未だ、変異体が市内に蔓延っているがその数は減少し続けているし、学園都市ロッツガルドにて魔族が仕掛けていた念話妨害も無くなった。
全部、真の手によるものではあるが……。
そして念話が出来るようになるとリミア王国にグリトニア帝国の状況はとんでもない事になっている事が判明した。
ステラ砦より、魔族がリミアの王都ウルとグリトニアの帝都ルイナスに同時攻撃を仕掛けたというのだ。
そして、この同時攻撃であるがリミア王国の王都へは星湖の方からウルめがけて一斉進軍なのだが、ステラ帝国の帝都に対してはルイン側を渡河した辺りを中心に数か所に分散しての進軍である。
つまり、魔族の本命はリミア王国であり、グリトニア帝国への進軍は囮である。
そして魔族の一番の狙いは勇者の討伐、つまりは音無響を抹殺する事だ。
彼女はこの世界にてステラ砦での戦争の後、仲間と共に修行の旅を始めつつ、自分なりに魔物や魔族から世界を救っていた。勇者らしいことをしていたのだ。
そして最果ての荒野へも行き、ツィーゲでも活躍した彼女のカリスマ性もあるのか、ツィーゲの冒険者ギルドが困る程、彼女の仲間として複数の冒険者がついていったらしい。
そんな彼女のカリスマとグリトニア帝国の智樹による魅了、どちらが厄介かと言えば、それは勿論、響のカリスマだろう。
「(流石と言えば、流石だ)」
自分が住んでいた世界なら将来は総理大臣になってもおかしくない彼女のカリスマ性を分かっているがゆえに真はそんな事を思った。
因みに時期的には冬が近いので進軍の手間やら食糧、魔族の状況も考えれば魔族はリミア王国を襲撃し、勇者を抹殺した後はそのまま、退却することも予想できた。
勿論、滅亡までやりたいところだろうが攻めるも守るも冬になれば雪と氷が邪魔になる。極寒の中での行軍や戦闘は自殺行為のようなもの。
再侵攻の始まりを大々的に知らしめ、威圧するというハッタリ程度で十分だし、勝ち逃げするなら今が良い状況ではある。
そうした状況のため、リミア王とリリ皇女は転移能力を持つ脇差を所有していると認識させている巴を頼った。
巴はもう幾度も使っているので脇差の転移能力は限界に近いとのらりくらりと躱していたが、必死にリミア王とリリ皇女は交渉を仕掛け、遂には真に対してもこのお礼は何度もすると言いながら、脅迫に近い事もする。
「そこまで言われるのなら、仕方ありません。良いでしょう、お二人とも僕に対して複数の大きな借りがある事、お忘れなく。言質は取りましたからね」
「ああ、無論だ」
「勿論です」
そうして、巴の脇差によりリミア王と騎士、リリ皇女と数名の側近を転移させた。
この後、巴はわざと脇差が折れる芝居をし、酷く悲しむふりをした。
強力な転移手段が無くなったと騙されているリミアの王子に彩律らは僅かながらとはいえ、安堵していた。
「(気持ちは分かるが、表情に出過ぎだ。本当にこの世界のヒューマンは腹芸とか苦手だな)」
真は彩律たちの様子に内心、そんな事を思った。
「さて、じゃあ俺達も動くか……響先輩を助けに行くのとリミア王国とグリトニア帝国を襲う事に意識を割いているから、その隙を衝いてまずはケリュネオンを取り、そこから迅速にエリュシオンまでを取る……忙しくなるぞ」
かねてより計画していた事を真は実行に移すと宣言する。
因みにグリトニア帝国の智樹については魔族が送っている戦力から考えても倒されはしないだろうと判断している。本当に危なくなったら、手助けはするが少々くらいは痛い目に遭えば良いと思っているのであった……。