ニュータイプ研究所所長の奇行   作:スターリー

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 無事ファミパン作戦が終わった。

 幸いなことに両者共ども被害は軽微である。うん、やっぱりファミパン作戦はとても語弊があり過ぎるかもしれぬ。

 

 それに、()()()()()()()()()

 

 流石はシーマ中佐。流石はシーマ艦隊。流石は噂に違わぬ戦場の華。

 あの一年戦争を戦い抜いた女傑であり、両陣営から追われても生き残っている猛者達である。そのことをまざまざと見せつけられた。

 

 まさに経験の違い! 

 ……こんなこと言ってるとぶん殴られそう。

 

 彼女は指揮官としての判断が余りにも優秀だった。

 互いの戦力を把握し、こちらに殺意がないことを見極め、マルコシアス隊と繋がりがあることを見抜いて、そこからただの追っ手ではないことに勘付き、すぐさまあちらから交渉を持ちかけてきた。

 

 このアタシになんの用だい! ってね。

 

 一番最悪の想定である全面対決は免れた。

 どの部隊もモビルスーツのじゃれ合い程度の損傷で、ほぼほぼ無血にてその場が治まったのでした。

 

 ぐぬぬ、なんかこう、先手を取られた気分だ。もう! 誰だよ! 情報持ってるやつが有利とか言ってはしゃいでたの! 私だよ! 

 

 幾つもの修羅場を潜り抜けてきたその嗅覚と判断力と瞬発力はマジで本物。間違いなく戦場の空気を読むのは私よりも一枚上手だろう。なーんて、そんな人いくらでもいるというけども!! 

 

 そうして、こういう時のためにある形骸化しつつも効力がある条約で定められてる手順に従いながら、こちらの船にシーマ様御一行を招いて交渉の席につくことになった。

 

 ま、まあ、当初の予定とはちょっと違ったがそれならそれで良し!  フッハッハ! 交渉ごとなら負ける気しないぜ! とくと見るがいい! 私の口が火を噴くぜ! いや、ホントに吹きはしないぜ! 

 

 美しい黒髪をなびかせて、真っ赤な軍服をビシッとキメた背の高い女性が肩で風を切って歩いてくる。

 

「ずいぶんと舐めたマネしてくれたじゃないか、坊や」

「初めまして、シーマ中佐。舐めていないからこそ、この戦力をかき集めたんじゃないですか」

 

 私はブライアン。ブライアン・マーセナスです。よろしくお願いしますね? 

 

 そんな感じで軽く自己紹介を済ませて、皮肉と冗談の応酬の末に本題へ。

 さて、ネゴシエーションは戦いではなく、帳尻合わせ。互いにどれだけ相手の本音を引き出して、その狙いと欲しいものが何かを見抜けるかに限る。

 

「最近アタシらのことを嗅ぎ回ってたのは、アンタのようだね? 何が狙いだい」

「そりゃもちろん! ええ、貴女が欲しいんですよ☆」

「はっ! ますます怪しいねぇ。アタシらはそんな安くないよ!」

 

 これまでの経緯と理由を説明しながら紅茶で一息。

 ふっ、これだけの人材、逃がしてなるものかーい! 彼らを面倒見るだけは稼いだ。無くても経費で落とす! 

 

 そうして信用を得るための問答を続ける。

 爆弾を解体するような丁寧さでトラウマや地雷を避けつつ、誠実さと冗談を交えて暗くなり過ぎないように意識して、声のトーンがマジになるまで時間をかける。

 

 彼女のここ一番の言葉を探す。そして、その時が来る。

 

 

「アンタならアタシらの故郷を取り戻すことが出来るってのかい? 出来ないだろう?」

 

 

 彼女との会話の中で最も重要なキーワードはこれだ。

 

 ジオンを追われ、アクシズから拒否され、もはや行き場所がない彼女達。その帰る場所であるはずだった故郷のコロニーでさえも一年戦争時に固定レーザー砲台ソーラ・レイに改造されて失っている。……この人、ちょっと失い過ぎじゃない? 

