アメリカにいるグラスへラーメンが入った段ボール箱をひとつ送ってから1週間と4日。
仕事から家へ戻り、飯と風呂を終えてパソコンをつけるとメッセージが来た
グラス:ラーメンを送っていただきありがとうございます。こんなにも多くの種類と数を見て、幸せがいっぱいです。
グラス:みそ味をめぐって妹とケンカをしたので、もし次があるのならば味の種類がわからないようにしてください!
マト:わかった。次は妹さん用のを別で分けておく
カレー味は偉大なものだ。
以前、カレーにはまったアメリカ人の記者が書いたの記事を思い出す。
それは記者自身がゴーゴーカレーの店にはまり、ニューヨークに支店ができてすごく喜んでいたやつだ。
カレーは多くの人に広まるというよりも少数の人がものすごくはまるという印象がある。だからグラスの妹もそういう方向なのだろう。
今まで日本系の食べ物には興味なかったのに、カレーにだけはまったんだから。
カレー味で変わったカップラーメンがないかパソコンで探していると、メッセージが返ってくる。
感謝の言葉と近々ウマ娘グッズを送ってくれると。
それが来るのを楽しみにしつつ、俺は寝た。翌日のことを楽しみにしながら。
その楽しみとは担当ウマ娘との遊びだ。
俺はトレセン学園でトレーナーの仕事をしているが、4人の担当ウマ娘は全員外国人だ。
その誰もが日本文化に興味がある。
中には日本語を習得するのに時間がかかり、精神に余裕ができて日本文化に興味を持つようになった子がいる。
そのウマ娘はタイキシャトルという中等部2年の子だ。
アメリカのケンタッキー出身で、いまだ片言の日本語だけど日本人とは普通に会話ができるようになった。
近頃は日本らしさがある写真を撮っては家族へ送るということもしている。
そんな日本に慣れていこうとしているタイキから遊びに行こうと誘われた。一緒にご飯を食べに行きたいと。
今までは学園と寮、あとはコンビニとスーパーでしか食べていないと行っていたから驚きだ。
日本での外食経験がないから、友達と行く前に俺で練習したいとのことだ。
そうしてタイキと約束をした、晴れて天気がいい土曜日の昼前。
トレセン学園の正門前で合流の約束をし、普通乗用車の車に乗って向かう。
そこにいたタイキは細身のジーパンに、上は落ち着いた深みのある黄色のチェックシャツだ。
髪型はいつものポニーテールであり、茶髪だ。右耳近くには星の形をした緑色のヘアアクセ。
俺よりも身長が3cm低い169㎝という高身長だ。あと1年か2年で俺を追い越しそうな身長を持つタイキはジャージでランニングしているウマ娘たちの中では目立つ。
「おはよう、タイキ」
「トレーナーさん、おはよございマース!」
車に乗ったまま、運転席の窓を開けるとすぐに駆け寄ってきては明るい笑顔で返事をしてくれる。
タイキはいつも笑顔で明るく、積極的にコミュニケーションをしてくる。寂しがり屋で1人でいるのが苦手な子だ。
だから俺にもよく話しかけてくれるけど、抱き着くのが好きなタイキは俺にも平然としてくるのは遠慮して欲しい。
よく背中から警戒心なく抱き着いてくるんだが、そのたびに背中で感じる大きな胸の感触が気になってしまう。
14という年齢差があり子供に興奮はしないものの、ブラ越しに感じる柔らかい感触を意識せずにはいられない。
そんなタイキを一言で表すなら"太陽で台風"という二つ名をつけようかと思うほどだ。
タイキがいれば暗い雰囲気でも一発でなくなってしまう。
「忘れ物はないな?」
「はい、ばっちりデス! 早くご飯を食べに行きまショウ!」
用意はばっちりとの返事と共に肩にかけていた小さいバッグを俺に見せつけると、タイキは助手席へと乗り込んでくる。
シートベルトを締めると大きな胸が強調されて目を向けづらい。夏の今だと薄着だから、シートベルトで押さえつけられてブラの形がうっすらわかってしまう。
そのことに気づいても紳士として見ないふりをし、車を走らせる。
「今日は前に言ってたノハ、ファミレスでしたっけ?」
「ああ。初めての外食なら高くなくて入りやすいところを選んだ」
「オー、トレーナーさんが選んだお店、楽しみデスネー!」
「ファミレスに期待しすぎんなよ」
これから食べるご飯にすごく期待しているタイキはにこにこと明るい笑顔。
トレセン学園と味を比べすぎないようにしてもらいたい。
そうして車を走らせること15分。駐車場に車を止め、来たファミレスは庶民的なイタリア料理のお店だ。
入口はレンガブロックぽい壁と緑色の枠があるガラス扉だ。
