V.II ス マ イ ル 作:でうすえっくすまきな
「スネイル閣下」
「スマイルです」
〝壁越え〟作戦から少しして。ヴェスパ―隊のハンガーで不意にメーテルリンクがスネイルに声をかけた。
「スウィンバーン隊長の件ですが、本当によろしいのですか?」
「構いません。敵を前に命乞いをするだけに飽き足らず、隊の資金を横領するとは……彼はセンター行きです」
眼鏡を直しながら冷徹に言う。それを見ながら、メーテルリンクは少し気まずそうに端末に指を走らせ、スタッフに指示を出す。
「はぁ……では、スウィンバーンは第七隊長を解任、再きょ……就労支援センターへ
「それから、あとでV.VIIIから挨拶を入れておきなさい。勿論、V.VIIが提示した条件の金額も振り込んでおくように。今回は仕方ありません、私の口座から出します」
「わかりました……」
メーテルリンクの端末からペイターに指示が飛ぶ。画面に表示された彼の名前の隣には、“傭兵起用担当”の他に“広報担当”の言葉が並んでいた。
「あぁ、それから」
「どうしました」
「その就労支援センターからなのですが、またヴェスパ―への入隊希望者が出たそうでして……」
「なるほど、任務の危険性を充分説明し、その上でまだ意思が固いようなら書類をまとめさせて私に通しなさい。ちょうどV.Vllの隊を再編しなくてはならないところですからね」
あの一件から現地のルビコニアン達とヴェスパ―隊の関係は急激に好転していた。V.IIスマイルと化したスネイルによって大規模に方針転換したヴェスパ―はルビコニアン達との共生を掲げ、各種支援、話し合いによる問題解決を試みるようになった。そうしたスネイルの軟化した態度はルビコン解放戦線にも少しずつ受け入れられ始め、先日軍事的指導者であるミドル=フラットウェルとスネイルの会談が実現したというのは両陣営だけでなく、ルビコンの各陣営にとってのニュースとなった。
「奪い合えば足らぬ、分け合えば余る。そういう言葉があるように、我々は彼らからコーラルを奪うのではなく、分け合えば良いのです。ルビコニアン達が言うには、コーラルは無尽蔵らしいですからね。まぁ、改めて調査が必要だとは思いますが」
「ですが閣下……さらにもう一つ、就労支援センターについてなのですが」
「どうかしましたか」
「ルビコニアン達からは好評な一方で、本社からはあまり快く思われていないようで」
続いた報告は本社の意向だった。ヴェスパ―隊は頭を打ったスネイルによってルビコニアン達と関係を築く方向へ転換したが、だからと言って本社もそれに続くわけはない。何を余計なことをしている、ルビコニアン達にカネをかけるな、再教育センターを就労支援施設に勝手に作り変えやがってぶっ殺すぞ、予算降ろさんぞ──簡単に言えば、そんなところだった。
「構いません。現場判断だとでも返しておきなさい。予算を打ち切られたらそちらも私の口座から出します」
「は、はぁ……」
「さて、報告は以上ですか?」
「はい」
「よろしい。では、業務に戻りなさい」
メーテルリンクは頭を下げ、部屋を出ていく。それを見届けるとスネイルは自身の端末を操作し、一本の動画ファイルを起動した。
「さて……次は目下の問題、か。しかし……」
眼前に映像が映し出される。そこには、LORDER4とスティールヘイズを前に大暴れする巨大な兵器が映っていた。
「……どうやって倒せというのだ、こんなもの……!」
事が起こったのは二日前。
スネイルは惑星封鎖機構の戦力を削ぐため、強襲艦隊の母港“バートラム旧宇宙港”を急襲する作戦を立てた。この作戦には
そこまでは良かったが、いよいよ後が無くなった封鎖機構は最終手段として技研の巨大兵器“IA-02”を起動。敵味方問わず破壊し、大暴れする脅威的な兵器を前に、V.IVをして無事に帰投するのがやっとだった。
「ACで太刀打ちできる相手ではない……そもそもサイズが違い過ぎる……封鎖機構の艦隊をもってしても勝機があるかどうか……」
ぶつぶつと情報を整理する。彼我の戦力差を踏まえ、どうにかこれを排除するには──
「……我が隊だけでは駄目か。ならば──」
***
「……お前か? ヴェスパ―の舵取りをしている若造は」
