海外ウマ娘は日本文化に心を奪われました   作:あーふぁ

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スレ「俺が年収一億の奴にカップラーメン奢ってやった話」を元に書いたもの。


1.グラスはラーメンに心ときめく

 俺の仕事はトレセン学園で新人を抜け出し始めた、といった感じでトレーナーをしている。

 同僚や教え子であるウマ娘、仕事場では全方位に気を使って胃が痛い日々。

 そんな仕事の癒しとしてデスクトップパソコンでネトゲをしている。

 アメリカサーバーでの戦車ゲームだ。対戦系はストレスがよく溜まると言われているが、人じゃなく物同士で争うのを見るのはまた別だと感じる。

 たとえば日本だとロボットゲームで戦闘をすることに人気が出るように。

 

 アメリカサーバーなのはアジアや日本のサーバーがなく、ゲームがそこでしかできなかったから。

 トレセン学園へ就職するために高校と大学で勉強をした英語が趣味であるゲームにとても役立っている。

 スラングはいまいちわかりづらいものの、俺が日本人だということを表明してからクランに入り一緒に遊んでいる。

 はじめは文字チャットで交流し、慣れてきたらボイスチャットだ。

 そこでクランメンバーたちと一緒に話をし、クラン戦やメンバーで小隊を組んで戦闘を楽しんでいた。

 

 ある日、ゲームにログインをするとまだボイスチャットをしたことがないクラメンから個人チャットを使ってボイチャをしようと声をかけられた。

 その人は今までマイクは持っていなかったけど、昨日に買ってきたから初めてのお話相手になって欲しいと。

 俺は即座にOKと返事をし、ヘッドセットを頭に着けて相手がボイチャをしてくるのを待つ。

 だいたい2分後には相手に呼び出され、ボイチャをすることに了承。ゲームにあるボイチャ機能で通話を始める。

 

「Hi、Grass!」

「……Hi、Mato」

 

 最初の挨拶は大事だからグラス、と元気よく言ったら返ってきたのは緊張した様子の幼さを感じる声。

 この声を聞いた瞬間、自分の耳を疑った。

 オンラインの戦車アクションゲームというのに、小さい子がいるなんて驚きだ。

 女性プレイヤーもいるにはいるが、大多数は成人男性だったから。

 グラスというのは相手のプレイヤーネームで、マトは俺だ。この名前は名字の一部を使っているから、呼ばれたときには違和感なく素早く反応できる。

 

『お、アメリカ的な英語だね。アメリカの人?』

『はい、アメリカのカリフォルニアに住んでいますよ。マトさんは日本ですよね』

『ああ、東京日本なまりで聞きづらいこともあったから許してくれ』

『私は日本の方と話をしてみたかったので、気にせず話をしてくださると嬉しいです』

 

 こんな感じで英語での話が始まっていく。

 話をしていくうちに、11歳であるグラスが日本人である俺と話をしたかったのは日本のトレセン学園へ行きたいから、ということだ。

 今は日本語を勉強中で、日本へ行くのをとても楽しみにしているらしい。日本へきっかけを持ったのは幼い頃に見た華道からと言っていた。

 11歳なのに、俺が担当しているウマ娘よりも精神が大人だなと感心してしまう。

 

 グラスが俺に話をしたかった理由と日本へのあこがれを聞きながら、俺はどうしても聞きたいことがあるのを我慢する。

 それは職業病とも言うべきか、トレーナーをしている俺はアメリカのウマ娘はどういう脚をしているんだろうかと見たくなった。

 だが、初めて話をした相手に写真を送ってだなんて変なことは言えない。

 普段の練習内容も聞きたくはなるが、仕事への熱意は理性で頑張って抑える。

 

『あの、苦しそうな様子ですが、どうかしましたか?』

『……あー、いや、気にしないでくれると助かる』

『私の言葉が何か不快に思われたら謝りますが……』

『俺はトレセン学園で働いているんだが、アメリカのウマ娘について聞きたくなるのを抑えていたんだ』

 

 そう言うとグラスは驚き、おたがいにウマ娘に関連する共通点があるということで強い共感を得た。

 他には日本食に興味をあるということでカップラーメンをおすすめした。あれならアメリカでも手に入りやすいから。

 それからは週に2度、俺がログインしているときにはグラスが話しかけてくるようになった

 会話の内容はゲームの話題と日本文化、それとグラスによるカップラーメンレビューについて。英語、時々日本語で話をするのは俺の息抜きになる。

 

