まったりほのぼのとした爺孫物語
──ある日のこと、ゲヘナ生徒会─
その内の一人である『丹花イブキ』は、"ふんふふーん♪"と楽しげに鼻歌を奏でながら、その手に持ったクレヨンで絵を描いている。
──しかし、時折その手を止めては時計をチラチラと眺めており、その様子が気になった赤毛の少女『棗イロハ』が訊ねる。
「どうしたんですかイブキ、先ほどからチラチラと時計を見ているみたいですけど……何か気になるものでもあるんですか?」
イロハ自身も時計に目をやるが、いつも通りで特に変わった様子は見受けられない。
(──現在時刻は午後二時半、三時のおやつが待ち遠しくって気にしているだけですかね?)
そう予想し、可愛さに癒されていると、イブキがイロハに視線を向ける。
「あ!イロハ先輩こんにちは!……いつからいたの?」
「はい、こんにちはイブキ。……ここに来たのはちょっと前ですよ。随分と楽しそうに絵をかいてたようだったので邪魔したら悪いかなと思ってたんですが、先ほどから時計を気にしているようだったのでちょっと気になってしまって……ちょっと早いですけど、一緒におやつでも食べますか?」
"マコト先輩には内緒ですよ"とイブキに微笑みかけるイロハに対し、最後の一人──マコトが声を荒げる。
「この私をのけ者にしてイブキと二人っきりでおやつタイムなど、許さんぞイロハァ!!」
「あ、マコト先輩いたんですね」
「"いたんですね"じゃあない!一緒に生徒会室に戻ってきただろうが!そもそも「あ、マコト先輩もこんにちは!」……あぁ、こんにちはイブキ。元気に挨拶出来て偉いぞ~!」
先ほどまでの怒りはどこへやら、マコトはイブキに対してデレデレとした表情を向けながら撫でまわす。
「──よし、イブキ!今から私と一緒におやつでも「──あ、もう約束の時間だ!ごめんなさいイロハ先輩、マコト先輩。イブキもう行かなくちゃ!またね~!」……ぇ」
そう言い残すとイブキは、先ほどまで絵を描いていた画用紙とクレヨンを鞄の中にしまい込み、生徒会室を飛び出して行ってしまった。
「あら、行ってしまいましたか。見事に振られちゃいましたね、マコト先輩……って、死んでる」
イブキが生徒会室を飛び出して行ったあと、視線を横に向けると──そこには白く燃え尽き、壊れたラジオのように"いぶきぃ、いぶきぃ……"と譫言のように繰り返すマコトの姿があった。
(──完全に意気消沈しちゃってますね、これは……それにしても)
「……約束、ですか」
イブキが口に出した"約束"とは一体何なのかと、イロハは思考を巡らせる。
──実を言うと、イブキが今回みたいに飛び出していくのは今日が初めてではなかった。
(大体一週間ほど前からですかね。二、三日に一回くらいのペースで、決まってこのくらいの時間になると生徒会室を飛び出していくんですよね)
何故急にそのような行動を取り出したのか、はっきりとしたことは分からない。……"もしかしたら"と思うことが無いわけではないのだが。
(たしか、丁度今日みたいな行動をとり始めた日から、狐の形を模した飾りをつけるようになったんですよね。……それに、先ほどチラッとイブキが描いた絵が見えたときも、大きな狐が描かれていましたし……)
そこまで考えて──これ以上は考えたところで答えは出ないなと判断したイロハは、思考を切り替える。
「……はぁ、考えていても仕方ありませんね。……今から追いかけようにもどこに行ったのか分かりませんし、明日直接聞いてみるとしますか」
本来であれば、イブキのことを心配するなら今すぐにでも追いかけるべきなのだろうが──
(いっつも楽しそうに飛び出して行ってますし、何か悪いことに巻き込まれてるわけじゃないようですからね……まぁ大丈夫でしょう)
「……ほら、マコト先輩。そんなところで寝っ転がってないで仕事してきてください。私がサボれないじゃないですか」
◇◇◇◇◇
「ふんふふんふふ~ん♪」
──一方のイブキはというと、陽気に鼻歌を奏でながら路地裏に足を踏み入れていた。キョロキョロと辺りを見渡し、誰もいないことを確認したイブキは、その手に狐を模した飾りを握りしめ──
「おきつねさま、どうぞとびらをおあけくださいっ!」
と、元気いっぱいに唱える。──するとその数秒後、"シャン♪"という鈴の音と共に、イブキの目の前に狐の意匠がこらされた木製の扉が現れる。扉はイブキを招き入れるかのように、ひとりでに開いていき──イブキは一切のためらいもなく、足を踏み入れた。
イブキが潜り抜けた直後、"ギギギ…"と音を立てながら扉は締まっていき──気付けば、はじめからそんなものは存在していなかったかのように、扉は消え去っていた。
◇◇◇◇◇
扉を潜り抜けた先には、先ほどの路地裏とは比べ物にならないような美しい景色が広がっていた。
──イブキの視線の先には、掃除の行き届いた石造りの一本道がまっすぐに続いており──道の先には大きな鳥居と、寝殿造りの巨大な和風の建造物が鎮座していた。
また、先ほどまでは曇天だったのにもかかわらず、上を見上げれば雲ひとつない青空が澄み渡っており──道を囲うように左右に咲き誇る桜が、風に吹かれる事で桜吹雪が舞う様子も相まって、幻想的な雰囲気を醸し出していた。
イブキは、周りの景色を楽しそうに眺めながらも、まっすぐに目の前の建物へと歩みを進めていく。
そして、鳥居をくぐり、建物の扉の前に立ったイブキは
「──おじいちゃーん!遊びに来たよー!」
──と、扉の向こうに聞こえるように、大きな声で声をかける。すると、扉はイブキがここに訪れたときのように、再びひとりでに開いていき──扉の先には、身の丈十尺を超える大きさの、八本の尾をもつ白金色の狐の姿があった。
イブキは扉が開くと同時に駆け寄っていき、思いきり飛びつく。狐は鎌首をもたげて、そんなイブキのことを視界に捉えるとゆっくりと口を開く。
「──よくきたねぇ、イブキちゃんや。こんにちはぁ」
「こんにちは、おじいちゃん!ねぇ、今日はどんな遊びを教えてくれるの?」
イブキは、期待の籠ったキラキラとした視線を狐に向け、"楽しみ!"という感情を全面に出している。
「そうさなぁ、今日はこんな遊びはどうかねぇ──」
狐もまた、孫を可愛がるように、楽しそうな様を見せていた。
──これは、ゲヘナに舞い降りた天使なイブキちゃんと、500年以上の時を生きた狐のおじいちゃんの、キヴォトスで巻き起こる様々な動乱とは無縁なまったりほのぼのとした物語
狐のおじいちゃんについて
・元々は九本の尾を持っていたが、ある出来事があって一本減った。
減った事については差程気にした様子もなく、「子供たちの笑顔のためなら、尾の一本や二本安いものじゃよ」と言っていたらしい。
……今後もう一、二本減るかもしれないが、そのうちまた生えてくる。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
初めましての方は初めまして、作者の他の小説を既に読んでくださっている方はどーもどーも。
調べてみても意外とイブキちゃんメインの小説ってないんだなっていうのと、まったりほのぼのとしたお話を書きたくなったので、息抜きとして書いてみました。
今後は週1、2話くらいのペースでゆるりと書いていくつもりです。
※曇らせがお好きという方はこちらもどうぞ
『小鳥遊ホシノの先輩』
https://syosetu.org/novel/342105/