ニュータイプ研究所所長の奇行   作:スターリー

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閑話 父上の優雅な休日(笑)

 

 一年戦争の最中の話である。

 ブライアン・マーセナスの尊敬する父にして人生の師、通称父上はサイド6のマップが表示されている電子端末を見ていた。

 その自作の端末は広大な宇宙に対応したもので目的地に近づくと自動的に詳細なマップが表示されていく優れものである。

 

 その目的地である赤い点滅が自身が今いる現在地と重なっていることを確認して、その電源をオフにするとポケットにしまった。

 

「ふむ。ここの二階か。まったく落ちぶれたものだな。まさかエレベーターもエスカレーターもないとは」

 

 目の前にある古臭いぼろアパートは現在テム・レイが住んでいるとされている場所である。

 ふんすっと鼻を鳴らし、これまでに溜まりに溜まった文句を頭の中に並べて息巻く。そのすべてをぶちまけてやるのだ。

 

 テム・レイが不慮の事故により酸素欠乏症となった今、ヤツが元々負うはずの仕事がこっちに回り、まさに引っ張りだこでてんやわんやの火の車。だがまあ、事情が事情だけにそれはしょうがないことだろう。

 

 父上とて立派な大人だ。この状況は既に割り切っているから良い。そうと決まったからには積み上がった仕事の山もバリバリこなし、ビダン殿を始めとする頼りになる後輩たちを育て上げ、優先順位の高いものをすべて終わらせてようやく一息つけるタイミングがきた。

 

 この地獄のような忙しさはヤツが消えたせいなのだ。

 ならば憎っくきヤツに一言言ってやらねば収まらぬというもの。

 

「やーい! 父上のツンデレぇぇぇ!」

「何を言っとるかぁ! 断じてツンデレなどではない!」

「はいはい、みんなそう言うんですよ」

「ええい! 信じておらんな? 違うぞ! マジだぞ!」

「そーでやんすねえ」

「ほんっとに違うからな! 勘違いするな! 普通にキモいから!」

「わがった(わかってない)」

「テム・レイの心配など一ミリもしとらんわ!」

 

 はてさて、仕事の片手間に集めたテム・レイの情報をまとめる。あの襲撃の後、運良く救助され、現在はサイド6にいること。酸素欠乏症となったその影響か、以前と性格がガラリと変わった上に記憶障害といった脳の機能不全に陥っていること。夫婦仲は冷めきっていて、病気のテム・レイは誰にも介抱されることはなく、一人暮らしをしていること。

 そういう情報が知りたくなくとも風の噂が勝手に耳にやってくる。高め合いもすれば足の引っ張り合いもする、競争の中で生きる者たちは陰口と噂が大好物らしい。彼らは壁に耳あり、障子にメアリーだと知るべきなのだ。思うより社会は狭い。そもそも同業種だし。おかげでこんなところにまで駆り立てられてしまった。

 

 もし噂が本当で、テム・レイが最早そんな状態ならば軍や企業で引き取った方が健全である。むしろなんでこんな連邦機密にまみれた男を放って置くのか理解できんと迎えに来た次第だ。

 

 丁度、父上が来るよりも早く、すれ違いのような形であのガンダムのパイロットが訪れたらしい。

 念願の息子との再会が出来た筈だ。ヤツが抱える障がいがどの程度ものかは知らんが、息子思いのテム・レイならばきっと上機嫌になったことだろう。そのうちに連れ帰ろう、などと考えていた。

 

 錆びた階段をカンッカンッと音を立てて上がっていると、地球連邦軍万歳だァ!! っと奇声が聞こえてくる。

 まあ何処にでもヤバいヤツは居るものだな、と上を見るとバンザァイ!! と叫ぶテム・レイが見事なまでの大車輪を披露しては今にも降りかからんと此方に向かってきていたのである。

 

 このままでは父上を巻き込んでからの地獄車まで待ったなし。ただでは転ばないとはまさにこのこと(違う)。

 いや、ヤバいヤツお前かい! 殺意高ぇなオイ! って言ってる場合じゃねえ! と心で叫ぶ父上である。上機嫌というか、斜め上に振り切ってやがった。

 

 そして心から溢れた言葉が反射のように口から飛び出す。

 

「うわぁ! 何しとるか貴様ァ! 空から落ちて来て良いのは美少女だけだとジブリから教わっとらんのかァ!!」

 

 俗物である。

 

 父上の脳みそが目の前の大車輪のように高速回転を始めた。向かってくるテム・レイに半身でどしりと構え、両手を突き出し迎え撃つ。

 

「フンヌァァァァァ!!!」

 

 気合いの入った発声は筋肉の底力を引き上げる。

 その瞬間、その一瞬、父上はまさにゾーン状態に入っていた。出来る! そんな万能感と動かぬ自信が体を動かし、スローモーションの世界の中で両手を腰と足に差し込み掴み、ぐっと此方に引き寄せる。

 

 

 結果、そこにはお姫様抱っこに成功した父上と抱き留められたテム・レイの二人が無表情で見つめ合っているという構図が出来上がったのだった。

 

 もしも年頃の男女だったなら花が咲き誇る情景が背景となり、その出会いから素晴らしい恋が始まろうものの、悲しいかな。そこにいるのは髭ダンディと病弱ダンディの中年のオッサン二人である。虚しすぎる。

 

 二人は互いに静かに目を閉じる。

 心に固く、無かったことにしよう、とそう心に決めて。

 

 そう、最早彼らに誤解の余地などあるはずもなく、高鳴る鼓動は不整脈。疑うべきは生活習慣病。年は取りたくないもんだと愚痴ること幾星霜。それが二人のファイナルアンサー。

 

 そして、さらなる悲劇が父上を襲う。

 

 その日、父上は思い出した。

 大人一人抱えて平気なタイプでは無かったことを。

 

 次の瞬間、腰から鳴ってはならない音がした。

 ブライアンも半笑いで言う事だろう。いい加減、テム・レイ殿よりも年上なんだと自覚するべきだと。

 

 正面から抱き留めるより避けて片方の手で手すりをつかみ、もう片方の手で腕やら腰やらをつかみ取るだけ良かったのに。よりによって一番負担のかかる方法を選ぶのだからしょうがない。

 

 つまりはテム・レイの命を救う代わりに父上の腰が逝った。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」

 

 ネットでよく見る大きなネズミの叫び声(パチモン)の如く、父上の断末魔がサイド6に響き渡るのだった……。

 

 その後、無事連れ帰ることに成功し、テム・レイは父上が推薦する連邦の大病院にてしっかりと治療とリハビリを受けているのでした。

 

 そして、まさかのオーガスタ研究所が医療技術を押し進めたことにより、テム・レイは完全に回復することになる。

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