 

 そんな状況だからか、戦艦であるリリー・マルレーンは彼女にとって第二の故郷で心の拠り所で帰る場所になってしまった。だから奪われたくないし、守り通している。

 それが、その思いがどこから派生したものなのか、ここまで情報が揃えばおおよそ大枠で捉えることが出来る。

 

 きっと彼女の望みは故郷に帰ることだ。

 

 悪魔の子でさえも帰る場所がなければどこにもいけないと歌っている。

 なら、悪魔ではない彼女やその背中に付き従う者たちがこれまで必死に最悪の状況でも諦めずに彷徨ってきたのは故郷に帰るという同じ光景を見ていたからなのだろう。

 

 これまでに集めた情報や彼女の話を聞くと、決して治安のいいところではなかったらしい。

 宇宙は地球と違って空気だって買う必要がある。そんな厳しい世界だ。今日を生きるのにも精一杯で、余裕のある暮らしなんて全然出来ていなかったとも、とてもじゃないがよそ者が立ち寄れる場所じゃなかったとも聞いている。

 

 でも、彼らにとってみれば、それでも代えがたい故郷で、そこには変えられない人の絆という大切なモノが沢山あったのだろう。何物にも変えられぬ思い出があったのだ。補うように支え合うように身を寄せ合う暖かさがあったのだろう。

 

 その目の奥に宿るのは怒りや虚しさ、遣る瀬無さよりも思い出を失う深い悲しみだ。

 

 なんだろう。この、何処かのコルキスの魔女的な哀愁は……。

 

 

『その、よくわからないですけど、あの人なら話を聞いてもらえる気がします! たぶんですけど』

 

 ふと、思い出すのは来世は鳥になりたいと豪語するバード系ニュータイプ幼女の言葉。

 

 ああ、なるほど。

 そうか、そういうことか。だからか。

 確かに、これは私だからこそ、彼女たちを味方に出来るのか。

 

 私の宇宙経済拠点論(バブリー☆ユニバース)(適当)の促進には宇宙経済の立て直しと成長が必須で、産業を興しまくるにしても、その基礎にはコロニー再建が必要不可欠である。

 その関係は切っても切れないと言っても過言ではない。何故なら増やせば増やすほど……いや、何でもないです。

 

 うん、リタくんには帰ったらなんかご褒美をあげよう。

 

 そして、ならば、私が示すべき選択肢は……。

 

「失ったものは返せません。ですけど、新しく始めることならできます。コロニーの調達をして、バラバラになった住民たちを集めて、貴女の故郷の復興を約束しましょう。コロニー再建は私も望むところですから、それならどうでしょ?」

「……っ!」

 

 さて、あり得ないと吐き捨てられるだろう。出来るはずがない、バカにするのもいい加減にしろ、と。

 そう言われるのは百も承知。分かっているさ。それでも私はどうしようもないくらいの理想論者なのだ。

 

 私の話を聞いてほしい。そして、貴女の話を聞かせてほしい。

 例え、ニュータイプじゃなくても言葉にすることで私たちは分かり合える。間違ってもすれ違っても諦めなければ繋がれる。分かり合えなくても、分かり合えないことを分かっただけでも違うのだ。

 

 話してくれなきゃ分からないし、言わなきゃ分からない。言葉にしないとしてくれないと何も伝わらないし、始まらない。そして何も終わらない。

 

 さあ、話してほしい。

 

 貴女の願い(ゆめ)を。

 

 そして、聞いてほしい。

 

 私の野望(ゆめ)を。

 

 

 こうしてシーマ艦隊は海賊行為に走る前にブライアン・マーセナスの剣として表舞台から姿を消すことになった。

 

 クロエ殿の事もあって、マルコシアス隊は協力関係にあるが、必ずしも信頼を得ている訳ではない。

 だが、今回の追われる身となったジオン兵を引き入れるという行為により、信頼を得ることが出来たのだった。そしてそれはスパイのシェリーも同様に。

 

 この出来事は、宇宙の現地調査に来ていたオーガスタ研究所のテストパイロットとマルコシアス隊の小競り合いだと報告される。その隠蔽に誰も気づくことはないだろう。

 

