海外ウマ娘は日本文化に心を奪われました   作:あーふぁ

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スレ「外国人の和んだ話。」を元に書いたもの。


5.フラッシュ、100円ショップとようかんに感心

 熱中症によく気をつかう夏の8月、その最初の週。

 夏休み中の今は合宿や実家に帰るウマ娘が多くいて、トレセン学園の施設を利用するウマ娘は少ない。

 いつも使っている場所だけど、にぎやかさがなくなっていると別世界のように感じることもある。

 ひとつのコースに十数人で走ることがあるけれど、1人で独占して走れる時間帯もある。

 そうすると、担当ウマ娘だけを目に入れるだけでいいから集中して見られる。それは走りで惚れてスカウトしたウマ娘たちの姿だけを見るというのは幸せだ。

 

 朝からのトレーニングは昼休みを入れ、そのあとはストレッチをして午後2時で終わる。

 今日は走ったあとにダンスだった。そのトレーニングにはトレーナーである俺自身もダンスの見本を見せてウマ娘たちと一緒に汗をかいた。

 夏休み中の今なら、そのまま家へ帰るが今日は予定があるため、トレーナー用シャワー室で汗を流した。

 そのあとは担当ウマ娘と一緒におでかけをするため、トレーナー室へと行く。

 トレーナー室はコンテナハウスふたつぶんの広さを持つ部屋だ。

 しかし屋外にあり、日光を全力で受け止めてしまうためにエアコンを全力で使っていても冷えにくい。

 

 そんな冷房に不満を持ちながらもスーツに着替える。

 今日のおでかけ相手は中等部のエイシンフラッシュだ。

 先月の7月2週周目ににデビューしたが6着に終わった。終わって2週間ほどは負けを気にして精神がやや不安定だったものの今は安定している。

 

 まぁ、今日はおでかけと言ってもただの買い物だ。

 俺がトレーナー室に私物を増やしたら、ウマ娘たちも自分たち専用の物が欲しい! ということなので買い物リストを作ったフラッシュが俺と一緒にはじめての100均ショップへ行く。

 そんなフラッシュが来るまでの間にソファーへと座り、ローテーブルにあるパソコンを立ち上げるとグラスからメッセージが来ていた。

 

グラス:前にも聞きましたけど、カップラーメンの変わった食べ方は他にもありますか?

 

 今だと向こうは午前1時。返信には時間がかかるだろうから返事の内容をゆっくりと考える。

 しかしカップラーメンにはまりすぎじゃないだろうか。

 グラスの健康面はご両親が気をつけるから大丈夫だと2週間前にグラスパパさんと電話をして確認はできたが。

 好きなものがあるならストレス解消にも役立つから深く気にしなくていいか。

 つい、グラスを担当ウマ娘のように考えてしまいそうになるのを、軽く頭を振って考えないようにする。

 

 深く息をついてからパソコンから視線をずらすと、棚にシービスケットのグッズが置いてあるのが見える

 おととい、グラスからウマ娘シービスケットのグッズが届き、今のトレーナー室はシービスケットのポストカードやぬいぐるみ、蹄鉄レプリカなどが置いてあって目で見るたびに少し楽しくなる。

 だからこうして見ていると、とても気分がいい。

 そうしていると、変わった食べ方というのを思い出した。この食べ方は健康にいい食べ方だから積極的に教えてもいいと思う。

 

 マト:スープが先入れの場合、規定時間どおりに麺を戻してからスープをすぐに捨てて麺だけ食べるというのがある

 マト:そうすると麺が熱くないし、濃い味のスープを飲まなくてもいい。なにより薄い味が好きな場合はこの食べ方がいいかも

 

 というようなラーメンの食べ方メッセージを送った。

 これなら早く食べれて、塩分や油が多いスープを捨てるから健康にいい。捨てるというのはすごくもったいない気はするが。

 他にも普通はお湯を入れて3分で食べるところを、1時間ほど置いてスープを麺にしっかり吸わせてから食べるという方法もある。

 こっちは麺に吸わせたスープをしっかり食べることになり、不健康だ! とグラスパパに怒られてしまうからやめておこう。

 グラスへの返信を終えたあとは、他トレーナーとの近況がどうこうのやりとりや、近いうちに合同でトレーニングしようっていう提案に返事をする。

 

 メールのやりとりを終えたあとはパソコンを閉じ、ソファーへと深く腰掛けてはぼぅっと時間を過ごす。

 夏の暑い日差しに立っているだけとはいえ、それでも集中してウマ娘を見て頭を使うから結構疲れるものだ。

 もうだらだらとアイスを食べ、ホットコーヒーを飲んでエアコンのある部屋から離れたくない。

 

