真は冒険者による『最果ての荒野』の攻略前線基地の役割を持つ『絶野』のベースの実質的なリーダーで『絶野』内におけるナンバー1冒険者であったミルス=エースと彼と組んでいるナンバー2の者を始めに十人以上の冒険者達とミルスが雇っていた傭兵団を壊滅させた。
それは自分に対して害をなそうと見張りや襲撃者を差し向けた事もあるが、それだけなら状況を整えてから壊滅させるつもりであった。
だが、自分たちに差し向けたミルスの手の者で襲撃者の一人の記憶を読んだ際、真が元いた世界で彼女であった長谷川深温と髪の色が違うだけで生き写しと呼べるほどに酷似した女性冒険者のトアがミルスの屋敷で捕らわれていて、しかも薬を盛られていたとあって即座に殲滅を決めた。
それと並行してミルス達の動きを誘うために自分から離れさせていた巴と澪に、トアの妹でミルス達がトアを餌に真達に対するスパイとして送り込ませたリノンが接触。
リノンは似顔絵が得意で、それによりトアがリノンの姉である事も把握すると、自分にも真理という妹がいたのもあってトアの救出とミルス達の壊滅する意思を固めた。
そうして全てを終らせるとミルスの屋敷には彼らに嵌められ薬を盛られ、娼婦や実験体として捕らわれていた冒険者がトア以外にもいた。優男な見た目のアルケミーマイスターであるヒューマンの男性ハザルに、長い金髪を後ろで結いつつ、それでも結いきれない髪を三つ編み風にしているエルフの女性でブレスガンナーという弓種のルイザ、銀色の短い髪をダブルのサイドテールにしているドワーフの女性で神官騎士のラニーナ。全員、巴と澪が救出していて澪による治療で本来なら薬物依存の状態にあるそれも完治している。
『何から何まで、ありがとうございました』
トアたちは自分たちの絶体絶命な状況を救出し、ミルス達を倒した真達に深い感謝を示した。
「どういたしまして。とはいえ、恩は返してもらいますよ。こうなった以上は色々とやる事が山積みなのでね……とりあえず、ハザルさんにルイザさん、ラニーナさんは一旦、此処で休んでいてください。トアさん、僕たちが宿泊している宿で貴女の妹、リノンちゃんを保護しています。行きましょう」
「リノンっ、はい、行きます」
そうして真はトアを宿へと連れていき……。
「お姉ちゃんっ、馬鹿、本当に心配したんだからね……」
「ごめん、ごめんねリノン」
姉のトアに再会すると泣きながら、彼女の下へと駆け寄りトアも謝りながら姉妹は抱擁を交わし合った。
「……お兄ちゃん、お姉ちゃんを見つけるだけじゃなく、助けてくれてありがとう」
「私からも改めて礼を言わせてください。もうリノンに会う事は出来ないと思っていましたから……本当にありがとうございます」
「こっちにとっても最悪の結末なんて事にならなくて本当に良かった」
リノン達からのお礼に自分の中でも満足感のようなものを感じながら、微笑する。
そうして朝食を共にしながら……。
「差し支えないならどうして、トアさんは此処で活動しているのか聞いても良いですか?」
トアが唯一の家族で妹であるリノンがいながらも危険の伴う職業の冒険者になり、特に危険な荒野で活動している理由を聞く。
「はい、お話しします」
そうしてトアは自分の先祖が精霊の神殿の祭事を取り仕切っていた頃、一族でも最高の能力を持っていた者があるパーティーに参加して竜退治に挑んだ事を話す。
「その竜とは?」
「『無敵』の異名を持ち、荒野のとある場所で眠っているという上位竜、『蜃』です」
「ぶほっ!? げほ、げほ、げほっ」
「巴お姉ちゃん、大丈夫?」
「お、おぉ……大丈夫じゃよありがとうなリノン、蜃に挑むとは大したものじゃと驚いてしまったんじゃ」
