深澄真は澪が有する植物との対話能力を通じてアンブロシアの花の管理者を自称する亜人たちがいると知り、接触する事とした。
そうして、アンブロシアの花のある場所も含めて森一帯を管理して過ごす亜人事森鬼と出会った。
出会った時点では森鬼たちからは警戒され、何なら排除されようとしていたが森鬼の村を覆っているのが巴の結界であり、森鬼の長老の一人であるニルギストリが巴に結界を乞うたものであったため、巴と話をしてもらい、真たちにとっての本拠である異世界こと『亜空』へ森鬼たちを迎える事とした。
戦力増強は勿論、土地と規模が増し続ける亜空の中の森の管理を任せるためである。
それと並行して実は森鬼の一人、モンドに憑依していたリッチに接触し対決を通して支配契約を交わし、『識』の名を与えて従者にした。
また、密かに魔族と手を組もうとしていたアドノウという者を『界』の力で服従状態とし、アドノウと通じていた魔将ロナに対し挨拶代わりに揶揄ったりしてみせたのである。
そうして、識が何故リッチとして活動していたのかと言えば……ヒューマンの上位種ことグラントに至る事を目的として探求するためであるとの事。
最終的にグラントになる事で世界を自由に渡る事を手に入れ、望む世界に移動するのが目的だという。
様々な文献や伝承、資料をひたすらに死を拒み、肉体を捨て亡者の状態になる代償を負って自分が定義づけたそれを実践しようとしていた。
だが……。
「残念じゃが、識。それは間違っておるよ」
そして、上位存在であり遥かに長い時を時には眠り続けたりしながらも生きてきたが故に凄まじい知識を持っている巴が応じた。
グラントへと至る者には二通りがあり、一つは女神や上位精霊に認められその眷属として転生した英雄。
もう一つはこの世界が唯一の者では無いと知る者であり、世界の小さなほころびや過去に訪れた異界からの訪問者の残した記録から本来知る事の無い世界の存在を知った者らのうち、実際に世界を渡った者。
そう、結局グラントとは女神やそれに準じた存在の眷属として生まれ直した者と世界の狭間を渡り、他の世界で新たな存在として生きている者をさす言葉なのだ。
要は存在を新たにした上位者を示す言葉であり、種族でも無ければ世界を移動する能力の有無など問題では無いのだ。
「……う、あ、あぁ……」
巴からの指摘に識はショックを受けていた。自分の考えが根本から間違っているとなれば無理もない。
「つまり僕の父さんと母さんに僕がそのグラントの定義に当てはまるって事だな。巴の言い分だと他にもいるのか、この世界から移動しようとした奴は?」
「ええ、かつてヒューマンの身でありながら世界の綻びを見つけ、独学で研究してその中に飛び込んだ者は何人か居りますよ。中途半端に飛び込み、世界の狭間で万華鏡のように映ったであろう他の世界を見てこちらに舞い戻った者も……」
巴によると一瞬、どこか別の世界に存在しただけですぐこちらの世界に引き戻されたりした者もいるようだ。
そうした者はいくつか文献を残しただけで詳しい事も語らずに早死にしたようで本来、グラントとは言えないが文献で自ら、グラントと称している。
識はこういった資料を頼りに間違ったグラントの定義をしていたとの事だ。
「戻って、こなかった者は……?」
ショックを受けながらも絞り出すように識は質問を吐き出す。
「他の世界に渡れたのならグラントとして生きている。その前、世界の狭間で死んだのなら、ヒューマンのまま肉体は散り散りに消し飛んだのであろうな。転移した者のその後など神ならぬ身で知る者はおらんよ。世界を渡るのにも例外はあるがな」
「その例外というのが、女神との契約で世界を渡るって奴か?」
真は両親が女神と契約して世界を渡った事が例外と思い、聞いてみる。
「はい、女神に許可を得て世界を渡る門を開かせればグラントになるよりも遥かに高い確率で世界を転移出来ます。ただ遥かに高いとはいえ、その成功率は一割もないようですが」
「父さんと母さんも凄い博打をしたもんだ」
巴の答えに冷や汗を流しながら苦笑する。いずれは両親がどうしてこの世界から転移しようと思ったか探ってみようとも思った。
「ともかく、世界を移動するのは本当に難しいって事だな。望んだ世界に行くなんてもっとだろう?」
