イブキちゃんと狐のおじいちゃん   作:燐檎あめ

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イロハちゃん、狐のおじいちゃんと出会う


イブキと、イロハと、狐のおじいちゃん①

「おはよー!マコト先輩、イロハ先輩!……あれ?マコト先輩は居ないの?」

 

 狐の元で折り紙を楽しんだ翌日、イブキは元気に挨拶をしながら生徒会室の扉を開いた。

 

「おはようございます、イブキ。……マコト先輩は風紀委員長に嫌がら──用があって出かけていますよ」

 

 マコトがいないと聞いたイブキは残念そうな表情を浮かべるが……すぐに"はっ"と、何かを思い出したような表情を浮かべた後に、イロハの元に駆け寄っていく。

 

「イロハ先輩!昨日お話してたことだけどね?」

 

「昨日と言うと……狐のおじいちゃんのことでしょうか?」

 

「うん!──イロハ先輩も"一緒にあそびにきていいよ"って言ってたよ!」

 

 イブキが言う"狐のおじいちゃん"からの了承を得ることができたことに、イロハは安堵の表情を浮かべる。

 

(──とりあえず、第一関門はクリアですね。……許可を得れなかったら後をつけるしか選択肢がなかったですし、もしばれたら警戒される危険性もありましたからね)

 

「イロハ先輩、ホッとした顔してる?……そんなに楽しみだった?」

 

「……そうですね。イブキと遊んでくれてるお礼をしたいのに、会えなかったらお礼も出来ないですから」

 

 本来の思惑を苦笑いで隠すイロハに対し、"おじいちゃんは優しいから、断ったりしないと思うよー!"と無邪気に笑いながら告げるイブキであった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 ──そんなこんなで時間は過ぎていき、やがて約束の時間が訪れる。

 

「イロハ先輩、そろそろおじいちゃんのところに行こ!」

 

 "ついてきてー!"と言いながら生徒会室を出ていこうとするが、イロハが待ったをかける。

 

「待ってください、イブキ。……マコト先輩が心配するかもしれませんし、一応書置きを残しておきましょうか」

 

「うん、わかった!」

 

 元気に返事をするイブキに癒されながら、イロハは紙とペンを取り出す。

 

(……たしか、狐のおじいちゃんについては秘密にしておかないといけないんですよね)

 

「──まぁ、"イブキと一緒にお菓子を食べに行ってきます"とでも書いておけばいいですかね」

 

 そう結論づけ、イロハは書置きを残す。書置きをマコトの机の上に置いたイロハは、"じゃあ、案内お願いしますね"とイブキの手をつなぎながら、生徒会室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イブキィ!今日こそ私と……いない……」

 

 "今日はイロハもいないし、どこに行ったんだ?"とマコトはあたりを見渡し、机の上に紙が置かれているのに気づいた。

 紙を手に取り、書かれた内容に目を通したマコトは、わなわなと震えだし──

 

 

「抜け駆けしたなァ!イロハァ!!」

 

 

 ──生徒会室中に響くほどの大きな声で叫んだ。

 

「うるさいよー、マコトちゃん」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 最初は虎丸に乗っていこうと提案したのだが、イブキに"虎丸は目立っちゃうからダメ!"と言われたイロハは、イブキに連れられて歩みを進めていた。

 

 ……しかし、段々と人気のない道へと向かっていくイブキに対して流石に疑念を抱いたのか、イロハは質問を投げかけ──返ってきた答えに困惑する。

 

「あの、イブキ……ほんとにこっちであってるんですか?」

 

「うん!──周りに他の人がいないとこなら、どこでもいいんだよ!」

 

「……はい?それはいったいどういう──」

 

 イロハは訊ねるが、イブキは楽しそうに鼻歌を歌いながらも足を止めることなく進んでいく。

 ……やがて、二人は路地裏へと入っていき──周りに二人以外の人がいないことを確認したイブキは、そこで足を止める。

 

「うん、ここでいいかなー?」

 

 イブキにつられてイロハも周りを見渡すが、辺りには当然"狐のおじいちゃん"の姿などなく、建物に入るような扉も見受けられない。

 

「あの……ほんとにここに狐のおじいちゃんがいるんですか?」

 

「……?ここにはおじいちゃんは居ないよ?──今からおじいちゃんのところに行くの!」

 

 そう言うとイブキは、狐の飾りをその手に握りしめ

 

 

「おきつねさま、どうぞとびらをおあけくださいっ!」

 