 会うこともないだろうアメリカの、それも小さな子だ。気がゆるんだときに仕事での小さな愚痴をつい言ってしまうと、グラスは子供ながらも俺を心配し励ましてくれた。

 28歳の俺より17歳も年下の子に癒しを感じるのは異常だと自分でも思うが、きっと子供を持つ親なら似たような感じになるんだろうと思う。

 会話を始めて2か月ほど経つと、グラスはゲームにログインしなくなった。

 

 ゲームに飽きたか、リアルが忙しくなった。または学校生活が楽しくて来ないのかと思いながらゲームをしていた。

 そしてある日、ログインしていないときに文字チャットでウマッターのIDを乗せた文章が送られていた。

 ログインしてなんでIDを送ってきたんだ? と不思議に思いながらIDを調べてパソコンでメッセージを送る。

 

 送った文章は『なにかあった?』と心配する文章だ。

 少しして返事が返ってきた。どうやら日本のトレセン学園の試験が近づきつつあるので、ゲームを一時中止したとのこと。

 ゲームにログインして俺にそのことを伝えなかったのは、会うとゲームをやめられないだろうからと。

 

 しっかりしているなぁと感心する。俺が中学生の頃は受験がないから地方のレース場に行ってよくウマ娘レースを見たのに。

 日本語だけじゃなく、ウマ娘の試験となれば結構な努力が必要になるよな。

 世界的に見て、ウマ娘レースで最も人気が高いのは日本だから日本で走りたいという子が多い。

 去年に海外からトレセン学園に入学した、俺の担当ウマ娘は暖かい声援が多いから、という理由で来ている。

 

 グラスは日本語と受験の勉強のため、受験が終わるまではゲームにログインしないことを決めた。ゲームのクランマスターには理由を言い、しばらくは除籍を待ってくれるらしい。

 俺とのやりとりは週2回に制限することになった。

 

 グラスから来るメッセージの内容は妹が反抗的でかわいい、姉である私に勝つと常日頃言ってくるのがいとおしいと。

 近頃はカップラーメンにすごくはまっているとのことだ。

 俺もよくカップラーメンは食べるが、アメリカと日本では味付けが違うとネットで見た。あとは日本のより麺の長さが短いとか。

 そういう話をメッセージで始める。

 

マト :グラスは普段、どういうのラーメンを食べているんだ?

グラス:ニッシンやマルチャンなどですね。通販で日本仕様の味も欲しいのですが、親から制限されていて買えないんです

マト :受験に来たら、カップラーメンをたくさん食べるといいよ。日本のはものすごく種類が多いからね

 

 日本のラーメンは本当に種類が多い。個性が薄いのから、強いのまで。

 ラーメンではないがカップ焼きそばではショートケーキ味が最も印象に残る。2口目まではおいしいな、と思ったものの3口目からは味のアンバランスさが気になってくる。

 焼きそばという前提意識がなければ食べられるものだとは思うし。今では販売していないのがとても残念だ。

 グラスにはぜひ食べて欲しかったが。

 

グラス:マトさんのお気に入りはありますか?

マト :地域限定発売のみそカレーミルクラーメンってやつだよ。出身地のラーメンなんだ。カップ麺のもある。

グラス:なんですか、一見して味が合わなさそうなのは。

マト :意外とうまいんだ、これ。日本に来たら色々食べさせてあげるよ

グラス:約束ですからね!

 

 グラスが来るときはトレセン学園受験の時だろう。

 今は7月。今年の12月には来るのか。受験時にはうるさいということでウマ娘たちの練習が禁止されているから、会う時間はたっぷりある。

 いったいどういう体をしているのか、実に楽しみだ。

 ……体と言うと変な意味に聞こえるが、純粋にどういう筋肉をしているかや骨格についての意味だ。

 職業柄なのか、無意識で変態的発言を言うことが多いからな、ウマ娘のトレーナーってのは。

 

 この話をした1週間後、グラスからメッセージが来てスマホでビデオ電話をしようということに。

 どういうことか聞くと、今度トレセン学園へ学体験入学へ行くときに俺と会いたい。

 だが、見知らぬ男と会うのは許さん! とグラスパパが俺を見極めたいと。

 