スピーカーから届く威圧的な声。画面に映し出されたライガーのエンブレムを前に、スネイルは気を引き締める。
「ミシガン総長。知己を得て光栄です。私を若造とは……かないませんね」
「ふん、わざわざレッドガンに連絡を寄越したということはどうせあれのことだろう」
「察しが良いようで助かります。木星戦争の英雄はあれをどう見ますか」
「……情報が足りないが、AC単騎でどうにかなるような相手じゃないだろう。無論MTでもだ」
通信の相手はベイラムグループ専属AC部隊“レッドガン”の総長、G1ミシガン。本来スネイルとは真っ向から敵対する間柄ではあるが、スネイルは敢えてそんな相手に通信回線を開いた。ミシガンもミシガンで、スネイルからの通信を受信しそれに応じたあたり、アイスワームには悩まされていると見える。
「えぇ。私もそう思います。業腹ですが、我がヴェスパ―の戦力を以てしてもあれの対処は難しい……そう認めざるを得ません。ですが、我々で無理なら、おそらくはそちらでも難しいのではないですか?」
「何が言いたい」
「……どうです? ここは一つ、共同戦線というのは」
***
「ヴェスパー第二隊長、スマイルです。共に作戦行動に臨めること、光栄に思います。まず私から前提を説明しましょう。これは両社が合意した一時停戦協定に基づく惑星封鎖機構に対する同時襲撃作戦です」
そこからの展開は早かった。スネイルの提案により、ミシガン、スネイル両名の働きかけでベイラムとアーキバスの一時停戦協定が成立。レッドガンとヴェスパーによる連合軍が結成されるに至った。そこに独立傭兵レイヴン、彼を介し現地技術者集団RaDが参画し、ブリーフィングには希望が見える戦力が揃っていた。
この間、わずか二日。この間にも封鎖機構による各陣営への攻撃は続いており、早急な行動が求められただけにスネイルの行動は迅速だった。
「目標は敵方が保有する拠点群および強襲艦隊。そして先般起動した超重自律機動兵器IA-02……以下、コードネーム“アイスワーム”と呼称します」
「要するにルビコン各地で封鎖機構との総力戦が起こる! 貴様らは貧乏くじを引いた! ここにいる面々がアサインされたのは最大の脅威、氷原の化け物退治だ!」
そしてここに集められたのはアイスワーム攻略チーム。ヴェスパー、レッドガンに加え、スネイルが増援として集められるだけ集めた面々が揃っていた。
「本作戦は全体の戦況を左右する最重要案件なだけに、各陣営から主力級を集めさせていただきました。各員、準備を怠らぬよう」
「……やってられるかよ。俺は遠巻きに見物させてもらうぜ」
「G5! 前線に出るメンバーが一人確定したようだな!」
ACの数倍の体躯、次元の違う出力を持つ怪物を相手にするという馬鹿げた作戦を前にイグアスが口を尖らせるが、ミシガンは容赦なく前線メンバーに彼をアサインする。
「おいふざけんな……!」
「聞いた通りだ、我がレッドガンからはG5を出す! 後詰としてG4も待機させておくが、それでどうだ」
「“壁越え”での傷がまだ癒えてないと聞きましたが」
「あんなもの負傷のうちに入らん。泣き喚こうが戦場に放り込んでやる」
「そうですか。ではありがたく頼りにさせてもらいましょう」
と、ここで不意に端末画面にアイスワームの図面らしき画像が映り込んだ。
本作戦において、V.IVと独立傭兵レイヴンを介し協力を取り付けたRaDの技術者、シンダー・カーラが口を開く。
「アイスワームの多重コーラル防壁を無効化する 手段について話そうじゃないか。あれはプライマリシールドとセカンダリシールド……二枚から成る鉄壁の守りだよ」
「一枚目を突破する手段はアーキバスが提供しましょう」
スネイルが新たな画像を全員の端末に飛ばす。そこには仰々しい大砲が写っていた。
「最新兵器“スタンニードルランチャー”。これを顔部に当てれば、求める結果が得られるはずです」
「二枚目はどうする?」
「夜なべして作ってた玩具がある。RaD謹製、“オーバードレールキャノン”さ」
続いて更に巨大な大砲が表示される。もはやACの体躯を優に超えていた。