 おでかけ気分が段々となくなっているなかでトレーナー室にノックの音が響く。

 30分ほどかかると言っていたが、腕時計を見ると予定した時間通りだ。

 いつも時間に正確であろうとすることに感心しつつ、返事をすると入ってきたのは制服姿のフラッシュだ。

 シャワーあがりのフラッシュはつやつやとしている、肩の位置で切りそろえた黒髪がしっとりとしていて、中等部なのに色気がある。

 身長は158㎝でバストサイズは86。高等部になれば、もう少しは成長しそうだ。

 

 3サイズは衣装やトレーニングに影響が出るから把握する必要はあるが、数字は慎重に扱わないと問題が色々出る。

 セクハラやその問題を使って強引にトレーナーと恋人関係になるとか。

 その点、俺は気をつけているし女性の下着については仲のいいトレーナーによく相談をしてもらっている。

 

「トレーナーさん、お待たせしました」

「おう。それじゃあ行くか。あ、買い物リストは完成したんだっけ」

「ええ。昨日のうちにできました。そして、さきほどシャワー室前でタイキさんたちと別れるときに最終確認をしました」

 

 ドイツ生まれドイツ育ちのフラッシュは国民性なのか、親の影響なのかはわからないが『予定』という言葉を好んで使っている。

 事前に時間を配分してスケジュール通りに物事を実行することにこだわりがあり、時間を守ることを絶対視する子だ。

 トレセン学園に入った当初は、自身で作った予定表に振り回されて体調を悪化させたこともあったが、今では予定に若干の余裕を持たせられるようになった。

 

「100円ショップに行ったあとはどこか行きたいところはあるか?」

「いいえ。トレーナーさんの時間を私のために使わせるのは心苦しいので」

「お前のトレーナーなんだから、気にしすぎなくていいんだけど」

「いえ、普段からお世話になっているのでこれ以上は」

 

 フラッシュはなんでも自分で解決しようとする傾向があるから、担当ウマ娘たちの中ではよく気を使っている。

 かといって無理に興味があるのを教えろ、というのも違うわけで。

 仲良くなっていくか、フラッシュの精神が折れそうになったときに遊びへと連れまわしてやろうと考える。

 

 話がひと段落してから、俺はフラッシュを連れて車で100円ショップに行く。

 歩きでもすぐに行けるぐらいの距離だが、日焼けや汗を気にしているから車が最もいいと思う。

 事前に冷房をつけていた車に乗ると、フラッシュは後部座席へ行く。

 ウマ娘たちとおでかけするときは、俺の真後ろが定位置となり、今回もそうだ。

 

「フラッシュのことだから事前に店のことを調べたか?」

「はい。初めて100円ショップへ行くので調べました。これでトレーナーさんに迷惑をかけなくてすみます」

 

 初めて行こうとしている店についてはあまり喜んでいる様子もない。グラスやタイキなら日本食や日本文化への好奇心が強かったんだが。

 日本特有のお店とは言っても100円ショップだから専門店と比べれば興味は少ないか。

 ……いや、さっきのを思い出すと表情は冷静だけど声はわくわくしていたような。

 

 楽しんでくれることに期待しつつ、100均の大きいお店へと着く。

 車から降りると、ガラス越しに見える店内にフラッシュが感心の声を上げた

 

「大きいお店ですね」

「スーパーの中に小さい店があったりもするけどね。今日は大きいほうがいいと思ったんだ」

「ここならリストに書いてあったの品物は見つかりそうですね」

「使えそうなものがあったら、100円以上の商品でも買っていいからな」

「それにはおよびません。私の事前調査は完璧ですから」

 

 そう自信たっぷりに言うフラッシュの顔を見て、店内で興奮しすぎないだろうかと心配してしまう。

 フラッシュはクールで計算高い系キャラに見えるけれど、想定外の事態に弱くて自分自身で考えた完璧を求めるために体をよく壊している。

 今回はそれが場合によるというのを教える良い機会になりそうで、フラッシュの好きなように買い物をさせてみたい。

 

 お店に入ると広い店内にはたくさんの棚があり、その棚には多種多様の製品がたくさんある。

 その圧倒される、けれど狭さを感じづらい店内設計に感心してしまう。

 

「これはどれがどこにあるかわかりませんね」

「全体をぐるりと回ってきてもいいよ」

「でもトレーナーさんはリストにある商品がどこにあるかわかるんですよね?」

 