 俺としてはトレセン学園の試験時に出会って、少しばかり話をするだけでよかった。

 なのに話が大きくなってきている。かといって小さい子のお願いは断りづらい。

 まぁ、優れたウマ娘だった場合、今のうちに仲良くしておけばスカウトしやすいだろうと考えて電話をすることに決めた。

 しかし、これまで会話はしているが1度も会ったことのない女の子に親を紹介されるだなんて初めてだ。

 トレーナーとして担当契約をしたウマ娘のご両親と会うことはあったが。

 

 グラスが住んでいるところはケンタッキー州のレキシントン。

 日本とケンタッキー州の時差は13時間だ。

 都合のいい時間を聞くと、早ければ早いほどいいということで明日にした。

 予定は日本時間の午前8時で、向こうでは午後7時。

 その時間ならウマ娘たちが朝の練習を終えているので、トレーナー室で話をすれば静かにできる。

 

 そして翌日、普段はジャージを着ることが多い俺だがしっかりとスーツを着ていった。

 担当ウマ娘たちからは普段からそうすればかっこいいのに、とからかわれてしまう。

 スーツなんてのはたまに着るぐらいがちょうどいいんだ。ジャージなら汚れても気にしないし、動きやすい。

 なによりスーツより安いから破れてもいいというのがすばらしい。

 

 着ることが多くないスーツを着て、静かなトレーナー室でソファーへと深く腰掛けると目の前にあるテーブルにスマホを置いて着信を待つ。

 これ保護者面談のようだな? と思っていると着信音が鳴る。

 深呼吸して心を落ち着けてからスマホを手に取り、ビデオ通話を始める。

 スマホの画面に写っていたのは、栗色の小さなウマミミと、それと同じ髪色を持つ小さくも清楚さを感じる女の子だった。

 カメラに映る範囲では髪は肩より長く、雰囲気と服装は上品で落ち着いた感じだ。

 

『初めまして、本名はグラスワンダーと言います。カメラを通してですが、お会いできて嬉しいです』

『初めまして。トレセン学園でトレーナーをしています、的場ミツヒロです』

『マトさんはトレーナーさんだったんですね』

『はい。スーツの襟元にあるバッジがそうですね』

 

 スマホを動かし、襟元にあるURAの文字が入ったバッジを映す。

 そのあと、敬語はやめていつもどおりにしてください、と言われたために言葉を直して挨拶の続きを。

 そして、今度はグラスワンダーの父親と対面する。

 金髪で優しそうな雰囲気なグラスパパはトレセン学園にあるホームページをパソコンで確認した、と言って話を始める。

 あとで年齢を聞いたら34歳だった。

 

 さて話はグラスワンダーのことだ。ゲームをやっていたときと同様にグラスと呼ぶことにするが、グラスはトレセン学園の体験入学のときに俺に会いたい。

 だが父親はネットでしか話をしていない人と会うのを心配し、話をしてみようということになった。

 当初は軽い雑談だけで終わる予定だったが、トレーナーの仕事をしていると言ったら興味を持ってきたので話が長引く。

 ゲームのフレンドと会うというだけなのに、担当契約したウマ娘の親と面談をするのと同じになっているんだが。

 緊張しながらもグラスパパと話を終えたら、グラスへとスマホが渡された。

 

 グラスとグラスパパは日本へは3泊4日でやってくるらしい。体験入学と日本観光をのために。

 体験入学の後は俺と会いたい、ということで終了時に連絡してくれれば、俺のトレーナー室で話をしようということにした。

 

『マトさんに会うのと、みそカレーミルクラーメンを食べるのが楽しみです』

『日本はすごくカップラーメンの種類が多いから、楽しめると思う』

『はい、日本に着いてからはカップラーメンだけを食べますね』

 

 グラスがとてもいい笑顔で言うと、画面外からパパさんの『日本ではカップラーメンしか食べられないのか……』という悲しみの声が聞こえてくる。

 トレーナーの立場からはカップラーメンばかりというのはおすすめできないが、すごく楽しみな様子だと止めづらい。

 パパさんはかわいい娘のため、ラーメンオンリーな生活を頑張ってほしい。

 ラーメン生活で苦しんでいた場合、会ったときにご飯を食べるという名目でファミレスにでも連れていってあげよう。

 

 7月。トレセン学園の体験入学が開かれる前日に、グラス親子が日本へ来たことが写真付きで俺へと送られてきた。

 写真には空港に来た直後のテンションが高いグラスの様子だ。

 それだけ元気なら明日の見学会も楽しめるだろうな、と昼のトレーナーで思った。

 

