パトリックとリサの護衛も兼ねて参加したロッツガルドでのパーティで『ローレル連邦』からの賓客であるカハラ=サイリツ、日本の漢字で表せば『華原彩律』となる女性と軽く話を交わした真はパーティからの帰り道にイルムガンド一派に挑戦的な言葉をかけられた。
その事から精神に異常を来たしている事を把握しつつも軽くあしらったのである。
そして、その翌日である今日においては……。
「やっぱり、賓客として来るのと何の立場も無く来るのとでは気分も違ってくるよ」
真と契約を交わし、下僕となった事で女性の姿に戻った『万』は今、真と二人で歩きながら解放感に満ちた様子で言う。
彼女には男の姿もあり、そっちではギルドマスターのファルスという名と立場があって当然、『ロッツガルド』において賓客として招待されており、その立場での交流もしていた。
「そういうものか……随分と大変なんだな」
「うん、社交界ってのは本当に大変なんだよ」
真からの言葉に苦笑を浮かべながら、万は言った。
「社交界って言えば、若様はローレル連邦の賓客から接触があったんだってね」
「ああ、僕がこの世界では賢人文字となっている漢字を使っていたからだそうだ」
「成程……それなら納得」
「因みに日本語も使えたりするのか、ローレル連邦の人は?」
「いや、地球の物からは変化しているよ。俗ラテン語みたいな感じで」
万の言う俗ラテン語とは地球でのローマ帝国内で話されていた口語ラテン語であり、ロマンス語の祖語になる言語だ。
ローマ帝国の崩壊後、地方ごとに分化し現在のロマンス諸語になったという経緯がある。そして、古代ローマから現代にかけて使用されてきたラテン語は基本的に文献に残る文語ラテン語の事であったりする。
「お前も本当に物知りだな」
「伊達に長生きしてないからね」
「長生きってレベルを超えてるだろ……じゃあ、日本語では話せないのか」
「そもそもローレル連邦では特殊な念話で異世界の客人と対話するからね。日本語を正確に理解している者はいない筈だよ。それに殆どの場合は直ぐに精霊を通じて祝福を受けて共通語を使えるようになるから、こちらに来た異世界人が母国語を使う機会はほぼないと言っても過言ではないよ」
「僕は独学で共通語を覚える羽目になったけどな。どっかの糞女神のせいで」
「覚えて使えるんだから、本当に天才だよ若様は」
「ありがとう」
万とそんな話を交わしながら、闘技大会の抽選会場へと向かった。
会場では識に真の講義を受けている生徒たちの姿もある。
「え、き、君は!?」
「ん、どうかしたかな?」
万の姿を見てジンが驚愕するも万が微笑んで口を開けば……。
「す、すみません知り合いに似てたもので」
「そうなんだ」
「(まさか、ソフィアと知り合いか?)」
ジンの様子に真は彼がソフィアを知っているのだと予測を立てた。もっとも今のソフィアは真の配下にして愛を交わし合った女性だ。
そんな彼女の様子を見れば軽い脳破壊をする事になるだろうから会わせたりはしないし、そもそも、この場に呼べば、創立祭に呼ばれている帝国側の賓客に目を付けられたり、喧嘩を売る事になるので面倒だ。
「選ばれたのはお前達、七人か。イルムガンドが何かしてくるかもしれないから気をつけてくれ、僕も出来る限り向こうが仕掛けてくる妨害とかを防いでやる。だから大会ではしっかりと戦え」
『はい、先生』
ジンにアベリア、ダエナ、ミスラ、イズモにシフとユーノの七人が抽選で選ばれたのでイルムガンドの事を教えながら、声をかけつつ激励すればジンたちは頷くのだった。
そうして、時間が経って晩の時間帯。
「どんな手をとも言っていたが……明らかに度を越してるだろう、屑野郎が」
店に向かえば数日間、平衡感覚を狂わせる毒、寮の部屋に給仕が用意する水には下痢や腹痛を持続して起こさせる類の毒、夜の間には刺客が数組とイルムガンドによる悪質な妨害があった。
その下手人共は証人として、毒そのものは証拠として確保しながら真はイルムガンドの妨害から生徒達を守った。
「響先輩に憧れたくせに何やってるんだよ、本当に……王族どころか人間としてすら失格だぞ」
真は巴の能力を使ってイルムガンドの記憶を採取しており、それを見ていた。
だからこそ、見たうえで吐き捨てるように言った。
「まあ、こんな事をしてきた以上はお前への対応に容赦も情けもしないけどな」
改めてそう、真はイルムガンドに対しての決定事項を呟くのであった……。