祝! オーガスタ研究所、遂に黒字! やったぜ! ふぅぅぅぅ!
ようやくスタート地点につけたと脱力しながらも、頑張った! よく頑張ったぞぉ! と浸っているのはラブリーチャーミーなトップ、ブライアン・マーセナスである。もう、若干燃え尽きたぜ。真っ白手前くらいにな……。
そんな私は現在、オーガスタ研究所から外に出て美しい湖面が見える憩いの場のベンチでコーヒー片手にまったりしている。ここ最近のマイ・ベスト・プレイス。そして頼れるお供はサンドイッチとおやつにマカロン六つセットだぜ。
ヤダ私女子力高すぎ!?
…………やめよ。
爽やかなそよ風の心地よさに思わず目を細めると、視界の端に美しいブロンドヘアが風に揺れるのを捉える。
思わず目線を向けると、そこには可愛らしい幼女がひょこっと顔を出していた。私を見つけて目が合うと、にぱーっと笑顔を咲かせて、てててっと近寄ってくる。あら可愛い。
彼女はこの研究所で一二を争うニュータイプ、金髪翠眼の美幼女リタ・ベルナルくんである。
「お疲れですか?」
「バカ言っちゃいけないぜ! 今めっちゃ元気になったわ! よー分かったね、この場所」
「ここに来れば会える気がしましたから!」
「おーやるねー」
そんな会話をしながら隣にスペースを作ってどうぞどうぞと合図。そうだ。サンドイッチとマカロンを分けたげよう。
「わあ! ありがとう! それで、その、二人から何か来てないかなって」
「ああ! そうそう。ヨナくんとミシェルくんからお手紙が来てたよ! オガ研の受付に声かけてちょ!」
「ほんとですか! やった!」
リタ・ベルナル、ヨナ・バシュタ、ミシェル・ルオ。
彼女らは一年戦争時、コロニー落としを予見し、モーゼのごとく人々を救ったことで奇蹟の子供達と呼ばれていた。
つまりニュータイプの素養ありと、オーガスタ研究所に連れて来られたのだ。そこにちょっと遅れて私が着任。つまりほぼほぼ同期である(違う)。
もう少し来るのが遅かったら特殊機関に送られて色々(闇深)されるとこだったぜ。あぶねあぶね。まあ、ヒーローは遅れてやってくるもんだし、間に合ったからセーフよ。
まったくなんで貴重なニュータイプを弄って消耗させて使い潰そうとするのか。理解に苦しむぞホントに! 脳に瞳を探そうとするんじゃない。ネフェルピトーのマネごとかい? 人の心とかないんか? ブラッドボーンかっつーの!
それはともかく、この三人でニュータイプの素養があったのはリタくんのみだった。
そうなるとこれから先リタくんはその希少な能力故に狙われる運命にある。こちらとしても見捨てるつもりはないし、守るならうちにいてくれた方が都合が良い。ついでにデータは取らせて貰うけどもね。
そして、他の二人には行動も愛情も限られた冷たい世界である研究所で生きるより、外の世界で健全に生きた方が幸せとは限らないが沢山の選択肢のある人生を送れるだろう。
ちゃんと話し合う場も作った。
こちらとしては最初から丸め込むつもりでいるけれど、形だけでもちゃんと納得できるように大人気なく完璧に騙し切るのが大切だ。
そりゃもちろん三人はみんなで一緒に生きたいと声が上がる。だがしかし、現状君たちではリタくんを守りきれないよ。と、残酷な事実を突きつけるしかない。
まあ、これから先ずっと会わせないわけじゃない。待て、しかして希望せよってやつさ。今生の別れじゃないしね。
それぞれに学び、生き抜き、力をつけて強くなって、自身で考え抜いた末に迎えに来れば良い。そう説明して離れ離れになることを了承してもらった。
将来ヨナくんが自分を鍛えてリタくんの騎士になるならそれもよし。頭のキレるミシェルくんにはルオ商会の養子になってもらった。もちろんバックアップは万全も万全。ミシェルくんに下手をしないように私がちょくちょく顔を出して圧をかけつつ取引相手としてもよろしくやる算段である。
これがこの三人とのこれまでなのでした。
それにしても、この三人から複雑なラブの匂いがプンプンするぞぅ。くっ、青春ですか? 私なんて企業戦士ブラックとして戦い過ぎてそんな時間がないのに……!