「高そうなお店じゃないですカ? トレーナーさんのお金、足ります?」
「イタリア料理と聞けばそうだろうが、安くていいぞ。お金は足りるから安心しろ。お前が食べすぎるようなら注意するし」
「これ、安いのって小さい料理がでるからじゃないですカ?」
「ウマ娘用メニューもあるから心配するな。ほら、さっさと入るぞ」
俺に遠慮があるのか、俺を疑う顔つきをして入ろうとしないタイキの手を引っ張って店へと入る。
店内は暖色系の色で壁には名画のレプリカが壁にかけてあり、こういう店に慣れていないのかタイキは恐々としている。
昼前なので並ぶ必要もなく、店員に案内されてテーブルへと行くとタイキから手を離して4人掛けの席へ座る。
タイキは心細いのか、俺の隣へ座ろうとしてくるので体を手で押して向かいがわの席へ座らせた。
「トレーナーさんがいじわるをしマース……鬼畜デース……」
「そんな言葉を使うな。俺が通報されたらどうしてくれるんだ。まわりを見てみろ。みんな気楽にご飯を食べて話をしてるだろ」
タイキは俺の言葉を聞き、ゆっくりとあたりを見回す。
その間にスマホでテーブルにあるQRコードを読み込み、注文の準備をする。
スマホでメニューを読み込み、自分の分であるミラノ風ドリアとコーンのピザを注文かごへと入れる。
終わったらタイキにスマホを渡す。
「好きなのを注文していいぞ。予算はあまり考えなくていい」
「……えーと、トレーナーさんが頼んだもの、すごい安いんですケド。ドリアが300円だなんて量が少ないんですよネ?」
「人にとってはいい量だよ」
「でもこんなに安いですから味がよくないんデス?」
「学園に比べると良くはないが、悪くはない」
「んー……トレーナーさんと同じドリアと違う種類のピザにしマース!」
ぺしぺしとスマホをタップし、もうどうにでもなれ! という雰囲気でスマホを俺へと返してくる。
初めての店ということなのか、どこか緊張しているタイキは新鮮だ。普段は落ち着きがないというか、行動力の塊だから。
それがどうだ、今は身を小さくして実におとなしい。
スマホで注文を終えると料理が来るまで時間ができる。
その間は雑談だ。学園とは違う雰囲気だといつもと違う話題が出るかもしれない。
会話をして精神や身体の状況を把握して置くのは大事なことだ。男には言えないこともあるので、時々は親友のトレーナーを呼んで会話をやってもらうこともある。
「学園だと言いづらいことなんだけど、タイキの影響でエアガンを買ったんだ。リボルバーのM586を」
「オゥ! それでどうでした? 楽しいですか!?」
「ああ。ダミーカートを銃に入れるだけで楽しいな。BB弾を入れて撃つのはまだ家の中でしかやっていないけど」
銃の話をすると、笑顔になってきらきらと輝くタイキだ。
以前に銃の話をすることがあって、タイキの実家は農場をやっている。だから小さい頃から父親と祖父から銃について色々と教えてもらったと言っていた。
農場だから野生の動物相手に銃を使う。タイキも祖父に手伝ってもらいながらライフルを撃ったと言っていた。
この銃エピソードは俺がタイキの担当トレーナーとなったとき、タイキの祖父が日本に来て俺と面談をしたときのことだ。
あれは記憶によく残っている。変なことをしたら許さん、という強い情熱が目にあった。
「イイデスネー! 銃を持っているというだけで心は落ち着きますカラ。ワタシは部屋で撃って遊んでいたらドーベルに怒られたのでもうできませんが……」
タイキのルームメイトであるドーベルが読書を邪魔されて怒ったという話だったか。
騒音を気にして休日の昼間に遊んでいたらしいが、うるさいのはうるさい。外で遊ぼうとしても危ない子扱いされてしまう。
トレセン学園でエアガン仲間とサークルを作れればいいんだけど、銃が好きな子はタイキしか俺は知らない。
「好きなものはやりたいもんな。俺もラーメンが食べられないと考えたら鬱になるかもしれない」
と、ここで気づく。今はまだいいが、タイキの精神安定のために銃を扱う趣味がなにかできないだろうかと。
……いつだったか、銃の話を学園の職員と話をした。あれは誰だったか思い出せないが、日本でも火薬式ので遊べたような。
「日本でも発火式のモデルガンで遊ぶのができるって話があるんだけど知ってる?」
「エアや電動、ガスじゃなくて火薬が使えるんですカ!? Really!?」
身を乗り出しては俺に顔を近づけてくるタイキの顔を手で抑え、席へと戻す。
思い出せ、俺。銃の話をしたのは若い男性のトレーナーで……そう、南坂トレーナーだ!