「バートラム旧宇宙港の待機電力を回せば威力は足りる計算だが…… 問題は命中精度だね」
「であればV.IVの出番ですね。狙撃の腕前には目を見張るものがあります。V.IV、やれますね?」
「あぁ任せてくれ。期待に応えてみせよう」
前線メンバーの名簿にラスティの名前が並ぶ。
「他は敵の気を引く弾幕要員か」
「弾幕要員ならウチからチャティを出そう。他にはいるか?」
「では私も出ましょう。現場監督も兼任します。総指揮はミシガン総長に務めていただきたい」
「いいだろう。任せておけ」
「あと決まっていないのは……スタンニードルランチャーを誰が当てに行くか……」
「最前線で殴りに行く係なら最初から決まっている……G13! 話は聞いていたな? 愉快な遠足の始まりだ!」
***
「……」
深く息をつき、机の上に手を置いた。
──上手くいった──、最初に抱いた感想はそれだった。
正直なところ、賭けだった。共通の敵を前に共同戦線を張るというのは、この状況であれば合理的判断ではある。実際ミシガンはこの話に乗ってくる確信はあった。問題は本社の方だ。アーキバス、ベイラム両社の首を縦に振らせなければならず、なぜ味方を相手に交渉事に望まねばならないのだと頭を抱えたこともあったが、なんとかここまでこぎつけた。
「さて……忙しくなりますよ」
最初の賭けには勝った。次はAC戦で勝ちに行く。そう覚悟を固め、手元に置いていたアーキ坊やのぬいぐるみをそっと机の上に戻す。
そうしてハンガーに足を向ける。すでにそこでは各方面に出撃するMTの整備が慌ただしく行われていた。それを見ながら、スネイルは近くの士官を呼び止める。
「私の乗機の最終点検を行いなさい。その間に作戦の現状確認を行います。各隊長の状況は」
「了解しました。主席隊長と第五隊長は既に機体の準備を終えられています。第三、第六隊長は現在待機中、第八隊長は一時間前に出撃、陽動作戦を遂行中です。第四隊長は──」
「スネイル!」
「スマイルです」
その時、声がする。反射的に返事をしながら見上げるとハンガーの上階でラスティが手を振っていた。
「V.IV。何度言わせるのです。私は──」
「あぁそうだったな、スマイル閣下。調子はどうだ」
「問題ありません。私の心配をする暇があったら自分の心配をしなさい」
そう言いながらスネイルは士官に礼を述べるとリフトに乗り、ラスティの隣へと上がっていく。
「そちらこそ問題ありませんか。急ごしらえの改造になったはずですが」
「それなんだが、RaDの技術者達はなかなか侮れないな。レールキャノンにスティールヘイズを接続するための改造だが、かなりの精度をこの早さですませている。ウチだけでやったらもう少し時間がかかっただろう」
「なるほど……今後、彼らとも協力関係を結ぶのもいいかもしれませんね」
真顔で言い放つスネイルの言葉を大胆と取ったか冗談と取ったか、ラスティは苦笑するように返事を返す。そんなラスティの肩に手を置き、スネイルは続けた。
「頼みますよ。ここまではやりましたが、それでもまだ勝率は五分がいいところでしょう。あなたとレイヴンの働きに全てがかかっています」
「……あぁ、任せてくれ」
スネイルの言葉にラスティは人懐っこい笑みから戦士の表情へ素早く切り替える。そして乗機の改造完了を告げられると、では戦場でと言い残し、機体の中へと消えていった。
「さて、私も……」
振り返る。そこにはニッコリフェイスが緊張しきった空気の中にあって似つかわしくないかわいらしい笑顔を浮かべていた。
***
それから数十分後。作戦開始時間を迎えた。雪原に一斉に放たれた四機のACは吹雪の中を猛進し始める。
「これよりベイラムとアーキバスの合意に基づき、混成AC部隊による作戦行動を開始する! 始めるぞ! 命知らずども!」
雪原に響くミシガンの号令。それに合わせ、四機のACが並び立ち並走を始める。
独立傭兵レイヴンと“LORDER4”。
レッドガンからはG5イグアスの“ヘッドブリンガー”。
Radのチャティ・スティックの駆る“サーカス”。
そしてその先頭を走るスネイルのニッコリフェイス──、作戦開始時間きっかりに集ったAC達により、猛吹雪の中アイスワーム攻撃戦が始まった。