 邪魔にならないよう通路の端に寄ってから、俺へとメモ用紙のリストを突き付けてくるフラッシュは耳をやや後ろに倒して顔は不満げだ。

 確かに俺は何度も来ているから商品の場所はわかる。けれど全部じゃない。それに目的だけのものじゃなく、他の商品を見て衝動的に買うのは実に楽しい。

 フラッシュからすれば、時間とお金の無駄遣いなんだろうけど。

 その代わりとして見て楽しむことの良さも理解して欲しい。

 

 フラッシュから受け取ったリストにはハサミ、観葉植物、メモ用紙にボールペンとシャープペンと書かれてあった。

 担当ウマ娘たちの意見を聞いたわりにはずいぶんと寂しい内容だ。特にタイキなら『バーベキューに使う道具を買いまショー!』って言いそうなのに。

 

「思ったより欲しい物が少ないな」

「私が取捨選択をしました。ペンはトレーナー室でメモを取るのと勉強と宿題をするので必要かと」

「自分のを使えばいいだろうに。今までは自分のを出すのが面倒だからという理由だろ。あと観葉植物は……成長過程を楽しむのか?」

「はい。部屋に緑があると私たちだけじゃなく、トレーナーさんも心がやすらぐと思いまして」

 

 フラッシュは中等部なのに心を抑えすぎているような。

 俺はお菓子やぬいぐるみ、手でにぎにぎする癒やし系の物が欲しいと書いてあると思っていた。

 なのにそれらがない。もっとこう……中等部らしいというか年相応に要求してきてもいいのに。

 もしかして俺の態度が冷たかったか? それぞれのウマ娘たちは1人の女性という大人として扱うことが多かったからだろうか。

 考えてみれば、俺がシービスケットグッズを置いたから今回の買い物があるわけで。

 

 ……明日からはウマ娘たちを甘やかそう。今回の買い物も最後のほうでウマ娘たち用のお菓子を買わねば。

 

「じゃあリストに書いてある物を先に買ってから店内をぐるりと1周しようか」

「トレーナーさんがそう言うのなら」

 

 買い物カゴを持つと、俺から奪おうとするフラッシュの手をかわしながら店の奥へと進む。

 フラッシュはなにかあるごとに、俺へ苦労させないようにするがそうはさせたくない。

 だからカゴを奪おうとするフラッシュ手を掴んでは宙で手放した。

 

 そしてハサミを買う場所へと行くが、俺の後ろをついてくるフラッシュは足音がところどころ遅くなっている。 

 振り向くと棚にある様々なものに目を奪われていた。

 今の場所は絵を描く道具類だ。フラッシュは模写で絵をよく描くから興味が出たんだろう。

 フラッシュが欲しければ、興味があるのは全部買ってやろうと考えながら、ハサミの場所へと着く。

 

「あの、トレーナーさん。日本の100円ショップのお店はずいぶんと物が多いんですね」

「意外と質もいいぞ。ドイツにもこういう店はなかったっけ?」

「1ユーロショップはありますが、化粧品や掃除用品の質は悪かったですね。専門店で買えるなら専門店で買ったほうがいいです。それに日本のようなおしゃれなものやアイディア商品がなくて」

 

 求めるのが違うのは国民性の違いだろうか。

 話を聞くと日本のが種類豊富そうな感じだ。

 

「ハサミだけで3種類あるけど、どれがいい?

「……それではさびに強いチタンコーティングのものにしましょう」

 

 フラッシュはそれぞれの商品を手に取ると時間をかけて表のパッケージや裏面を見てから、すごく悩んだ表情で言ってはカゴにハサミを入れる。

 カゴに入れたあとも、これで正しかったんだろうか? という雰囲気だ。

 

「残りの2種類も買ってみようか」

「待ってください。それだと無駄遣いになります」

「切るときの感触にだって好みがあるだろ。それに3つ買っても困らないって」

「トレーナーさんは必要以上の物を買わないということを意識したほうがいいかと思います」

「だけど考えすぎてストレスが溜まるのも嫌だろ」

 

 苦情を言ってくるフラッシュに構わず、残り2種類をカゴへと入れた。

 これでフラッシュが後々に悩まずに済む。切れ味が悪かったら、やたらと落ち込んでしまうだろう。責任感が強いのがフラッシュだし。

 