「世界の数は膨大ですから……まず、不可能と思って間違いないかと」
「残念だったな、識」
「……私は何のために……」
「そう、悲観するなよ。凄いじゃないか、間違っていたとはいえグラントの定義の一端には触れていたんだから。それほどの意志と探求力、過程で得た知識も僕にとっては頼りになる。そして、識のやってきた事は無駄じゃない。僕たちに会えたし、望んだ物じゃなかったとしても答えも得られたろう? やっぱり凄いし尊敬する」
「……真様」
打ちひしがれる識に真は敬意を込めて気持ちを伝えれば、識は真の気持ちと言葉に感動すら覚える。
「だから、是非とも新たな人生を僕たちと生きてくれ。頼む」
「……はい、よろこんで。こちらこそ、よろしくお願いします真様」
こうして真と識は改めて握手を交わし、主と従者としての絆を深めたのであった。
とはいえ……。
「識、モンドに憑依して『樹刑』能力覚醒させたりしていたがもしかして、他にもモンスターに精霊取り込ませたりしたか?」
樹刑とは森鬼が持っていた能力で触れた者を木に変えてしまう呪術のような力であり、本来、その力は消えようとしていたがモンドだけは使える。真の言うようにリッチであった識がモンドに憑依し干渉したからである。
一応、もう始末はしているが最果ての荒野でガインクラブや蟷螂のモンスターなど何者かによって精霊を複数体食わされ、後天的に変異体となったモンスター達を生み出した元凶であるか識に問いかける。
「ええ、それは私です。ヒューマンがグラントに至るように魔物も既存の精霊に至るかそれに近い変化をするのではと思ったのですがせいぜい、構や鋏の威力など単純的な能力を高める程度の失敗作になりまして……色々と改造してみたものの興味が無くなり、捨てましたが……まさか、何か迷惑を!?」
「いや、迷惑でしか無いんだが!? というか捨てるくらいなら始末しとけぇっ!!」
「ぐべぇっ、す、すみませんでしたあっ!!」
いちいち探し出すのに苦労した事を含めて真は識をしばき倒したのであった……。
また、識が求めていた答えを与えた時、巴に世界を渡る事について聞いた時、複雑な表情を浮かべていたので……。
「酷いな、巴。僕がお前たちを置いて無責任に元の世界に戻ろうとするかもと心配するなんて……信じてないのか、僕を?」
「んふ……あ、う、い、いやそ、そういう訳ではぁ……」
「ああ、そうだな。僕を愛しているがゆえに不安がよぎっただけだろう。だから、二度と不安にさせないようにしっかりと刻み込んでやる。僕の愛を」
「んはっ、あ、ふああああっ!!」
真は巴に告げるとそのまま、巴が何も考えられない程にひたすらに愛と快楽を刻み込んで何度も絶頂を遂げさせ、至福の果てに身も心も蕩け切った状態にした。
「う、ああ、と、巴さんがあんなに……」
「若様、今日は一段と激しいです」
「澪、凪……来い」
『はい、若様』
巴が真により、よがりまくる様を羨ましそうに見る澪と凪を真は誘う。
『あふあああああっ!!』
そうして澪と凪も又、巴のように愛と快楽を刻み込み、至福で身も心も蕩けさせたのであった……。
二
『亜空』において広がっている森林及び密林へと真は森鬼たちを案内した。
「ちょっと待ってろ、僕が話通してないと危ないからな」
真はこの森林地帯へと踏み入った瞬間、木々や植物が動いて襲われたオークやリザードマンの件を踏まえて言う。亜空の森林は真を絶対の王としているので彼が踏み入ると植物や果汁、木材としてのそれを献上したりするのだ。
ともかく、真は澪の植物との対話能力を応用した界にて森林と対話をする。
「す、凄い本当に植物と対話している……」
「規格外にも程があるな」
「はは、笑うしかねぇぜ」
アクアとエリス、モンドは真が対話する様子を見て驚愕と畏敬の念を抱くのであった。
「話は通したから管理、よろしく頼むぜ」
『はい、若様っ!!』
真からの指示に森鬼たちは頷いた。
こうして森鬼たちは森林の管理者となったが……。
『バナナ、とっても美味いです』
森林地帯で採れる果物の中で森鬼たちはバナナが一番の好物になり、やたらバナナについて聞いてきたりするので……。
「異世界でゴリラの上位種を生んでしまったようだ……」
真はそう呟くのであった……。