トアの口から本人ならぬ本竜である『蜃』こと巴は自分の名前が出た事で飲物を喉に詰まらせ、噎せてしまった。リノンが心配して、背中を摩る事に礼を言う。
「……」
澪は巴に対し、責めるような視線で見ていた。
そうして、トアは蜃へと挑んだ者はパーティごと壊滅し、当然、先祖の者も死んだ事を話し、その際、トアの先祖は神器と言われた一振りの短剣を持って戦いに挑んでいて敗北の結果、無くした事で責任を取らされ神殿を追われる事となったのだ。
そんな一族の無念を果たすため、トアはこの最果ての荒野のどこかにあるだろう短剣を手に入れようとしているのだと言う。
そして……。
「繋がった……トアさん、良かったですね」
「え?」
自分がハイランドオークより贈られ、エルダードワーフの目利きで『神器』で間違いないという儀礼用の短剣がトアの一族が無くしてしまった短剣である事を確信し、真は帯剣していた短剣を鞘ごと外してトアに見せる。
「この短剣は此処に来るまでに荒野を彷徨っていた時に世話になったオークたちから贈られましてね。話を聞く限り、これが貴女の言う短剣で間違いないでしょう」
「……こ、これが……」
「良い性能なのもあってちょっと使ってしまっている事は許してください。それとトアさん、僕は偶然という物は無く、物事には全て意味があると思っているんです。僕がこの短剣を手に入れた事、この短剣を探していたトアさんと出会った事もきっとこのためだ……だから、お返しします」
「いや、でもそれじゃあ……」
短剣を鞘から抜いてトアに見せつつ、机の上に置く真。トアは話を聞いて色々と想いを馳せつつ眺めながらも真の行動に戸惑った。
自分の身は勿論、リノンまで助けられている。そして更には短剣まで渡そうとしてくれている。どうしても遠慮してしまうのだ。
「礼に関してはしっかりとこれから僕に協力してもらう事で返してもらいますよ。リノンちゃんには後で描いてほしい似顔絵もありますし」
「……はい、はい、どんな事でも協力します」
「任せて、似顔絵だけは本当に得意だから」
トアとリノンは真の言葉にそれぞれ、感謝を示しながら頷くのだった……。
そうして朝食を終えるとミルスの屋敷で待機させていたハザル達と手分けして屋敷内を探り、ミルスらが隠していた悪事の証拠やら自分たちに従わせるために他の冒険者達や商人に対する弱みとなる者が隠されているのを発見し、手分けしてミルス達がいなくなった事を告げながら、トアたち含めて悪事についての証人になる事を要求する事で承知してもらう。
こうして冒険者ギルドにミルス達の件に関して報告しに向かった。
元々、冒険者の世界では別のパーティ同士で争い、潰し合う事はよくある話であった事とやはり、ミルス達がやった悪事の証人が多かった事等々、冒険者ギルドの者達は頭を抱えながらも受け入れ、壊滅させた真達に対してはお咎めなしとなる。
また、その際に真は『自分の魔力の質がレベル判別に異常を起こしているのだろう』と理由をつけて自身の魔力を漏出する事で空間を歪ませてみせながら実力を証明。
この事を踏まえてもミルス達が居なくなった事で代わりの戦力を要求せざるをえないギルドにとってはEランクながらレベル1320の巴と1500の澪も含めて真たちは欲しい存在。
真もそれが分かっているので荒野という環境もあり各ランクの仕事の中から特に難易度高いものを特殊ランクとし、それを達成する事で真達にランクを上げてもらうというギルドの方針、それに加え他の冒険者の手助けをする事などを承諾し、ミルス達よりも更に最果ての荒野攻略の戦力になる事を誓い、こうして冒険者ギルドとの話は決着した。
その後、真達は宿を引き払って、ミルスの屋敷を拠点にすると冒険者としての活動を始める事になるのであった……。