 

 ──と唱えた。

 

「……あの、イブキ?今のはいったい──ッ!?」

 

 イブキの口にした、呪文のような何かに対してイロハは訊ねようとし──突如として巻き起こった現象に、両の目を見開いた。

 

 

 

 ──"シャン♪"という鈴の音と共に、イブキの目の前に狐の意匠がこらされた木製の扉が現れる

 

 

 

 その現実離れした事象に、イロハは脳の処理が追い付かない。しかし、そんなイロハのことなど待ってはくれず、扉はひとりでに開いていく。

 扉が開き切ったことを確認したイブキは──"行こっ!イロハ先輩!"と、イロハの手を掴んで扉の奥に足を踏み入れた。

 

「──えっ!?ちょっと待ってくださいイブキ、まだ心の準備が──」

 

 イロハの懇願もむなしく、その身は扉を潜り抜ける。──先ほどまで二人が居たところには、何も残っていなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 扉を潜り抜ける際、光に包まれたことで目を瞑っていたイロハはゆっくりと目を開いていき──その視界に映る景色に、感嘆の声を漏らす。

 

 真っ直ぐに伸びる石造りの道に、道を囲う赤く染った紅葉の葉。空は茜色に染まり──道の先には大きな鳥居と、雄大な寝殿造りの建造物。

 

「──きれい」

 

(……でも、今はまだ春のはずなのになぜ紅葉が……それに、まだ日は高い時間のはずなのに、既に沈み始めている)

 

 冷静になったイロハは、先程から巻き起こる有り得ざる事象に対して思考を巡らせ──イブキが口にした内容に、思考の全てが飲み込まれる。

 

「わぁ!今日はもみじだー!きれいだな〜♪」

 

「……はい?今日はってどういうことです?」

 

「えっとねぇ、おじいちゃんは気分で道の横に植える植物や、時間を変えたりしてるって言ってたよ?」

 

 "昨日は桜がいっぱい咲いてたよー!"と、無邪気にはしゃぐイブキを横目に見ながら、イロハは頭を抱える。

 

(──何ですかそれ……百歩譲って植えられているものを気分で変えることが出来るのはいいとして……"時間を変える"?それも、イブキの話を聞く限りだと数分数時間どころじゃない……)

 

 "狐のおじいちゃん"がかなりの規格外の存在だと知り、目眩を覚える。

 

 そんなイロハのことを心配してくれるイブキに対し、"ちょっとびっくりしてしまっただけなので大丈夫ですよ"と答え、イロハの言葉を聞いたイブキは"良かった〜!"と、ホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「それじゃあ早く行こ!おじいちゃんも待ってるよ!」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 

 イブキに手を引かれながらもイロハは歩みを進め──やがて二人は鳥居の先の建物の前に立つ。近づいて改めて目をやるイロハは、その雄大さ、荘厳さに息を飲む。

 

(改めてこうして見てみると、相当大きいですね……この扉も、大体高さ5mくらいでしょうか……いや、大きすぎませんか?)

 

 目の前の建造物に圧倒されているイロハを置いて、イブキは大きな声で"おじいちゃーん!遊びに来たよー!"と呼びかける。

 

 呼び声とともに開いていく扉を目にし、イロハは"ゴクリ…"と息を飲み──その目に映る存在に唖然とする。

 

 

 ──イロハの視線の先には、身の丈十尺を超える大きさの、八本の尾をもつ白金色の狐の姿が

 

 

 驚き固まるイロハを置いて、イブキは駆け出す。気を取り直した時には既に、イブキは狐に向かって飛びついていた。

 

 "何してるんですかイブキ!?"──そんな声も、驚きに包まれたイロハの喉から先へ出てこない。

 

 息を詰まらせたイロハを置いて、狐はその鎌首をもたげ、"いらっしゃい、イブキちゃん"と微笑みかける。

 続けて狐は視線を動かし──金色の瞳が、イロハを視界に収める。

 

 警戒心を抱くイロハに対し、狐は──"いらっしゃい、よく来たねぇ"と、優しく微笑みかけた。

 

 その拍子抜けしてしまうほどの優しい笑みと雰囲気に、気付けばイロハの警戒心は解され──"あ、どうも……"と、挨拶を交わしていた。




投稿して二日目にして、早くもお気に入り登録してくださった方が200名を超えました、ありがとうございます。

今後も是非、イブキちゃんと狐のおじいちゃんが織り成す癒し空間に癒されていってください。
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