 ひっそりとブライアンの計画が一歩前へと歩みを進めたのだった。

 

 

 

 

 そして、その後日談である。

 

「それじゃあ! 新しい仲間にぃぃ!! かんぱ〜〜い!!」

 

 

「「「「「「「「かんぱーい!!!」」」」」」」」

 

 ひと悶着を終えた現在、月面都市フォン・ブラウンにあるアナハイムに入港している。当初の予定通り、そこではリリー・マルレーンのメンテナンス、補給、修繕、改修、そして偽装を施している。ついでに我々のメンバーの機体のメンテナンスも欠かさない。これは経費!

 

 その間に行われるのは我らオーガスタメンバーとシーマ艦隊の歓迎会である! いえーい! 

 これまで溜めていたものをぶち撒けるように飲んで食っての大騒ぎ。そして、これはブライアン持ちである。おい! よ、容赦ねーぞコイツらぁ! 

 

 そんな彼らの様子を眩しそうに見守るシーマ殿。

 その目線の先には、ぐでんぐでんのよっぱっぱ共が肩を組んでどんちゃん騒ぎが止まらねぇぜっという状況である。マジでついていけないから静かにグラスを傾けるシーマの隣についた。

 

 もう散々語り尽くしたから、腹の底は吐き出している。だから静かでも居心地は悪くない。ふと、シーマ殿はリリー・マルレーンの方角を見てから、こちらに問いかける。

 

「私がアンタを裏切って逃げ出すとは思わないのかい?」

「そしたら、私の器がその程度だったってだけの話です。それに貴女の損得勘定と判断力を信頼してますから」

「バカだねぇ。まっ、アンタの話に乗った私も人のこと言えないけどさ」

「いずれ貴女のB級戦犯(くびわ)も外しますから、そのつもりで居てくださいね。そのうち堂々と街を歩けるようになりますよ」

「つくづく甘い男だねぇ。まあ、給料分の仕事はさせて貰うさ」

 

「ええ、これからよろしくお願いしますね!」

「あいよ!」

 

 そうして、合わさるグラスが良い音色を立てるのだった。

 

 これでようやくこの騒動が終わった気がした。

 きっと穏やかな日々に戻れるだろう。これでオーガスタの護りも万全となる。今まではオーガスタ基地を中心に活動していたが、これまで以上に動けることになる。そうなれば、これまで手が遠かったところまで手を伸ばせるようになるだろう。

 

 これから先を考えつつ、ブライアンはウイスキーを飲み干したのだった。

 

 

 

 一日で全て終わらない為、フォン・ブラウン市に数日泊まることになっている。わざわざアナハイム・エレクトロニクス社に来たのは、他に理由があった。彼らから呼ばれていたのだ。

 

 お久しぶりですね。と声をかけてきたのはメラニー・ヒュー・カーバイン会長。アナハイムの実質的トップである。つい名前を声に出したくなるのもトップである。

 

「お会いしたのはこの前のパーティー以来でしょうか」

「ええ、その時にはお世話になりました」

「わざわざこちらにお呼びしたのは特別なパーティーへのお誘いでして……」

 

 そんなことで会長自らが出てくるはずがない。そっと手渡されたのは黒い手紙。ああ、察し。

 

「ところで、会長はモビルスーツの新しい形での運用にご興味は?」

「ほう、是非ともお話をお聞かせ願えませんかな?」

 

 ついでに根回しも欠かさない男である。

 

 さて、秘密裏に渡された手紙の差出人はサイアム・ビスト。

 

 一難たってまた一難。

 

 だがしかし、それはネクストステージへの招待状だ。 




誤字脱字報告ありがとうございます。助かってます!

ふと思いついた小ネタです。もしもジオン側でストーリー書くなら、の話なんですけど。
設定はシャリア・ブルの異母弟あたり。二人はそれを知らずに仲の良い上司と部下の関係でシャリア・ブルが死ぬ瞬間に…。

「兄さん! ……お、おれ、今、なん、て…?」

ってニュータイプとして覚醒する、みたいな感じです。

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