「寄せ集め各位、連携を欠かないように」
「なんだこいつは……舐めてん……いやその機体の色は舐めてんだろ」
「V.II、その機体の色はなかなか笑えるな」
「アーキバスのヴェスパーは芸術家も兼業できるようだな」
「なんなんだこいつら……俺がおかしいみたいじゃねぇかよ、チッ、イラつくぜ……」
イグアスが不機嫌にそう呟くと、不意に地面が揺れ始める。
「……!」
「来ます、各員散開! スタンニードルランチャーの射線を確保しなさい!」
そうスネイルが言い終わらない内に地表を突き破り、敵が姿を現す。
IA-02、コードネーム“アイスワーム”。かつてルビコンに存在していたルビコン技研が残した遺産──ミミズを思わせるデザインと、頭部に設けられた採掘機によって地中を高速で移動し、破壊的な被害をもたらす超大型自律機動兵器だ。かつて地球に存在すると考えられたUMAになぞらえ、後世でルビコニアンデスワームと呼ばれる脅威が、今スネイルたちの前に現実として現れた。
「これは……実際に見てみると大きいな……!」
コックピットでスネイルが呟く。画面越しに見る姿と、ACの
「まずはやっかいな防壁を引き剥がす。G13! アーキバスが大金を注ぎ込んだ贅沢な専用兵装をお見舞いしてやれ!」
ミシガンの号令に合わせ、四機のACが散開する。本来ならば四機ともスタンニードルランチャーを装備できればよかったのだろうが──この際贅沢は言えない。
「まずは行動パターンを把握しなさい。無人有人問わず、兵器には規則性が出るものです」
「承知した」
スネイルの号令に合わせ、四機のACはそれぞれアイスワームの周囲を回るように様子を探り始めた。敵は巨大兵器とは言え、無人機である以上その動きには何かしらの規則性が出るはず──
「!」
しかし、その言葉とほぼ同時にレイヴンが飛び出す。
「レイヴン!」
スネイルが制止するが、レイヴンは止まらない。大蛇のように複雑な動きをするアイスワームを軽々かわし、懐へ飛び込んでいった。
「……まさか既に動きが見えているのか……本当に第四世代なのか……? 総員援護!」
だがレイヴンが既に動きを見切り始めているというなら好都合。むしろ自分たちが置いて行かれるわけにはいかない。残り三機はレイヴンの後に続くように突撃していく
直後、スタンニードルランチャーが火を噴く。長い砲身から飛び出した実弾は、冷え切った空気を裂いてアイスワームの頭部を撃ちぬいた。
「流石だな、ビジター」
「なるほど、いらぬ心配でしたか……V.IV!」
「あぁ、シールド消失を確認した。レールキャノン発射シーケンスに入る」
スネイルの号令と同時に、ラスティの冷静な声が届いた。
「EMLモジュール接続……エネルギータービン解放、出力八十パーセント」
顔を上げる。戦場から少し離れた小高い丘の上──、そこで何かが光っている。
「照準補正よし、九十……九十五……外しはしない……!」
吹雪の向こうからの一閃。視界の向こうで光が煌めいたかと思うと、次の瞬間アイスワームの頭部をレールキャノンから放たれた弾頭が貫いた。
「今です! 頭部に総攻撃!」
アイスワームはまるで生物が痛みに呻くように地面に転がり、一時的にその動きを停止する。その瞬間、スネイルの号令とほぼ同時に四機のACが頭部にそれぞれの主兵装を向ける。
リニアライフル、バズーカ、レーザーキャノン、そしてレーザーブレードの一閃がアイスワームを襲い、完膚なきまでに破壊しようとする──が。
「!」
不意にアイスワームが立ち上がる。
「流石に一撃では無理か、命知らずども、次だ!」
「あの野郎、決めやがった……!」
「当然です。この程度はやってもらわなくては。V.IVの座は伊達ではありません」
「そっちじゃねぇよ」
その瞬間、死角からヘッドブリンガーにアイスワームが突っ込んでくる。一瞬反応が遅れたイグアスはまるで攫われるようにスネイルの視界から消えた。
「G5!」
「クソッ……! 舐めやがって!」
「対処する。受け止めてやってくれ」
そう言いながらスネイルの傍をチャティが猛スピードで走り抜けていく。アイスワームは打ち上げられたヘッドブリンガーに追撃を加えようとするが、そこに横から砲弾とミサイルが一斉に着弾し、攻撃の軌道を無理矢理反らされてしまう。
