターはそれをものともせず機関砲を唸らせる。強烈な弾幕の間をラスティは軽やかにかわし、左手のスライサーで果敢に斬りかかるがすんでのところで新たに展開された弾幕に防がれてしまう。
「駄目か……こちらに興味を示さない」
ルビコプターはラスティの接近に注意を向けている。自らの装甲をもってすればニッコリフェイスのスタンガン、LORDER4のアサルトライフルは豆鉄砲だとでも言いたいのか。
「なら……!」
ニッコリフェイスの左腕にエネルギーが集まる。そこに備え付けられたレーザーランスが光を放ち始め、ある一点に到達した瞬間、ブースターに点火し一気に巨体が飛び出す。
「!」
ラスティに意識を向けていた分、ルビコプターはスネイルの奇襲に一瞬反応が遅れた。結果、死角から飛び出してきた光の槍は、ルビコプターの横腹に深々と突き刺さった。
「しめた!」
大きく体勢を崩したルビコプターを見て、スネイルとラスティは好機と出る。それぞれが装備した装備を一斉に解放し、銃弾、プラズマミサイル、レーザーキャノンを一気に斉射した。
それらは大小様々な爆発を起こし、ルビコプターは爆炎の中に消えた。
「やったか!?」
ふと、それを見ていた解放戦線のMT乗りが叫んでしまう。エネルギー切れによる滞空時間の限界に達したニッコリフェイスとスティールヘイズが降下を始める中──ルビコプターが炎の中から現れる。
「! 第四隊長!」
ルビコプターは主砲をスティールヘイズに向けている。このままでは直撃は免れないだろう。ゆっくりと流れる時の中、瞬時にそれを理解したスネイルは叫び、操縦席の中から届くはずのない手を伸ばす──
「……わかっていたさ」
ラスティの不敵な声。
「だから、対策は当然しているッ!」
その瞬間、スティールヘイズの背後から一気のACが飛び出す。独立傭兵レイヴンの駆るAC、LORDE4。さらにその左腕には──、エネルギーの充填を終えた、レーザーブレードが。
「叩き斬れ! 戦友!」
LODER4が唸る。正確には、左腕に装備されたレーザーブレードが轟音をたてながら、まるで世界を絶たんほどの勢いで横凪ぎに振るわれた。
その軌道の先にはルビコプターの巨体があり、今度こそ機体を両断され──堕ちる。
***
「えぇ、救助班をすぐに回しなさい。我々のことはあとで構いません」
数分後。戦闘を終え、地面に降り立ったスネイルは司令部に指示を飛ばしていた。
ルビコプターは撃墜され、その乗員を救助するよう人員を回すようにと──、それに平行して、「壁」戦力の武装解除も行うよう通達した。
「さて」
そこまで終えると、ニッコリフェイスはスティールヘイズとLODER4に向き合う。
「独立傭兵レイヴン、ご協力感謝します。見事なブレードさばきでした」
LORDE4が親指を立てる。
「この度の“壁”攻略において、あなたの働きは無視できないものでした。今後も是非ヴェスパ―、ひいてはアーキバスをよろしくお願いしますよ」
軽い挨拶を交わした後は、報酬の話だ。ある程度話を纏めると、レイヴンはACのブースターを噴かし、どこへと飛んで行ってしまう。
「あれほどの戦闘をこなしながら、まだACがあれだけ動くのか」
「第二隊長殿、彼のことは覚えておいた方がよさそうだ」
「えぇ、独立傭兵レイヴン。今後も彼の協力が得られれば、ルビコンにおける作戦遂行も楽になるかもしれませんね。あとで第八隊長から挨拶をさせておくように」
そこまで話すと、ラスティもまた司令部の方へ飛び去っていく。それを見送るとスネイルは息を吐き、オープンフェイスの操縦席を解放する。少し外の風にあたりたかった。
「……ん?」
大地に足を下ろし、深く深呼吸すると同時に何かに気づく。
背後に殺気。
素早く振り返ると、さきほどまで戦闘を見守っていた解放戦線の面々がこちらを見ている。その先頭には、一人の少年が立ち、震える手で銃を向けている。
「あなたは……」
「助けてくれたことは……礼を言う。でもあんたは俺たちの敵だ! ここで……ここで……!」
スネイルは少年を見つめたまま、ゆっくりと歩みを進めた。
「止まれ!」
「私は最新世代の強化人間です。その口径の銃程度では死にませんよ」
「!」
「あなたは、なぜその銃を取るのです」
「なぜって……! ここは俺たちの星だ! ここには……家族が……!」
スネイルが足を止める。既に少年とスネイルは互いに懐に入る間合いになっていた。
「なるほど、それならば、確かに我々は敵でしょう」
そうして銃を掴み、銃口を自らの心臓にあてた。
「!」
「ですが、無謀なことはしてはいけない。確かに、我々は敵同士。ですが、争いを避けられるならそれに越したことはない。私を信じなさい。私はあなたを害するつもりはない」
「……」
スネイルの口調は固いが、その表情はなんとか笑顔を作ろうとしているぎこちないものだった。まるで笑い方を知らない者が必要にかられてなんとか笑おうと努力しているような──
「……」
しかし、それでも銃口を胸に押し当てる腕は力強かった。笑顔を浮かべるスネイルの表情と、その腕の力強さに気圧されたのか、少年は力が抜けたようにその場に座り込んでしまう。そのまま、銃をゆっくりと下ろした。
「……殊勝な心がけですね。あなたにはアーキ坊やのぬいぐるみをあげましょう」
「えっいらない」
立てますか、とスネイルが声をかけると少年は弱々しく立ち上がった。
しかし、足腰が立たなくなっていたのかすぐに体勢を崩してしまう。
「おっと」
が、それをスネイルが抱きとめた。
「全く、無理をして倒れそうになるなど」
そう言ってそのまま少年を抱き上げる。軽々と持ち上がったところから少年の痩躯が想像できた。
「貧しいルビコニアンには、教育と支援が必要です」
オープンフェイスのプラモデル出たら予約戦争に参戦する気がする