深澄真が転移させられた異世界の現状としては大戦争が行われている。争っているのは二種族であり、一つは女神の祝福や加護を受けて生きているヒューマン。
もう一つは青い肌が特徴的な亜人こと魔族であり、魔王によって率いられていた。
なんと状況としては魔族が優勢である。だからこそそれを何とかするために女神は契約によって地球へと送った真の両親の子供、真を呼ぶことにしたのだ。もっとも、保険として世界が繋がった時に自分の美的感覚に合う男性と女性を勇者として転移させており、真は美的感覚に合わなかったので最果ての荒野に放逐した訳だが……。
因みにそもそも魔族が優勢となった事については真は把握していた。女神と対面した際、『ちょっとね……』と居眠りしていて世界管理の仕事をサボっていた事を匂わせたからだ。
『今回、生贄としてくるハイランドオークの娘はかなり優秀らしいぞ』
それはともかく……ヒューマンと争いをしている魔族の五体がなんと上位竜こと蜃が住処としている神山の麓付近にある鳥居のようなものの近くで身を潜めていた。
『良いか、ロナ様からの命令をしっかり果たすのだぞ。全ては魔王様のために』
『はっ!!』
魔族たちはそんな会話をしていた。
「そういう事だったか……」
魔族たちから少し離れた場所でオルトの背に乗っている真は呟く。彼は蜃に会いに行き、オークたちに対する生贄を止めさせるためにまずは交渉をしてみようと此処へと来た。
月読から与えられた加護による力、『界』と名付けた自分を中心とした領域を発生させ、思うがままの効果を発動させられる力はなんと重複発動が可能であり、まず、オルトと自分を『界』で包みながら姿と気配を『隠蔽』する効果を発揮、そのまま別の『界』を発動しながら、広範囲に広げてその周囲の状況を見渡し、聞けるようにした。
そうして実は『蜃』は深い眠りについていて、生贄の問題はハイランドオークの戦力を得ようとした魔族による企みである事を知った。
「そういう事なら、遠慮なくやらせてもらおう」
真は状況把握用の『界』を消しつつ、エマから教わった呪文を心の中で唱える。
この世界で魔術、魔法と呼ばれるそれの発動のための呪文はなんと心の中で唱えても有効であるし、イメージによって幾らか応用などが可能であった。
そして、真は自らの両手からそれぞれ炎を出しながら、それは真のイメージに応じて左手の炎は弓の形状に変化し、右手の炎は矢の形状に変化する。
「オルト、僕が合図を出したら魔族たちを襲ってくれる?」
『承知しました。真様』
オルトに指示を出しながら、真は自分の弓道における技法、超集中しながら精神内で標的に炸裂したイメージを構成しつつ、炎の矢を炎の弓に番え……。
「ふっ!!」
そうしてリーダーであろう魔族の一人に炎の矢を放った。
「っ!?」
『んなっ!?』
真が放った矢は見事、命中して魔族の腹部へと突き刺さり、そのまま炎として燃え広がり魔族を焼き尽くし始める。当然、他の魔族は動揺、混乱し……。
「今だっ!!」
『はっ!!』
真は『隠蔽の界』を解除すると新たに自分とオルトを包む『強化の界』を発生させながら、新たに右手に炎の矢を形成した。
「なっ、リズーがどうしてここにっ!?」
「しかも、ヒューマンが乗って!?」
オルトが凄まじい速さで魔族へと向かう。突然、現れたリジーことオルトの登場、その背に真が乗っている事に動揺する魔族。
『うあああっ!!』
そうして抵抗も逃亡も出来ぬままに真の矢により、射抜かれながら燃やされ、あるいはオルトの爪に引き裂かれ、牙に蹂躙され全滅したのであった。
「さてと……あの程度の騒音じゃ起きないか。なら……」
真はオルトから降りて『界』で未だ、姿を隠し、眠りに着いている蜃のそれを感知しながら、呟き……。
「起きてもらうぞっ!!」
自分の魔力を全開で噴出し、周囲の空間を震わせた。
『っ!? な、何……私以上の魔力だとっ!?』