「今だ」
「レイヴン!」
スネイルとレイヴンが同時に飛び出す。そうして空中から落ちてくるヘッドブリンガーを受け止めた。
「ぐっ!」
「G5! 油断するな!」
「うるせぇな……! チッ、また耳鳴りが……!」
ミシガンの激。気に入らない相手に助けられたのが癇に障ったのか、イグアスの言葉はいよいよ不機嫌な響きを持ち始めた。
と、その時四機に突如として無数の影がかかる。顔を上げると、先ほどまで戦場にはいなかったはずの小さな無人機が何機もこちらを見下ろしていた。
「これは……?」
「どうやら子機を展開したようだ。対処する」
数的劣勢を感じ取ったのか、アイスワームは全身から小型のドローンを展開した。小型とは言っても、それはあくまでアイスワーム本体に比べれば、という話。人間から見れば巨大な存在であるACから見てもそれは決して小粒ではない。
言うなりチャティは進路を変え、アイスワームではなくドローンへの対処を始めた。サーカスの武装編成はミサイルやグレネードで固められており、群体の敵への対処は難しくはない。スネイルは即座にそう分析すると、周囲へ指示を飛ばした。
「子機は私とチャティ・スティックで行いましょう。レイヴンとG5は引き続きアイスワームへの対処を!」
そう言いながらレーザー銃を放つ。アイスワームに専念すべきレイヴンはもちろん、弾幕こそ張れるがニッコリフェイスに比べると兵装の加害範囲が狭いイグアスはアイスワームに張り付けておくべきだ。
「なんで俺が野良犬の援護なんか……!」
「あなたが適任だからです。行きなさい」
ブツクサ言うイグアスをせかすように送り出す。子機はアイスワームから展開され、四機のACを囲い込むように展開されている。正面は仕方ないとしても、背後と両翼から挟まれてしまってはかなわない。これをスネイルとチャティで対処し、正面のアイスワームはレイヴン、その援護にイグアスといった陣形だ。
「すでにスタンニードルランチャーの効果は実証済みです。彼にはもう一度あれを当てることに集中してもらう必要があります」
「あぁ、理解している」
背後にレイヴンとイグアスを背負い、スネイルとチャティが飛び出す。ACならば恐れるに足らない相手ではあるが、一体たりとも逃さずというのは骨が折れる。チャティの弾幕を縫うようにスネイルのレーザーが飛ぶ。加害範囲の広い攻撃に巻き込まれるように、次々に子機が墜ちていった。
「左舷から来ます」
「補足した。四時の方向に感ありだ」
「対処しましょう」
「頼んだ」
迫りくる大量のドローンを淡々と処理していく。二機ともACとしては重量級のはずだが、妙なコンビネーションで付け入る隙をまるで与えない。
「なるほど、中々やる……チャティ・スティック……RaDの自動人形と聞いているが、有人機のような頼もしさだ。良いことです」
「世辞に対応できるユーモアは持ち合わせていないぞ」
「本心ですよ。G5! そちらの状況は!」
「もう少し待て……今当てる!」
同時に、砲声が背後から響く。振り返ると、スタンニードルランチャーが着弾していた。
「V.IV!」
叫ぶ。同時に通信機から返事が返って来たかと思うと、霧の向こうから光が飛んだ。
「セカンダリシールド、消失確認!」
「今度こそ仕留めなさい……!」
子機を押しとどめながらスネイルが言う。レイヴンとイグアスがアイスワームを仕留めにかかるが、あと一歩のところでアイスワームが暴れ始め、両者を散らしてしまう。
「駄目か……ではもう一……度……?」
スネイルの言葉に困惑がにじむ。背後のアイスワームは、弱点を敵から話すように──直立していた。
「何か来るぞ! 備えろ!」
ミシガンが叫ぶ。同時に、アイスワームの全身が不気味に紅く輝いた。
「!」
瞬間、アイスワームの全身からコーラルエネルギーが発散する。空気を伝って広範囲に迸ったエネルギーは電流のようにその場にいたものに襲い掛かる。自らの子機ごと焼き払うような攻撃がACに迫った。
「ぐっ……う……!」
しかし、それはACに届く前にその力を大きく削がれた。