「えっと、その、きっと良い出会いがありますよ!」
「今心を読むんじゃないよ。せめて断言してくんないかなそこ!」
それ、トドメって言うんだよ……?
「ずいぶん浮かない顔してますよ? お困りごとですか?」
「そう、だねぇ。まあ、順調なんだけど……まっ、大丈夫大丈夫!」
そう、順調ではある。
資金繰りは上手くいった。連邦にもジオンにも手広くやったおかげで数年は安定するだろう。
なら次は当初の予定どおりアムロ・レイ君を迎え入れたい! ってところだが、それが中々に難しい。まだまだ難航しているのだ。
これはアムロ君のことを交渉しているときの仲の良い高官との会話である。
「アムロ・レイ殿をオーガスタ研究所のテストパイロットとして迎え入れたいんですけど、どうでしょ」
「ふむ、まず理由を聞こうか」
「私がニュータイプの研究をしているのはご存知かと思います。故に当然、彼のような優秀な人材を檻に閉じ込めておくのは世のため人のためにも勿体なく考えます。そもそも私個人としても彼の父と面識があり、人情としても放っておけません。つまり……」
「ブライアン」
「はい」
「私と君の仲だ。本音を語ろうじゃないか」
「ええ、そうですね。失礼しました」
「して、ブライアン。君は何を考えている?」
「ガンダムで、ブレイクダンスを、見てみたい」
「…………」
「…………」
「本音と建前が逆になってんぞ? なんで五七五なん? いや、そうではなく」
「まあ、たしかに逆になりましたけど、他にも彼とやりたいことがたくさんありまして、彼のドラテクがあれば様々な可能性を、腐りきったこの世の中に示せるんですよ!!」
「会話をぶっちぎっても良いことないぞ。つかあれだろ。君もうボケるつもりしかないな? いいだろう。色々言いたいが、とりあえず聞こうじゃないか」
「モビルスーツを戦争利用だけにこだわるなど笑止千万! まずは立体的に攻め立てろ! ガンダム宇宙サッカー!」
「あのボールが本物に? お前今日からボールな? ってやかましいわ!」
「おおー!」パチパチパチ
「おおー! やめろ! 拍手すんな! 恥ずかしいわ!」
「次に宇宙一強いやつは誰だ! ガンダム格闘技! 名付けてガンダムファイトォ!」
「それは! ……私もちょっと見てみたいが……」
「でっしょお!?」
「そんなお遊びで納得できるか!」
「いやいや、モビルスーツを兵器だけに可能性を押し固めたら、それを使った戦争に走るしか無くなるでしょう。ですが元々作業用ロボの兵器転用。なら人の命を奪うものから人を笑顔にする転用もするべきでしょう! モビルスーツのスポーツ運用はモビルスーツのイメージ改革と需要拡大と企業、運営、選手という雇用も新たに生み出します。事業そのものが大きいので当然経済効果もかなりのものになる筈です!」
「本っ当によく回るな、その舌も頭も。そもそもニュータイプの研究にはどうつながるんだ!」
「現在ニュータイプは戦場での命のやり取りの末にその能力を増大させている、という仮説が有力です。なら別の形で彼らの能力を使う場を作り出し、競い合うことで平和的かつ良心的にその能力を育成する。そうして」
「分かった分かった。悪かった。どうにしても今は無理だ。アムロ・レイがモビルスーツに乗って万が一にも反乱を起こせば連邦は地獄を見ることになる。その可能性がある限り簡単に檻から出せん。わかってくれ!」
「じゃあプランBを実行することにします」
「聞かなかったことにしよう。それと、スポーツ事業を興すときは私に一枚噛ませるように」
「いやぁ、抜け目ないですねぇ。その時はよろしくお願いしますよ?」
「クックック」
「ヘッヘッヘ」
「「ハーッハッハッハッハ!!」」
類友である。
アムロ君は一年戦争で余りにも活躍しすぎたのだ。
しかも今はまだ戦争が終わって間もないし、アムロ君にガンダムを近づけたくないってお上は怯えきってる。万が一、反抗されたら成すすべなしって判断だ。
うん。データ見る限りあってると思うわ……。
はっ! どうしよう! オーガスタのニュータイプ研究のこと知って暴れられたら……オーガスタ壊滅するのでは!?