日本でファストドロウの大会をやってきたが面白かった、と言っていたのを思い出した。
「リボルバーを使った、ファストドロウの大会があるって聞いた。寮に戻ったら調べてみるといい」
「ワタシ、その大会に出てもいいんデス!?」
「学業に影響がなければね」
うきうきとしているタイキと銃の話をしていると、店員さんが頼んだメニューを持ってきた。
俺とタイキの前にはドリアとピザがひとつずつ置かれる。
「オーマイガッ! チーズが焼けてぐつぐつしているし、上のミートソースはおいしそうデス! 容器はとっても大きくて量が多いですけど、あんまりおいしくないと思うんデスヨ」
「味付けは日本人向けだけど、おいしいよ」
「キタイしすぎないで食べてみマス。……Oh!! これ、すっごくおいしーデース!?
チーズの味が濃厚で舌にトマトの味がしっかりとありますヨ! お米の粒々も感じ取れるし、これがドリア!
安いから質の悪いものを使っているのかなと思っていた、さっきまでの自分をぶん殴ってやりたいデス!
なんでこんなにおいしいんですカ! ……なんで安いんですかネ? あぁ、安いドリアでこの味なら他のもおいしいに違いないですよネ!
他にも注文しまショウ! トレーナーさんのおすすめは!?」
スプーンでドリアを食べていくごとにテンションが上がり、早口で言うタイキを見ると笑顔が出る。
こんなにも喜んでくれて、、連れてきてよかった。
さっきまでの疑いようはどこへ行ったんだタイキ。まるで子供のように、いや実際に子供だけど料理に感激して喜んでいる姿がすごくかわいい。
俺は追加の注文で、ティラミスを注文した。
タイキはドリアを食べ終えると、今度はマルゲリータのピザをピザカッターでカットして食べていく。
最初はおいしく食べていたが、三口目になると真顔になって手と口の動きが止まる。
「ピザはアメリカで人気があるもんな。日本の味付けはいまいちだったか」
「……400円でこの大きさと味。アメリカじゃ考えられないデス。なんですか、コレ。チーズとトマトソースが多いし、ソースの味は濃くてgood! 寮で出てくるよりも好みです、コレ!」
そう言ってはピザをにらみながら食べていく。アメリカといえばピザ。そのピザが日本でおいしいのに複雑な気分になっていそうだ。
あと調味料が無料でたくさん使えるのに感激していた。
ピザを食べ終えたあとはティラミスを大事そうに食べていく。
「ティラミスおいしっ!! もうこれから毎日行きまショウ! いえ、ワタシは毎日行きマス!」
「毎日は行かないでくれ。体重管理が面倒だ、週1回にして。あと行くときは友達を誘ってくれ。毎回は連れていけない」
「ワカリマシタ! ドーベルやスズカ、フクキタルを誘いマス!」
タイキは幸せそうな笑みをして、いかにこのティラミスが繊細で上品な味かを語ってくれた。
その感想を聞きつつ、俺は自分のコーンピザを食べていく。
そしてこの日以降、タイキはファミレスへと行くようになった。1人では決していかず、友達を連れて。
大人数で食べに行ったときは、どれほど楽しかったかの話を聞くのはとても楽しい。
日本で楽しいことを満喫してるのは本当に嬉しい。寂しがり屋で甘えたがりのタイキはホームシックになってはよく泣いていた。
でも日本で楽しいことがひとつ増えたから、泣くことも減ったと思う。
また何かあったらタイキに日本の良さを教えていきたい。