間一髪、ニッコリフェイスのパルスプロテクションが間に合ったのだった。なんとか大技を耐えきり、再びAC達は展開するが、操縦席のスネイルは違和感に気づく。
「どこかやられたか……レスポンスが落ちている……!」
ニッコリフェイスの動きがやや緩慢になっている。おそらく、内部のどこかに今の一撃で思った以上のダメージを負ったらしい。
「機体の限界が見え始めたか……長引かせるわけにはいきませんね」
だが、今の攻撃で子機のほとんどは墜ちた。機体の限界が見え始めているのはアイスワームも同じはずだ。
「!」
そして、その予想は目の前のレイヴンが機敏さの落ちたアイスワームにさらに攻撃を当てたことで証明された。
「当たった!」
「いや……」
「シールドの出力が上がっている……! G13、もう一発だ!」
しかし、アイスワームも無策で大技を放ったわけではない。プライマリシールドの出力が上がっていた。
「! G5!」
不意にミシガンが叫ぶ。その視界の先には、反撃に出たアイスワームの体当たりに一瞬反応が遅れ、ミサイルの直撃を受けたイグアスの姿があった。
ダメージを負ったヘッドブリンガーは危なっかしくよろめき、倒れ込んでしまう。それを見たアイスワームは間髪入れずミサイルで弾幕を展開し、イグアスを仕留めにかかった。
「クソッ! 機体が……! どうして俺が先に墜ちる……!」
その瞬間、ヘッドブリンガーの前に素早く飛び出した影があった。
ニッコリフェイスである。
スネイルはイグアスの前に飛び出すと、ミサイルにその装甲を晒す。飛んできたミサイルはニッコリフェイスの堅牢な装甲に着弾し、小規模な爆発を何度も起こした。
いくら重装甲のニッコリフェイスとはいえ、さきほどダメージを負ったばかりだ。機体はよろめき、膝をついてしまう。
「お前……!」
「しっかりしなさい。ベイラムのレッドガンはその程度ですか」
「ッ……舐めんじゃねぇ!」
イグアスが吼える。ヘッドブリンガーはそのまま立ち上がり、改めて銃を構え直した。
「だいたい野良犬野郎がもたついてんのが悪ィんだ! おい野良犬! らちが明かねぇ、強攻するぞ!」
復活したヘッドブリンガーは苛立ったようにスラスターを噴かすと、勢いよく前に飛び出した。それを見たレイヴンは即座にイグアスの意図を理解したのか、その機体の背後につくように並び走り出す。
突如として動きを変えたLORDER4を追い、アイスワームは子機を新たに展開しけしかける。小さな自立兵器達はイグアスごとレイヴンを撃墜せんと弾幕を展開する──が。
「うざってぇ!」
イグアスはそれに合わせパルスシールドを展開する。既にダメージを負っている機体ではあるが、子機の銃弾程度なら問題なく防げた。そして、
そこにレイヴンが続く。
「なるほど……まさに“
「チャティ・スティック! G5を援護します! 続きなさい!」
そのわずか後方。両翼からレイヴンを追うようにチャティと復活したスネイルが追従した。
「ビジター。露払いは俺たちがする。お前はニードルランチャーにだけ集中してくれ」
「既に機体限界が近づいている者が多い。ここで確実に決めなさい。いいですね」
イグアス、レイヴン、チャティ、スネイルが最後の突撃を仕掛ける。既に主戦力のACは皆活動限界が近く、これが最後の攻撃になるだろう。
当然アイスワームも黙って待ち受ける訳はない。正面から自らが展開した子機ごと轢き潰さんと勢いよく飛び出し、四機のACを散らす。
「G5! 守りなさい!」
「命令すんじゃねぇ!」
そう吠えながらも、イグアスはしっかり瓦礫や子機からレイヴンを守り抜いてみせる。流れ弾が着弾し機体が危なっかしい音を立てる。しかしそれでも、ついに二機のACはアイスワームの懐へ飛び込んだ。
「!」
瞬間、死角から飛来した子機の一撃がイグアスを捉えた。反撃して撃ち落とすも、もはや機体は限界だ。
「グッ……しくじるんじゃねぇぞ野良犬ァ!」
ヘッドブリンガーがとうとう墜ちる。膝をつき、最後に捨て台詞のように檄を飛ばすイグアスを追い越すように、後方から合流してきたスネイルが飛び出した。その先には、アイスワームが身体を横凪ぎに振り、体当たりを仕掛けてきている。
