亜人の一種であり、優れた鍛冶技術を有するドワーフを『亜空』へと勧誘するために行動していた真は幸先よく、ドワーフと接触した。
もっともそれは古より、満たされぬ飢えを満たすため、突然現れてはあらゆるものを喰らい尽くすため暴れ回る『災害の黒蜘蛛』と呼ばれる伝説の魔物が如き存在に襲われていたのを巴が発見し、救出に動いたからである。
そして、黒蜘蛛も亜空に移動する巴たちを追ってきた。
そのため真はドワーフの救出に自身の野望である女神の世界を支配し、女神の全てを奪ったうえで殺すそれを果たすための戦力を増強するため、『災害の黒蜘蛛』の飢えを満たしたうえで契約できるかどうかやってみた。
結果として、黒蜘蛛は飢えを満たした存在である真の虜となり、契約にも応じ、そうして真を主、黒蜘蛛を下僕とする『支配の契約』は成立し黒蜘蛛は巴のように人間の女性の姿となり、『澪』という名を真から与えられたのである。
ドワーフに対しては結構な負傷と消耗をしていた事から治療に看護、もてなしをするようにして自分は巴と澪と共に繋がりを深めるがため、一夜を共に過ごす。
そうして朝……。
「具合はどうですか?」
すっかり回復し、元気を取り戻したドワーフにして実は有名な神器や宝具を作り出したとされる古代種、エルダーの名を冠するドワーフであり、名をベレンという者を自分の天幕に呼ぶと巴に澪も伴って状況の整理やら事情など話を交わし朝食を終えると次に『亜空』内を共に歩きながら、問いかける。
「はい、おかげ様で生き返ったようです。真様には助けていただいたどころか、こうしてもてなしていただき、本当に感謝します」
「どういたしまして。それで『亜空』はどうですか、ベレンさん?」
「不便で危険な地に留まっている我等にとって此処は正に理想郷のように見えます」
「そこまで気に入ってもらえましたか……実は此処に国を築こうとしているんです」
「ほう、国ですか……」
「ええ、そこで国の建築への協力、僕たちへの武具や防具の提供、将来的には地代の徴収、そしてオークたちだけでなく、これから先、招き入れる種族との共存……そして、僕を此処の領主であり、ベレンさん達ドワーフの王として受け入れてくれるならこの地で暮らしてもらって構いませんよ」
「ありがたきお言葉、条件にもまったく異論はございません。すぐに長達集落の者らを説得し連れてきてまいります。二日ほどかかると思いますがお待ちいただけますか?」
「勿論、待っていますよ」
そうして巴もお土産として自身の竜鱗をベレンへ渡して外の世界へと返したのであった。
「幸先良いな、巴」
「ふふふ、主が神になる事を世界が望んでいるが故かと……」
「主が神になるのは当然の事ですわ」
無事にドワーフと縁を築き、亜空に住む事を了承させられた事に満足げに真が呟き、巴と澪もそれぞれご機嫌な様子で言った。
そうして、二日後の昼……真の天幕の前にはハイランドオークの群れとベレンが説得し、亜空への移住を了承したベレン含めて五十四名のエルダードワーフ(因みに彼らの住居や荷物なども巴によって亜空へと転移させられている)。
更に他にも二種族が居て大所帯となっている。
「我らが王、マコト様。此処に下ります我等エルダードワーフ五十四名をこの地に受け入れていただき深く感謝しています。精一杯尽くさせていただきます」
「うん、よろしく」
「それでは我らが集落の長よりご挨拶させていただきます」
がちがちに緊張しながらベレンは下がり、威厳のある髭を蓄えベレンよりも年齢が上なドワーフこと長が一礼し、真も一礼する。
「エルダードワーフを率いているエルドと申します。同胞を救っていただいたどころか、これほどまでに恵まれた土地を与えてくださり、感謝しております」
「僕の方こそ勧誘を受け入れてもらって感謝します……僕がヒューマンである事が気になるようですね? 意見を言ってくださっても結構ですよ」
「……恐縮です。では、お言葉とご配慮に甘えさせていただきます」
「どうぞ」
エルドの視線から何やら気になっている事があるのを読み取ると真は許可を出し、それに驚きながらもエルドは……。
「マコト様は見たところ辛うじてヒューマン種、ですが従者として契約されているのは幻を司る上位竜種である蜃であらせられる巴様、更には世界を食い尽くすと恐れられている災厄の黒蜘蛛こと澪様。どちらもヒューマンに支配できるものではありませぬ」
「だから、エルドさんは僕がこの世界の女神から加護と使命を与えられて荒野に降り立ったのだと考えているんですね?」