まあ、そん時はそん時だな。私責任取って辞めるだけだし……。むしろ辞めれるチャンスなのでは!?
さて、お上を黙らせて縦に首を振らせるにはやはり強力な後ろ盾が必要だろう。誰もが忖度しなきゃいけないくらいの大物。
そうなると色々限られてくるが、そこで私のプランB。
確か私の本家のマーセナス家にはビスト財団と真っ黒なツテがあったはず。彼らに後ろ盾となってもらうのだ!
父上に相談してちょっと本家を脅……融通利かせてもらおう。アナハイム・エレクトロニクス社との商談に見せかければ怪しまれないだろうし、本当にアナハイムとズブズブになっても良い。
でもあそこ、闇深すぎだし、人間関係バチバチだし、マジで火薬庫だからなぁ。どこまで踏み込むかが悩みどころだ。
サンドイッチを食べ終わったリタくんの口を拭く。
ここまで急いでいるのには理由がある。
ジオンのニュータイプ研究所フラナガン機関。その研究員であるローレン・ナカモトが連邦へ亡命し、現在ムラサメ研究所でニュータイプ研究を続けている。
そもそも、なぜ連邦はニュータイプ研究を続けてるのか。
一年戦争が終わって、もう戦争する相手はいないはずなのにバレれば批判の免れない非合法なことをやらせている。それも幾つも施設を造って一つも減らすことなく何人も犠牲にし続けて。
何故なのか。
もちろんニュータイプという未知の恐怖に対する防衛反応というのはあるだろう。でもきっとそれだけではないはずだ。
例えばニュータイプが敵であれ味方であれ戦場にいる状況を想定している、とか。
あくまで憶測だ。私の悪い癖でくだらない陰謀論だ。それならそれでいい。
動乱はある日突然起きるものじゃない。
誰かが指揮をして、賛同する人がいて、準備をして、それを見て見ぬふりをする人がいる。
なんせ
一年戦争だってジオン公国の軍拡を六つのサイドがまったく知らなかったなんてないはずだ。連邦の中にだってその傲慢さで胡座をかいていても事なかれ主義の腐ったミカン以外のやり手は火薬の臭いを嗅ぎつけていた筈。
この戦争を望んでいたものたちは確実にいる。
何かを変えようとしていた者たちがいたはずなのだ。そして、何も変わらなかった。変えられなかった。だから次の一手に進もうとしている。
それはジオンであり連邦でもあるのだろう。
ことは確実に起こる。私はそう想定して動く。
マカロンを嬉しそうに頬張るリタくんの頭を撫でる。
もう一年戦争で十分苦しんでるこの子たちをまた巻き込んじゃあ駄目でしょ。
いつ新しい戦争が始まるかは知らないが、それまでにすべきことがまだまだ多い。だから今は強引にでも前に進む時期だ。
戦争がまた始まれば自由はない。
人を従わせるには大体三つの方法が有効だ。そして、それこそがオーガスタ研究所に降りかかる厄介事。
上からの命令や誰かの為という感情、恩や貸し借りといった関係値で頼むこと。単純なお金や高待遇、貴重なモノで雇うこと。脅しや暴力といった恐怖で支配すること。
今現在、前者二つは何とか出来るが、最後の一つに対して何かカードが欲しい。せめてアムロ君を手に入れるまでオーガスタ研究所を守れるほどの強いパイロット集団が必要だ。
でもそう都合よくいかないのよねぇ。
「あー、何処かに清濁飲み込んで命令を遂行してくれる心強〜い私兵とか都合よく居ないかなぁ!」
そんな独り言に顔を上げたリタくんは目をパチクリさせながらも話を切り出す。
「その、よくわからないですけど、あの人なら話を聞いてもらえる気がします! たぶんですけど」
リタくんが指を差した先にあったのは世界中のニュースが流れる電子掲示板。そこに映っていたのは……。
「ほほん、B級戦犯シーマ・ガラハウ……ね」
ブライアンと仲良し高官が頑張りすぎた世界線
アムロ「流派東方不敗は!」
シャア「王者の風よ!」