「隙を作る!」
ニッコリフェイスが正面からそれを受け止める。重厚な装甲に守られた操縦席に強い衝撃と装甲が破壊される音が届くが、それでもニッコリフェイスは吹き飛ばされずにその体躯を受け止めた。
「ぐっ……! うぐぐ……!」
「少し耐えてくれ。加勢する」
言うなり、ニッコリフェイスの隣にサーカスがとりつく。重量ACとタンクタイプACのパワーで無理にアイスワームの動きを止めようとする。
出力に優れる二機のACが同時に最大出力でブーストを噴かし、アイスワームを押しとどめ、その動きを一瞬だけ止めた。
「今だ!」
そして──その隙を見逃すレイヴンではなかった。
四度目の砲声。
「プライマリシールド、完全消滅!」
「四人とも、よくやってくれた」
装甲は完全に剝がされた。子機も全滅。もはやアイスワームを守るものはない。
と、来れば。
「……EMLモジュール全点接続、エネルギータービン全開……緊急弁全閉鎖、リミッター解除……!」
吹雪の向こうから、光が見える。
それはまるで、朝日のようだった。
「これで決める!」
***
「……終わりましたか」
十分後。
ラスティの決死の一撃、そこからの総攻撃でアイスワームは今度こそ完全に沈黙した。それが確認されてから、スネイルは雪原に立つオープンフェイスを自動操縦に切り替え、操縦席で深い息をついた。
「V.II」
通信機に声。その声に顔を上げるとオープンフェイスの隣にサーカスが並んでいた。
「チャティ・スティック……見事な働きでした。感謝しますよ」
「こちらもボスから伝言を預かっている。“思っていた以上にやるねぇ、味方に欲しいくらいだよ”。だそうだ」
「なるほど? どうやら、RaDの頭目のお眼鏡には叶えたようだ。何よりです……おや」
ふと、サーカスとオープンフェイスが足を止める。その先には、LORDER4と、その足元に大破し倒れているヘッドブリンガーがいた。
「G5」
「うるせぇな……死んでねぇよ」
ヘッドブリンガーは黒煙を上げ、所々火花が散っているが、通信は生きていた。見ると、コアが開き、露出した操縦席にイグアスがかったるそうに身を預けているのが小さく見えた。
「G5、先ほどの貢献は見事でした。よく訓練を積んでいるようですね」
「敵に褒められたって嬉しかねぇよ。さっさと失せな」
「減らず口を叩くな、G5!」
と、そんな四機の上空に二機の輸送機が現れる。一方はベイラムのエンブレムが刻まれており、もう一方はレイヴンが見上げていることからハンドラー・ウォルターの乗るものだろう。
「だがしかしそうだな、最後の判断は貴様にしては上出来だった。役立たずから多少物わかりのいい役立たず程度には成長できたようだな」
「……ケッ」
「命知らず共、合意内容に基づき停戦はここまでだ。次に会うまでにつまらんくたばり方をしないようにしておけ!」
その言葉を最後にミシガンは通信を閉じた。そうして輸送機は着陸し、ヘッドブリンガーの収容を始める。同じように、LORDER4も親指を立てるとそのまま輸送機の元へ飛んで行ってしまった。
「全く、素直ではありませんね……まぁいいでしょう。私も帰投します」
「おい」
不意に横から呼び止められる。そちらに視線をやると、チャティがこちらに向き直っている。
「ボスはビジターやお前に興味があるようだ。これからも相手をしてやってくれ」
「……そうですか。ならば、こちらからもアーキバスをよろしくお願いしますと伝えてください」
「了解した。要件はそれだけだ。じゃあな、V.llスマイル」
「スマイルで──今なんと?」
チャティは答えず、そのまま走り去ってしまう。その先には雲の切れ間から光が差しており、強化人間の眼は光に強いはずであったが、スネイルはそれに目を細めるのだった。
続いてしまいました(驚愕)。
本当は単発の一発ネタのつもりだったんですが、思いのほか反響をいただけてとても嬉しかったです。いや本当に。せっかくなので最後まで書き切ってみようかと思います。全部で5~6話くらいの構想です。かなりの不定期更新になるかと思いますが、よろしければ是非最後までお付き合いください。
蛇足にならんよう頑張るぞー。