「しかし、これらが100円だと言うのが信じられません」

「犯罪的な裏ルートがあるとか、品質不良品じゃないからね?」

「それぐらいはわかります。堂々と商売しているお店がそういうのは置かないでしょうから。次は観葉植物を探しに行きましょう」

 

 俺のからかう言葉に気分を悪くしたフラッシュは尻尾でべしべしと足のスネを叩いてきて実に痛い。

 DIYのコーナーに向かう途中、フラッシュは手芸品を眺めながらたどりつく。

 

 置いてある手のひらサイズな鉢植えの観葉植物は商品名にテーブルヤシやエアプランツなどが書かれてあるのが置いてある。

 名前が書かれてもまったくわからん。他にもサボテンが置いてあるが、それしかわからない。

 

「6種類もありますね。……ひとつずつ買いましょうか」

「指定はされていなかったのか?」

「はい。私も何があるのかわかりませんでしたから」

 

 フラッシュは棚にたくさん並べられている観葉植物をひとつずつ手に取っては状態が良さそうな物を選んでカゴへと入れる。

 ハサミとは違い、1種につき複数のを見ながら選ぶのは1分はかかっている。

 選ぶ顔つきはとても真剣であり、模擬レースでもやるのかという気迫だ。

 耳はピンと立て、尻尾は高く持ち上げてはゆらりゆらりとわずかに揺らしている。

 その様子は集中しているようで、フラッシュが満足するまで待とう。

 

 植物に興味がない俺からすれば退屈でしかないが。かといって、フラッシュを置いてどこかへ行ったら怒られそうだ。

 暇つぶしとしてフラッシュの揺れる尻尾をじっと見ることにする。

 他の人から見れば、ウマ娘の尻を見つめる変態扱いされるに違いない。

 

 だが、ウマ娘の揺れる尻尾は長時間見ても飽きにくいというのを教えたい。

 特に手入れがよくされている尻尾となれば、それは格別だ。髪とは毛の太さが違うし、尻尾と共に動く毛は興味深いと思う。

 

 そうして時間をつぶしていると、フラッシュは6種類をカゴに入れると両手で尻尾を隠すようにして恥ずかしそうに俺をにらんでくる。

 文句を言うわけでもなく、無言の抗議に俺は申し訳なくなってフラッシュに背を向けた。

 

「あー、すまん、悪かった。……さて、次はボールペンだったな? ほら、行こうか!」

 

 さっさと歩きだすと、後ろからフラッシュがついてくる足音が聞こえたことに安心する。

 どうやら、ついてくるのが嫌というとこまではいっていないみたいだ。

 文房具を置いてある場所へ着くと、棚の端から端まである文房具のコーナーを見てフラッシュは目を輝かせて見始める。

 

「日本のはデザインが豊富でいいですね」

「ドイツではそうでもないのか」

「はい。1ユーロショップは2回しか行かなかったのですが、買い物をするのは専門店のほうがいいという理由なんです」

 

 フラッシュはデザインがおしゃれなボールペンを手に取り見つめる。だが、気に入らなかったのか3本入りのをカゴへ入れた。

 3本入りのはシンプルなデザインだが、それでいいんだろうか。

 今度はシャープペンを探しているフラッシュに視線を向けると、耳をこちらに向けてから振り向いてきた。

 

「どうかしましたか?」

「デザインがかっこいいのは買わないのか?」

「私の好みで買っても問題が起きそうなのでシンプルなのを選びました。それと同じ理由でシャープペンやメモ用紙も同じ感じのを選びます」

 

 観葉植物にじっくり時間をかけていたのとは違い、1分ほどでリストに書いてあったものを選び終えた。

 あとは買うだけで今回のおでかけは終了となる。だが、せっかく来たのにもう終わってしまうのはなんだか悲しい。

 せっかく来たんだから、フラッシュはもっと店内を見て欲しいものだ。

 

「リストのは揃えたから店内を見てくるといい。歩いていて面白そうなものが結構あっただろ?」

「……トレーナーさんがそこまで言うのなら少し見てきます」

「俺もそこらを歩いてくからな」

 

 平常心を維持しようとしつつも好奇心を隠し切れなかったフラッシュにそう言うと、文房具の近くにあった絵筆なんかの絵を描く道具を真剣に見始めた。

 興味があるときはその気持ちを殺さないようにして欲しいところだ。こういうときの我慢は精神に悪いからな。興味があるときは素直に見ておかないと後悔するし。

 俺はフラッシュの様子に安心し、目的のものを買いに行く。

 そしてたどりついたところはお菓子の場所。

 そう、ようかんである。トレーナー室にはカップラーメンは常備してあるが、お菓子なんかはたまに買ってくる程度でしかない。

 だが手軽に食べれてカロリー摂取できるお菓子は前から欲しかった。

 