真の超絶的な魔力に蜃は起きたようで山を包んでいた霧の高度を下げ、そうして霧の中から東洋伝統の龍の姿を真の前に晒す。
「気持ち良く眠っていたところ、起こすなんて無礼な真似をした事は謝らせてもらう。でも、聞いてほしい事があるからやむなくそうさせてもらった。僕の名前は深澄真、この世界とは違う世界から来た人間だ」
真は謝りながら、噴出していた魔力を納め蜃へと自己紹介する。
『なにっ!? 女神から転移させられたという事か?』
「女神の事は知っていたか、ああ、そうだ。僕の両親はこの世界のヒューマンだったそうでそういう契約をしていたらしい。もっともあの面食い怠惰阿婆擦れ糞女神様は自分好みじゃないからと僕にヒューマン以外の言語理解だけ与えて放逐したんだ。他にも二人、僕が元居た世界、『地球』ってところからこの世界に転移させて勇者にしたそうだけど」
『女神らしいと言えば女神らしい。真と言ったな……私には記憶を見る能力があるのだが、それで真実か確認させてもらっても?』
「それは手っ取り早いな。プライベートを覗かないなら構わないよ」
『では、失礼して』
そうして……。
『うむ、うむ……本当に異世界から来たのだな。そして、この記憶は何とも素晴らしい』
蜃は目を輝かせ、胸躍らせた様子で呟くと……。
『真殿、こうして出会ったのも何かの縁。契約をしないか?』
「僕の記憶に気にいるものでもあったようだね」
『ああ、正直に言うとそうだ。勿論、他の記憶も色々と興味をそそられたが……それに面白い変化を真殿が起こしてくれるかもしれないしな』
「そうか。契約については構わない。心強い仲間がいるのは安心できる……力だけじゃなく、知恵も回るとありがたいけど」
『ふふ、力も知恵もどっちも持っているぞ私は……伊達に長生きはしておらん』
「じゃあ、よろしく。ただ、一応確認させて」
そうしてオークの生贄について確認すると蜃は今までずっと寝ていたのでオークにそんなものを要求した事は無いとはっきりと言った。
よって、契約を交わす事にし……。
『なに、八分二分での支配契約だと……真殿はそれほどの……ええい、構わん』
そうして、蜃は真を主、自分を下僕とする支配の契約を交わす。
「では改めてよろしく、我が主、真様」
「……擬人化とかそれ以前に性別、雌だったんだな」
その契約は下僕側が主側の姿に寄せるものであるため、蜃の姿は変化。
蒼い髪を後ろに結わえた麗人にして、グラマースタイルに露出度の高い着物風な衣装を纏った人間の女性になったのである。
「むっ、主。ちょっと確認してほしい事が」
そうして自分の霧を通していける蜃だけの領域、『亜空』へと真を誘う。
「これはまるで、別の世界だ……」
「本来は何もない世界なのですが、凄まじき変化です」
『亜空』――真と蜃がいるこの空間は緑溢れる大地が広がっていて草原や小さな森、小川があり、散策すれば松や檜、柿など日本の自然が存在していた。
只、四方の遠くにはどれも霧の壁があってそれがこの世界における境となっている。
「月読様の加護のお陰かな……なあ、蜃。ここを使わせてもらっても良いか?」
「勿論、この亜空は主様のものでもあります。望むなら如何様にも……」
「そうか……良し、決めたぞ蜃」
「何をですかな?」
真の言葉に面白そうな表情を浮かべて問いかける蜃。
「僕は此処に国を作る。そして此処を足掛かりに女神の世界を支配し、あの女神も神の座から引きずり下ろす。あの女神の何もかもを奪い蹂躙し尽くして最後には優しく残酷な方法で殺してやることにした」
「く、くくく……ああ、なんと素晴らしき野心……契約して正解でした」
「そう言ってもらえて良かった。それじゃあ始めよう……女神がヒューマン、魔王が魔族、ならば僕が率いるのは……」
目標を拳と共に掲げると蜃は満足したような笑みで言い、真もまた笑みを浮かべる。
こうして真は『亜空』の王として覇道を歩み始めるのであった……。