最果ての荒野付近においては唯一、ちゃんとした街であるツィーゲ。その街で最大の商会といえば『レンブラント商会』である。
取り扱う商品は武器に防具、雑貨に日用品全般と幅広い。そんなレンブラント商会の代表はパトリック・レンブラントだ。
彼がこのツィーゲで一番の商会の座に君臨するだけあってパトリックはこのツィーゲに来た時から才に恵まれていた。
かつてこのツィーゲには良質な武器を扱う『ハンザ商会』という老舗があり、ツィーゲの中心勢力となっていた。そんなハンザ商会は当時、新進気鋭のレンブラント商会に目をかけ、パトリックに対し自分の娘との縁談を設けたいと言うほど。
しかし、ハンザ代表の娘は商会専属の武器商人と恋仲にあったのでパトリックは縁談を戯れと受け流す。
そんなハンザ代表が荒野に向かった際に護衛達の持つ武器が整備不良のために欠損し、魔物に抵抗できず死亡する事になる。
その武器へ細工をしたのは自分の恋人に対し、パトリックとの縁談を持ち掛けた事を許せなかった武器商人だと疑惑がもたれた。
その疑惑が元でハンザの娘は恋人と別れ、ハンザ代表の娘は父から代表の座を継いだ。
パトリックはハンザ代表の娘の恋人である武器商人に対する疑惑の解消、商売の経験が浅く、代表としては能力不足なハンザ代表の娘を支える。
そんな中で元々、ハンザ代表自身が縁談を望んでいたとあって幹部も認め、パトリックにハンザ代表の娘への求婚を進めたのだがパトリックが荒野のベースに出ている間に隣町へ取引の交渉に出かけたハンザ代表の娘たちが何者かにより暗殺された。
パトリックは私財を投げ打ち犯人を捜したが見つからず、やりどころのない怒りをぶつけるかのようにレンブラント商会とハンザ商会、両商会のために働いた。その熱心な姿にハンザ商会の者達はレンブラント商会に吸収されることを望み、そうしてレンブラント商会はツィーゲで一番の商会の座に君臨したのだ。
更に元冒険者であり、今はパトリックの頼れる執事となっているモリスの存在とその紹介あって、今は妻であるリサと出会い、二人の子宝に恵まれてパトリックの人生は順風満帆であった。
しかし、そんな人生に転落期が訪れる。レンブラント商会が規模を拡大するにあたって低レベルの運搬依頼や採集依頼を請け負う子会社のような組織を作ったとの噂が立ち、それに業を煮やした呪術師がパトリックの妻と娘二人に数年眠りこける眠呪をかけ、冒険者達はレンブラント商会が呪いを解呪しようとするのを妨害した。
呪いをかけた呪術師がレンブラント商会によって捕らえられ、殺された事で冒険者達のレンブラント商会への妨害は引っ込みがつかなくもなっている。
そんなツィーゲの冒険者達の筆頭はライム=ラテという冒険者で、実力もそうだが気さくで面倒見の良い兄貴分体質の男だという。
「成程な……良く調べてくれた。助かったよ、トア」
「いえ、マコトさんのお力になれて嬉しいです」
ツィーゲのとある料亭にて真は認めた者以外には別の人物の姿に見える幻術魔法をかけた状態で一人、潜入し先にツィーゲに転移魔法陣を使わせて入らせ、レンブラント商会と冒険者達の状況を調べさせていたトアと接触し、情報を得た。
「なら、後でもっと喜ばせられるようにしよう」
「あむ、ん……はい、楽しみにしてますね」
真はトアに深い口づけをし、瞳を潤ませ、頬を赤らめながら微笑するトアに見送られながら彼女の下を去って、一人、ツィーゲの中で大きな店舗の『レンブラント商会』の近くに向かう。
そして、霧を生じさせると亜空で待機していた巴と澪が出てきた。巴の手には『ルビーアイの瞳』六個が入った包みがあった。
店舗に入ると店員に話をし、二階の応接間へ……。
「重傷でぼろぼろになった顔を見せる訳にはいかないので仮面を被っている無礼をお許しください。ご依頼通り、『ルビーアイの瞳』六個です」
「おおっ、これは確かに……流石はあの荒野で『絶野の英雄』と言われるだけはある」
「しかも瞳の鮮度も十分。素晴らしい」
ダークグリーンの髪を伸ばし、立派なカイゼル髭を生やしていて、ダンディという言葉が似合う風貌のパトリック・レンブラントとその執事で長身にオールバックに髭、壮年ながら容姿は整っているモリスは喜んだ。
「仕事達成の確認して頂いたところで質問なんですが、このルビーアイの瞳はパトリックさんの奥方と娘さんにかけられた眠呪の治療薬の製薬に使うんですか? 此処に来る前にちょっと調べたところ、冒険者達ではそういう話になっているようですが……」
「眠呪っ、とんでもないっ!! 奥様たちにかけられたのはレベル8というとんでもなく凶悪でこのまま治療が出来ないでいると死にいたる呪病です」
「レベル8の呪病となると確かに厄介ですな」
モリスの言葉に巴が顔を歪めながら、言った。
「ああ、高価な魔法薬を使っても一時的な抑制にしかならない。だが、ルビーアイの瞳さえあればレベル8の呪病でさえ治療できる万能薬『アンブローシア』の素材になるんだ。マコト殿達のお陰で後はレベル80ぐらいの錬金術師がいれば製薬出来る材料が揃った」
「レベル80……僕の仲間にレベル242のアルケミーマイスターがいますので製薬を頼みましょうか?」
パトリックの言葉に真はハザルの名を挙げる。
「なんと、それはありがたいっ!! ああ、ようやくようやく女神が微笑んでくれた」
「まさに奇跡ですなっ!!」
マコトの言葉により、パトリックとモリスは歓喜しながら二人、抱き合って大声で泣き出す。大勢の使用人たちも応接間のドアを開けて飛び込み、その場に泣き崩れたり、近くにいた者達と抱き合ったりする。
落ち着くとパトリックから依頼書に受領サインを受け取り明日、ハザルを連れてくる事を言うとパトリックに執事、使用人や商会で働く店員総出で見送りを受けた。
そうして、真は巴に澪を連れて歩く中……。
「巴、記憶は集められたな?」
「はい……呪病の話は本当でしたが……只、あの二人は相当に外道でしたぞ」
「何かきな臭いとは思っていたが、やっぱりか……ともかく、見せてもらう」
「若にはあまり、見せたくはないのですが」
パトリックとモリスとの会話中、真はトアが得てきたパトリックの経歴にきな臭さを感じていたので二人の記憶を集めさせていたのだ。
呪病の話に顔を歪めていた巴のそれは実は二人の記憶がとんでもないものであったのを隠すためである。
そして、トアたちが部屋を取っていた宿に入り、真は巴が集めた記憶を閲覧すると……。
「……」
「改めて見ても気分が悪くなりますな」
「なんて醜悪な……」
パトリックとモリスの本性が露わとなった記憶の内容に真は表情を歪め、憤激を噛み締めたような息を漏らし、巴と澪はそれぞれ嫌悪するのであった……。