「はい。それでお答えは……」
「当たらずといえども遠からずですよ。女神によって別の世界からこの世界に呼ばれました。ですが、僕の顔が女神は気に入らなかったようでゴミだなんだと罵倒された挙句、ヒューマンには関わるなと僕にヒューマン以外の言語理解だけ与えてこの最果ての荒野に捨てられました。そして、僕の世界から別の者を二人、この世界に呼んでその二人はそれぞれ別の国に送られ、勇者としての指名と加護を与えられているようですよ」
「そうなのですか……」
「ええ、そうです。只、僕の元いた世界は途轍もなく厳しい環境で身体能力も魔力さえも抑圧される世界でだからこそ、この世界に来た事でそれが解放されました。この力は自前です」
『っ!?』
真は皆に説明すると膨大な魔力を漏れ出させ、周囲の空間を歪ませてみせ、皆を驚愕させると魔力を完全に抑えた。
もっとも巴は愉快気に笑い、澪は恍惚としていたが……。
「エルドよ、私には記憶が見える力がある。それで主の記憶は確認済み。主の言う事は本当で今も女神とは意を異にしておるよ。蜃の名に誓っても良い」
「分かりました……そこまでしていただかなくとも真様の様子から真実を語っているのが分かります。そして、我等は敵対こそしていませんが女神とは意を異にしていますから安心しました。同様にヒューマンとも魔族とも友誼関係は無く、仲間と呼べるものはおりません」
「ここに来た以上はもう違いますよ。この亜空に住む者は皆、一つの家族と思ってください」
「ふふふ、家族ですか……やはり貴方は面白い。この地に国を築くという構想、我等との会話能力に種族が異なる者達をなんの偏見も無く受け入れる度量、規格外の実力……貴方こそ我等の主に相応しいお方だ」
「認めてもらい、光栄です」
「ふふふ、では長々と失礼しました。後ほど、ご挨拶代わりの品をお持ちします」
そうしてエルドとの問答は終わり……。
「主様、私の後ろにいるのが私の眷属であるミスティオリザードマンだ。水と風、二つの属性を併せ持つ非常に珍しく、強力な種族で単体でも亜竜程度なら相手に出来る程です」
巴は自分の後ろに控える抜き身の剣を持ち、騎士のような雰囲気を有する百八人の蒼い鱗を有するミスティオリザードマンを真に紹介する。
「なら、頼りにさせてもらう事にするよ」
ミスティオリザードマンは先ほど超絶な魔力を漏出させたのもあって、そんな強者からの言葉に礼儀を尽くす。
「主様、私の後ろに控えているのが私の眷属、アルケーでございます。私と同じく体内で希少な物質を作れ、古の錬金術の知識もございますので存分にお役立てください」
澪も後ろにいる四人の上半身は人、下半身は蜘蛛の半人半蜘蛛の生物を紹介した。
「喜んで有効活用するね」
澪とアルケーに対して真はそう言い……。
「さて、せっかくこうして集まってもらっているから言うとしよう……先程、エルドとの会話で言ったように僕は女神にふざけた理由でこの荒野に捨てられた。だが、知っているかい今、ヒューマンと魔族の戦争で魔族が優勢なのは女神が居眠りしていて管理をサボったからだって事を」
『……は?』
真の言葉に巴と澪以外の種族が気の抜けたような声を漏らす。
「出会った時にうっかり言ってたよ。それに巴も言ってたけど、ヒューマンは女神が上位竜たちもそうだけどこの世界に元からいた種族と相談して生み出したものだそうだ。なのにヒューマンだけ露骨に優遇して、それ以外のこの世界に元からいた種族に対してヒューマンが差別やら横暴を働くやらを許している。管理者としてあり得ない。だから……」
真はそうして……。
「僕が女神の世界を支配し、女神自身からも神の座から引きずり下ろし神になる事にした。僕のこの野望に力を貸してくれるなら平穏な暮らしと安寧を……良いものを作れる環境を……血湧き肉躍る戦いを……皆が求めるものを与え、皆の理想を叶える世界へと導く事を約束しよう。だから、この僕についてこいっ!!」
『ウオオオオオオッ!!』
真の宣言に皆、賛同の咆哮を上げた。
「では、これより皆が主を呼ぶときの呼び名を決める」
「殿様、若様、ご隠居……どれが良いか、多数決で決めようぞっ!!」
真の宣言が終わると突如、巴と澪が言い出し……。
『若様でお願いします』
「ヤクザの跡取りになった気分だ……」
若様で呼び方は共通される事となった。
ともかくとして亜空が大所帯になった事で色々、状況が落ち着くのを主として一か月間、亜空で真は生活するのであった……。