 ようかんは以前、同僚からおすすめされた。和菓子だから外国ウマ娘からのウケもいいし、和菓子の甘さは舌に深く残らないからいいと。

 海外ウマ娘しかいない俺からすれば、その情報は素晴らしいものだ。

 もし誰も食べなかったとしても俺が食べればいいし。

 と、いうわけで手のひらさいずのようかんを10個、カゴに入れる。

 その後は勉強のために化粧品をざっと見てからフラッシュを探すと、お菓子の材料が売っているところにいた。

 

 フラッシュのご両親はドイツでケーキ屋をやっていると聞いたのを思い出した。

 お菓子の話を今までしたことは滅多になかったため、忘れかけている。

 

「フラッシュ、俺は会計に行くがもう少し見ていくか?」

「いえ、大丈夫です。今度、1人で来たときに見ますので。ところで何をカゴに入れているんですか?」

 

 フラッシュはカゴの中にあるようかんを興味深そうに見てくる。

 トレーナー室に買うのは洋菓子系が中心で、ようかんなんてのは1度も買ったことがなかった。

 フラッシュ自身が洋菓子を作るからどういうものか気になるかもしれない。

 

「ようかんは食べたことないのか?」

「はい。日本の洋菓子はよく食べてはいますが、和菓子はあまり」

 

 フラッシュはルームメイトのスマートファルコンと一緒に遊びへ行っている、と言っていたが遊んだ先で食べないのか。

 まぁ中等部の子が積極的に和菓子を食べることはないのかもしれない。

 和菓子は大人になってからという印象があり、俺自身、和菓子を食べるのは大人になってからだ。

 

「トレーナー室に菓子を置いておこうと思って買うことにしたんだ。フラッシュも練習後に、いや今からトレーナー室に戻ったら1個食べてみるといい」

「カロリーの問題は大丈夫でしょうか」

「なに、メロンパン1個ぐらいだ。それじゃあ車の前で待っていてくれ」

 

 そう言ってレジへと向かうと、フラッシュも出口へと向かってくれている。ただ、歩きながら「メロンパン1個分のカロリーは300から400ほど。それをあの見た目で?」とつぶやいている。

 洋菓子と違い、和菓子はカロリーが多いものはわかりにくい。クリームがたくさんとかだったら、すぐにわかるんだが。

 砂糖がたくさん使ってあっても上品な甘さで、たくさん食べても口の中はさっぱりしたままだし。

 

 レジで会計を終え、買い物袋に詰め替えて店を出るとフラッシュと一緒に車で帰る。

 寮前で降ろそうとしたんだが、フラッシュの荷物はトレーナー室に置いてあったのを思い出して、一緒にトレーナー室へと行く。

 そして部屋へ入ったら、エアコンを全力でかけては風が当たる位置へと移動する。

 

 フラッシュはようかん以外の買ったものを袋から出して整理している。ハサミやペン類はパッケージを開けてからペン立てに入れ、観葉植物は棚へと置いた。

 残りのようかんは袋に入れられたまま、俺に手渡される。

 

「それではこれで帰りますね」

「また明日、いや、一緒におやつを食べないか? ほら、午後3時になるし」

「でもそれはトレーナーさんのでは」

「1人で食べるのが寂しいんだ。どうか俺に付き合ってくれよ」

 

 袋を受け取ってから壁掛け時計に指を向けると、フラッシュは時計の時刻を見てからポケットにあるメモ帳を開く。

 時間に余裕があるのかメモ帳を閉じると、食器類が置かれている棚の前へと行った。

 

「コーヒーを淹れましょうか? ブラックでしたよね」

「ああ、頼むよ」

 

 フラッシュは俺のとフラッシュ用のマグカップを取り、ソファー前にあるローテーブルの前に置く。

 そうしてからインスタントコーヒーの瓶を取って粉末を入れる。フラッシュのマグカップにはスティックシュガーを1本追加して。

 できあがったコーヒーのいい香りを嗅ぎつつ、ソファーに座ると持っていた袋からようかんを出す。

 全部で10個あるようかんは味が4種類ほどある。ノーマルなあんこ、塩、いも、栗。

 

「コーヒーをどうぞ」

「ありがとう、フラッシュ」

 

 コーヒーを持ってきたフラッシュはローテーブルにマグカップふたつを置くと、俺から人ひとりぶんの距離を置いてソファーへと座る。

 

