何故か最終的にモビルスーツ開発に行き着いた父上だが、元々はサイボーグとはまた違う演算や望遠、サーチャーを行う巨大ロボットと人の感覚を同期させることで人間の能力の大きな拡張を目指していた。
それなら私は宇宙世紀の科学力で一から人間の基礎的な能力の向上を目指せないかと大学で研究していた。
なーんて謳いつつも適当に卒業できればいいやとそれこそ研究所に拾われるような本格的なものでなく、全部あくまで健全といえる範囲でやっていたやつである。
そりゃそうですよ。ある種タブーみたいな領域だし、下手すりゃ豚箱行きですからね!
件のオーガスタ研究所はモビルスーツの開発から人間の開発(アウト)まで行うマルチな研究所である。
一年戦争時半ばにはモビルスーツ開発を主にしていたのだが、終盤に向かうとともにアムロ・レイ様の多大なるご活躍に伴い、本格的にジオンに『ニュータイプ』と呼ばれる存在を研究させることになった。
その力を手に入れると同時にそれを十全に活かせるようなモビルスーツの開発をしたいとのこと。
そりゃあ、父の仕事の手伝いをしていただけにそっちの知識もあるし、私の見せかけの研究のこともオーガスタ研究所の目的の一部くらいには合致してしまう。
だが、流石に鈍い私にも察する。
本当の狙いは父だったはずだ。
招く事ができなかったのは報酬が用意できなかったから。それだけ資金繰りが厳しいと見た。
モビルスーツ開発だけだったときは資金も潤沢だったはず、性能もすごく良いと評判だった。
だが、人の開発もすることになって資金が分散され、片方が上手くいかず赤字を生んで、成功していたもう片方の足を引っ張る形で泥沼化したんじゃなかろうか。
木端な私に所長という地位を用意したのは父上のご機嫌を取るためだな。あわよくばコネを作ろうという魂胆が透けて見えるぜ。
うーむ。探れば探るほど怪しさしか出てこない。
前所長は病んでラリった末に夜の街に繰り出し、踊ってない夜を知らないと全裸で踊り暴れ、警察に捕縛されてそのまま精神病院にぶち込まれた、と分かった。わーお……。
その後を引き継ごうとするものは誰一人現れず、外から人を招く運びになったらしい。
いやいやいや、どんだけブラックなん?
うん。というかこれ、アレですね。
次の優秀な後継者が見つかるまでのつなぎで、私は切り捨てる前提なやつですね!
それじゃだめじゃん! 生贄じゃん!
助けてパッパと目線を寄越すとキャリアを積んでこいと曇りなき眼でグッジョブと返してくる始末。
私に不正を押し付け、お縄につかせて、それを皮切りに父上を失脚させるつもりかもしれないんですよ!!
という感じで駄々をこねたら……。
「でも、命令は絶対だぞ?」
うわーん! おのれぇ! 国家権力ぅぅ!
丘の上にある研究所に向かう車の中に大人になりたての青年が乗っていた。
万華鏡のように太陽の光を反射してキラキラと光る美しい湖面に目を向ける余裕すらなく、何やらブツブツと呟いている。
「第一は父の失脚を防ぐことだ。そうすれば最悪は避けられる。私は保身に走るぞ! 健全化に尽力だ!」
宇宙世紀憲章やらジオニズムやらニュータイプ思想やらごちゃごちゃ色々あるが、そもそもオールドタイプと呼ばれる人が大半を占める世界で知覚できない感覚を持つニュータイプの存在など信じられないというのが本音に近いだろう。
つまるところ連邦政府はニュータイプを認めていない。
彼らはただの撃墜王であり、軍隊のエースであり、一年戦争の英雄である。だがそれ以上でもそれ以下でもない。そういうことにしている。
「今起きてる犯罪全てまとめて前所長のせいにして訴えよう。どうせ気狂いだし、責任能力なしで私も政府も前所長も実質お咎めなしよ。みんなWin-Win! それで行こう!」
だが、アムロ・レイのような存在は魅力的であると同時に脅威である。まさに一騎当千。味方だったという幸運。敵に回す事は考えたくもないだろう。調べれば調べるほどに。
つまり無視できない。
ジオンにはフラナガン機関という組織があった。もう既に先手はあちらが取っている。これ以上遅れを取るわけにもいかないし、事実としてあるなら研究すべきことだ。
「とりま、資金繰りだな。いや、モビルスーツ産業は他の産業と比べてまだまだ幼い。これからどんどん発展しまくるはず。そこに食い込めれば……?」
だが、立場上、あるいは立ち位置的に表立って力を注げない。しかもちゃんとした成果を出されても困るし、何の成果を得られませんでした! となるとそれはそれで困る。
「暫くはモビルスーツ開発に専念しよう。強化人間案件はどうするか。いや、政府からの要求は突っぱねよ。降ろされたら降ろされたで私的に得しかないわけだし」
極秘として水面下で動くしかない。
そうなると要求はめっちゃ高いのにそれを研究するための資金は微々たるものになっていた。
躍起になった研究機関側は成果を上げるために、お国のためという大義名分を振りかざして、研究をより過激なものにしていく。
「金さえあればアナハイム経由でも他のニュータイプ研究所から有能な人間をガンガン引き抜ける。父上から最新機器を融通して貰えばデータの収集だって他に追いつける! 遅れなんてノーカンよ!」
それは人は役割を与えられればどこまでも残酷になれると言われた実験の再証明をすることになる。そういう行動を取らざる得なくなる状況が揃っていた。
「お、おお! なんか、イケるぞ? イケる気がしてきた!」
その最悪の事例が起ころうとした目前に、自己保身のみ考えるバカがやってきた。
「いよっし! 稼ぐぞぉ!!!」
そのバカが世界をちょっとだけ優しくするそんなお話である。