深澄真が学園都市ロッツガルドにあるロッツガルド学園において戦術全般を担当する臨時講師となるための試験を受けて六日後……『亜空』からトアとリノンの二人と共にロッツガルドでの借り家に戻っていた真の下へ学園から正式な合格の知らせと同じく正式な契約のために来訪を求める通知が届いた。
来訪は今日の昼過ぎか明後日の朝には来るようにとの指示もあった。
「まったくこんなにも若様を待たせるなんて……手際が悪すぎます」
「試験の受付なんかにも時間はかかっていただろう……デカいところの分、色々と準備が必要なんだろうさ。臨時とはいえ、こんな時期に教師を一人受け入れるんだからな」
不満げな識に真はそう言って宥めてやった。
ともかく、ようやく教師として働けるとあって、昼過ぎに学園に行く事にして通知に書かれていた物の準備などを済ませていく。
そして、学園に行くまでに時間はあったので、少し前に知り合ったルリアという女性店員の働く『ゴテツ亭』へと向かう。
「今日はマコトさんも一緒なんですね……識さんにはいつもご利用いただいています」
「……そんなに行ってたのか?」
「ほぼ毎日一回は……私達としてはありがたいです」
識がこのロッツガルドに待機している間、毎日ゴテツ亭を利用していたことを聞き、真は驚いた。
「ここの店の鍋料理は最高ですからな。特にクリーム鍋は至高の一品です」
「……まぁ、お前がそう思える料理に会えたのならなによりだ」
ともかくとして、識はクリーム鍋を……真は他の美味しそうな鍋を頼んで食べていく。
「マコトさん、そう言えばロッツガルド学園の教師になるんでしたよね?」
「臨時だけどな……この後、そうした事についての説明なんかを聞きに行くところだ」
「だったら、実はその学園の図書館で姉のエヴァが司書を務めているので仲良くして頂ければ……」
「分かった、そうさせてもらう」
そんな話を交わして、食事を済ませると最後には見送られながらゴテツ亭を去り、『ロッツガルド学園』へと向かう。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
学園への事務を総括する部屋で真と識に応対したのは、事務の偉い者と人の好さげな顔つきと態度を装った常勤の講師で戦術を座学で教えるブライトという名の男だった。
「(全部知ったうえで応対してみればうさん臭さしか感じないな)」
そう、真は自らの支配下に置いた暗殺者ギルドの者から聞いているので知っているが、このブライトこそが臨時講師の実技試験を受ける者達に対し、暗殺者ギルドの刺客を手配した者だ。
もっとも殺す気は無く、あくまで合格者が出ないようにするための物だったので依頼自体も殺害はあくまで最後の手段という念押しがあったほどだ。どうも今の時期に新参者が増える事はブライトにとって都合が悪いらしい。
「最初は私の授業を受けている生徒からローテーションで学生を回しますが、以後はマコト先生の実力で生徒を集めてください。聞けば高い能力をお持ちとか……楽しみにしています」
「期待に応えられるよう、励ませてもらいます」
なので今、こうして真に授業内容や規則を説明し、講義プランなどを聞き生徒の手配などをすると話している彼の内心は穏やかなものではないだろう。必ず何らかの妨害やら何やら仕掛けてくるだろうと真は思う。
「(まあ、敵対するってんなら遊んでやるか)」
なので真はブライトが自分を相手取るというなら適当に遊びつつ、状況次第では葬る事も決めたりしていた。
「では、私はこれで」
「はい、ブライト先生。ありがとうございました」
そうして表面上はマコトもブライトも笑みを浮かべつつ、頭を下げてブライトはこの部屋から去り、マコトはそれを見送った。
因みにだが、非常勤の講師が授業で受け持てる生徒の規定人数は三十人で、常勤の講師の半分であったりする。
また、講義による報酬は歩合制で非常勤の講師なら生徒一名に付き銀貨で十枚、つまり三十人の生徒に講義をすれば金貨三枚分となるのである。
「では、マコト先生。早速講義は来週からという事で問題はありませんよね? 因みに最初はブライト先生が十人前後を参加させてくれるとの事です」
「勿論、全く問題無いですよ。数としても感じを掴むのに十分な人数ですし」
そうして、事務の者に頷くと学内で実技を行う練習場やフィールドの事前申請を行う受付と資料探しなどで使う機会も出てくる図書館の場所を知らされ、真と識は部屋を去る。
「それじゃあ、僕はルリアの姉だっていうエヴァに挨拶してくる。識は悪いが受付で申請をしておいてくれ」
「畏まりました」
そうして真はそれぞれが正反対の場所にあるので識と別れ、膨大な量の蔵書を満載した棚がいたるところに並ぶ図書館を訪れる。
「何か、御用ですか?」
「ああ、僕の名前はミスミ・マコト……この学園の臨時講師として働く事になった者です。貴女が此処の司書でゴテツ亭で働くルリアの姉のエヴァさんですよね?」
真は自分に近づき、声をかけてきた長い水色の髪、美しい顔に眼鏡を掛け理知的で落ち着いた雰囲気を有し、スレンダーな体にローブを着た女性に自己紹介しながら訪ねる。
女性をよく見れば、どことなくルリアと似た特徴があったから姉だと思った。
「はい、確かに……そして、お話はルリアから聞いています。危ないところを助けてもらったようで」
「助けられたのは偶然でしたけどね……僕は本好きでもありましてね、だからこの図書館は気に入りました。頻繁に利用させてもらうのでよろしくお願いします」
「それは嬉しいお言葉です。妹の恩人であるマコト先生が満足させられるよう励ませてもらいますね」
最後に握手を交わし、真は識の受付が終わるまで図書館内を回りながら、蔵書にどんなものがあるかを探ったのであった……。