「それじゃあ、食べるか」

 

 そう言って手に持ったようかんのパッケージを手で裂き、そのままかぶりつく。

 口の中に広がる、あんこの優しい甘み。高級品に比べれば味が薄く感じられるものの、舌触りがなめからなのはいい。

 そして、このつるんとした食感が口に広がりっていくのはいいものだ。

 ひさしぶりに食べる味へ感激していると、俺と同じあんこだけのようかんをフラッシュも食べていく。

 

「ようかんというのはゼリー状のお菓子なんですね。以前、カレンさんと一緒に飲んだおしるこに似た味がします」

「同じあんこを使っているからな。フラッシュはこういうのは好きか?」

「……この食感は今までに食べたことがありませんね。グミよりもやわらかく、ゼリーよりも固い。口の中で溶けていくのは新感覚です。ただ、口のまわりがべたつくのは嫌ですが」

 

 フラッシュは疑うように食べていたが、段々と表情が明るくなっていく。

 ようかんを食べ、コーヒーを飲み、またようかんを食べる。 

 そうして食べ終わるとポケットからハンカチを出して口元を拭き、まだ物足りなさそうな雰囲気だ。

 

「もうひとつ、いただいても?」

「次は塩ようかんを食べるといい。しょっぱさと甘さが融合するのは他のお菓子にはあまりないから新鮮に感じる」

 

 フラッシュは俺の言葉を聞き、興味深そうに塩ようかんを手に取り、それを食べていく。

 さっきよりも勢いよく口につけると、味に驚いたのかピンと耳と尻尾が張りつめる。が、すぐにそれは元通りとなった。

 

「これはとてもおいしいですね。ようかんに塩が入ることで味の上品さが増し、甘いのが苦手な人でも食べれると思います」

「100円のでもいい味だろ。高級品もいいが、こういう安いのが気軽に食べられていいんだ」

 

 そう言った俺はようかん一個とコーヒー1杯で休憩を終えると、仕事として先輩トレーナーがダンスレッスンについての講座動画をパソコンで見始める。

 フラッシュはようかんがとても気に入ったらしく、3つ目のようかんを食べた。

 

 後日、ようかんを気に入ったフラッシュは俺と同じようにトレーナー室で自分用ようかんを置き始めた。

 他のウマ娘たちもフラッシュがおいしそうに食べるのを見ては、俺が持っているのを味見と言ってはよく食べるようになった。

 1週間が経つ頃には俺のお菓子を食べられないように、ウマ娘用のようかんがトレーナー室に常備することにした。

 そうしたら、それぞれの好きなようかんについて語るようになってうるさくなってしまった。

 

 それでちいさくもおだやかな言い争いが起きるので、俺の好きないもようかんが最高であると決定づけて抑えつけた。

 苦情があるなら自分たちで用意してから言って欲しいものだ!

 その結果、なんでかウマ娘たちがトレセン学園内でようかんについて語るようになり、ようかんの良さが注目された。

 ようかんは手頃な大きさで食べやすく値段が安い。そしてカロリーもほどよいことから、カロリー消費が激しいウマ娘たちのおやつとして最適だと結論付けられた。

 校内ですれちがった顔見知りのウマ娘たちに、ようかんの良さはなんだと話を聞いたところ、以下のような返事が返ってきた。

 

「塩ようかんなら塩分も摂取できてすばらしい。だが肉ようかんというものがあるらしい。まだ食べたことはないが、肉という名前だけにきっとそれが最高のようかんだろう」

 

「塩ようかんや肉ようかんで塩分を取るぐらいならならスポドリを飲めばいい。そして味はシンプルなあんここそ至高。……ようかんはヒットの予感がするな!」

 

「水分が足りないなら、水ようかんを食べればいいのというのは便利ですよね。飲み込みやすいですし。……あの、もう走ってきてもいいですか?」

 

 という感想だった。生徒会まで巻き込んだ、ようかん派閥が複数生まれたようだが俺は知らん。

 なんで自分の担当ウマ娘にようかんを食べさせたら学園全体にまで広がるんだよ。

 1か月もすれば落ち着くと願いたいが、食べ物の争いはヒートアップしやすいので俺は静かに見守ろう。

 ひとまず担当ウマ娘たちには「相手の好きなものは尊重しよう。そこに良いも悪いもない」と言っておいた。

 これで俺が問題の元凶だとばれても理事長やたづなさんに言い訳できるぜ!

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