当キヴォトスでは、折り紙など日本の昔ながらの遊びは主に百鬼夜行で行われる遊びで、他の学区での知名度はそこまで高くなく、知っている人が少し居る程度とします。
「イロハ先輩、ちょっと出かけてくるねー!」
イブキはそういって生徒会室を飛び出そうとし──イロハが待ったをかける。
「待ってください、イブキ」
「…?どうしたのー、イロハ先輩」
自身の事を引き留めたイロハに対し、首をこてんと横に倒して不思議そうな視線を向ける。
「最近よく出かけているみたいですけど、どこに行ってるんですか?」
投げかけられた質問に対し、"んーとねぇ……"と少し考えるそぶりを見せた後、イブキは笑顔で答える。
──イブキ、おじいちゃんのところに遊びに行ってるんだ~!
「……おじいちゃん、ですか?」
「うん!おっきい狐のおじいちゃんでね、イブキにいろんなことを教えてくれるの!遊びとかー、お菓子とか!イブキが知らないこといーっぱい!」
"今日はどんなこと教えてくれるのかなー♪"と、ウキウキとした様子を隠すことなく表に出してるイブキを見据えながら、イロハは考えを巡らせる。
(──おっきい狐のおじいちゃんですか……先日目にした絵からして、獣人とかではなく正真正銘の狐っぽいですが、そんな存在がいるなら少なからず噂として耳にしてもおかしくないはず)
(イブキは随分と楽しそうにしていますが、万が一にも騙されていたとかで傷つけられてしまうようなことがあったらいけませんからね……)
そう結論付けたイロハは、イブキの言う"狐のおじいちゃん"がどのような存在であるかを見極めるために、自身も連れて行ってくれないかと提案する。
しかし、イブキは少し悩むような表情を浮かべており、普段であれば快くOKを出してくれる彼女がそのような様を見せていることに疑念を抱く。
(もしかして、連れていくことができないような理由でもあるんでしょうか?……場合によっては、後をつける必要も──)
「えっとね、おじいちゃんにね、お友達を連れてきたいときは先に教えてほしいって言われてるの!」
「……そうなんですか?」
(……連れていけないわけではない、と。なぜわざわざ事前に伝える必要があるんでしょうか……何か隠したいものがある?それとも──ハッ!?まさか私、イブキにお友達と思われてないんですか!?)
色々と考えた結果、そんな結論に至ってしまったイロハは精神的なダメージを受ける。"うぐぐ…"と内心で悶えるが、イブキの言葉に先ほどまでの考えがすべて杞憂であったと悟る。
「──うん!"お友達の分のお菓子も用意しないといけないから、前もって教えておくれ"って言ってた!イロハ先輩も一緒に遊びたいなら、今日おじいちゃんに伝えておくね!あ、おじいちゃんのことは他の人には教えちゃダメだよ!」
"じゃあ、そろそろ行くね~!"と駆けて行くイブキの後姿を見つめながら、自身が友達と思われていなかったわけではないことに心底安堵するイロハであった。
(──それにしても、最後に言っていた"他の人には教えちゃいけない"というのは、いったいどういうことなんでしょうか)
「キキキッ!イブキ、今日こそ一緒におやつを……む?イロハ、イブキはどこへ行った?」
「……イブキなら丁度さっき、遊びに出かけましたよ」
「…………」
──ナニィ!?
◇◇◇◇◇
「──ってことがあったんだ~」
イブキは狐にもたれ、しっぽの毛をモフモフしながら今日あった出来事を楽しそうに話す。狐もまた、話の合間に"そうかそうか"と相槌をうち、イブキの話を楽しそうに聞いていた。
「イブキちゃんの先輩がくるなら、またおやつを準備しておくとするかのぉ」
"どんなお菓子が好きなのかねぇ"、"イロハ先輩はよくポテトチップス食べてるよー!"と、そんなやり取りを続ける一人と一匹。あらかた今日の出来事について話し終えたイブキは、"おじいちゃん、今日は何して遊ぶの?"と訊ねる。
「ふむ、そうさねぇ……今日は折り紙でもしようかのぉ」
そう言うと狐は、その身に宿る神秘を用いて襖の奥から色紙と机を持ってきてイブキの前に置く。色紙は赤や黄色などの一般的な色のほかにも、金や銀、果てにはラミネート加工のなされたものなど色々な種類があった。
「わぁあ♪いろんな色があるー!これイブキが貰っていいの?」
「もちろんじゃよ、そのために百鬼夜行で買ってきたんじゃからな。前来たときは地味な色しかなかったからのぉ……その分今日はいろんな色があるで、イブキちゃんの好きなように使うとえぇ」
頷く狐に向け、イブキは"ありがとう、おじいちゃん!"とお礼を言う。
「イブキね、前教えてもらった鶴さんがひとりで作れるようになったんだよ!」
その言葉と共にイブキは赤い紙を一枚取り出し、"見ててね、おじいちゃん!"と言って、折り鶴を作り始めた。
◇◇◇◇◇
「まずは二回、色が見えるように三角に折って──」
中を開いてつぶすように四角に折り、裏側も同じように折る。真ん中に合わせて折り目を付け、上の三角の部分も折り目を付ける。
「えっと、次はここを広げて、潰すように折って……反対側も同じように折って」
"あれ、内側に折るのって谷折りだったっけ?"、"谷折りであっておるよ"──時折そんなやり取りを行いながらもイブキは一生懸命に折っていき、次第に鶴の形に近づいていく。
最後に羽を広げつつ、胴体の部分に"ふーっ"と軽く息を吹き込み膨らませる。
「できた~♪」
完成した折り鶴を両手に持ったイブキは、狐にも見えるように差し出す。それを見た狐は、"おお、よくできとる"と尻尾で器用にイブキの頭を撫で、撫でられたイブキは"えへへ、くすぐったいよ~"と笑っていた。
「──ねぇおじいちゃん!この鶴さん、前おじいちゃんが見せてくれたみたいに動かすことってできる?」
「もちろんできるとも」
狐はイブキが手に持つ折り鶴にフッと軽く息を吹きかける。すると、鶴はピクリと揺れ動いた後──翼をはためかせ、イブキの周りを飛び始めた。
「わぁっ♪飛んでるー!」
"すごいすごーい!"とはしゃぐイブキのことを微笑まし気に見る狐は、少しの間を置き──"そうじゃ"と何かを思いついた様子を見せる。
「どうせなら、お友達もいっぱい呼ぼうかのぉ」
その言葉と共に狐の背後の襖が開くと、その奥から大小さまざまな紙でできた生き物が飛び出してくる。
犬や猫、イブキが作ったような鶴などの一般的な動物を模した折り紙だけでなく──中には二メートルを超える巨大な竜の折り紙などが部屋中を飛び回り、イブキの周りを駆け巡る。
その光景を見たイブキは、"わぁ、動物さんがいっぱいだ~!"と言って終始キャッキャッと楽しそうにはしゃいでいた。
◇◇◇◇◇
折り紙の動物と遊んだり、竜の背に乗って飛んだりしていると──"シャアン…シャアン……"という鈴の音が聞こえてくる。
「あれ?もうそんな時間になっちゃったんだ。……また来るね、おじいちゃん!」
「うむ。……またの、イブキちゃん」
こちらに手を振りながら帰っていくイブキに向けて、狐もまた右前足を掲げて左右に振る。
そして建物から出ると、ここに訪れたときと同じ扉が目の前に現れ───その扉を潜り抜け、イブキはゲヘナへと帰っていった。