 そして午後7時。担当ウマ娘たちの練習が終わり、俺は今日撮影した走っているときの動画を見返しているときだ。

 グラスから悲痛なメッセージが送られてきた

 

グラス:みそカレーミルクラーメンがどこにも売っていなんですが

 

 ……そういえば俺はそのラーメンがおすすめと言っていたな。

 あれは販売が東北限定だから売っていないというのを伝え忘れていた。

 

マト :すまん。あれは東京じゃ売ってないんだ

グラス:そんな……。私はいったい何のために日本に来たのでしょうか

 

 いや、学園見学のためだと思うんだが。それにグラスはラーメンだけじゃなく、日本文化全体に興味があるんだからそっちでテンションを上げてもらいたい。

 そう思うんだが、一文だけで落ち込みようがすごい感じてしまう。いつものグラスなら、気分を切り替えて別なのをやろう、という感じのメッセージをすぐに送ってくるんだが。

 

マト :明日、そのラーメンを持っていくから見学会後に渡すよ

グラス:本当ですか!? 約束ですからね!

 

 トレーナー室の扉付きの棚には多くの種類があるカップラーメンが置かれている。俺の夜食となり、1日1個を消費している。

 ラーメンの食べすぎは担当ウマ娘たちに栄養バランスが悪すぎると苦情を言われたが、無視をしている現在だ。

 

マト :今日は近くにある食べ物屋でもご飯を食べて。カップラーメン以外もいいよ

グラス:父に相談したらカップラーメンは持ち帰っても食べられるから、と言ってきたので夕食はお店を探して食べてきます

 

 よし。これでグラスパパがカップラーメン以外のを食べられるだろう。カップラーメンはうまいが、それ以外にも何か食べてほしい。

 前に日本的おやつにも興味があったから、コンビニでそういうのを買うかもしれないな。

 ご飯の話をしてきたら腹が減ってきたので夕食にしよう。

 

 電気ポットからお湯を出し、俺が食べる今日の夕食は煮干しラーメンのカップ麺だ。でもこれだけだと栄養が悪いと言われるだろうから、ツナ缶も追加だ。

 ツナ缶のフレッシュな味わいを感じてから、煮干しの風味が深いのを交互に味わう。

 どちらも魚系だから肉系のよりは気分的に栄養がよく思う。

 普段から栄養サプリを飲んでいるから、それでカバーしているし大丈夫!

 そんな手軽な夕食を終えてしばらくすると、文章からとてつもなく不機嫌そうなメッセージがやってくる。

 送られてきた写真に写る店内画像ではイタリア料理をメインにしている、庶民向けなお店だ。

 

グラス:日本に来たというのに、ピザとスパゲティだったんですけど

マト :レストラン?

グラス:イタリアの雰囲気なレストランです。父の気分が日本食じゃなかったらしく、こういうお店に。アメリカとは違う味付けだから悪くはないんですが

マト :明日、トレーナー室でみそカレーミルクラーメンを一緒に食べようか

グラス:本当ですか? 父を縛ってでも連れていきます

 

 縛るというぐらいに不満だったのか、グラス。

 カップラーメンに多大なる期待を寄せているが、味が予想を下回ったら冷たい目を向けられそうだ。

 明日までには機嫌を良くしてもらいたいものだ。

 そのためにグラスパパには頑張ってほしい。

 

マト :コンビニでケーキやプリンを買ってもらうといいんじゃないか

グラス:さすがマトさんです。今から買ってきますね

 

 どのあたりがさすがなのかわからないが、これで落ち着いてくれるなら嬉しい。

 日本に来てすぐに不満な思い出は持ってもらいたくないし。あとご飯の恨みはとても重いものだと知っている。

 特にウマ娘は。担当ウマ娘にバーベキューを約束したが、急用が入ってできなくなったのは4日ぐらい恨まれたものだ。

 今では月に1回することで許してもらった。

 その日の夜、グラスから送られた写真はホテルの部屋と思われる場所で、テーブルの上に5つ以上のデザートがある写真を送ってきた。

 俺だけ写真をもらいっぱなしなのは平等じゃないな、と思ってからかう前提で食べ終わったカップラーメンの写真を送ると、ずるいと言われて怒られた。

 このくやしさを持ちつつ、明日のカップラーメンは楽しみに待っているがいい!!




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